計約80ヘクタールの作付面積と16人の従業員を束ねるマネージャーは、非農家出身の30歳。独立志向の青年が選んだ、組織で農業に向き合い続けるという道|マイナビ農業

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計約80ヘクタールの作付面積と16人の従業員を束ねるマネージャーは、非農家出身の30歳。独立志向の青年が選んだ、組織で農業に向き合い続けるという道

連載企画:若者の農業回帰

計約80ヘクタールの作付面積と16人の従業員を束ねるマネージャーは、非農家出身の30歳。独立志向の青年が選んだ、組織で農業に向き合い続けるという道

親族以外が経営する農業法人に就職し、農業と向き合うケースが増えている。農林水産省「新規就農者調査結果」によると、令和3年の「新規雇用就農者」は1万1570人と過去最多を更新。翌令和4年も1万570人を数えるなど、農業界への足がかりに農業法人を選ぶ若者は多い。長野県でキャベツなどの大規模栽培を手掛ける株式会社トップリバーで統括農場長を務める永崎亮太(ながさき・りょうた)さんも、農業法人での業務を通じて、組織的な農業の醍醐味(だいごみ)に魅せられた一人だ。

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年商15億円超え企業の根幹を支える、30歳の若者

2000年に長野県御代田町で創業した株式会社トップリバー。レタスやキャベツなどの露地野菜を生産し、出口戦略として大手外食チェーンや食品加工会社などへ契約出荷。求められる時期に作物を安定供給するビジネスモデルで、着実に収益を伸ばしてきた。創業初年度を除いて毎年黒字を計上しており、2023年の売上高は15億円以上にも上る。

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生産物の安定供給という、同社事業の要ともいえる現場を任されているのが、入社8年目の永崎さんだ。非農家出身ながら、入社4年目の2020年に26歳の若さで自社農場の一区画を管理する農場長を拝命。翌2021年に自社農場全域を管理する統括農場長に任命され、計約80ヘクタールもの作付面積を誇る広大な圃場の管理と16人の独立を目指す従業員の人材育成などに力を注いでいる。

統括農場長を務める永崎さん

「大規模に農業をしたい」。視線は海外から国内へ

鹿児島県鹿児島市出身の永崎さん。非農家出身ながら、学生時代から農業は将来的な職業の選択肢として常にあったと振り返る。「どういう仕事をしたら人の役に立てるかが軸でした。小学校のころから授業で『人手が足りない』『農家がどんどん減っている』という農業の現状を聞いてたことから、きっと多くの人の役に立てる職業だと思ってきました」という。

抱いてきた関心は、高校卒業間近になると、海外の農業先進国で大規模農業に触れたいという思いに結びつく。「これからは大規模でやっていかないと、産業として成り立たない。農業先進国であるオーストラリアの農場で大規模経営を学び、ゆくゆくは地元で独立就農したいと考えました」

そこで、まずは英語を学ぼうと、高校卒業後はフィリピンに語学留学。現地の語学学校に就職し、1年間ほど働きながら勉強に励んだという。

海外志向が強かった永崎さんが、日本の農業法人であるトップリバーの存在を知ったきっかけは、オーストラリアに渡航する準備のため帰郷していた際、自宅で偶然目にした新聞記事だった。「トップリバーを経て、鹿児島県内に14ヘクタールもの畑を構えて独立した農家さんの記事を目にし、日本でもこれほど大規模な農業ができるのかと感じました。興味を持ち、トップリバーのことを調べてみたところ『もうかる農業を実現』、『独立を支援』といったHPのキャッチコピーが強く印象に残り、まずはアルバイトとしてお世話になることにしました」

2カ月のアルバイト期間を経て、大規模農業に関わりながら栽培技術や独立に必要な素養を身に着けられる点に魅力を感じ、2016年に正社員として入社。従業員の年齢層が若く、自身と同じく独立就農を目指す仲間が多いと感じたことも、入社を決めた理由の一つだ。

入社5年目で生産部門のトップへ。注力した職場環境改善

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入社して1~3年目は、ひたすら収穫やマルチ張り、定植などの農作業に明け暮れ、栽培の流れを学んだ。農業未経験の永崎さんにとって、大変ながらも実りある期間だったという。
入社4年目には、当時の代表取締役だった嶋崎秀樹(しまざき・ひでき)さんから「あまりうまくいっていない農場がある。何とか立て直してほしい」と、一区画の農場長を拝命。圃場の管理や従業員の作業管理といった業務を担うこととなったが、永崎さんが立て直しのために特に注力したのが、職場環境の改善だったという。

「現場の風通しがあまり良くないなと、従業員ながら感じてきました。それぞれ『もっとこうしたほうがいい』という意見を持ちながらも、上司にうまく伝えられなかったり、意見したとしても聞き入れてもらえない場面が多かった。農場で働く人たちがもっと自主的でアクティブに農業を実践できる環境を作りたいと、ずっと考えてきました」

従業員の自主性を促すため、意識したのは「自身が経営者だったらどうするかを常に従業員に問うこと」だという。有事の際は積極的に従業員へ意見を求め、常に自分事として仕事に向き合ってもらう主体性を養った。

当事者意識をさらに強固なものにしていくため、思い切った行動に踏み切った。「農場運営における業務の意思決定権は全て農場長に一任されているのですが、栽培技術を伴う作業を除いた権限を可能な限りスタッフに任せるようにしました。例えば、一日の段取りや作業の流れ、パートさんの配置や分担をスタッフに任せ、ここでの判断によって仕事が円滑にまわる様を肌で感じてもらえるようにしています。この農場の主役として、状況に応じてどういう判断を下すべきかという意識づけが目的にあります」

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ここでの従業員の判断いかんでは、生産性を下げる可能性もあるが、永崎さんは「失敗してもいいから、自身で考えてやってもらうようにしています」と言葉を続ける。これには、嶋崎さんの教えが根幹にあるという。「先代が口にしていた『環境が人を作り、人がまた環境を作る』という言葉が深く心に残っています。人材を育てるイメージよりも環境を育てるイメージで、『挑戦できる環境は整っているか』などを意識して取り組んでみると、従業員からの意見も自然と上がってきました。主体的に仕事に取り組む中でスタッフ自身が成長し、同時に職場環境としても成長していくという循環が作れた」と振り返る。

こうした取り組みと成果が評価され、入社5年目となる翌2021年には、同社農場全体を管理する統括農場長に抜擢。作付面積計約80ヘクタールの圃場管理のほか、それぞれの区画を管理する計5人の農場長とその配下の従業員11人、農繁期には60人ほど集まる技能実習生やパート従業員の作業管理など、大きな職責を担うことになった。

「年間出荷量約40万ケース、年間売上額は会社全体の約3分の1を占める約5億。これらを自分が任されていることに、プレッシャーを感じながらも楽しんで取り組めています」と永崎さん。近年は気候変動や異常気象の影響で栽培が難しくなっているというが、これまで注力してきた人材育成も奏功し、その年々にあわせた栽培方法などが確立できているという。

独立を目指して入社した青年の描く展望

元々は5~6年以内の独立を目指してきたという永崎さんは今年、トップリバーに入社して8年目となる。今後の動きを尋ねると、永崎さんは「独立という選択肢が全くなくなったというわけではないですが」と前置きしつつも、組織で農業に向き合っていく面白さに魅了され、農業法人で働き続けるという選択をしたと話す。

「入社当時からは意向ががらっと変わりました。独立をすれば、自由な農業が実現できるかも知れませんが、トップリバーの仲間と農業に向き合っていくことに今はどっぷりとはまっています。いろんな責任を負いながらも、自分に任せてもらえることに面白みを感じており、残らない手はないですね」

入社4年目ごろまでは、農閑期の長期休暇などを利用して、地元鹿児島県内での独立就農を目指して土地探しに明け暮れていた永崎さんだが、すっかり農業法人での仕事の楽しさに魅了されたようだ。

「今は農業界を盛り上げていくことが目標。私の立場でできることとすれば、組織効力感が高いチームを作り、一人ではできないような大きなことをみんなで成し遂げ、結果的にもうかる農業を体現していく。そうして、優秀な農業経営者をどんどん自社から輩出していけるよう、指導者としてのキャリアを積んでいきたいです」と、農業界の先行きも見据えていた。

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