映画館の音でいつも悩む二択のアンケートを取ってみた。 - 映写雑記

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映画館の設備視点

映画館の音でいつも悩む二択のアンケートを取ってみた。

こんにちは、ちょっと前、いやだいぶ前に下のようなアンケートをX上で取りました。

結果、本当に真っ二つに割れました。

こんなに投票してもらえるとも思ってなかったですが、こんな綺麗に割れると思っていなかった…

 

なんでこんなアンケートを取ったかというと、試写をやっていて良く直面する問題の一つなのです。文字数の関係で音全体が痛いというニュアンスのような書き方をしてしまいましたが、僕の指してる主たる音の痛さはセリフにあります。取りたいデータ的にはどっちの認識でも問題ないのでそう書きました。

セリフは突き刺さるけど、音楽やSEを考えると下げたくない。けど刺さるの嫌だなぁどうしようかなぁっていうシチュエーションによく直面します。

その場合、セリフに合わせるという調節を行うと今度は音楽やSEが少し物足らない。

EQやチャンネルバランスで微調整してしまう事もあります。

元のバランスは崩さないことを意識しながら微調整です。ただそんなうまく行きません。映画の音源はパッケージされた後の音源になので、チャンネルごとの調整はできますが、ステムでもらえるわけじゃないので音源事の調整はできません。
例えですが、楽器の音の2.5kHzが綺麗なバランスだけどセリフの2.5kHzは突き刺さる、セリフで合わせると楽器が死ぬ。

そんな状況が生れます。低域を太くしてまろやかに誤魔化すという手法など色々あるのですが、そもそもそんなセリフの録音の音源には大抵使える低域が入っていません。楽器だけでたらめに太くなってしまう。そんな感じ。あまりセリフのCchに楽器の音が思い切り入ることは少ないのであくまで例えですが、セリフとセリフ以外の音が違いすぎて共存できないというのはよくあり困ったりしています。

 

さてなんでこんな事に良く直面するのでしょうか。

個人的な考えなので合っているかはわかりませんが、これはスタジオと劇場の距離のフィールドの違い、すなわちニアフィールドとファーフィールドの違いだと思います。

たぶんダビングスタジオとかだと丁度良く痛くなく通る声として聞こえているのだと思います。実際に、同じように特性を作っている大と小の劇場で聞き比べてみると、小さい劇場はあまり痛くないというのは良くあります。

ただニアで丁度良く通る音というのはファーでは丁度良くない事が多いなと経験上思っているので、この差分を調整するのは難しいです。

 

映画館の劇場はスタジオと同じ音響のフラット特性を目指してXカーブやなんなやりと色々と基準の元に作られますが、ニアとファーという絶対的な空間の違いの問題で一緒になる事はほぼありえないと思います。スピーカーの使い方も変わりますし、同じ音圧で同じf特でもエネルギーの大きさも違えば、距離が違うので音の減衰や残響や反射といったものが複雑に絡み合うファーフィールドではニアとはステージが違います。

割とこの辺りの認識のズレが埋まらず、スタジオの人と現場の人とでの軋轢が生れることはよくあるようですね。僕もよくスタジオ側の人たちの仕事で生れます。

 

話を戻して、セリフの丁度いいけど音量が全体的に物足りないを取るのか、セリフは痛いけど音量はちょうどいいを選ぶのかという選択を迫られた時。

試写のほとんどは時間の問題で音量だけの調整で終わる事が多いです。よほど踏み外した作品ではない限り、そのままで上映する事が出来るように普段から劇場の調整をしています。

ラインアレイとかの特殊なスピーカーの場合は全て手作業の調整になりやすく少し違ってくるのですが、まあ基本はリファレンスレベル付近です。あとは劇場の個性の範囲です。

なので、この二択をよく考えねばいけません。

 

僕の考えでは映画の音はストーリーテリングのファクターの一つととらえていて、ストーリーの表現を「痛さ」というストレスで邪魔してはいけないと考えているので、大抵の場合は痛くない方を選びます。

作風で痛くても問題ないもの、例えばライブフィルムとかであれば痛くても音量を取るという事はあります。が、基本は痛くない方です。

 

アンケートの反応を見ていると、思っていた以上に痛くてもいいから音量をという人が多い事に少し驚きました。一般的には音量が低い方がストレスになる。という考えが半数あるという事かなと思います。これは新しい知見でした。

 

そして面白かったのは、僕のFF内の人たちの反応に限りますが、音響関係または何か芸能に関係する仕事をしている人のほとんどは痛くない方を選ばれていました。

 

これは考察するに、普段扱っている音のパワーが違うので、「痛い」のレベルがたぶんちょっと違っていて、痛いより音量が低い方を選ぶ人が多いのではないかなと思います。なので一般的に50:50くらいの中でプロの方達では体感ですが、

「痛くない音量低い」80:20「痛いけど音量大きい」

くらいかなと思いました。

 

さて、このアンケートでは、みんなどっちが良いのかな、アンケートの結果で僕のやり方少し変えようって思っていたのですが、こんなに綺麗に割れてしまうとどっちでもいいのかなとも思ってしまいます。痛くなく音量が担保できれば悩まないのですがね。

 

ドウシヨウ。アンケート取ったのずいぶん前だけど未だにドウシヨウって悩みながら日々試写テストをしています。

答えはきっと永遠に出ない気がします。