砂ぼこりと収穫後のマルチがご近所トラブルの種に! 難敵は近隣住民からのクレーム【転生レベル22】|マイナビ農業

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砂ぼこりと収穫後のマルチがご近所トラブルの種に! 難敵は近隣住民からのクレーム【転生レベル22】

平松 ケン

ライター:

連載企画:就農≒異世界転生?

砂ぼこりと収穫後のマルチがご近所トラブルの種に! 難敵は近隣住民からのクレーム【転生レベル22】

農村という“異世界”のルールを徐々に理解し、特有の人間関係にもうまく対応できるようになってきた僕・平松ケン。「異世界攻略に関しては着実にレベルアップを遂げてきた」という自負も芽生えつつあった。しかしそれは、異世界の先輩方との関係の話。農家ではない一般住民との関係はまた別だ。今度は住宅地内に借りた畑でトラブル発生! 異世界のご近所にも難敵は潜んでいたのだ。

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった方々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

土地の返還や規格外野菜を巡るトラブルなど、さまざまなトラブルが続く中、やっとの思いで僕は9月のタマネギの定植作業を始めた。しかし秋に入り、新たな難敵に立ち向かうことになった。秋雨前線の活発化による大雨と、季節外れの台風である。

前回の記事
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定植したタマネギが豪雨で流され、やっとの思いで植え直して安心したのも束の間、今度は台風がやってくることに。ハウスのビニールを外そうか迷うものの、「今回はきっと大丈夫だろう」と高をくくったのが大誤算! 台風が去った後にはビニールが大きく引き裂かれていたのである。
これを教訓に、季節外れの11月に再びやって来た台風には早めに対処したものの、今度はあえなく空振り。僕は「自然」という難敵に翻弄(ほんろう)され続けたのだった。

畑からの砂ぼこりがクレームに

秋口から大雨や台風の被害に見舞われ、しばらく復旧作業に追われることになった僕だが、それらも何とか目途が付き、本来の作業に戻れるくらいまで挽回しつつあった。

そんな11月のある日、僕は新しく住宅地の近くに借りた畑で作業をしていた。ここは返却を迫られた畑の代わりに紹介してもらった畑で、雑草管理もきちんとされていたので、すぐに使える状態だった。

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タマネギの苗の定植を見越して畑を耕そうとトラクターを運転していると、見知らぬ女性が畑の脇で立っているのが見えた。どうやら近所に住んでいる人のようだ。

「こんにちは、どうかしましたか?」

僕が声を掛けると、その女性は困った表情を浮かべながら、
「すみません。砂ぼこりがひどくて……。何とかなりませんか?」
こう返したきたのである。

畑からの砂ぼこりに悩む女性(画像はイメージ)

作業を止めて話を聞いてみると、数年前に農地を購入し、宅地転用して一戸建てを建てたらしい。女性が指さした真新しい住宅は、道路を挟んで畑の向こう側にあった。

夏場に住み始めた頃は何とも思わなかったそうだが、冬になると問題が発生した。僕が今いる畑から大量の砂ぼこりが飛んで来たのだという。この地域では冬場に猛烈な北風が吹くことがある。どうやらそれが原因のようだ。

「そうだったんですね。僕も最近この土地を借りたばかりだったので気付きませんでした」
そう女性に告げると、
「私たちも新しくこの地域に来たものだから、なかなか声を上げづらくて……」
と僕に打ち明けた。

確かにその気持ちはよく分かる。以前はこの地域に住むベテラン農家が管理していたのでクレームを入れづらかったらしい。新しく農業を始めたように見える若い世代の僕であれば、聞き入れてもらえるかもしれないと意を決して声を掛けたようだ。

激怒している感じではないが、困っていることには変わりはない。相談されたのに何もしないわけにもいかないと考えた僕は、対応策を考えてみることにした。

「分かりました。何とか砂ぼこりが起きないように考えてみます」
そう話すと、女性は笑顔を見せて自宅に戻っていった。

冬場のマルチを敷きっぱなしに

先日借りたこの畑は、ほとんど雑草が生えていない奇麗な土地だった。僕はこれまで、草がたくさん生えた耕作放棄地を借りることが圧倒的に多かっただけに、丁寧に管理された畑を借りられるのは本当にありがたかった。

ただ、今回はそれがあだとなったのかもしれない。元々農家だった地主さんは数年前に農業を辞めていたが、それでも周りに迷惑をかけまいと、ひたすらトラクターでの耕うんを繰り返すことで雑草を抑えていたのだ。

奇麗に雑草管理がされ、砂地のようになった畑(画像はイメージ)

全く有機物が入っていない畑の土は、もはや砂のような状態になっていた。経験の浅い僕から見ても、明らかに土地が痩せているのが分かる。そもそも土地自体が周囲よりも高く乾燥しやすいことも手伝って、砂ぼこりが大量に発生するようになっていたのだ。

「もちろん耕作放棄地は大変だけど、奇麗な畑もそれはそれでいろいろと大変だな」

そんなことをつぶやきながら対策を練っていた僕は、タマネギ栽培に使うマルチを収穫後もそのまま残し、砂ぼこりを防ぐことを思いついた。

これからこの畑に黒マルチを張ってタマネギを定植し、翌年の5月にかけて栽培する予定である。マルチで地表を覆っていれば女性が特に心配していた、冬場の砂ぼこりが大量に発生することは無さそうだ。
収穫した後も、そのままマルチを残しておけば、砂ぼこりを抑えられるに違いない!

タマネギの植え付け(画像はイメージ)

この時の僕は「我ながら妙案だ!」と考えていたのだったが……。

マルチ作戦大成功! しかし……

翌年の5月。ゴールデンウィークにタマネギの収穫作業を終えた畑には、穴の開いたマルチがまだ一面に敷かれていた。普段であれば早々にマルチを剥がし、タマネギの残さなどをトラクターですき込むのだが、それをすれば砂ぼこりが巻き上がる可能性が高い。

今年は夏場に別の作物を植え付ける予定も無いため、当初の作戦に従い、マルチを敷いたまま様子を見ることにした。

数日後、強風が吹いているタイミングで畑を見に行ってみた。すると予想した通り、砂ぼこりはほとんど発生していなかった。

「よし、これならうまくいきそうだ!」
そうつぶやきながらしばらく畑を眺めていると、僕の姿を見つけた例の女性が、自宅を出て駆け寄ってきた。

「砂ぼこりの件、ありがとうございました。冬場も全然砂が飛んで来ませんでした!」
「いえいえ、こうやってマルチを残しておけば、この後もしばらく大丈夫だと思います」
「そうですか。助かります!」

満足そうな笑みを浮かべて自宅に戻る女性を見送りながら、僕はうまくいったことを喜んだ。

マルチが破れて別の畑へ飛散!

ところが更に数日後、見回りのために畑を訪れると、今後は近所に住む年配の男性に呼び止められた。

近所に住むという年配の男性が声を掛けてきた(画像はイメージ)

「これ、あんたの所のマルチじゃない? うちの畑に飛んで来たんだけど?」

男性はそう言って、細長いマルチの切れ端を僕に見せてきた。僕の畑の風下に位置する場所で家庭菜園をしているらしく、うちのマルチであることはどうやら間違い無さそうだ。

タマネギを収穫した後、ところどころ破れていた部分が強風でちぎれて飛んで行ってしまったらしい。かなり大量に飛んでいるらしく、植えたばかりの夏野菜に絡みついて困っているとのこと。

「すみません! ご迷惑をおかけして……」
「頼むよ! このままじゃ植えた苗が台無しになっちゃうよ!」
「すぐに見回って飛ばないようにします!」

せっかくうまくいったと思ったのに、今度は別の所からクレームが入ることになったのである。

実はこのマルチを残すという作戦は、自分の営農にとってもマイナスだった。
残ったマルチの間から雑草が生えて絡みつき、マルチを剥がす作業に思いのほか手こずることになったのである。

「そりゃそうだよな……。こんなこと、初めから分かってたはずなのに……」

今更後悔しても後の祭りである。大量の雑草と格闘しながら何とかマルチを剥がした僕は、この作戦を断念することを決めた。

その後は、畑の状態に合わせて耕す時期・時間などをうまく調整したり、あえて雑草を生やしたりすることで、砂ぼこりが発生しないように工夫することにしたのだった。

砂ぼこりや騒音を出さないために配慮(画像はイメージ)

レベル22の獲得スキル「近隣住民にとって農家は厄介者と認識することも大事!」

住宅地に近い場所で農業をしていると、ご近所さんから何かとクレームが入る。野焼きについては以前にも触れたが、それ以外にも「トラクターがうるさい」「残さの臭いがする」「農薬をまかないで」など、さまざまな声が飛んでくると覚悟しておいた方が良い。むしろ直接言われるのはまだマシな方で、役所や警察署、消防署などを通じて匿名でクレームが入ることも少なくない。

新規就農を考えている人の中には、「衰退の一途をたどる農業の救世主になりたい!」とこの世界を目指している人も居るだろう。ただ、畑の近くに住む一般住人の中には、「農家=いてほしくない存在」と考えている人もいる。そう思われているという認識を持っておかないと、理想とのギャップに打ちのめされ、やる気がそがれてしまう可能性もあるので要注意だ。良い意味で「鈍感力」を備えておくことも大切である。

近隣住民からの度重なるクレームに苦心しつつも、僕は何とかこの難局を乗り越えた。
その後の僕は、数年かけて着実にレベルを上げていき、気付けばこの異世界を牽引する立場へと上り詰めることになるのだが、それはまた別の機会に。異世界のような農村に新たに乗り込んだ僕の冒険物語は、ここで一旦幕を閉じておこう。

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