札幌市にある池田食品は、地域に愛される昔ながらの豆菓子、ボーロ、かりんとうを主に製造する伝統的な製菓業を営む。同社の経営戦略は商品開発や市場開拓だけではない。DXへの積極的な取り組みが評価され、「DXセレクション2023優良事例」に選定された。今回は、デジタル化・合理化の先にあるDX経営の視点を紹介する。
「令和の黒船」が中小企業を襲う
2020年の時間外労働の上限規制導入、21年の食品衛生管理基準のHACCPの完全義務化、同一労働同一賃金制度の導入、23年のインボイス導入、コロナ後の事業再構築、深刻化する人手不足、SDGs対応―このような中小企業を取り巻く時代の変化・経営環境の変化を、豆菓子などを製造販売する池田食品社長の池田光司さんは「令和の黒船」と表現する。ペリーが乗った黒船が日本の歴史の転換点となったように、中小企業は令和の黒船に経営の転換を迫られている。
黒船に対抗する手段の一つがDXだが、経営者がいくら音頭を取っても社員が踊らないというのが、多くの中小企業が抱える悩みだろう。そこで、光司さんはこう考えた。 「会社はお菓子をつくる側、売る側というように立場が違う人の集まりです。このような人たちの“異業種交流”を図り、共通の理解を深めなければDXは先に進みません」。
光司さんがまず手を付けたのが課題の洗い出しだ。一つ例を挙げると、受注システムはレンタルしたWebサイトを使っていた。受注メールが自動発行される仕組みをつくったところまでは良かったが、その先の注文票、納品書、請求書、工場指示、配送表の転記が手作業だったため、転記ミスがないかダブルチェックするという非効率な業務が必要になった。そのほかにも、原材料の発注、包装資材、在庫管理なども現場の勘と毎日棚卸しをするというような力業で行っていた。 「結局、⽣産、在庫、販売とシステムがバラバラで正確な在庫の把握ができていなかったのです」と、新たな基幹システム導入を主導した専務の池田浩輔さんは振り返る。
19年に導入したシステムは、中堅・中小食品製造販売業向け「販売管理」と「生産管理」一体型のクラウドサービスシステム「TABECLA(タベクラ)」だが、光司さんは社員にシステムを自分事として捉えてもらうために、社員から愛称を募集した。システムの便利さをいくら言葉で説明しても“刺さらない”と感じたからだ。 「愛称は『まめシス』です。愛称を募集することで全社員に土俵に上がってもらえる。土俵に上がればシステムの便利さを分かってもらえる。そして便利に使っているうちに、こうすればもっと良くなるという議論が生まれます。その流れをつくることが、中小企業がDXを進めるための一番良い方法ではないかと思うのです」
DXを進めてベースアップを実現
『まめシス』をコアとして、まずは各種のITツールを導入した。そして、働き方改革にも対応するよう仕事のやり方を見直し、定時で仕事が終わる仕組みをつくった。「一部の社員からは反発がありました。残業代が減って給与に影響が出たからです」と浩輔さん。しかし、デジタルを活用して合理化を進めた結果、ベースアップという形で社員に利益を還元することができた。
社員は、合理化という言葉をネガティブに受け止めるかもしれない。だが、光司さんにとってはポジティブな意味を持つ言葉だ。 「昔話ですが、米国人から『なぜ合理化をすべきか』と問われたとき、事象を整理し仕事をやりやすくすることだと答えました。すると、『違う。価値のある時間をつくるためにやるんだ』と彼は答えたのです。目からうろこでした。合理化により生まれた時間で何を生み出すかが重要なのです」
合理化の重要な手段がDXだ。光司さんは、DXを進めて数字で根拠を示し、数字で語る組織になることを目指す。「同時に成長が期待できる新しいマーケットを創造していく。そのことに時間を使いたい」と話す。令和の黒船は同社のDXを加速させ、強い組織に生まれ変わらせる。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・毎日手作業で在庫の棚卸しや、受注メールの転記を⾏っていたため、手間がかかり、集計ミスが起こりやすかった
・⽣産・在庫・販売管理のそれぞれで連携が取れていなかった
DX推進のための工夫
・基幹システム「TABECLA」を導入。BIツール(データを分析・見える化するソフトウエア)として「MotionBoard」、クラウド型POSレジの「スマレジ」、業務コミュニケーションツールとして「LINE WORKS」を採用
・全社員から基幹システムの愛称を募集した
成果
・在庫確認作業の効率化と正確な原材料在庫数の把握で少量多品種⽣産が容易になった
・⽣産から販売管理まで全⼯程の連携が実現し、数字で確認できるようになった
・社員のベースアップを実現できた
会社データ
社 名 : 池田食品株式会社(いけだしょくひん)
所在地 : 北海道札幌市白石区中央1条3丁目32
電 話 : 011-811-2211
代表者 : 池田光司 代表取締役
従業員 : 約80人(パートを含む)
【札幌商工会議所】
※月刊石垣2024年8月号に掲載された記事です。
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