「ゼブラ企業」とは、社会課題解決と経済成長の両立を目指す事業者を指す。今、地域経済の新しい担い手となるべく、スタートアップ企業がゼブラ企業を目指すことが注目されている。それは、地域経済を活性化するだけでなく、地域が抱えているさまざまな問題を解決する可能性を秘めているからだ。地域からゼブラ企業を目指す経営者の原動力とは何かに迫る。
誰でも活躍できる社会を目指し各人に合った働き方を創出し業績向上を実現
シーズプレイスは、自分たちを取り巻く社会課題に対して、当事者視点を生かしながら地域と連携し、事業化して解決するソーシャルイノベーションカンパニーだ。創業・就業、子育て、DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)推進、地域活性化の四つを柱に、誰もがその人らしく活躍できる社会の実現を目指して、幅広い事業を展開している。
仕事と子育てや介護を両立できる仕組みをつくる
シーズプレイスは、「暮らす地域で幸せに『育ち、働く』人を増やす」をミッションに掲げ、インキュベーション施設運営、有料職業紹介、企業主導型保育所、児童発達支援、保育所等訪問支援、公共施設管理運営、子育て情報サイト、ウェブニュースメディア運営など幅広い事業を展開している。同社は経営陣をはじめ、大半の従業員が子育てや介護を担っている最中の女性たちだ。短時間正社員、ワークシェア、子連れ出勤、時間有給、テレワークなど多様な働き方を実践し、働きたくても働けなかった人材を積極的に雇用、自ら社会課題の解決に取り組んでいる。 「自分のキャリアや人生を諦めず、仕事も子育ても介護も無理なくこなせる仕組みをつくりたいという思いでやっています。現在、20代から80代まで幅広い年代が、自身の経験やスキルを生かして仕事をこなしてくれています」と同社社長の森林育代さんは説明する。
同社を設立した経緯は、森林さん自身の経験が反映されている。森林さんは、20代の頃、プロのミュージシャンとして活躍していたが、30歳を機に引退して企業に就職。その後、結婚・出産を経て職場に復帰したが、とても家事や育児と両立できる職場環境ではなかった。子どもが熱を出して保育園から連絡が来るたびに、周囲から冷ややかな視線を向けられた。 「子どもを生み育て、仕事をして納税もしているのに、なぜこんなに肩身の狭い思いをしなければならないのか。そんな思いからさまざまな市民活動に参加し、2012年にNPO法人ダイバーシティコミュを立ち上げて、行政と協働で社会課題を解決したいと活動を始めたのがそもそもの始まりでした」
働く人や雇用する企業にマインドチェンジを促す
非営利法人とはいえ、当初から職員が生活できる給料が払える事業をしようと考え、隣接市の男女共同参画センターの指定管理に応募して受託する。 「男女共同参画事業に携わる中で地域の人ともつながりができ、次の事業展開の足掛かりになりました。ただ、公共施設故の制約が多く、『もっとこうだったらいいのに』と歯がゆく思うこともあったのですが、それを変えることにエネルギーを使うより、自分がこうだと思う施設を外につくればいいと考えました」
そうして立ち上げたのが、企業主導型保育施設を併設したコワーキングスペースだ。NPOの事業を通じて知り合った子育てママをはじめ同じ志を持つ仲間とともに、16年に会社を設立して事業をスタートした。
そこから同社は“社会の必要”に着目して次々と事業を立ち上げていく。東京都インキュベーション施設の運営、地域人材確保育成支援、児童発達支援スクールの運営、商店街活性化を目指す創業チャレンジ施設の運営、女性再就職サポート事業の運営など、枚挙にいとまがない。 「当社の従業員は、社会課題に対して当事者としての視点を持っているので、事業化に当たってさまざまな提案をしてくれるなど、強力な戦力になっています。地域で幸せに働く人を増やすには、本人も雇用する企業側もマインドチェンジが必要です。それを啓発していくのも当社の役割だと考えています」
幸せに働き続けるための次なる課題はウエルネス
東京の多摩地域を中心に事業を展開している同社だが、公共性の高い事業は利益につながりにくいイメージがある。従業員の生活と自立を後押しするために、どのような工夫をしているのだろうか。 「公共事業の一般入札は1円でも安いところに決まりがちですが、当社は企画内容次第で決まる入札を選んで応募しています。すでに実績を積んでいるので自信を持って事業企画を提案していますし、運営に必要な予算もしっかり提示しています。実際、それまでの予算の3倍の金額を提示して、担当者の目を白黒させたこともありますが、結果的に受託できました」
さらに、どう考えても収益に合わないと思ったら、事業から手を引く判断は早いという。意義のある事業でも、赤字覚悟で継続できるほどの企業体力はないと自覚しているからだ。
同社が着目してきた社会課題は、もともと福祉がやることと思われてきた領域が少なくない。しかし、その解決策を事業化し、雇用を創出して利益を上げてきた。設立10年に満たないが、すでにローカル・ゼブラ企業としてのプレゼンスを発揮している。森林さんが考える次なる課題は何か。 「誰もが幸せに『育ち、働く』ためには、心身ともに健康であることが必要です。今後は定年も延びるでしょうし、年齢を重ねても働き続けられるように、ウエルネス分野に注目しています。それを事業化していくためにも、さらにたくさんの人、たくさんの地域とつながっていきたいですね」
会社データ
社 名 : 株式会社シーズプレイス
所在地 : 東京都立川市錦町1-4-4
電 話 : 042-512-9958
代表者 : 森林育代 代表取締役社長
従業員 : 124人
【立川商工会議所】
※月刊石垣2024年8月号に掲載された記事です。
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