取材協力いただいた酪農家/工藤 淳平さん
【プロフィール】
・年齢:32歳
・就農年数:9年目(2016年就農)
・出身地:岩手県下閉伊郡岩泉町
・地域:岩手県沿岸地域・岩泉町
・規模:経産牛※1 44頭、育成牛※2 46頭
・活用資金・事業:経営体育成強化資金・青年等就農資金(日本政策金融公庫)
・営農形態:2人(本人・母)
・暮らし:両親と兄弟3人の6人家族。本人は牛舎の隣にある住宅に家族とは別に住んでいる。
※2024年8月現在
※1 経産牛とは、出産を経験した牛のことで、牛乳を搾ることができる牛。
※2 育成牛とは、離乳後、初めて子牛を生むまでの牛。
子どもの頃から夢見ていた酪農家への道
――岩泉町で就農したきっかけを教えて下さい。
子どもの頃に親戚や祖父母が酪農を営んでいたため、牛が身近な存在でした。品評会では父が管理していた牛の綱を引かせてもらい、その牛が優勝してとても嬉しかったことを覚えています。その頃から、将来は自分も牛を飼育してみたいと思うようになりました。
農業高校に入学し、在学中は北海道の牧場へインターンシップに行きました。その後、卒業して県内の牧場で働いているときに、岩泉農業振興公社から「新規就農を視野に、岩泉の牧場で働いてみないか」と声をかけられたんです。その後は岩泉農業振興公社で働きながら、牛の飼育だけでなく経営についても学び就農に至りました。
――以前から新規就農への関心があったのでしょうか?また、実際に就農していかがでしたか?
もともと自分で経営してみたいという思いはあったものの、空いている牛舎がなかなか見つからなかったんです。そんな矢先に声をかけてもらったので、良いチャンスだと思いチャレンジしました。
就農して感じたのは、自分の考えの甘さです。牛だけでなく、確定申告や税務申告関係の勉強を、もっとしておくべきでした。苦しい時期もありましたが、今は周りの人たちの力を借りながら頑張り続けることで、どうにか形になってきたと感じています。
乗り越えてきた苦難の数々
――これまで大変だったことはなんですか?
就農した年に、台風10号によって牧場だけでなく町全体が大きな被害を受けました。また、4年ほど前には牛が伝染病にかかり、牛乳が出荷できない事態に。農業改良普及センターや関係機関の皆さんにサポートしていただいて、どうにか立ち直ることができました。とても大変でしたが、これを経験したことで牛の管理や仕事に対するスタンスが確立できたと感じています。
一昨年には、農業改良普及センターからアドバイスをいただきながら新しい牛舎を建てました。これによって疾病事故率がすごく下がりましたし、牛を健康的に管理できることがとてもうれしいです。
より質の高い生乳を目指して
――品質を管理する上で気をつけていることを教えて下さい。
搾乳する際、前絞りの段階でいつもと違う感じがしたり、餌の食いが悪かったりする牛は、検査をしてできる限り治療に切り替えるようにしています。また、家畜改良事業団が行っている「牛群検定」も活用しています。これは毎月、乳量や乳成分などを一頭ずつチェックするもので、エリアごとの平均値も確認できます。自分の牛群の成績と見比べて、品質維持や向上のために役立てています。
生乳は消費者の皆さんの口に入るものなので、規格基準や生産基準に対する意識を高く持つことが必要です。最低ラインよりも確実に上であることはもちろん、少しでも上位になるよう日々の管理を徹底しています。
――現在の出荷先について教えて下さい。
2018年に加工原料乳補給金制度が50年ぶりに改正され、指定事業者を経由しなくても補給金が受け取れるようになりました。これによって酪農家が出荷先を選びやすくなり、私も現在はJAとMMJの2社に出荷しています。出荷先を増やしたのは牛の感染症で経営が苦しくなったのがきっかけでしたが、2箇所に出荷するのは岩手県の酪農史上初めてだったそうです。
――2023年には「岩手県沿岸ホルスタイン共進会」の未経産の部において、名誉賞を受賞されました。そのときの感想をお聞かせ下さい。
賞をいただいたのは初めてのことだったので、うれしいという気持ちが大きかったですし自信にもつながりました。いつも牛が満足するくらい餌や草を食べさせることを心がけているので、それが発育を促し、良い結果に結びついたのではないかと思います。
この町で“開かれた牧場”を目指す
――プライベートの過ごし方や、岩泉町の魅力について教えて下さい。
車の運転が好きなので、時間があればちょくちょく出かけています。岩泉町は端から端までの距離が長く、地域ごとに特徴が異なります。町内には山間部と沿岸部があり、海の幸と山の幸を両方楽しめるのが魅力です。気候的にも過ごしやすく、暮らしやすい町だと思います。
――今後の目標について教えて下さい。
直近の目標は、2025年に北海道で行われる「全日本ホルスタイン共進会」への出場です。県予選を突破して、一頭でも多く連れて行きたいと思っています。
また現在は、農業を学びたいという学生の受け入れも実施しています。酪農を知ってもらうなら、楽しい面だけでなく大変なことも体験するのが一番だと思います。今後も、学生だけでなく酪農に興味がある人を受け入れて、いろんな人が訪れやすい牧場にしていきたいです。
酪農家への道は一つじゃない!
――最後に、酪農経営に興味を持っている人に向けてメッセージをお願いします。
新規就農する際、設備投資が課題になる場合が多いと思います。全て新しく購入する必要はありませんし、関係機関に相談すればアドバイスももらえます。また岩手県では、農業経営の第三者承継支援を行っています。行政や農業改良普及センター、JAなどが窓口になっているので、そういった所へ相談するのも一つの方法だと思います。自分の「やりたい」という気持ちを大切にしながら、いろんな方法で挑戦してもらいたいです。
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