タバコカスミカメの特徴
特徴
タバコカスミカメはカメムシ目カスミカメムシ科の昆虫で、カメムシの一種です。成虫の体長は3~3.5ミリほど。体色はきれいな薄い緑色をしています。
食性
多種多様な天敵昆虫がいるなかで、特にタバコカスミカメは特殊な食性を持つことから、害虫対策に期待できる天敵になるとして利用技術の研究が進められています。
タバコカスミカメの食性は雑食性で、微小な昆虫のほか、ある種の植物を食べます。捕食能力がとても高く、コナジラミ類やアザミウマ類の天敵となる他の昆虫と比べて捕食量が多いため、強力な防除効果が期待できます。
また最大の特質は、特定の植物だけを食べて生存・繁殖できる点です。ほかの天敵昆虫を用いた従来の方法では、害虫がいない時期に代替餌となる害虫ではない昆虫類と天敵温存植物(※1)のセットを必要としてきたのに対して、タバコカスミカメは、代替餌を兼ねた天敵温存植物の一つのみで生存・増殖できる可能性があります。
日本さんによると、タバコカスミカメを温存・増殖させる天敵温存植物として、クレオメ、スカエボラ、ゴマ、バーベナを確認しているそう。これらを植えておけば、タバコカスミカメのエサとなる害虫が少ない時期でもビニールハウス内で残存でき、防除効果を持続させることが可能です。
※1 天敵温存植物:天敵昆虫を温存・増殖させる植物。天敵昆虫のエサとなる花粉や蜜などを提供し、天敵昆虫の働きを高める。天敵昆虫の種類によって有効な植物は異なる。
どこに生息している? 入手方法や増やし方は?
分布
温暖な気候を好み、西日本では野外で自然に生息しています。東日本ではあまり見つかりません。
生息場所
タバコカスミカメは、畑、一般家庭の庭、公園など、あらゆる場所に生息しています。
入手方法
2020年9月現在、タバコカスミカメは生物農薬(害虫防除に利用される天敵昆虫などの生物的な資材)として販売されていません。「メーカー側は農薬登録を申請していますが、いつ登録されるかは未定」(日本さん)だそうです。
いまタバコカスミカメを使用したい場合は、土着のものをおびき寄せるしかありません。タバコカスミカメが生息している地域であれば、クレオメやゴマを植えておけば自然に寄ってくるとのこと。
なお、タバコカスミカメはピーマンやシシトウなどを食害する恐れもあるので、誘引の際は周囲への十分な配慮が必要です。
増やし方
タバコカスミカメは前述のように天敵温存植物だけを食べて増殖することができます。特にクレオメとゴマを植えると増殖しやすいそう。
クレオメは草高2~3メートルになり、ゴマは厳冬期に枯れるので、それぞれの特性をふまえ、植える場所や作型に適した天敵温存植物を選びます。
バーベナはクレオメとゴマに比べると増殖効果はやや劣りますが、草高が低く、場所を選ばず植えられるのがメリットです。畑では地表を覆うグランドカバーにもなり、作物の下の方でタバコカスミカメが生息していてくれるのが良いのだとか。バーベナでは、特に「タピアン」、「花手毬(はなてまり)」、「花手毬〜絢(あや)〜」という品種に効果が期待できると確認されているそうです。
タバコカスミカメの利用技術 ~トマト・キュウリ・ナス~
タバコカスミカメの利用技術は、おもにトマト(ハウス栽培)、キュウリ(ハウス栽培)、ナス(露地・ハウス栽培)において研究が進められています。
ここでは利用方法のおおまかな要点のみを紹介します。地域や作型によって放飼時期などが変わりますので、詳細は記事末のリンク先にある農研機構のマニュアル等で確認してください。
トマト(ハウス栽培)におけるコナジラミ類の防除
トマト黄化葉巻病(※2)を媒介するコナジラミ類を防除する技術です。まず、トマトの定植時に天敵温存植物の苗を植え、直後にタバコカスミカメを放飼します。定植時の灌注(かんちゅう)剤・粒剤はタバコカスミカメに影響があるものが多いので、注意します。
黄色粘着テープなどを観察し、コナジラミ類の侵入を見つけた場合は忌避剤を散布するとトマトにコナジラミ類がつきにくくなります。コナジラミ類以外の病害虫に対しては、タバコカスミカメに影響の少ない農薬などで対応します。
※2 トマト黄化葉巻病:タバココナジラミが媒介するウイルス病。発病初期には葉が黄化しながら葉巻症状をおこす。症状が進行すると株全体が委縮する。発病後に着果した果実は落下するため、収穫が不可能となる場合が多い。
キュウリ(ハウス栽培)におけるアザミウマ類の防除
キュウリのアザミウマ対策では2種類の天敵昆虫を用います。タバコカスミカメは安定して効果を発揮するまでに2~3カ月かかるため、それまではスワルスキーカブリダニを使用します(スワルスキーカブリダニは生物農薬としてネット通販などで購入可)。
キュウリの定植時に天敵温存植物を植え、タバコカスミカメとスワルスキーカブリダニを両方放飼します。天敵が捕食できない害虫は農薬などで防除します。
ナス(露地・ハウス栽培)におけるアザミウマ類の防除
「タバコカスミカメ利用の発祥は、高知県の露地ナス栽培だったんです」(日本さん)というほど、高知県のナス農家ではタバコカスミカメは珍しくないのだそう。
徳島県では、夏期は露地栽培・冬期はハウス栽培で、一年を通してナスを栽培するという周年栽培において、タバコカスミカメを周年利用する「ゴマまわし」と呼ばれる技術があります。
夏期の露地栽培では、畝の端などにゴマを植えてタバコカスミカメを誘引・増殖させます。冬期のハウス栽培では、ナスの定植前にあらかじめハウス内にゴマを植えておき、タバコカスミカメを露地からハウスへ移動させます。冬はハウス内にクレオメを植えてタバコカスミカメを維持し、初夏にタバコカスミカメをハウスから露地へ移動させて周年利用します。
注意点とアドバイス
タバコカスミカメを利用する際の注意点
タバコカスミカメを利用するにあたって、もっとも起こりやすい失敗を日本さんに聞きました。
「コナジラミ類やアザミウマ類以外の害虫を防除するために農薬を使用する際は、タバコカスミカメに影響の少ないものを選ばなければいけません。前に使っていた農薬をうっかりそのまま使い、タバコカスミカメが減ってしまったケースがあります。“使ってよい農薬・使ってはいけない農薬”のリストがマニュアルで公開されていますので、しっかり確認してください」
日本さんからのアドバイス
最後に、日本さんから次のようなアドバイスをもらいました。
「タバコカスミカメを含めて、天敵昆虫の効果はとても優れています。天敵昆虫の良いところは、うまくいかなければ元に戻せるところです。関心のある農家さんは、恐れずにトライしてみてほしいです」
なお、実際にタバコカスミカメを利用した農家では、農薬使用量が60%減少したという実証事例もあるのだそう。化学農薬と違って害虫の抵抗性を発達させることがなく、安定して使えるのも天敵昆虫の魅力です。新たな防除体系での救世主として、タバコカスミカメに期待したいですね。
※ 情報は2020年9月末時点のものです。
取材協力・画像提供:日本典秀(京都大学大学院農学研究科 地域環境科学専攻 生態情報開発学分野)
参考:
「化学合成殺虫剤を半減する新たなトマト地上部病害虫防除体系マニュアル」(農研機構)
「施設キュウリとトマトにおけるIPMのためのタバコカスミカメ利用技術マニュアル(2015年版)」(農研機構)
「土着天敵を活用する害虫管理 最新技術集 / 土着天敵を活用する害虫管理技術 事例集」(農研機構)