スピンアウトとスピンオフ、そして予備軍によるピッチ——SPINX NOVARE 2024から – 01Channel|事業創造メディア

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スピンアウトとスピンオフ、そして予備軍によるピッチ——SPINX NOVARE 2024から

9月4日に東京都内にある清水建設のインキュベーション拠点「温故創進の森NOVARE」で開催された、「SPINX NOVARE 2024」について、前回のトークイベント再録に続いてレポートする。

当日は、事業会社の新規事業担当者、スピンオフ・スピンアウトを検討中の方々、スタートアップ経営者など約100名が参加。イベントの後半では、スピンアウト、スピンオフ、および、法人としてはまだ独立していないものの、それを予定している起業家らによるピッチが行われた。一般的なスタートアップとしては経済的利益が小さいため立ち上げが難しいもの、出身企業のネットワークの強みを生かしたビジネスなど、ユニークな10チームが紹介された。

デジパト by RainTech

RainTechは労働災害を減らすためのDXアプリケーション「デジパト」を開発している。現在の安全巡回は紙に記入し、後でExcelに転記するという非効率な作業が行われている。これを改善するため、同社では、デジパトで工場レイアウト図の上にデータを重畳するUIを作成中だ。QRコードでのダイレクトログインなど、使いやすさも重視した設計となっている。

本事業を推進する代表取締役の藤井聡史氏は、大学卒業後、大手自動車部品メーカーへ入社。生産技術としてIoT、自動化、AIなどの新規技術を用いて、生産性向上・品質改善・働き方DX推進に12年間従事してきたという。自身が培ってきた技術・知識を活かして「災害による突然の悲しみをなくす」ことを目指して、2022年4月にRainTech株式会社を設立した。

RainTechではサブスクリプションモデルでサービス展開し、まずは製造業から始めて他業種へ拡大する予定だ。蓄積されるナレッジデータを最大の強みとし、さまざまな入口からデータを集め活用していく。将来的には、ナレッジデータをベースに、AIを活用したサポートシステムを構築し、グローバル展開を目指すという。

NCT by 100(ワンダブルオー)

100(ワンダブルオー)は、医療機関以外でがん検査を受けられるサービスを提供予定である。例えば、おしゃれなキッチンカー風の検診車両で最新の検査を実施し、カフェに行く感覚でがん検査を受けられるようにすることで、受診率の向上を図る。従来の検査フローに0次ステップを設け、リスクの高い人は従来のフローへ誘導する。がんと診断された場合には、NCTの費用を見舞金としてキャッシュバックする。

本事業を推進する代表取締役の山上博子氏は、塩野義製薬株式会社に入社後、15年に渡り営業職に従事。経営企画部、ベンチャー出向、新規事業関連業務と着実にキャリアを積み重ね、2023年3月に株式会社100を副業起業した。

NCTではまた、がんサバイバーや休眠中の女性医師による相談サービスなど、一気通貫のサポートを提供する予定。昨年実施したクラウドファンディングでは多くの支持を得て、専門医からも肯定的な意見を得た。医師の働き方改革が施行される中、検査を民間に委ねる受け皿としてこのサービスの必要性は高まっている。創業者の山上氏は塩野義製薬の新規事業本部に勤務しており、医師、検査メーカー、エンドユーザの三者に配慮した仕組みを構築したいと語った。

TONOME(トノミー)by TONOME

リコーの新規事業プログラム「TRIBUS」から生まれたTONOME(トノミー)は、目標に紐づいて日々のタスクを整理し、キャパシティや優先順位を一目で把握できるWebアプリケーションを提供している。多くの組織では過去のKPIや計画に基づいた議論が多く、未来に向けた価値ある議論の時間が不足している。TONOMEを使えば、目標に紐づいた日々のタスク、キャパシティ、優先順位が一目でわかり、未来に向けた対話の時間を増やすことができる。

本事業を推進する代表取締役CEOの小笠原広大氏は、株式会社リコーに新卒で入社し、国内大手営業を経験。その後、生販管理、海外マーケティング、R&D、新規事業開発、経営企画として経験を積み、2019年統合型アクセラレーターTRIBUSの初代リーダーとして制度設計~運営に従事した。直近までは生成AIを含む自然言語処理技術を活用したAI事業の企画や米国展開を担当している。

TONOMEでは、リモートワークや多様な働き方のニーズが高まる中、現場のマネージャーに負担が集中している現状の改善を目指す。アプリケーションの提供だけでなく、管理職向けのコミュニティを組成し、ベストプラクティスの共有を促進する。さらに、コーチングサービスや組織コンサルティングも提供し、組織全体のコミュニケーション改善を図っている。これらの総合的なアプローチにより、マネージャーの負担軽減と組織全体の生産性向上を実現する。

サテナビ by Star Signal Solutions

Star Signal Solutionsは、宇宙ゴミの衝突リスクを軽減するソフトウェア「サテナビ」を開発している。宇宙ゴミの増加により、衛星の破壊や連鎖的な宇宙ゴミの発生リスクが高まっており、金融市場の停止や交通システムの混乱など、地球上の生活に大きな影響を及ぼす可能性がある。現在の宇宙ゴミ回避システムには、10cm以上の物体しか検知できない、誤差が大きい、解析に人手がかかるなどの課題がある。

本事業を推進する代表取締役の岩城陽大氏は、2011年にJAXAに入社。文部科学省宇宙利用推進室、内閣府宇宙戦略室、在ウィーン国際機関日本政府代表部などを経て、2023年JAXA べンチャ―としてStar Signal Solutions株式会社を設立した。S-Booster2021審査員特別賞をはじめとする各賞に輝いている。

サテナビはこれらの課題を解決し、自動化・効率化を図る。JAXAから提供されたフリー体験版を既に40機関140基の衛星で採用済みであり、Star Signal Solutionsでは、商用化し、さらに使いやすくすることで民間市場に展開する。市場規模は政府全体で2.9兆円、年間2%以上の成長が見込まれる産業であり、市場の10%を獲得できれば年間174億円の売上を目指すことができるとしている。

全日本空輸(ANA)

ANAは新規事業制度として、短期収益型と事業化型の2つを紹介した。短期収益型では年度内の収益を目指し、航空機を使った事例やアップサイクル製品、他社とのコラボレーションなどさまざまな取り組みが行われている。事業化型では新たな収益源となる提案を募っており、NFTや社員が講師となる学びの提供サービス「ANA STUDY FLY」、廃棄食材の活用など多岐にわたるプロジェクトが進行中だ。

ANA新規事業提案制度に応募してファイナリストに残った後、現在は制度運営側にって、企画者への伴走支援ならびに教育や制度設計に携わる、萩野小青氏が取り組みを紹介した。

ANAから初のスタートアップとして「avatarin」が設立され、人の意識をモビリティに伝送するサービスを展開している。さらに、社内では新規事業の提案数が徐々に減ってきてしまう問題を解決すべく、「ANA LEO」という有志コミュニティを立ち上げ、挑戦者を応援する活動を展開している。このコミュニティでは社内の情報共有や交流会、女性起業家への伴走など、さまざまなプログラムを提供し、既に300名以上が参加しているそうだ。

電線のアップサイクル by DO・CHANGE

DO・CHANGEは、廃油を使った特許技術を活用し、銅線のリサイクル事業を展開する。この技術は、廃油で電線を揚げた後に真空乾燥させることで、銅線と被覆を効率的に分離できる。主な活動場所は発展途上国で、そこでは野焼きと呼ばれる手法で電線から銅が回収されており、健康被害や大気汚染が発生している。社会環境の改善と資源循環を主な目的とし、現地で行った手作業での簡易実験では労働者からも好評を得た。

本事業を推進する代表取締役の岸本明弘氏は、1998年に清水建設株式会社入社。現場での原価管理や事務をスタートに営業、総務、人事、不動産仲介、不動産開発、債権回収事業などを幅広く経験してきた。2021年に知人を介して、特許技術を開発したポリテック香川の当時の社長から、炭化した被覆部分について相談を受けたのが起業のきっかけだという。

大手商社からもサンプルを評価され、取引の可能性が高まっている。将来的には、アフリカのケニアや東南アジアなど、同様の問題を抱える地域への展開も視野に入れている。また、この技術を応用した機械の開発・販売も計画しており、日本のリサイクル業者からも関心を集めている。社会的インパクトを優先しつつ、ビジネスとしての成長も目指す革新的なプロジェクトである。

事業会社からのスピンアウトに関するナレッジ共有 by ユニファ・テック

ユニファ・テックは、自宅用の高セキュリティワークブースを開発し、高度な機密情報を扱う業務でもテレワークが可能になるソリューションを提供している。代表の神崎氏自身が事業会社からスピンアウトした経験を基に、イノベーターへのナレッジ共有を行った。

神崎氏は、主に3つの重要ポイントを強調している。1つ目は資金調達で、ステークホルダーからの出資や銀行融資を通じて、少なくとも2年間は事業を継続できる資金を確保することを推奨する。2つ目は事業領域の選定で、既存事業に近く、かつ新規性のある「はみ出し」領域を狙うことを提案する。 本事業を推進する代表取締役CEO兼CTOの神﨑康治氏は、2011年に大手IT企業へ新卒入社。ネット銀行の開業プロジェクトや保守運用にエンジニアとして従事するなかで、過酷な労働環境の上で社会インフラであるITシステムが安定稼働していることに気づいたという。企画職に転身後、社内新規事業提案制度の企画・運営に従事し。2023年に同制度を活用して磨き上げた事業をスピンアウトさせ独立起業した。

これにより、イノベーターは元の所属会社のアセットを活用しつつ、新たな価値を創造できる。3つ目は仲間集めで、元の会社が解決できていない課題に取り組むことで、外部からの支援を得やすくなるとしている。また、スピンアウトのタイミングや方法についても、パターン化された知見をイノベーターに共有した。大企業とスタートアップの連携を促進し、日本の新規事業開発の加速を願っている。

BlueCarbonSink事業

「BlueCarbonSink(炭素吸収源)事業」では、ブルーカーボンを活用した環境保全サービスを展開する。同社では、地球温暖化や気候危機が顕在化する中、海洋生態系、特に藻場によるカーボン吸収に注目した。藻場の回復・増大を通じて炭素吸収源を創出し、気候変動対策に貢献することを目指す。具体的には、藻場作りに最適な水質や土壌環境の測定や、藻場作成・測定キットの開発を進めている。全国の海域で調査を行い、実証実験を展開する計画だ。

本事業を推進する西川暢子氏は、富士通に入社後、社会基盤SEを経て、新ビジネス推進担当時の2013年に微細藻類プロジェクトを立ち上げた。2017年に環境分析のグループ会社に異動後、研究機関や大学と共同研究を行い、2021年には海産性微細叢類によるブルーカーボンプロジェクトに参画という。現在は現在出向起業準備中とのこと。

このプロジェクトは一般的な市場原理では動きにくい「wicked problem(何が問題かわからない問題)」と呼ばれる領域だが、プラネットテックに興味のあるVCと共に事業を展開する計画を立てている。大企業では取り組みにくい領域だからこそ、出向起業の形で挑戦し、宇宙からも見えるブルーカーボンのプラネットテック事業として、気候変動問題の解決に貢献することを目指している。

海外物流向け保冷ボックスサービス by アルファクエスト

アルファクエストでは、海外物流向けの革新的な保冷ボックスサービスを提供する。従来の大型リーファーコンテナに代わる、小型で効率的な保冷ボックスを開発。この新しいシステムにより、中小企業でも高品質な冷蔵・冷凍輸送が可能になり、日本の輸出促進を目指す。特に日本酒や高級食材など、温度管理が重要な商品の海外展開をサポートする。保冷技術の開発だけでなく、物流コンサルティングや商社機能も含めた総合的なサービスを展開予定。

本事業を推進する代表取締役社長兼CTOの桶田一夫氏は、三井住友海上で海外物流を長く担当。同時期に国交省、農水省とも海外輸出支援で連携していた海外物流のプロフェッショナルだ。早くからハイパースペクトラムやAIでの物流リスク解析をするなど新技術を次々に実行してきた。今回、コールドチェーン技術を深化させ、日本の低温・定温国内外物流を拡大支援するスタートアップを起業した。

具体的には、60日間の保冷が可能なボックスを開発し、既存のドライコンテナに搭載することで、コスト効率の高い輸送を実現する。また、このボックスは分解・保管が容易で、様々な商品に対応できる柔軟性を持つ。国内外の物流変革を目指し、ASEANへの進出支援や地方の食材の海外展開など、幅広いサービスメニューを用意している。日本文化の海外発信にも貢献し、新たな物流革命を起こすことを目標としている。

第一三共ヘルスケア

第一三共ヘルスケアは、オープンイノベーションを促進するための多様な取り組みを展開している。主な取り組みとして、アクセラレータープログラムの実施、コンソーシアムの形成、他企業との共同研究などがあるが、特に大企業とスタートアップの連携強化によるイノベーションの加速を目指している。

登壇したイノベーション戦略リーダーの時久航一氏の専門領域は、Biz-Tech×ヘルスケア。オープンイノベーションを担当し、主にスタートアップ協業に向けた仕組みづくり、新規事業開発に注力しているという。傍ら、IT系スタートアップベンチャーであるTech0でイベント統括、PdMを兼任し、大企業・スタートアップの両面から日本の変革を志している。

具体的な事例として、睡眠診断運動のようなヘルスケア領域でのイノベーション取組事例や、医薬品パッケージのリサイクルなどCSR的な取り組みも紹介した。これらの活動と合わせて、大企業が持つ技術やノウハウを活用しつつ、スタートアップの機動力と革新性を融合させることで、新たな価値創造を目指している。また、社内で眠っている技術やノウハウをスピンアウトさせ外部のリソースと組み合わせることで、さらなる成長を促す取り組みにも注目している。

 

「SPINX NOVARE」を通じて浮き彫りになったのは、日本の大手企業における「眠れる技術」の潜在力だ。東レの事例に見られるように、大手企業には革新的な技術やアイデアが眠っているが、それらを活かしきれていない現状がある。

一方で、ピッチセッションで紹介された10社の事例からは、そうした技術やアイデアを活用し、課題解決に挑戦する新たな動きが見えてきた。スピンオフやスピンアウトという形で既存の枠組みを超えることで、イノベーションの加速が期待できる。ただし、その実現には、失敗を許容する企業文化や、適切な支援制度の整備が不可欠だ。

SPINX NOVAREの取り組みは、日本企業の新たな成長モデルを示唆するものであり、今後の展開が注目される。

東レの事例を読む:
SPINX NOVARE 2024開催、事業会社発スピンオフ・スピンアウトの最前線を探る

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