近年、気候変動影響による将来の降水量の変化等により河川氾濫や内水氾濫等のリスクが高まっています。その適応策の1つとして、「生態系を活用した防災・減災 (Eco-DRR)」や「グリーンインフラ (GI)」が注目されており、釧路湿原の遊水機能がその好事例となっています。本分科会では、釧路湿原と石狩川流域をモデルケースとして、将来的な大雨の強度及び頻度の増加に対応するための、地域の関係者の連携によるEco-DRRの考えを用いた適応アクションプランを策定しました。地域の安全度向上と生物多様性向上の両立が期待できる適応策です。
将来の気候変動により、雨や雪の降り方が変化することで、事業活動に影響が出ることが懸念されています。北海道においては、特に冬季の観光事業活動等に甚大な影響を与える可能性があることから、将来の気候変動下における降雪や積雪パターンの変化等を予測し、スノーリゾート地域における官民連携による適応アクションプランを策定しました。北海道内の大型スノーリゾート地域はもとより、中小規模スキー場や、北海道以外の地域においても適応策検討の参考となるような内容となっております。
気候変動による降雪パターンの変化に伴い、河川流量や地下水賦存量が変動することが考えられます。特に東北地方では、降雪の減少や春季の気温の上昇に伴い、融雪量や融雪時期の変化が、今後、各種の用水利用等への影響を与えることが懸念されています。本調査では、将来の東北地域における降雪・融雪状況や水資源の利用可能性の変化に対応するため、地域の関係者の連携によるアクションプランを策定しました。
近年、日本周辺海域では海水温の上昇等が原因と考えられる、魚種の変化や来遊量の変化が報告されています。気候変動による海水温の上昇は、海洋生物の分布域や生活史に伴う回遊経路・回遊時期に影響を及ぼすと考えられ、その結果として漁場の変化や漁獲量の減少等、各地域における水産業にも大きなインパクトを与えると考えられます。そのため、海水温の上昇による海産生物への影響を把握することは、各地域の水産業にとって、今後ますます重要になってきます。そこで、将来的に海水温が上昇した場合においても、東北地域で営まれている沿岸漁業あるいは水産加工業が被ると思われる影響をできるだけ低減、あるいは新たな価値創出に繋げられるよう、海水温上昇等による水産業への影響について検討し、地域の関係者と連携を取りながらアクションプランを策定しました。
近年、気候変動によると思われる様々な影響が観測、予測されており、国や自治体だけではなく国民レベルでの身近な取組を普及することが望ましいと考えられます。国民レベルでの取組を普及するためには、桜の開花時期のような身近な現象を対象に、国民自らが観察記録などの取組に参加し気候変動の影響を実感することや、こうした取組への参加により、気候変動や適応に対する理解を促進していくことが必要です。本テーマでは、東北地方の身近な動植物を対象とし、気候変動に伴う生物季節の変化が、国民生活に及ぼす影響について国民参加による情報収集を行い、国民レベルでの気候変動に対する取組の普及を目指しました。また、これらの情報や影響予測に基づき、地域の関係者の連携によるアクションプランを策定しました。
関東地域では、特に内陸を中心として夏期に高温となる地域が多くあります。
これに伴い熱中症による搬送者・死亡者数も増加しており、各自治体で熱中症対策への取組が進められています。
一方、熱中症対策について、個別のターゲット毎に想定される課題やリスクシナリオ(「だれが、いつ、どこで」)を明確に整理されたものがなかったため、先進的な事例を参考に整理しました。
また、各地域の状況に応じた適応アクションを検討する際に活用いただくことを目指し、多くの自治体担当者が課題と認識している庁内外の関係者との連携イメージや必要な情報等を分かりやすく整理することで、より効果的かつ広域的な取組を促す広域アクションプランを策定しました。
将来の大雨や暴風等のリスク増大による災害により孤立化が想定される地域を対象に、被災時のより安全・安心な避難生活(自立的な生活)を目指した体制を構築することを目的とした自助・共助の取組とともに、「防災もまちづくり」(公助)という視点で、広域的に実施できるようなアクションプランを策定しました。特に、ライフラインの途絶による孤立を想定した備えについて、災害時の効果に加えて、平時における脱炭素型社会の実現(緩和策)とのシナジー効果をもたらす取組として推進します。
気候変動適応の取組において区市町村等の役割は大変重要です。しかしながら、現状では区市町村等において適応を推進するための情報や課題が十分整理されていません。
そこで、事業期間であるこの3年間で約160自治体の参加を得た意見交換会を開催し、区市町村等における脆弱性やリスクに対する意見や地域適応計画策定に関する課題について整理しました。
さらにこの結果を受けて、既に地域で取り組まれている適応策等に関して「適応策事例集」としてとりまとめつつ、区市町村等で適応を進めていく上で基本となる地域適応計画の策定場面における課題及びノウハウについて取りまとめ、環境省が示す地域適応計画策定の手順に準じて整理した「課題・ノウハウ集」として取りまとめました。
「生物多様性国家戦略2012-2020」において、我が国の生物多様性に対する4つの危機の一つとして、気候変動を含めた地球環境の変化による危機があげられており、豊かな自然環境の喪失だけでなく、農林水産業や文化等にも多くの影響を与えることが危惧されています。自然生態系への気候変動影響について検討するため、これまで地方公共団体や研究機関、市民等が実施してきたモニタリングの調査結果データ等の整理・共有に加え、気候変動影響の観点からそれらのデータを分析・評価し、調査対象とする気候変動影響の絞り込みを行い、関係者の連携による自然環境・生物への影響に対するアクションプランを策定しました。
近年、気候変動の影響で降雨や降雪の時期、量、融雪時期に変化が現れてきており、今後更なる変化が予測されています。これに加えて、人口減少や過疎化によって、水源となる森林や農地の管理状況や、土地や水資源の利用状況等においても、将来的な変化が予想されています。このため、流域圏全体での水資源の利用状況を把握した上で、気候変動による影響を把握するとともに、気候変動の影響と社会の変化を考慮した効果的な水源や水資源管理方法等を整理し、関係者が連携して実施するアクションプランを策定しました。
都道府県・政令市レベルでは、すでに地域気候変動適応計画の策定が進んでおり、適応に関係する既存施策の整理がされつつあります。その一方で、県・政令市の気候変動の影響や脆弱性・リスクは分野横断的な視点で必ずしも点検されていません。また、気候変動の影響は、気候変動の影響予測や評価のみではなく、その地域の今後の人口動態や土地利用、生態系サービス、産業、交通、エネルギー等の社会・経済面によっても大きく異なります。このような気候変動の影響と社会・経済的な変化の双方を組み合わせた将来の脆弱性・リスクを把握する指標の整理と可視化を行いました。また、これらの情報をもとに分野横断的な脆弱性・リスクの抽出を行うための自治体向けワークショップモデルの手引きを作成しました。
大都市・観光地を多く擁す近畿地域は、都市部では気候変動に加えヒートアイランドの影響を強く受けることにより、熱中症搬送者数の増加が地域共通の課題となっています。また、祇園祭等の大規模な祭礼・屋外イベントが毎年夏季に多く開催され、今後は大阪・関西万博等の大規模イベントも予定されています。本分科会では、既存研究の成果、気候変動影響予測情報、気象情報等を有効に活用し、関係者が連携することにより熱中症患者の発生リスクを低減するためのアクションプランを作成しました。
京都府、滋賀県、奈良県は、「宇治茶」、「近江茶」、「大和茶」等の原料茶生産地域であり茶の生産活動は盛んですが、これらの茶栽培地域は、夏の高温少雨傾向が強く温暖化の影響が比較的顕在化しやすいと考えられます。また、作付時期が変更できず、品種改良に時間がかかる茶栽培への気候変動影響調査データは不足しています。本分科会では、気象予測情報および気候変動影響予測情報等を活用し、地方自治体、茶業研究機関、生産者等の連携によるアクションプランを作成しました。
気候変動の影響により、局地的豪雨の頻度・強度が増し、将来的にはさらに激甚化することが予想されています。また、これに伴い、局地的豪雨が引き起こす災害も頻度増加及び激甚化が想定されます。近畿地域では、XRAIN(高性能レーダ雨量計ネットワーク)による降雨の立体観測が高頻度で行われています。この優位性を生かして、局地的豪雨の増加による影響を把握し、その人的・物的被害を軽減するために、関係者の連携とアクションプランの作成を行いました。
中国山地や四国山地などの高標高域では、高標高域の植生や希少植物の分布適域が気温上昇に伴って減少する可能性や、ニホンジカの生息域拡大によって、植生等への被害が発生することが指摘されています。これらは、自然生態系への影響だけでなく、各地域の観光や林業等の産業、防災等にも関わる重要な課題であり、関係する都道府県等の区域を越えた広域的かつ共通的な課題であることから、気候変動影響や適応策に関する情報を収集し、アクションプランを策定しました。
中国四国地方は太平洋、瀬戸内海及び日本海に面していますが、太平洋側では沿岸域におけるサンゴやオニヒトデ等の生息域が北上し、サンゴ等の海洋資源や地域産業への影響も考えられます。対策には、広域的かつ共通的な取組が必要であるため、気候変動影響や適応オプションに関する情報を収集し、アクションプランを策定しました。
瀬戸内海及び日本海においては、近年の海水温上昇によって、沿岸の漁業(藻場)やノリやワカメ、カキ等の養殖業に影響が生じており、今後の気候変動の進行によって、さらなる適応策が必要となる可能性が指摘されています。本分科会においては、瀬戸内海及び日本海における漁業等への気候変動影響及び適応オプションに関する情報を収集し、広域で連携して実施するアクションプランを策定しました。具体的には、将来的な環境変化・魚種変化等への方策検討及び見直し並びに気候変動の不確実性に備えたモニタリング及び情報共有方策についてとりまとめました。
九州・沖縄地域は、毎年のように激甚な豪雨災害が発生する、日本の中でも豪⾬災害リスクが⾼い地域です。一方で、温暖な気候の中で育まれた豊かで多様な⾃然環境が存在しており、⾃然環境や地形を活⽤した防災・減災の技術も多く残っています。
本分科会では、今後気候変動の影響もあり激甚化が懸念される豪雨災害に対応するため、地域に存在する自然環境等を活⽤し防災・減災を図るEco-DRR(生態系を活用した防災・減災)の考え方に基づく取組を実践するために必要な情報をとりまとめました。各種ツールを活用し、自然の恵みを基盤とした魅力ある地域づくりに繋げていきましょう。
九州・沖縄地域は高齢者の人口あたり熱中症救急搬送者数が全国的にも多い傾向にあり、高齢者の熱中症の予防や重症化防止に資するソフト面・ハード面の暑熱対策を優先的に実施していく必要があります。
本分科会では、今後気候変動等の影響もあり増大が懸念される熱中症リスクに対応するため、熱中症発症リスクが⾼い⾼齢者等を主な対象として、確実な情報伝達や予防⾏動につながる効果的な注意喚起、まちなかや教育現場等における暑さ対策の実践の際に活⽤できる情報をとりまとめました。各種ツールを活用し、庁内や地域内で推進体制を構築しながら、熱中症死亡者ゼロの九州・沖縄地域をめざしていきましょう。
九州・沖縄地域の沿岸にみられるサンゴ礁や藻場は、多くの生き物を育むゆりかごとも呼ばれ、私たちにさまざまな恵み(生態系サービス)をもたらしています。しかし近年、サンゴ礁・藻場の衰退が各地でみられ、気候変動の影響もあり将来は消滅するとの予測もあります。
これらの事態に対応するため、サンゴ礁と藻場を対象とした「沿岸生態系の気候変動適応マニュアル」を策定しました。本マニュアルは、国・地方公共団体・地域の活動団体等が地域における適応取組を主体的に継続して進めるための具体的手法や連携体制等を示すものです。
本マニュアルを活用し、⽣き物がにぎわうサンゴ礁と藻場を未来へ繋げていきましょう。
気候変動適応におけるアクションプランは、環境省「気候変動適応における広域アクションプラン策定事業」(令和2~4年度)を通じて策定されました。
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