1.法人化により銀行借入の信用力がアップ
法人化によって資金調達の選択肢が広がることは先に述べた通りですが、銀行借入の面でも一般的に法人化を行うことで信用力が増すことになります。なぜ法人化することで対外的な信用力が増すことになるのでしょうか。理由は大きく2つあります。
帳簿の透明性で信用力アップ
1つ目は、法人化することで「会社のお金」と「個人のお金」が明確に分別されることになり、帳簿の透明性が増すことが挙げられます。個人事業においては、事業と生活で財布を分けるということが難しく、事業に関わる資金の流れが見えづらくなりがちです。対して法人では、個人と財布を分けることになる為事業に関わる資金の流れが明確になり、結果としてそれが信用力の向上に資する為です。
事業の継続性の担保で信用力アップ
2つ目は、法人にすることで事業に対する「継続性」が担保されるからです。個人事業では、事業主が亡くなったり何らかの事情で事業を辞めざるを得なくなった場合には、仮に家族が後を継いだとしても、全く別の人間が事業主になるわけであり信用力も原則としてリセットされます。一方、法人の場合は代表者が交代しても事業主体は同一の法人のため、信用力は引き継がれます。世代交代においても、例えば、先代が代表取締役会長、後継者が代表取締役社長になる等の対応をすれば円滑な承継が可能になり、対外的な信用もスムーズに後継者に移行させることが可能となります。
2.株式・社債の発行による直接金融が可能に
法人化すると、銀行借入以外にも資金調達の幅が大きく広がることになります。例えば、株式や社債を発行することで直接金融(※1)が可能になります。株式や社債というと、大企業をイメージされる方もいるかもしれませんが、これらは中小企業でも行われています。
例えば、農業法人を対象とした投資育成会社会社 を活用することで、返済不要で長期安定的な資金の調達が可能となる場合もあります。
上記のような活動を行っている法人は農林水産省に「農林水産大臣承認投資育成等会社リスト」として掲載されておりますので、興味のある方は下記のホームページよりご覧ください。
また、社債の発行については銀行引受の私募債(※2)を発行するケースが一般的です。銀行引受私募債とは社債の一種で、上場企業等が発行し基本的に誰でも購入できる公募債とは違い、発行金額の全額を銀行が購入するものです。発行金額全てが銀行から入金されるため、実質的に銀行借入と同じですが、一般的な借入と比べて年一回の償還や5年後の期日一括償還など、返済条件の設定に幅があります。投資を行ってから生産が軌道に乗るまで時間を要する場合などに、選択肢のひとつとして検討してもよいのではないでしょうか。
ただし、一般に銀行引受私募債は手数料や保証料等、金利以外に別途発生する費用が多額になるケースがありますので金利等の調達コストと返済条件のバランスを総合的に判断する必要があります。
※1 銀行等からの借入による資金調達を間接金融と呼ぶのに対し、株式の発行や社債の発行等による資金調達を直接金融と呼ぶ。
※2 少数で特定の金融機関に所属するプロの機関投資家のみに限定して発行される債権。
3.高額融資や保険による積立を賢く活用
その他にも法人だからこそできる資金調達方法を紹介します。
シンジケート・ローン
設備などの大型の投資にあたって高額の融資が必要になる際、ひとつの銀行では調達が難しくても複数の銀行の協調融資という形であれば対応可能となる場合もあります。しかし、別々の銀行に出向いてそれぞれ融資の審査を受けていたのでは、膨大な時間がかかりなかなか投資計画が進まないという事態も起こり得ます。
そこで法人が活用できる資金調達方法が「シンジケート・ローン」です。法人化することで、ひとつの銀行を窓口として複数の銀行の協調による融資を受けることが可能になるシステムです。
法人名義の保険契約
また、法人の場合一定の条件を満たした法人名義の保険契約については、経費として処理することが認められています。こうした法人向けの生命保険商品では、一定期間経過後に解約した際に支払済の保険料が何割か戻ってくるなど貯蓄性が高い商品もあり、場合によっては預貯金等で積み立てるよりも高い利回りでの積立が可能となるケースがあります。
今回は法人化した際の資金調達の方法について解説しました。事業を営む際の資金調達の方法は様々であり、それぞれ特徴があります。資金調達の方法が多様化するという点においては、法人化することでより経営の選択肢も増すことになります。法人化を検討する際には多様な資金調達の方法から自社の経営に合うものを検討していく必要があります。
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