7月7日の都知事選では「ステルス支援」に回った小池百合子氏が勝利したものの、同時に行われた都議補選では2勝6敗と大惨敗を喫した自民党。多くの有権者が裏金事件を問題視している現れと言っても過言ではありませんが、首相をはじめ自民党の議員にその自覚はあるのでしょうか。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、首相自身が火の玉となって先頭に立ち採決した政治資金規正法改正案のお粗末さを猛批判。さらに堀井学議員の事務所が強制捜査を受けるという結果を導いた首相を強く非難した上で、有権者に対しては「次期衆院選まで裏金問題への怒りを持続させるべき」と呼びかけています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:無責任クソメガネの憂鬱
終わったと思いこんでいるのは自民議員だけ。有権者にとって現在進行系の裏金問題
アメリカのバイデン大統領が今年11月の次期大統領選からの撤退を表明したことを受け、日本全国から「岸田文雄もトットと9月の自民党総裁選からの撤退を表明したほうがいいんじゃね?」という声が巻き起こっている今日この頃ですが、毎日新聞が20、21両日に実施した全国世論調査では、自民党の裏金事件に関し、岸田首相が党総裁として責任を果たしたと思うかとの問いに「果たしたと思わない」が83%に上り、「果たしたと思う」は8%にとどまりました。
また、共同通信が20、21両日に実施した全国世論調査では、次期衆院選の投票先を決める際に、自民党の裏金事件を考慮するかとの問いに「考慮する」との回答が「ある程度」を含め計73.3%に上りました。これらの数字を見れば、自民党の裏金問題が終わったと思い込んでいるのは岸田首相以下、厚顔無恥な自民党議員の面々だけで、有権者にとっては現在進行形の事件だということが分かります。
7月7日の東京都知事選に合わせて実施された都内9選挙区の補選でも、自民党は8選挙区に候補を擁立して2勝6敗と大惨敗し、自ら掲げた「4勝」という勝敗ラインを大きく割り込みました。この結果について、複数の有識者が「岸田首相が裏金問題をうやむやにした結果」だと指摘しました。
特に「今の自民党が有権者からどう見られているか?」ということが如実に現われたのが、自民党都議連会長をつとめる萩生田光一氏のお膝元の八王子市で、自民党が擁立した馬場貴大氏が諸派元職の滝田泰彦氏に5万票近い大差をつけられて惨敗したという事実です。今回の選挙戦では、裏金問題で真っ黒なのに何の責任も取らずに説明責任すら果たしていない萩生田氏が応援演説を行ない、こともあろうに次のように述べたのです。
「今回は逆風の選挙になってしまいましたが、そもそも逆風の原因を作ったのは私自身です。私へのご批判があるとすれば、それは私自らが国政選挙で受けなくてはいけません。今回は八王子の声を東京都政にしっかり届ける代表を選んで欲しい。今後も私は批判を恐れず先頭に立って頑張らせていただきます!」
まるで前田敦子の「私のことは嫌いになっても、AKBのことは嫌いにならないでください!」みたいなフレーバーの演説でしたが、このKYぶり全開のトンデモ演説に対して、集まった八王子市民からは「ふざけんな税金泥棒!」「脱税ブタネガネ!」などの罵声が浴びせられました。そして、当初は「僅差で敗北」と予想されていた結果が、この萩生田氏の応援演説によって「大差で敗北」に変わったのです。
結局、この惨敗を受けて萩生田光一氏は自民党都議連会長を辞任しましたが、時すでに遅し。つーか、この辞任は、このまま都議連会長の座に居座り続けたら、次の衆院選で自分の議席も危うくなるため、早めに手を打っただけのことでしょう。一体、どれだけ姑息な人物なのでしょうか?
「ザル法」と呼んだらザルに申し訳ない政治資金規正法改正案
今回の裏金事件は、自民党が組織ぐるみ、派閥ぐるみで、長年に渡って慣例的に行なって来た犯罪なのですから、最大の責任者は自民党総裁である岸田首相ということになります。そして、その岸田首相は、事件発覚直後の昨年12月、次のように述べました。
「国民の信頼回復のために、私自身が火の玉となって自民党の先頭に立ち、取り組んで行きます!」
で、そんな岸田首相が火の玉となって採決した政治資金規正法改正案は、いくらでも言い逃れができる「なんちゃって連座制」に、時効が7年なのに10年後に使途を公開するなど、もはや「ザル法」などと呼んだらザルに申し訳ないようなお粗末なシロモノでした。
その上、党として処分されたのは裏金議員の半数以下の39人だけで、それも党の役職に就いていない萩生田光一氏を「1年間の党の役職停止」にするなど、実質的には「何のオトガメもなし」と変わらない処分が大半でした。
そもそもの話、今回の事件は、普通に政治資金収支報告書に記載していれば何の問題もなかったことなのに、自民党の安倍派を中心とした100人近い議員が、組織的に政治資金収支報告書に記載しない裏金を作っていたという事件なのです。そうであれば、何のためにそのようなことをしていたのか?その裏金は何に使っていたのか?誰の指示で行なっていたのか?こうした根本的な部分が解明されなければ、何も分かりません。
それなのに、岸田首相は単なる「記載漏れ」と同じ扱いをして、後から政治資金収支報告書にテキトーなことを書き込めばOKって、なんじゃそれ?あたしは個人事業主なので、毎年毎年100円単位の領収書までキチンと揃えて申告してるのに、領収書もなくて使途だけテキトーに書けば2,000万円でも3,000万円でもOKって、ふ・ざ・け・ん・な!
…と、ちょっと興奮してしまいましたが、全容解明などホド遠い裏金議員のアンケート調査だけでお茶を濁し、痛くも痒くもない形だけの処分と、何の意味もないザル法の採決でチャンチャン!…って、これじゃあ「火の玉」どころか自民党自体が「火の車」になっちゃうんじゃないですか?そして、その一端が7月7日の都議補選だったんじゃないですか?
ようやく垣間見えて来た「裏金の使途」
そんな自民党の安倍派に所属し、過去5年間に計2,196万円もキックバックを受けていた堀井学衆院議員は、この全額を政治資金収支報告書に記載せず、丸パクリしていました。そして、発覚後に修正された政治資金収支報告書を見ると、今度は1,000万円余りの使途不明金が計上されていたのです。
堀井議員の香典バラ撒き事件を捜査している東京地検特捜部は、この1,000万円が買収の原資として使われていた可能性が高いと見て引き続き捜査をしていますが、すでに堀井議員の元秘書からは「安倍派から還流された現金が香典などの原資に使われていた」という証言も得ているようです。これが事実であれば、80人もいる安倍派の裏金議員が誰1人として口を割らなかった「裏金の使途」が、ようやく垣間見えて来たことになります。
こうした違法な支出は政治資金収支報告書に記載できませんので、領収書を必要としない裏金が必要になります。きちんと記載していれば何も問題はなかったのに、何十人もの安倍派の議員が、まるで判を押したかのように、同じ手口で政治資金収支報告書に記載せずに裏金をプールしていた、もしくは何かに使っていた、ということは、堀井議員の香典と同じように選挙での買収などに使われていた可能性が濃厚なのです。
自民党議員は選挙時に誰でも現金をバラ撒いていたという証言も
そう言えば、安倍政権下で起こった河井克行元議員と妻の案里元議員による大規模買収事件の時、元自民党議員の金子恵美氏は「私も議員時代には選挙の時に党の上の者から現金をバラ撒くように言われた。私が断ると『誰でもやっていることだ』と言われた」と証言していました。これが事実であれば、自民党議員は選挙の時に「誰でも」現金をバラ撒いていたわけで、そのためには政治資金収支報告書に記載しないで済む裏金が必要になります。これが、安倍派を中心に自民党議員の大半が裏金を作り続けて来た理由なのではないでしょうか?
堀井議員は18日付で自民党に離党届を提出し、自民党はこれを受理しました。今回の堀井議員の問題について、林芳正官房長官は同日「政府としての答えは差し控えるが、一般論として選挙や政治活動は公選法など関係諸法令の規定に従い、一人一人の政治家が適正に対応すべきだ」と述べました。また、茂木敏充幹事長も同日「今回のような事態に至ったことは極めて遺憾。今後、堀井議員にはしっかり説明責任を果たしてもらいたい」と述べました。
毎度のこととは言え「もう離党したので自民党とは関係ない。あとは本人の問題だ」と言わんばかりの無責任ぶり!そして、無責任の極めつけは、やっぱりこの人でした。
記者 「総理、堀井学議員の事務所が東京地検特捜部の強制捜査を受けたことについてコメントをお願いします」
岸田首相 「その件に関しては茂木幹事長が党としてのコメントを出しています」
じゃあ、茂木幹事長が言った「今回のような事態に至ったことは極めて遺憾。今後、堀井議員にはしっかり説明責任を果たしてもらいたい」ってのが「党としてのコメント」なんですね。でもさあ、この問題ってアナタが「私自身が火の玉となって自民党の先頭に立ち、取り組んで行きます!」とノタマッた安倍派の裏金事件が発端ですよね?自民党総裁であるアナタが裏金議員1人1人にちゃんと聞き取り調査をしていたら、半年前に分かっていたことですよね?
それなのに、アナタは何もしなかった。それどころか、真実が公にならないように、内部調査など「やったふり」だけ、森喜朗元首相の聞き取り調査も「やったふり」だけで、形だけの処分と実効性ゼロの改正案で早期の幕引きを図った。その結果が、今回の堀井学議員の事務所への強制捜査だって、分かってますか?分かってないでしょうね。何しろアナタは、問題を起こした派閥の長でありながら、部下だけ処分して自分への処分は行なわなかった「無責任クソメガネ」なのですから。
ちなみに、今回の自民党の裏金問題を最初に告発した神戸学院大学の上脇博之教授の著書『検証 政治とカネ』(岩波新書)には、帯に「裏金を許すな!」と書いてあり、本文には「金権政治を根本的に変えるのは国民の怒りの継続だ」と書かれています。全国の皆さん、次の衆院選まで、自民党の裏金問題への怒りを持ち続けましょう!
(『きっこのメルマガ』2024年7月24日号より一部抜粋・文中敬称略)
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