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SPINX NOVARE 2024開催、事業会社発スピンオフ・スピンアウトの最前線を探る

9月4日、東京都内にある清水建設のインキュベーション拠点「温故創進の森NOVARE」で、事業会社の新規事業創出を支援するプログラム「SPIN X10」のイベント「SPINX NOVARE 2024」が開催された。事業会社の新規事業担当者、スピンオフ・スピンアウトを検討中の方々、スタートアップ経営者など約100名が参加した。

ゼロワンブースターキャピタル取締役兼パートナーの浜宮真輔氏はイベントの冒頭、このプログラムの目的について、次のように説明し、参加者同士の交流の重要性を強調した。

ゼロワンブースターキャピタル取締役兼パートナーの浜宮真輔氏

浜宮氏:事業会社に眠る才能と技術を世界に導くプロジェクトとして進めています。スピンオフ・スピンアウトは日本ではまだ新しい産業分野であり、課題が山積しています。解決策もまだ十分に見えていない部分が多いので、横のつながりを作り、情報共有しながら進めていく必要があると考えています。

また、   ここ2年間ほどの出資先の中で、スピンオフ・スピンアウトの方々に出資する機会が偶然にも何度かあったという。

浜宮氏:当初はスピンオフにフォーカスする意図はありませんでした。しかし、実際に投資先と交流する中で、非常に高い可能性を持ちすごい能力を持った人が、優れた技術を持って世の中に出てくる状況を見まして。これはプログラム化していかなければいけないと感じて、SPIN X10を立ち上げることにしました。

こうしたことから、東京都による多様なスタートアップ支援事業「TOKYO SUTEAM」のスキームのもと、約1年前にSPINX10を開始。3ヶ月を1期とするバッジ形式でプログラムを実施。現在第3期が進行しており、合計45社・60名が参加した。参加者の内訳については、スピンオフを検討している人が33名、実行中の人が6名、そして制度設計をする人が21名いたという。

ゼロワンブースターキャピタル パートナーの立山冬樹氏

スピンオフとスピンアウトの定義について、ゼロワンブースターキャピタルのパートナーである立山冬樹氏は次のように説明した。

立山氏:スピンオフの場合、元の会社が新しく外に出て創業する社内人材の会社に出資します。ただしその割合は50%未満で、経営の主導権はその社内人材の方が持つという形です。現実的に元会社が50%近いとVCとしては出資が難しい傾向があり、実際には数%から多くとも10%を元会社がVCと同じラウンドで投資する形で入るケースが実例としては多いです。一方、スピンアウトは出資関係がない形で独立するケースを指しています。そうした方々が資金調達する上で重要になってくるのが、資本政策の立て方や投資契約書の項目の調整などです。

 

外部の銀行がどんな点を審査するのか、ベンチャーキャピタル、事業会社、コーポレートベンチャーキャピタルから資金調達をする際に、何がポイントになるのかは、新たに外へ出て起業しようとする方にとっては経験のないことでわかりにくいことでしょう。そこで、プログラムの内容としては、主にファイナンス周りの知識のインプットと、ケーススタディを使いアウトプットに重点を置いています。

時を同じくして、政府や関係機関も動きを見せている。経済産業省は、起業家主導型カーブアウト実践のガイダンスを発表し、出向起業制度には多くの事業会社から申し込みが寄せられているという。浜宮氏は、「投資会社としての立場からも、スピンオフ・スピンアウトの動きが、日本のGDP向上につながってほしいと考えている」と期待を込めた。

参考記事:8つの視点で読み解く「起業家主導型カーブアウトの新潮流・経産省ガイダンス」

大手企業からのスピンオフ、
東レとMOONRAKERS TECHNOLOGIESの場合

右から東レ 取締役 副社長執行役員の首藤和彦氏とMOONRAKERS TECHNOLOGIES 代表取締役の西田誠氏

大手企業からのスピンオフによる新規事業創造が注目を集めている。従来の事業再編や採算性向上を目的としたスピンオフとは異なり、起業家精神を持った人材が主導し、新たな事業を生み出すことを目指す「起業家主導型スピンオフ」が新たなトレンドとなりつつある。

イベントでは、大企業における新規事業創造とスピンオフの実態について語るパネルディスカッションが持たれた。東レ 取締役 副社長執行役員の首藤和彦氏と、同社からスピンオフしたMOONRAKERS TECHNOLOGIES 代表取締役の西田誠氏が登壇し、ゼロワンブースター代表取締役会長の鈴木規文氏がモデレータを務めた。

東レの新規事業創造の歴史と文化

東レは2026年に創業100周年を迎える老舗素材メーカーである。首藤氏によると、同社は創業以来、繊維事業から始まり、樹脂、フィルム、炭素繊維、水処理膜、電子情報材料など、常に新しい事業を生み出してきた歴史がある。この背景には、社員の自由な発想を尊重し、挑戦を許容する企業文化があるという。

首藤氏:しかし、企業規模が拡大するにつれ、組織化が進み、以前ほどの自由度が失われつつあるという点で危機感もあります。会社が大きくなると、組織での仕事に変わっていき、自由度が少しずつ薄れてきてしまいます。かつての自由闊達な雰囲気を取り戻したい。

一方、東レ出身で現在MOONRAKERS TECHNOLOGIESの代表を務める西田氏は、まさに社内起業家の成功例といえるだろう。西田氏は東レ在籍中、20代の頃から新規事業立ち上げに携わり、ユニクロとの大型契約獲得や、素材販売に留まらない最終製品事業の立ち上げなど、数々の実績を残してきた。

ヒートテック、エアリズム、ウルトラライトダウンといったヒット商品は、ユニクロが単独で開発・販売にこぎつけたと思われがちだが、実は、東レとユニクロとのコラボレーションの中で生まれた画期的な機能製品だ。1999年、まさにこの両社が手を結ぶきっかけを作ったのが西田氏だった。

西田氏は、「やんちゃな20代の若者(当時の西田氏)が飛び込みで営業に行ったことから、まさしく産業を変えるような動きが起こった」と当時を振り返る。このような「やんちゃ」の動きが、大手企業で新しい価値を生み出す原動力となったわけだ。首藤氏は、「そんな人材が、もっと表に出て事業をやれるような雰囲気を作りたい」と述べ、社内起業家の重要性を指摘した。

スピンオフという選択肢

西田氏が立ち上げたMOONRAKERS TECHNOLOGIESは、東レからのスピンオフ企業である。同社は東レにとって初めての消費者直販向けビジネスに取り組んでおり、従来の東レにはないビジネスモデルに挑戦している。西田氏によれば、スピンオフを選んだ理由は次の通りだ。

スピンオフを選んだ理由

1. 新しいビジネスモデルへの挑戦
東レは主にBtoB企業であり、BtoCビジネスのノウハウが不足していた。スピンオフにより、外部からのナレッジ導入や、より柔軟な事業運営が可能になった。

2. 統治と冒険(ガバナンスとベンチャー)のバランス
大手企業内では、ガバナンス(統治)とベンチャー(冒険≒新規事業)のバランスを取ることが難しい。スピンオフにより、冒険≒新規事業の自由度とそれに伴う圧倒的なスピード感を確保し、同時に親会社のガバナンス負担も軽減することができた。

3. 外部資金の活用
スピンオフにより、リスクを許容するベンチャーキャピタルなど外部からの資金調達が可能になった。これにより、失敗リスクを重視する大企業での事業運営と比較して、より大胆な新規事業展開(≒冒険)が可能になった。

首藤氏によると、BtoCのビジネスを東レではほとんど行っていないため、コアなノウハウや特化した人材が不足しているとし、ガバナンス面だけで見ると「ノウハウがないため難しい」という判断になってしまうとのこと。今回のMOONRAKERS TECHNOLOGIESを通じて、社外に出るという新しい新規事業の立ち上げ方にチャレンジすることの意義を語った。

一方、スピンオフはいいことばかりではなく、課題や葛藤も存在する。考えられるデメリットとしては、技術流出の懸念(自社技術を使い外部で事業を行うことへの抵抗感)、経済的利益分配が少ないこと(親会社はマイノリティ出資に留まることが多く、将来的な経済的リターンへの不安がある)、人材流出への懸念(優秀な人材が流出することへの抵抗感)などがある。

これらの課題に対し、首藤氏は、「まずはやってみる」姿勢が大事だと言う。

首藤氏:(出資が)マジョリティでなければいけないということよりも、むしろ、そこからどれだけのビジネスが出来上がってくるのかという意味で、チャレンジをしてもらうことが重要なんです。長期的な視点で判断していく必要がありますね。

失敗を恐れない文化の醸成

東レの企業文化について、首藤氏は失敗しても簡単には事業を諦めない姿勢を紹介した。例として、炭素繊維事業が50年かけてようやく市場に出てきたことを挙げ、長期的な視点での事業育成の重要性を強調した。

首藤氏:うちってね、実はやめないんですよ。もうずっとやり続けるんですよ。(笑)

一方で、デジタル技術の発達により、事業のサイクルが早くなっている。「昔は50年というのは、もう今でいうと5年から10年ぐらいになっている」と述べ、首藤氏は時代に応じた判断の必要性も示唆した。

西田氏は「失敗しない道を選ぶのに時間をかけるのではなく、高速で決断し、高速で失敗を繰り返せるようにする事。その道こそが成功への一番の近道だ」と述べ、積極的に失敗を重ねることの重要性を強調した。MOONRAKERS TECHNOLOGIESでの商品開発については、クラウドファンディングでの受注生産_・販売方式を取っているため、失敗のリスクを最小化しつつ、多くの挑戦を続けることが実現できているという。

東レでは、社内からの声を吸い上げる新たな仕組みとして「はじめの一歩賞」という、社員の挑戦に対する顕彰制度を導入している。首藤氏によると、昨年は約190件の提案があり、そのうち6件が表彰されたという。この制度について、「そういう挑戦が出始めてきているというのは、表に出やすい雰囲気を会社が作ろうとしていると理解され始めているのかもしれない」と評価した。

従来のスピンオフは主に株主価値向上や事業の採算性改善を目的としていたが、今回のケースは「起業家主導型スピンオフ」という新しい形態と言っていいだろう。企業文化の変革、適切な支援制度の構築、人材育成など取り組むべき課題は多いが、このような挑戦が日本企業の競争力強化につながることが期待される。

 

「SPINX NOVARE」イベントでは、こののち、10名の発表者が自社での取り組みを発表しました。
ピッチの模様は、以下記事にてレポートします。
スピンアウトとスピンオフ、そして予備軍によるピッチ——SPINX NOVARE 2024から

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