県内トップクラスの生産量を誇る一関地方産「ピーマン」がアツい!
宮城県仙台市と岩手県盛岡市の中間地点に位置する中東北の拠点都市・一関市と、世界文化遺産に登録されている中尊寺金色堂などで知られる平泉町。この2つの地域で構成される一関地方は、岩手県内でも比較的温暖な気候が特徴です。水稲を中心に畜産、野菜、花きなどが生産されるなか、(※)生産量岩手県内トップを誇るのがトマト、ミニトマト、ナス、ピーマン、キュウリなどの野菜類です。なかでも新規就農者や若手生産者の活躍がめざましいのが「ピーマン」。県内の他の産地よりも長期間の収穫ができ、栽培管理や作業負担も比較的少ないことがその理由です。一関市で独立就農を果たした2人の若き担い手に話を聞くと、それだけではない理由が見えてきました。
※「岩手県一関地方で農業をはじめよう!」就農までのガイドブックより
官民連携のサポート体制で安心就農!作業負担が少ないピーマンは女性や高齢者にもオススメ
2014年4月に独立就農した岩渕美香(いわぶち・みか)さん。酪農を営む両親のもとで育った美香さんは、祖母が作る自家消費用の野菜栽培を手伝っていたことが就農のきっかけと話します。
「祖母は季節の野菜を少量多品目で栽培し、家族で食べる以外は産直で販売していました。祖母の高齢化によって野菜栽培を担うようになったことをきっかけに、職業としての農業を考えるようになりました」。
現在、姉の智香(ちか)さんと共に10aのハウスと6aの露地でピーマンを栽培する美香さん。野菜類を中心に、さまざまな推奨品目がある一関地方でなぜ、ピーマンを選んだのでしょう。
「JA主催の新規就農者募集のイベントに参加した際、軽い作物のピーマンは収穫時の作業負担が少なく、女性に向いていると聞いたことで興味を抱きました。また、水稲のように大型の農機を必要としないことも魅力に感じました」。
野菜栽培の経験はあったとはいえ、農業で生計を立てるには品質や収量など、経営感覚が必要になります。その支えになったのがJAいわて平泉の営農指導や生産者で組織されるピーマン部会、一関農業改良普及センターによる技術指導でした。
「それぞれに得意分野があり、困ったときに相談をするとみなさん親身になって対応してくれたことが心強かったです。ピーマン部会が実施する月に1回の現地指導会でベテラン生産者の技術を学ぶことができたり、部会内の若手担い手組織『ハッピーまん』では栽培以外のことも相談できたり。生産者は個人経営ですが、みんなで一関のピーマンを盛り上げようとする思いがあると感じます」。
他にも、一関農業改良普及センターでは「ピーマン栽培マニュアル」を作成し、内容を毎年更新することで病害虫が発生した場合の対応などを明確にしています。このように、一関地方には行政、J Aなど各関係機関が連携し、生産者を多角的に支えるシステムが構築されています。
「自然相手の農業はその年の天候によって対策が変わります。『ピーマン栽培マニュアル』は常に最新情報を共有してもらえるので助かっています。新規就農者はもちろん、ベテラン生産者も活用するマニュアルは、害虫や病相などを画像で紹介しているのでとてもわかりやすいんですよ」。
さまざまなサポートを受け、就農7年目を迎えた美香さんは今年からピーマンの育苗にも挑戦。育苗をすることで定植や収穫の時期をコントロールしやすくなったと言葉を続けます。
「種から育て、芽が出てきたときはうれしかったです。鈴なりに実がつくピーマンはかわいらしく、収穫の喜びにかなうものはありません。反面、誘引作業は肩に負担がかかり、大変と感じる面もあります。病害虫やさまざまな生理障害によって廃棄量が増えると、まだまだ勉強や工夫が必要と感じます」。
と、尽きない向上心を見せる美香さん。さらなる品質と収量アップを目指し、姉妹は今日も力を合わせながら農業に向き合っています。
ピーマンで家が建つ!成功の秘訣は惜しまない設備投資と探求心
2人目のピーマン生産者は就農4年目の畠山貴一(はたけやま・きいち)さんです。同級生や同世代の仲間が農業で成功している姿に刺激を受け、就農を決意。就農前からピーマンの栽培指導会に参加するそのアグレッシブな姿勢は若手生産者のなかでもリーダー的存在です。
「推奨品目が多い一関ですが、やるなら好きな作物がいいと思い、ピーマンを選びました。農業研修でお世話になった方がピーマン博士と呼ぶにふさわしい技術と知識を持っていた方だったおかげで、就農1年目から利益を出すことができました」。
そんな畠山さんのポリシーは「設備投資を惜しまないこと」。新規就農者は経営面での不安から投資を抑えがちですが、2〜3年で回収できる計画を立てることで安定収入につながると話します。
「儲かっている農家の帳簿を見せてもらったことがあります。それを見ると如実で、設備投資をすることで将来的に得られる利益が大きいことに気がつきました。規模拡大もそのひとつ。就農初年度以降、徐々に作付面積を増やし、現在はハウス19aと露地7aでピーマンを栽培しています」。
来年にはさらなる規模拡大も視野に入れている畠山さんが実践するのは定植前の3月にその年の栽培計画を立てることです。やるべきことを明確にすることで人件費などの経費を「見える化」することがその理由。計画通りにいかないことがあっても、毎年予想以上の収量が得られているのは、畠山さんのあくなき探究心が深く関係しています。
「収量アップのためにはとにかく手を掛けることを惜しまないこと。自分の場合、定植から3〜4ヶ月の期間を特に大切にしています。樹勢管理や液肥の散布、摘果は毎日行う他、生育中は灌水量を増やして生理障害を回避するようにしています」。
他のピーマン農家に比べて3倍は灌水していると話す畠山さんは、水はけの良い土壌を作るため、土の入れ替えも行っているとのこと。こうした独自の取り組みと並行し、ピーマン部会や若手担い手組織「ハッピーまん」で、新品種や新技術の実証試験にも取り組んでいます。
農家に転身したことで前職より確実に収入がアップした畠山さんは就農後、家を新築。“儲かる農業”を身をもって示すことで、地域農業の活性化につなげていきたいと話します。
「地域の遊休農地活用を積極的に行い、将来的には法人化、雇用にもつなげていきたいと考えています。そのためにはまだ技術も経営的センスも追いついていないので、もっと勉強が必要ですね」。
その畠山さんのもとで現在、研修をしているのが東京からUターンし、就農準備を進めている宮下琢(みやした・たくみ)さんです。農業の経験ゼロの宮下さんでしたが、一関市「新規学卒者等就農促進支援事業」の研修生として畠山さんのもとで研修を重ねることで、管理の仕方によって収量が大きく変わること、土づくりや整枝管理の重要性などがわかってきたとその成果を話します。
「研修は技術や知識の習得はもちろんですが、思い描く営農スタイルを明確にするためにも必要な制度だと思います。貴一さんのようなトップクラスのピーマン農家を目指すことが目標です」。
と、力強く話す宮下さんも活用したのが一関地方農林業振興協議会が実施する「新規就農ワンストップ相談窓口」です。
新規就農者を多角的に支援!まずは「新規就農ワンストップ相談窓口」へ
「新規就農ワンストップ相談窓口」とは、一関市と平泉町、JAいわて平泉、一関農林振興センター、一関農業改良センター等から構成される一関地方農林業振興協議会実施の新規就農者向けの相談窓口です。窓口では関係機関が連携し、作付品目の選定や研修先、各種助成事業や支援事業の紹介などを行います。各種申請や手続きは就農希望者がそれぞれの機関に出向くのが一般的ですが、一関地方では窓口を一本化(ワンストップ)にすることで、新規就農希望者の負担を軽減しています。
また、一関市内で新規就農を希望する人には、「新規学卒者等就農促進支援事業」が利用でき、JAいわて平泉の臨時職員として働きながら農業研修や座学研修を受けることができます。賃金を得ながら独立就農に向けた準備ができるのが大きな特長です。
「若者が県外に出る理由は雇用がないことが一番の理由です。農業で成功している若い世代をロールモデルとし、農業が人口流出の歯止めになるよう、わたしたち関係機関が連携してサポートしていきたいと考えています」。
と、話すのはJAいわて平泉営農部担い手サポートセンターの菊地俊郎(きくち・としろう)さん。UターンやIターンはもちろん、定年後の第二の人生に農業を志す人にも支援が用意されている一関地方は、ライフスタイルや希望に合わせた営農スタイルを目指すことができます。
農業を志す人に寄り添いながら農業の楽しさも厳しさも、本音で語ることができる「新規就農ワンストップ相談窓口」は毎月定期に開催しています。ぜひ、制度を活用し、自分らしい営農スタイルを見つけてみてはいかがでしょうか。
就農までのガイドブックはこちら
▼新規就農ワンストップ相談窓口の問い合わせはこちら
一関地方農林業振興協議会
(構成機関)
・一関市農林部農政課 TEL:0191-21-8225
・平泉町農林振興課 TEL:0191-46-5564
・JAいわて平泉営農部営農振興課 TEL:0191-34-4001
・岩手県県南広域振興局農政部一関農林振興センター TEL:0191-26-1413
・一関農業改良普及センター TEL:0191-52-4961