本・パンダ・パシフィカ
11月末を迎えて里の初雪となりましたが、土曜日の朝には小雨に変わったのでこのまま消えそうです。
ここ数日夜と朝の読書が進み、記録アップが遅れていたので見聞録として順次載せていきたいと思います。
図書館の棚で見かけて借りた本は初めて出合った作家さんで
高山羽根子 著「パンダ・ハシフィカ」
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パンダをテーマにした本かと興味を持ったのですが、確かにパンダが発見されたころから現在の外交大使に至るまでの経緯が書かれていますが、それは資料としての一旦。
著者の高山羽根子さんは創作SF短編賞佳作からはじまり、林芙美子文学賞、芥川賞と受賞した方と紹介されていて、他の本も読んでみたいと思うのですが、パンダ・パシフィカの話は2人のmail書簡のやり取りと言う感じで、淡々と進行します。
主人公のトモ子は実家に居候しながらアルバイトで暮らす女性、副業先で出合った村崎さんから「しばらく旅をするので、その間家で飼っている生き物たちの世話をお願いしたい」と言う申し出を受け引き受けるのですが・・
生物たちとは水槽やゲージに住むものの、あまり姿を見せず餌と水を管理し掃除をする事と、それぞれ自動設定されている温度管理などにエラーがないかをチェックするというもので、ほとんど姿を見せない生き物たち。
最初に問題が起きたのはネズミの仲間で、何時もと様子が違う気がして、メモを頼りに動物病院にかかり報告しますが、その活躍ぶりが示すように愛玩動物でない生き物たちにも自然に気配りできる女性でもあり、村崎さんはそれまでほとんど交流のなかった年上男性。
動物の世話を通して海外にいる村崎さんとメールのやり取りが始まるも、親密になるような話に展開する事もなく「こんな事を知っていますか」的な彼からのレクチャーメールに近い。
海外旅とは聞いているがどこにいるかも知らず、彼の目的も知らないながら、メールでパンダと人間の歴史を教えられるのですが、そんなかで上野のパンダ・リンリンが亡くなり、中国ではオリンピック前に加工食品工場での毒物混入事件が起き、四川大地震も起きると近代史に沿った時代背景が書かれています。
大地震下でのパンダ飼育や出来事にも触れ、今預かっている大人しい生き物たちも、災害が起きた時どのようになるのかと不安になるのですが・・
ここでのパンダは大切にされる生き物としての象徴でもあり、村崎さんの部屋にいる生き物は行き場を失い保護されている外来種が主でもあり、「命を預かる」というのがテーマになっているようです。
パンダが日本に初めて送られてきたころから始まり、昭和から平成の出来事を顧みながら淡々と「こんな出来事を知っていますか」と送られてくるメールに、そのつど真剣に考えるトモ子との往復書簡と言うストーリーは退屈しそうに思えるのですが、なぜか気をひかれ読みすすんでいたという感じの本で、物語と言うよりも少し前の出来事を思い出させるきっかけとなり、現代の混沌とした生き方を思考するようにも感じられました。
コロナ禍前と後で大きく変わった生活スタイルや価値観でもあり、自然環境の破壊が想像以上の速さで進行する時代でもあり、心に不安を抱えながら生き「時代の変革期を模索する」背景が見える気がします。
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