【プロフィール】
■丸山桂佑さん
アグベル株式会社 代表取締役 1992年山梨県山梨市生まれ。同市で60年以上続くブドウ農家の3代目。大学卒業後、大手不動産仲介会社に向けた広告営業に従事。2017年、山梨へUターンし家業のブドウ農家を継承。2020年にアグベル株式会社を設立。 |
■岩佐大輝さん
株式会社GRA代表取締役CEO 1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本および海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。 |
■横山拓哉
株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長 北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。 |
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生産者の視点をベースに作り上げた「選果場」
岩佐:アグベルの圃場(ほじょう)は、どれぐらいの広さなんでしょうか。
丸山:山梨の圃場だと約12ヘクタールです。自社生産以外に契約農家さんも居て、年間300トンぐらいを取り扱っています。契約農家さんには収穫したブドウを箱に入れて軒先に置いてもらい、あとは宅配業者が集荷し、この選果場まで運びます。
岩佐:選果の結果に納得いかないというクレームはよくあると思います。それにはどう対応していますか。
丸山:当初はそういうトラブルがいっぱいありました。なので、うちもちゃんとしたエビデンスを残すようにしています。事前に細かな基準を示した選果表を配ったり、規格が下がってしまった場合は画像に残してフィードバックしたり。その結果、徐々にトラブルも減っていきました。うちは選果のあと、箱詰めもこちらでやるので農家側で規格がごまかせません。その分、良いものを作っている農家は市場流通よりはるかに手取りが増えるし、悪いものを作っている人は自ずと離脱していきます。
岩佐:選果は果樹栽培の中でも特に大変な作業ですから、選果してパッケージまでやってくれるのは喜ばれますよね。
丸山:うちのロイヤルカスタマーはご高齢で、作る技術はものすごいんですが、自分で箱詰めや出荷ができない人がかなり多くて。そういう人々が「作る方を一生懸命やって、1年でも長く農業を続けたい」というので、うちの出荷の仕組みを使ってくれます。そこでつながりができて、引退するときには「アグベルにこの畑を使ってほしい」と依頼してくれる。そうして僕らは規模拡大ができるという循環になっています。
岩佐:なるほど。
丸山:「自分が生産者だったら、どういう出荷先に出したいか」という考えが、この選果場所のベースになっているんです。もともと僕も農協に出荷していた生産者なので。例えば価格の交渉権がないとか、5キロという規格を下回ると罰金があるのにオーバーしてもお金に反映されないとか。そういう積み重ねを1個ずつ解消していったのが、この仕組みです。
定量的な管理を徹底する
岩佐:ブドウを栽培するのには、どれぐらいの作業工数が掛かるのでしょうか。
丸山:落葉果樹なので、芽吹きが始まるのが4月から。そこから花が咲いて、収穫できるのが9月。この半年間が農繁期です。育成時期によって作業が細かく分かれているので、スポット的にかなりの人が必要になる時期があり、調整が難しいですね。
岩佐:その1カ月に労働力が集中するわけですね。夜なべしてやるんですか。
丸山:いや、そこは感覚値にならないように、うちは畑ごとに生産計画を緻密に作っています。標高が若干違うだけで育成が変わってくるので、いつ何をしなきゃならないのかを見立てて人を投入します。
岩佐:製造原価がいくらになるかという管理会計的なところから逆算して作業時間を割り出し、配置するわけですか。
丸山:そうですね。今は1人当たりが管理できる生産面積をどう拡大するかが、会社のKPI(重要業績評価指標)になっています。生産については、量と選果場での製品率の高さをKPIにおいています。土地の広さと、植えられている木の本数から、木1本当たりの適正な生産量を算出するんです。あとは労働時間をどうしたら短くできるか。
岩佐:そこから工数をどれぐらい掛けられるか逆算してしていくんですね。
丸山:あとは生産チームから振り返りを共有してもらいます。例えば、ある畑は「計画費に対して収穫量がこれぐらい少なくなってしまった。その要因は、鹿に食われた」「房でいうと717房で、選果記録は、C品率が昨年の25.7%から6.8%に改善した」みたいな。このように定量的に、各圃場ごとに振り返りをやっています。
岩佐:極めて定量的に管理して、PDCA(計画→実行→測定・評価→対策・改善のプロセスを継続的に行い品質を高めようとすること)をきっちり回すということなんですよね。
値下げではなくクオリティをコントロールする
岩佐:アグベルが出荷するときの平均単価と、いわゆる市場に出す平均単価では、どれぐらい差があるんでしょうか。
丸山:日本の流通だと、農産物は1番おいしい旬の時期に供給量が増えて、1番単価が下がるじゃないですか。だからシーズンですごい振れ幅があるんですが、僕はシーズン前に決めた単価をずっと一定にして小売店に売っています。小売店側からは「今、市場がこうなっているから」というご報告をいただくこともあります。でも僕らは「じゃあ市場から買ってください」と。無理して出さないという交渉をしています。
岩佐:経営思想をきっちり実践されているわけですね。
丸山:会社経営的に超えなければならない価格があるので、そこをちゃんと出して、品種や規格ごとに価格を決めて春先から営業しています。逆に大口のお客さんだと、バルク(一括)でいくらで欲しいと相談されるんです。そしたら僕らは生産原価を考えて、そのお客さん用の畑を作るんですよ。その畑では人件費を今までの半分にして、お客さんが欲しい規格の味は変わらないけど、見た目はそんなに良くないものを意図して作れる。僕らも利益率を守れます。
岩佐:クオリティのコントロールを圃場ごとにやっているんですね。
丸山:僕らはよく車で例えるんですけど、同じメーカーで、AクラスからSクラスまでの車を製造するみたいな。ちゃんとした品質だけは必ず担保しつつ、1番売りやすい規格や等級を、クオリティをコントロールして作っていく。それがうちのやり方ですね。
企業努力を怠らない
岩佐:アグベルは輸出が売上全体の6割ですよね。他国との品質の差はどれぐらいあるんでしょうか。
丸山:品質の差は明確に出ますね。それは向こうの消費者も分かっているんですが、価格があまりにも違いすぎる。向こうが安すぎるので、そことちゃんと戦っていかなければならないんです。今僕らが売り先によって生産原価を考えたり、生産管理をしたりしているのは、タイや韓国、中国を見据えていかなきゃならないからです。
岩佐:例えばこれをタイに持っていって、「サイアム・パラゴン」(高級デパート)で売るとすると、1房いくらぐらいになりますか。
丸山:多分3000バーツぐらいだと思います。
岩佐:1バーツ4円で換算すると、1万2000円ぐらいですよね。これだけ海外でシャインマスカットが作られているとしても、日本のブランドは圧倒的に強いという状況ですね。
丸山:でも僕らも、あまりにもおかしい価格だと認識しています。今の単価の7掛けでも営業利益が出るように、事業計画を立てています。
横山:今年の営業利益はどれぐらいまで伸びそうですか。
丸山:自社生産だと営業利益でいうと40%になってきますね。でもその分、生産に投資してるので、前年度売上高の成長率と営業利益を足して、50%を切らないような事業計画を作っています。
岩佐:今は利益率が非常に高いので、今のうちに経営基盤を盤石にすることに取り組んでいる最中ということですね。
アグベルの農業戦略のポイント
横山:岩佐さん、では今日の「まとめ」をお願いします。
岩佐:はい。アグベルの農業戦略のポイントは次の4つだと思いました。
アグベルの農業戦略のポイント | ||
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① | 定量的な管理の徹底 | 毎年しっかりとPDCAを回せる。1つ良い事例が生まれたら、それを他の圃場に拡大することができる。 |
② | 契約農家ファースト | 契約農家と自社が互いに契約を守り、適正価格で良質な農産物を販売する。人手不足や高齢化など地域の課題解決にも貢献。 |
③ | 輸出の割合が高い | 海外にいち早く目を向け、他国と圧倒的な差を付けてマーケットを切り開いていく。日本の農家の代表事例にもなる。 |
④ | 自ら流通のルールを作る | 出荷のコントロールや取引先との交渉を自分たちで行い、小さいユニットで利益を上げる構造を作る。市場流通よりも高い販売単価を実現。 |
丸山:最初の3年ぐらいは、販売においても仕入においても、本当に大変でした。流通の仕組みが整わなくて、パレタイズ(荷台に商品を積み上げる作業)したものを軽トラック4台で羽田空港に届けるなんてことを2日に1回やり続けたり……。でも、それでたまった信頼のクレジットが今、生きています。
岩佐:これまで行った農家さんの共通点は、初期の頃のドブ板営業。丸山さんはすごく優秀な人だから効率良くやってきたんだろうって見られちゃうかもしれないけど、実は全然違う。本当にコツコツ積み上げて、農家との信頼を作ってきたからこそ今があるんだと、はっきりと分かりました。
(編集協力:三坂輝プロダクション)