茨城県の農業専門学校「茨城県立農業大学校」
県内の2キャンパスに農業部・園芸部を設置
茨城県立農業大学校(以下、茨城農大)は公立の農業大学校です。
専門学校(専修学校専門課程)に認定されています。
県内に2キャンパスがあり、農業部と園芸部が設置されています。県中央部にある24ヘクタールの長岡キャンパスには農業部が、県南西部にある7.7ヘクタールの岩井キャンパスには園芸部があります。
2年間で農業を実践的に学べる
園芸部には園芸学科があり、その中で施設野菜コース、花きコースと分かれます。農業部には、養成課程である農学科(普通作コース、露地野菜コース、果樹コース)、畜産学科、さらに研究課程として専門的に学べる研究科が設けられています。それぞれ2年間で栽培技術や農業経営などを実践的に学べることが特徴です。
そのほかに社会人が働きながら通いやすい短期研修も用意されています。
学生たちが入学したきっかけ
普通科高校の出身者が約半分
茨城農大では1学年約70人(研究科を除く)が学んでいます。
入学生は年齢も立場もさまざま。
県内でレタスやネギを栽培する専業農家の息子である小林豊(こばやし・ゆたか)さんは、農学科露地野菜コースの2年生。普通科高校の出身です。実家が農家・非農家に限らず、農業大学校に入学して初めて農業を学ぶという学生も少なくありません。
県外から入学してくる学生も
県内からの入学生が多いものの、県外からも入学できます。
畜産学科2年の飯澤野乃花(いいざわ・ののか)さんもその一人。実家は福島県の非農家です。
2011年の福島第一原子力発電所事故の影響から、牛が処分されていることをニュースで知り、何かできることがないかと思ったことから、農業系高校に進みました。
福島県内で農業を学べる進路を探したものの、実習が少なかったり、学生数が多く当番が回ってこないことを懸念。
「自分からインターネットで調べたり、先生から聞いたりして茨城農大を知りました。朝4時半頃から作業があって牛と触れ合う時間も多そうだった。オープンキャンパスにも来て、自分の目で見たうえで選びました」
ちなみに女子学生は2009年には5名でしたが2018年には16名と増えています。
茨城県立農業大学校の学生生活
授業で学べること
茨城農大の授業は朝の8時50分からスタート。月曜から金曜まで、90分の授業が昼休みを挟んで、夕方16時半まで毎日4時限あります。
「講義と実習とをバランスよく組み合わせた学習」を特色とうたう茨城農大。授業全体の半分ほどが実習です。
「教科書を使って教えるばかりではなく『実学』を重視。先輩農家さんの畑へ研修に出向いて、リスク管理や経営方法などの現場経験を得られるようにもしています」という教員からの話もありました。
授業は栽培・加工・マーケティングや、GAPについてなど。また、英語や法律学といった、農業以外でもなじみのある科目もあります。
学科・コースごとの専門的な授業もありますが、一緒になって共通の授業を受けることもあります。
早朝4時起床? 人によって異なる学生生活
授業の時間は決まっていても、それぞれの学科やコースによって農作業の時間が違います。
畜産学科の飯澤さんは、1年生で牛の世話をする当番だったときは早朝4時に起きていたそうです。
「目覚まし時計を5分ごとにセットしないと起きられませんでした(笑)」
2年生になった現在、起床時間は遅くなりました。ですが、校外の牧場で搾乳のアルバイトをしているため、仕事が入っていれば5時に起き、働きに出てから、8時までには戻り、授業へ出ています。夜は早めに21時頃には眠るそうです。
農学科露地野菜コースの小林さんの場合は、8時頃に起きて準備をして授業へ。小林さんはプロジェクト学習(自ら課題設定し研究する学習)のテーマをレタス栽培と決め、実習や研究を行っています。午前の授業が終わると昼食をとって午後の授業。食事は3食とも食堂で用意されています。午後の授業が終われば自由時間。部活動がある日は部活動へ。24時過ぎに眠ります。
このように学科やコースによって生活が異なる他、台風などで畑やビニールハウスの様子を見る必要があれば、夜に作業をすることもあります。
研究科ではさらに専門的な学びが得られる
養成課程を終えて、研究科へと進んだ場合には、さらに勉強は専門的に。
小沼一輝(おぬま・かずき)さんは農学科で2年学び、その後研究科へと進みました。茨城農大の研究科には、就業体験実習として学校外の施設で1年間勉強できる制度があります。小沼さんは現在、水戸市の農業総合センター農業研究所へ寮から通い、サツマイモの品質向上のための研究を行っています。
寮生活には良いこともあれば、ストレスもある?
茨城農大では、1年生は全寮制です。基本的には2人部屋。初めて出会った者同士で寮生活を送ることになります。
「寮生活にはストレスもある」と話すのは、農学科普通作コースの薄井一弥(うすい・かずみ)さん。寮長も務めています。「同室だった学生が食べ物を食べっぱなしで部屋に置いていたことでケンカしたこともありました」。洗濯物が洗われずに洗濯機に残されたまま夏休みになり、悪臭を放っていたこともあったそうです。
一方で、「実習の失敗も、寮に帰って打ち明けると気持ちが楽になる。一人暮らしだったら、ちょっとツラいかもなと思ったりもします。同級生が作った薫製を食べながらの女子会も楽しいです」(飯澤さん)という声もありました。
2年生になれば寮を出ることもできます。ですが、ほとんどの学生が2年生になっても退寮は希望せず、そのまま寮生活を続けています。
先生との交流は
農学科果樹コースで学ぶ水谷政利(みずたに・まさとし)さんは2年生。自衛隊で8年間勤めた後、実家の農場を継ぐために入学しました。現在28歳。同級生との年齢差は気にならないそうです。
「先生は農業が好きな方ばかり。先生と学生という立場の違いはあっても、私は年齢も近いですし親近感があります。学校の外へ行って、先生と一緒にお酒を飲んだこともありますよ」
普通作コースの薄井さんの実家も農家です。幼い頃から農作業を手伝ってきた薄井さんには、学校の先生が教師というより普及指導センター(※)の職員にも感じられるそうです。
一芸に秀でた先生が多いことも農業大学校ならでは。茨城農大の学校長は花きの専門家。朝一番に学校に来ては、学校中の花の状況を見て回っています。
農業部長兼研究科長の中原正一(なかはら・まさいち)さんは話します。
「普及指導センターに勤務経験のある方など、農業に詳しい方が先生に就いています。そうは言っても、昔と今とで違うこともありますし、先生自身も知識が少ない分野もある。先生も研修会に行くなどして研さんを積んでいます。学生にも、日々学びながら疑問があれば自発的に調べて考えていけるようになってもらいたいと思っています」
※ 地域ごとに農業技術の普及や経営支援などを行うために、都道府県で運営される機関。
同じ夢を持つ仲間と出会えたこと
茨城農大を卒業した学生の進路決定率は96.7%。
実家の農家を継いだり、農業法人に就職したりするなど、進路はさまざまですが、ほとんどが農業の道を選びます。
水谷さんは夕食後の自由時間に、来春の卒業後の就農計画を立てたり、調べものをしたりしているそうです。「学生がみんな同じ目的を持っていることが農業大学校の一番のメリット。卒業生は、農家にならなくても農協や農業法人や、何かしらで農業に携わる。ですから、クラスメイトというより『同業者』という感じですね。一生ものの友人ができたと思っています」
かけがえのない仲間と、ともに歩む学生たちが茨城農大に集っていました。
※ 記事内の人数や数値データは養成課程のみ。