一株900個、化学農薬を極力使用せずに多収
近藤さんのハウスは住宅と農地が混在する地区に、自宅と隣り合わせに建っています。
計70アールの広いハウスの中を見せていただきました。
びっしりとピーマンが鈴なりになっています。
かなりの密植状態で、通路幅も極端に狭く、採光性や作業性を第一には考えていない様子が見てとれます。
それでも一株あたり年間800~900個のピーマンを収穫しているそうで、日中はもちろん、深夜に至るまで数分単位の細やかな換気、加温の環境制御(サーモスタットによる自動管理システム)で、多収を維持し続けています。
しかしこれだけ通路が狭いと、人が一人ギリギリ通れるほどしかありませんので、収穫に時間がかかりそうですし、何より農薬散布などの重要な農作業の負担がかなり多くなるように思います。
つるちゃん
近藤さん
近年、農薬への抵抗性を持つ害虫が増加してきたこともあり、多くの農家が生物農薬、天敵農薬を導入しています。これらは農薬登録されているため「農薬」と名前が付いていますが、主に害虫を食したり害虫に寄生したりする益虫のことです。分かりやすい例で言うと、害虫アブラムシを食するナナホシテントウなどがあります。
特にハダニやアザミウマなどの食害を及ぼす害虫を防除する農薬の開発スピードを、害虫の抵抗性の進化が上回ったこと、高額なダニ専用の薬剤でしか対応できなくなったことから天敵農薬の研究が進んでいます。
天敵農薬の重要なところに、個体数のバランスを制御するという考え方があります。
化学農薬で0にするのではなく、害虫と天敵の個体数のバランスを保てば被害は最小限に抑えられるという、昔ながらにして最新の技術として研究が進んでいます。
特に研究や実践が盛んな高知県やオランダの農法を参考にして、近藤さんは試行錯誤を繰り返します。
完全な無農薬というより、害虫の個体数を化学農薬で一度ゼロベースに抑えた上で、天敵による害虫の個体数制御をするのが現在の主流です。あくまで害虫と天敵の個体数バランスの維持を目的としているため、むやみに天敵だけ導入したところであまり効果はありません。
人件費を抑える工夫 近藤園芸のピーマン経営の特性
消毒の手間がごっそりなくなるのは分かりましたが、先ほど見た通路の狭さでこの結果量、収穫の手間がとんでもないことになるのは変わりません。
驚きの選果システム
ここが近藤園芸株式会社の選果場。
収穫されたピーマンは、まず上の写真のように木箱部分へ投入されます。
平面に流れてくるピーマンを一つ一つ目で見て大まかに選別すると、今度は……
別のコンベアに移動します。
次々と流れていくピーマンは、まだまだ大きさにもバラつきがありますし、重量を合わせるのに時間がかかりそうです。
そしてここから一気にピーマンたちは選果場の2階(ロフトのようなスペース)に昇っていきます。機械を動かすと……
写真左の通路で2階に昇ったピーマンたちは、この大きな機械によって完全に選別され、指定された重量に合わせて周囲の箱のようなものに落ちていきます。
最終的には1階部分にて専用フィルムにパック詰めされ、シーリング(封をすること)されて、2回目の重量チェックと併せてセンサーによる異物混入検査をして商品となります。
2000万円だったら、筆者が想像していたよりも安いのかなと感じました。
近藤さんのピーマンはおおよそ10アールあたり年間20トンの収穫があるということなので、70アールの栽培を単純計算で見積もっても年間売上の数十%。以降の人件費を考えると、過剰投資とまではいきません。
さまざまな工夫と思い切った投資で、化学農薬に頼らず週休二日の農業を実践している農家にはなかなかお目にかかれません。しかし、このような先進的な経営をしている農家が口を揃えて必ず言う言葉を、近藤さんもまた、話していました。
常に上を見続ける先進若手農家は、今日も作物と向き合い、試行錯誤を繰り返しています。
【関連リンク】
近藤園芸株式会社
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