カッソーネとは、結婚する時にお嫁さんが必ず持参した家具の一つ。大きな長い櫃であり、頑丈な木で作られる。
ウルビーノのヴィーナスの後方に描かれているのが、そのカッソーネである。
このカッソーネの裏蓋は、開かないと見れない。
そこに、エロスを主題とした絵が描かれていたらしい。
今回の展示で、何点かのカッソーネに描かれた絵が展示されていた。
ヤコポ・デル・セッライオ『愛神の凱旋』『羞恥の凱旋』も板絵であるが、これもカッソーネに描かれたもの。
縛られた男女が荷車に載せられ引き回されていうる。
これが愛の力で束縛から自由になる・・・という奇妙なテーマの絵である。
おそらく、寝室で夫婦がプライベートに見る絵だったのである。
ウルビーノのヴィーナスは、かなり特殊な作品だ。
今回の展示では、様々な「横たわるヴィーナス」の絵を同じ場所に並べられていた。
その比較で、ウルビーノのヴィーナスの特徴が際立つようにしている。
・ヴィーナスなのに、なぜ、ごく普通の寝室に寝ているのか?
(他の絵はバックに自然があり、キューピットや、牧神などが描かれ神話的な世界の中にある)
・なぜ、この絵を見る人の方を、まっすぐに見ているのか?
(他の、横たわるヴィーナスの絵は、眠っていたり、他の方を見ている)
・なぜ、シーツに乱れがあるのか?
(このシーツと枕は実に写実的に描かれている)
なぜ、お腹がもっこりしているのか?
(明らかに意識的に描かれている)
この絵はカッソーネの蓋の裏に描かれた秘密の絵のように、夫婦が水入らずで見る絵のような気がする。
この絵は、ウルビーノ公の注文でティツィアーノが描いたものであるが、ウルビーノ公には若い妻がいた。
さらに、ウルビーの公の家系は、子供が出来にくいという悩みがあったらしい。
この絵の女性は、ウルビーノ公の妻であり、
犬がベットで眠たままで吠えないのは、この部屋に入って来たのは彼のご主人だから。
女性が、まっすぐ、こちらを見ているのは、妻だから・・・という解釈が出来る。
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なお、他のヴィーナスの絵は「神話的な世界で」の中で描かれている。
アレッサンドロ・アッローリ「ヴィーナスとキューピッド」
シモーネ・ペテルザーノ「ヴィーナス、キューピッドと二人のサテュロス」
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補遺<APPENDIX>
①ウルビーノ公国は1443年から1631年までイタリアのマルケ州北部に存在した国家。
②この絵の注文者であるグイドバルド・デラ・ロヴェーレは、ウラビーノ公になる前、24歳で結婚した。相手は当時14歳のジュリア・ダ・ヴァラノ。この絵の納品は1538年である。
③グイドバルド・デラ・ロヴェーレは1514年生まれで、1574年に死す。父が暗殺され、1539年にウルビーノ公となる。
④ジュリアは一人の子女をもうけるが1547年に死別。ウルビーノ公は翌年、再婚する。