20歳以上の国民のおよそ二人に一人がかかっているとされる、高血圧症。その基準が今後さらに下がる可能性があるという。その裏では何が起きているのか。医療業界の知られざる思惑を抉り出す―。
本当に下げるべきなのか?
「80歳ぐらいまでは血圧なんて気にしたことがなかったんです。ところが、たまたま訪れた病院で測ってみたところ、上が140台だったため、降圧剤を処方されました。今から5~6年前のことです。それ以来、塩分控えめの食生活を心がけながら、いちばん弱い2・5mgのものを1錠ずつ飲んでいます。現在は薬をうっかり飲まないことがあっても、130台です。
それでも医者は『降圧剤を飲むのをやめてもいい』とは言わないので、惰性で飲み続けていますが、どうしたものか……」
中部地方に住む80代の男性は、こう言って首を傾げる。現在、血圧が130台で安定しているのは、塩分の摂取量を減らした効果なのか、それとも降圧剤のおかげなのか―疑心暗鬼に陥っているのだ。
彼が「おかしい」と不信感を募らせるもう一つの理由は、同居する妻の血圧だ。彼女のほうが自分より血圧が高く、降圧剤を服用していないのに、健康そのものだという。
「妻の血圧は150~160台ですが、『いつもこうよ』なんて言って平気そうで、血圧以外、特に悪いところはないのです」
日本には現在、上が140以上の高血圧症の患者数がおよそ4300万人もいると推定される。読者の中にも、慢性的な高血圧に悩んでいる人は少なくないだろう。
脳内出血などの既往症や腎機能障害のある人にとって、血圧管理に注意が必要なのは確かだ。
また、厚生労働省の健康情報サイトでは、高血圧が進んで動脈硬化になると、狭心症や心筋梗塞、心不全などを引き起こし、脳梗塞、脳出血などの脳血管障害(脳卒中)や認知症になりやすくなると警鐘を鳴らしている。
高血圧は日本人にとって最大の生活習慣病リスク要因とも指摘しており、「血圧を下げなければならない」と不安に駆られる人も多い。
ところが、健康診断で血圧だけが高いと言われた人にとっては、これらすべての情報が「正しい」かというと、必ずしもそうとは限らない。
次ページ:「無理に血圧を下げるのは得策ではない」
ところが血圧の基準はその後徐々に引き下げられ、いまや世間では、140が高血圧の目安として広く認知されている。はたしてこの健康基準は本当に「正しい」のか。
元総理の吉田茂は首相在任時、血圧が230に達する時もあったとされるが、89歳で穏やかな最期を迎えている。
「血圧が高いほうが、より多くの血液を体内に循環できるので、元気な証拠といえます。なぜなら血液によって、酸素と栄養成分が体内に37兆~60兆ある細胞に運ばれているからです」(大櫛氏)
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「血圧が高いのも低いのも、その人が持っている個性です。血圧が高い人が早死にするとは限らないし、逆に血圧が低い人が健康に長寿をまっとうするわけでもない。
むしろ、血圧が高いから病気が心配だとか、不安になったりして心理面でストレスを感じたりすることのほうが、身体にはよほど害悪です」
「週刊現代」2023年6月3・10日号より
後編記事『アメリカでも問題になった…日本で「高血圧症」の国民が爆増した「衝撃のワケ」』に続く。
本記事は後編記事です。前編記事『「血圧が高くても無理に下げてはいけない」と断言できる「衝撃」の理由』
20歳以上の国民のおよそ二人に一人がかかっているとされる、高血圧症。その基準が今後さらに下がる可能性があるという。その裏では何が起きているのか。医療業界の知られざる思惑を抉り出す―。
飼い慣らされた医者たち
それにもかかわらず、なぜ血圧の基準はこうも厳格化の一途をたどり、しかもその基準は一律なのか。松本氏が、医者と薬の「絶対タブー」の闇を指摘する。
「『高血圧は絶対に下げなければいけない』という考えが常識になった要因として、いちばん大きいのは、製薬会社が医者に対して『血圧は下げるべきだ』と洗脳を図ったことだと思います。
いまの医者は勉強不足という面もあります。大学の講師から『血圧は下げるものだ』と教えられるし、研修医の時も先輩教授から同じように指導されます。それを何の疑いもなく、知識として取り入れてしまっているのが問題なのです」
「現に、私が大学を卒業した1969年当時、血圧の正常値は160でした。それを150に下げたところ、日本だけで100万~200万人もの患者が新たに生まれたのです。
しかも、製薬会社に言われたとおりにすれば、医者は研究費や学術費を融通してもらえます。大学病院に勤める教授や医師、私のような開業医にまでお金を融通してくれる。
つまり、医者にとって、製薬会社はスポンサーみたいなものですから、あえて彼らに逆らうようなことはしないのです」
次ページ:「ピュア・ビジネス」がもたらすもの
ここで重要なのは、血圧を急降下させる治療を受けるべきだと医者たちが信じ込んでいることです。その背景にあるのは『ピュア・ビジネス(ビジネス100%)』です。降圧剤を作っている製薬会社は、医者の教育やガイドラインの作成、さらには患者団体に至るまで、資金を提供しています。基準値が低くなればなるほど、降圧剤を製造する製薬会社にとって、利益が増えていくからです」
次ページ:糖尿病やコレステロールにも製薬会社の圧
「基準値を下げることによって、市場の糖尿病患者を含むすべての人にスタチン(血液中のLDLコレステロール値を低下させる薬の総称)を溢れさせ、製薬会社がぼろ儲けしようと企てています。
基準値を下げて多くの人々をメディカライズ(医療の対象にする)し、リスクがたいしてないような人にも使ってもらえば、莫大な利益になる。製薬会社の目下のビッグターゲットがまさに、血圧、糖尿病、コレステロールなのです」
HbA1cが6・0~6・4%かつ空腹時血糖値が110~125に当てはまる場合、「糖尿病予備軍」と目される。だが食事を八分目に控え、野菜を積極的に摂取するなど、ささいな生活習慣の改善により、糖尿病発症のリスクは下げられる。
しかし、LDLコレステロールの基準を変えることで予備軍の人たちを取り込み、一律に薬漬けにするようになれば、血圧と同様の事態が起きても不思議ではないのだ。
かつて降圧剤の販売競争が激化した欧米では、1990年代以降、「高血圧マフィア」と呼ばれるロビー活動がWHOや各国で横行した。
製薬会社はそのパイを増やすため、血圧の基準を下げる論文の捏造まで展開。その結果、コレステロール低下薬など多くの分野で不正が起こり、その反省から製薬会社と医師の経済的癒着の見直しが行われたはずだった。
医療界は同じ轍を踏むのだろうか。
「週刊現代」2023年6月3・10日号より
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