映写のお仕事「試写テスト」 - 映写雑記

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映画館の設備視点

映写のお仕事「試写テスト」

こんにちは、今回は以前も映写のお仕事は軽くブログにしましたが、映写のお仕事の一つ、「試写テスト」に絞って解説していきたいと思います。

ついでに、最近SNS上で話題の「上映の音量を決める」は「試写テスト」の中に入っている事なので合わせて解説します。

 

そもそも「試写テスト」とは

そもそもとして、「試写テスト」って何という話です。よくある試写会とかそいうのとは違います。これは、お客様にお出しする前に上映をしっかり最後まで問題なく行えるかをチェックするテストの事を言います。

デジタルシネマになってからは、工程が減り「試写テスト」一本にかかる手間と時間は大きく削減できるようになりました。大多数のデジタル化が進んだ映画館、主にシネコンではこの試写テストを行う事をしてないと聞いています。確かに人件費を考えると馬鹿にならないので、それもしょうがないとは思っています。しかし、それはレストランで「毎回仕入れ先が違う材料と調味料だけど、マニュアルで分量が決まっているレシピを見て作ったから味見しないでお客さんに出す」に等しい行為です。

シェフはクリエイターだけどね?とか映画はどちらかというと調理済みの料理なのでは?というちょっとヤヤコシイ事は置いておきます。

飲食店経験者や似たような状況を経験してお金を頂いた事がある人達はこれがどれだけ恐ろしい事かはすぐに通じると思います。

映写の「試写テスト」はその味見をする行為で、味に問題があれば問題を解決して上映するために必要な作業です。

 

「試写テスト」を順番に解説するよ

次はその「試写テスト」を順番に解説していきます。だいたいどの映画館も同じような作業になりますが、僕が行っている事を中心に解説します(あんまり他の映画館の試写テストの方法をしらないのもある)。

 

1、再生&変な挙動をしないかチェックするよ

当たり前ですが、再生ができるかを確認します。数百~数千本に一本ぐらいの割合ですがたまーーーに再生できない場合があります。またはデータが壊れている可能性がある場合もあります。

私は両方とも経験した事があり、試写テスト時に、「あれ?再生できんのだが?」とか「あれ?再生途中で止まるんだが?」という事を体験しています。

データの破損に関してはTMSと言われる中枢のサーバーがあるのですが、その中でデータの破損チェックができるのでそれを通していますが、TMSから各プロジェクターにデータを送ったあとに破損する可能性も考えられるので、完全に信用できません。

次に変な挙動をしないかチェックするですが、これは時間の都合上で事象を発見できるかは運が絡んできますが、シーンのスキップである程度映画を飛ばしながら見て行って、変な音や変な画になっていないかのチェックをします。

過去に、再生はできるけどある一定の時間以上の再生ができないとか、一定時間以上の画がおかしいというトラブルがありました。なのでこれも必ず行います。

 

35mmフィルムの試写テストでは、シーンのスキップはもちろんできませんし、フィルムの物理的な状態もチェックしなければいけないので、ストップウォッチ片手に持って、異常があった時間と異常内容を1Rずつきっちりレポートに取りながら試写テストを行うのがメジャーだったと思います。2時間尺の映画で大体6〜7Rぐらいですので、パンチングと言われる右上の丸いマークを全部見て回し切るまで終われないし、映画を普通に観れない作業でした。
僕めんどくさいからレポート書いてなかったけど

それと挙動確認は主にアクションの確認になります。アクションは映写機を止めたり、場内灯のオンオフやレンズ、音声フォーマットの切り替えアクションがあります。
35mmフィルムの映写は、銀紙テープをフィルムに直接貼って、銀紙に反応するセンサーが映写機にあるので、銀紙がちゃんと反応するかのチェックが必要でした。それと他劇場で使われたフィルムは銀紙を剥がされてない事が結構あるので、映写機モデル事に銀紙の形が変わるため誤作動の原因になります。その剥がし忘れていて編集中に見落としてしまった可能性がある銀紙を試写テストを兼ねてチェックしていました。

銀紙はフィルムに貼ってある写真があるとわかりやすいんですが、銀紙が残り少ないのであまり無駄にできないためサンプル作成は見送りました。スミマセン

 

2、画面サイズを確認するよ

めちゃくちゃ初歩的な事ですが、画面サイズをチェックします。
映画のデータ名って「GundP_FTR_F」みたいな名になっているのですが、最後のFの部分が画面サイズになっています。Fだとフラット、つまりビスタサイズですね。Sだとスコープ、シネマスコープサイズになります。ただ、たまに書いてなかったり、HD、Cと別の画面サイズの通称になっていたりします。なので念のために確認します。

あと割と現場あるあるなのですが、画面サイズを思い込みで間違えちゃう事があります。例えばヱヴァンゲリヲンは序と破はフラットですがQからスコープです。Qをフラットやで~と思いこむはあり得ます。

35mmの場合は画面サイズを確認するほかに、フレーミングのチェックとフォーカスのチェックがあります。
フレーミングとは画面の上下の位置のことで、映写機にダイヤルがついているのでそれで調整できます。基本的にはテストチャートでしっかり決めていればどの映画も流せるのですが、映写角度や湾曲スクリーンなどで画面の損失が多いスクリーンの場合、プリント状態によっては字幕が切れたり次のコマが写っちゃったりするので、それを作品ごとに微調整します。

フォーカスはそのまんま映像のピントのことです。小さい配給かつ海外作品とかだと全然テストチャートとあわない場合があったりしてこちらも作品ごとに観ていきます。あと字幕です。
字幕が字幕の種類や印字の仕方で作品ごとにピントが変わってしまうことがあるので、ボケた場合は合わせます。

 

3、音量を確認して調整するよ

今ちょっと話題ですね、映画の上映する音量は映画館側で決めています。ただ映画館のシステムは映画を作っているスタジオと映画館が同じ音量で上映できるように作られていて、理屈的には映画館側で触ることはしなくていい物です。製作者たちの意図通りに再生するのも映画館の一つの仕事です。

しかし、そうは上手くいきません。

どう足掻いても作品ごとに適正な音量が違うのでチェックします。
その際に、基本的なアプローチの仕方としてはシネマプロセッサーという以前ブログでも書きましたCP650のような音量を司る機械の基準値と言われる音量を目指すのが基本になります。

よく勘違いされがちですが、映画館側が勝手に音量を作っているのではなく、正確には「基準値でいけるか?」というアプローチで音量を見ていく作業になるのです。
そして、その音量を見ていく作業には、お客様視点で視るのと映画館視点で視る2通りがあります。

お客様視点で視るというのは大体下記の理由です。

・基準値で上映した事により音が大きすぎたり小さすぎたりでお客様が不快になる。
・子供向け作品などでお子様の耳が心配

この2つが主な理由かなと思います。
お客様が不快になるというのは、聴いていてシンドイ音、つまりめちゃくちゃ痛かったりする音だったり、小さすぎて何しゃべってるか分からない等の視聴していてストレスになる要因です。これを「製作者の意図する演出の音です」とお客様に突き返すのが正しいのかもしれませんが、その事で被害を被るのは映画館です。瞬く間に「あの映画館音が悪いよね」と広がってしまい評判が落ちます。お客様からしたら「意図する音」とかそんなの知ったこっちゃないです。金返せ!で実害でるのも映画館だけですし。

もう一つは子供向け作品などでの音量はそのまま子供の耳を考慮しての処置です。
私もですが、音響関係の仕事をしていると許容する最大音量がどんどん上がっていき、爆音と言われる音が普通と感じてしまうぐらいには麻痺します。なので自分の耳を常に疑いながら子供の視点で考えて合わせます。まあほとんど感覚ですね…

次に映画館視点で視るというのは下記の理由です。

・システムが追いつかず、機械が壊れるリスクがあるため予防する
・近隣の騒音問題

この二つが主な理由でしょうか。
システムが追いつかずというのは完全に映画館側の問題です。映画の音は常に進化をしていて、20〜15年前ぐらいのシステムで今の映画の音を満足に鳴らすというのはほぼ不可能と思えるぐらいに全く別物になっています。なので古いシステムの映画館は機材を入れ替えなければいけませんが、そんな資本がまずない映画館の方がほとんどです。
そして無理して壊してしまったらそれこそ売り上げに関わってくるので壊さないように運用しなければいけません。その対策の一つが音量を下げるになります。

それとよくあるのが騒音問題です。映画の基準音量って日常生活の中ではかなり爆音の部類です。そして建物でこれを遮音するのは相当難しいです。それこそ石油王でなければできないぐらいお金がかかります。そのため、漏れた音が近隣の住民だったり商業施設だったりに直撃し、騒音問題に発展します。泣く泣く音量を下げざる得ない状態になります。

とまあこのような理由があり、映画館側である程度、上映する音量を決めていきます。

 

この説明した3つを行なっているのが「試写テスト」となります。
映画をお客様に届けるまでには、製作側だけではなく届ける側も一緒にいろいろな仕込み作業をしていき、やっと届く形になります。ちょっとでも多く楽しんでもらいたいからね!

なので是非、みなさん映画館に来てください。

 

余談

さて、ちょっと余談なのですが、なぜ映画の音量が基準値といわれる音量でやりにくいかを、少し考察していこうと思います。まだ続くけど、映写の仕事関係ないです。

僕の独り言みたいな物なのでちょっと難しい言葉も入れていきます。

あとちょっと口が悪いし殴り書き

そもそもとして、同じ基準値の音量で流せないのは単純にスタジオと映画館の環境が全く違うのが原因です。
音は空気を複雑に伝う物理現象なので、部屋の環境やオーディオシステムが違えば数値上は一緒のように見えても全く変わります。

そして主に日本で作られた作品にスタジオと映画館の違いは顕著にでます。洋画はあまりブレがありません。それは何故かも一緒に考えて行きます。

まず映画館側ですが、そもそもBチェーンがお座成りで、箱のf特がしっかり出せてないのと、各スピーカーレベルが合っていない。という映画館もいっぱいあります。
お恥ずかしいですが、僕の映画館も結構ずれてる事もあります。

次にスタジオ側の話ですが、定期的にメンテナンスを入れていると仮定して、問題は箱の小ささです。多分日本で一番大きな映画用のスタジオを見せてもらいましたが頑張って150席ぐらいの劇場かなというぐらいの大きさです。試写室も映画館のメインスクリーンほどの大きさはありません。あとリファレンスのような箱の作りの様で、結構スタジオ事に癖が強くて違います。
海外、映画音響の最高峰であるスカイウォーカーサウンドのスタジオの話ですが、多分スタジオはあんま変わらない大きさなのですが、試写室とかはめちゃくちゃ大きいです。しかも一部の拘り以外は何処の部屋も時代の最新設備です。スタジオも完全に時代の最前線の音が作れるシステムです。資本の違いを感じます。スタジオであり、最前線の映画館環境も併せ持っているので、そりゃあブレないっすね。ちなみに僕の基準の音はスカイウォーカーで聴いた音になっています。

 

あと映画館もスタジオもですが、日本と海外ではBチェーンでの音の作られ方が全く違います。
世界基準だから一緒なはずなんですが、全然違います。日本のスタジオと映画館は良くも悪くもMidLow以下が弱いです。というかちゃんと再生されてない。
すっきりした音にしたいのかは分かりませんが、Midから上で音圧を稼ぐような作り方を感じます。スピーカーの問題かもしれませんが。
邦画がリファレンス値そのままで殆ど流せない理由はそこだと思います。映画館の大空間で上映すると痛い音だけ更に痛くなってしまうので。ていうかスタジオで聴いても音が痛え。
たぶん測定値上は綺麗なので、調整ではなくスピーカーの再生能力な気がしていますが。下のユニットが上の再生に追いついてない音。
まああと何が原因か分からないけど録音が不自然に上よりの音すぎるのもあると思う。声とか声とか声が。

 

僕の映画館で自分で作った音を聴いた制作の人の感想で「Lowが出すぎ、私の作ったこの映画はこんなLow入ってないよ」っていうの何度か聞きました。

ちげえよ、入ってないモンは再生できねえんだよとキレそうになりましたが、スタジオが狭いので実際に広い場所でのLowの広がり加減やモニタースピーカーの再生能力が追い付いてないだけです。あまり文句いうと箱のf特測定値と残響の収束測定の結果とスピーカーのフェイズ特性のデータ全て投げつけんぞって思いました。僕のとこも完璧な音場ではないですがそれはちょっと原因が違うので。

あとあれ、クリアな音を勘違いしてない?って思う事があります。Hiだけがスコーンと通ればクリアとか思ってない?基音の事考えてそれ作ってる???って思う事があります。しまった、文句ばかりが出てきてしまった。。。いや僕らも悪いとこはあるよ!

 

次によくある基準値を作るためのメインSP85dBとサラウンド82dBとかの音圧のバランスですが、下のEQ画面を見てください。

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意図的に200Hzと1KHzを盛り上げました。そしてEQで盛り上がった分(EQの+dBとSPL実測のはイコールではない)フェーダー下げればこの二つはこれでピンクノイズを出してEQフラットの時でフェーダー0dBと同じ85dBで再生されてしまいます。(このEQはXカーブを調整している画面ではありません)

何が言いたいかというと、Bチェーンで作られたXカーブに伴ったf特の周波数ごとに1dB2dBは当たり前に上下します。200Hzで-2dBで2kHzで+2dBだったら4dBの差が出ます。そのため本当に全く誤差がない一緒のf特と騒音測定器でなければピンクノイズでの音圧測定なんて参考にはなれどアテにならないんです。

それにピンクノイズなので、Q値が狭くピンポイントでピークやディップができてる帯域なんてそもそも音圧測定にほとんど反映されません。まあだからある程度近似値がとれるというのもありますが。

その上で映画館のXカーブでコヒーレントをみている映画館なんてほとんどありません。測定上は綺麗なカーブを描いていても、箱の問題でどこかの帯域でおきてる環境由来のピークやディップなんぞそもそも考えてやってるとこなんてほとんどありません。

恐らく日本のスタジオも今までいろいろ音を聞いてきた感じでは同じでしょう。

もうスタジオと映画館が完全に一致できる要素がまったくねえっす。だから映写スタッフとかで最終的な帳尻あわせないといけないのよとおもっています。イレギュラーな特殊な音響調整はしらんけど、僕の理想はやっぱり作り手の音をちゃんと届けたいなのでスタジオ側も勉強しているのですが、知れば知るほど難しいです。


あまり知識がなく表面的にしか考えられない僕ではこのくらい絶望感があるんですが、音響のプロだったら何とかできるんでしょうか。

 

映画館もちゃんとしなきゃですが、スタジオ側ももっと見直してお互いに補いながら映画を届けたいですね。だから僕は手を取り合いたい、