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一株でピーマン900個収穫! 化学農薬に頼らない環境制御栽培【農家が選ぶ面白い農家Vol.4】

鶴田 祐一郎

ライター:

連載企画:農家が選ぶ面白い農家

一株でピーマン900個収穫! 化学農薬に頼らない環境制御栽培【農家が選ぶ面白い農家Vol.4】

いま、農家が会いたい農家に、農家自らがインタビュー! 農家による農家のラジオ「ノウカノタネ」のパーソナリティー・つるちゃんこと鶴 竣之祐さんが、愛知県稲沢市、近藤園芸株式会社の近藤淳司(こんどう・あつし)さんのピーマン栽培を徹底分析! 一株で900個のピーマンを収穫するために、さまざまな挑戦を続けている同農園で、ほぼ無農薬で生産され続ける次世代型環境制御を体感してきました!

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一株900個、化学農薬を極力使用せずに多収

近藤さんのハウスは住宅と農地が混在する地区に、自宅と隣り合わせに建っています。
計70アールの広いハウスの中を見せていただきました。

ピーマン

びっしりとピーマンが鈴なりになっています。
かなりの密植状態で、通路幅も極端に狭く、採光性や作業性を第一には考えていない様子が見てとれます。
それでも一株あたり年間800~900個のピーマンを収穫しているそうで、日中はもちろん、深夜に至るまで数分単位の細やかな換気、加温の環境制御(サーモスタットによる自動管理システム)で、多収を維持し続けています。

ピーマン

通路はこの狭さ!

しかしこれだけ通路が狭いと、人が一人ギリギリ通れるほどしかありませんので、収穫に時間がかかりそうですし、何より農薬散布などの重要な農作業の負担がかなり多くなるように思います。

つるちゃん

消毒(農薬散布)はどうしてるんですか?
消毒はもうここ数カ月間してませんね

近藤さん

え!? 無農薬ですか?
10月に植え付けして年内の12月に化学農薬を使用するから、無農薬でも有機栽培でもないですよ。でも、12月に使ったきり一切使っていないしもう使う予定もないから、多分栽培期間終了まで散布しないですね。ハウス内に天敵昆虫を入れているので

天敵昆虫は何を入れているんですか?
スワルスキーカブリダニ、タイリクヒメハナカメムシ、コレマンアブラバチ、ヒメカメノコテントウ、ククメリス……

5種類も!
他にも入れますけど、メインはその5つですね

ピーマン

近年、農薬への抵抗性を持つ害虫が増加してきたこともあり、多くの農家が生物農薬、天敵農薬を導入しています。これらは農薬登録されているため「農薬」と名前が付いていますが、主に害虫を食したり害虫に寄生したりする益虫のことです。分かりやすい例で言うと、害虫アブラムシを食するナナホシテントウなどがあります。
特にハダニやアザミウマなどの食害を及ぼす害虫を防除する農薬の開発スピードを、害虫の抵抗性の進化が上回ったこと、高額なダニ専用の薬剤でしか対応できなくなったことから天敵農薬の研究が進んでいます。

それなりにコナジラミ(害虫)もいるけどね。バランスをとって生態系を維持するのが大変なんです。

天敵農薬の重要なところに、個体数のバランスを制御するという考え方があります。
化学農薬で0にするのではなく、害虫と天敵の個体数のバランスを保てば被害は最小限に抑えられるという、昔ながらにして最新の技術として研究が進んでいます。
特に研究や実践が盛んな高知県やオランダの農法を参考にして、近藤さんは試行錯誤を繰り返します。
完全な無農薬というより、害虫の個体数を化学農薬で一度ゼロベースに抑えた上で、天敵による害虫の個体数制御をするのが現在の主流です。あくまで害虫と天敵の個体数バランスの維持を目的としているため、むやみに天敵だけ導入したところであまり効果はありません。

ピーマン

サルビアやクレオメなど、コンパニオンプランツ(害虫ではないが天敵のエサになる昆虫が集まる植物など)がハウスの端々に植えられています

人件費を抑える工夫 近藤園芸のピーマン経営の特性

ピーマン

消毒の手間がごっそりなくなるのは分かりましたが、先ほど見た通路の狭さでこの結果量、収穫の手間がとんでもないことになるのは変わりません。

うちは家族と社員とパートさん、合わせて11人で現在は回しています。

これだけの量を70アール分ならせると、収穫・選果で一日が終わっちゃいそうですね。
そうですか? うちは週休二日制でやらせてもらってます。ハウスの開け閉めなどどうしても外せないところは土日も僕らがやりますが。一日15アールずつ順に月火水木金と5日間収穫して、全圃場を1週間で収穫します。土日は休みです。

同じところは週一回しか収穫しないんですね!
高知なんかでは中3日とかで収穫してますけど、僕は出荷先の大きさの規格に大小含みを持たせて契約しているので、週一回で大きさにバラつきが出ても問題なく出荷できるように工夫しています。

なるほど、それならできそうですね。でも大きさがバラバラで更に選別の労力が大きくなっちゃいそうですね。
では選果場を見てみますか?

驚きの選果システム

ピーマン

ここが近藤園芸株式会社の選果場。
収穫されたピーマンは、まず上の写真のように木箱部分へ投入されます。

ピーマン

平面に流れてくるピーマンを一つ一つ目で見て大まかに選別すると、今度は……

ピーマン

別のコンベアに移動します。
次々と流れていくピーマンは、まだまだ大きさにもバラつきがありますし、重量を合わせるのに時間がかかりそうです。

ピーマン

そしてここから一気にピーマンたちは選果場の2階(ロフトのようなスペース)に昇っていきます。機械を動かすと……

ピーマン

写真左の通路で2階に昇ったピーマンたちは、この大きな機械によって完全に選別され、指定された重量に合わせて周囲の箱のようなものに落ちていきます。

ピーマン

最終的には1階部分にて専用フィルムにパック詰めされ、シーリング(封をすること)されて、2回目の重量チェックと併せてセンサーによる異物混入検査をして商品となります。

ピーマン

「ピーマンの近藤」というブランドで販売されているようです

これだけのシステムを導入するのにいくらくらいかかったんですか?
大体2000万円くらいだけど、これがないと今の面積を週休二日では回せませんね。

2000万円だったら、筆者が想像していたよりも安いのかなと感じました。
近藤さんのピーマンはおおよそ10アールあたり年間20トンの収穫があるということなので、70アールの栽培を単純計算で見積もっても年間売上の数十%。以降の人件費を考えると、過剰投資とまではいきません。

さまざまな工夫と思い切った投資で、化学農薬に頼らず週休二日の農業を実践している農家にはなかなかお目にかかれません。しかし、このような先進的な経営をしている農家が口を揃えて必ず言う言葉を、近藤さんもまた、話していました。

自分なんてまだまだ。もっとすごい人はいるし、高知では10アールあたり27トン取れているから、もう7トン余力があるってことですよね

常に上を見続ける先進若手農家は、今日も作物と向き合い、試行錯誤を繰り返しています。

【関連リンク】
近藤園芸株式会社

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