勝手口のドアをノックして「ごめんください」と声を掛けてみた。
返事が無い。
再度、試みる。
返事が無い。
帰ろうとするとドアが空いて中年の女性が出てきた。
当時としては珍しいことに太っており、さらにビヤダル風で括れがない。
おまけに化粧してないので、疲れた中年のオバハンと言う印象。
でも、店が始まる前に、頭に木の葉を乗せて、美女に化けるに違いない。
こちらも驚いたが相手も「あら」と驚いている。
確かに場違いな来客である。
「僕たち、この地域の子供会の者です。
こちらに女の子が居ると、先生に聞いて来たのですが」
「あら・・ここには居ないわよ」
「女の子が居ると聞いてきました」
「え・・ああ、知り合いの家に預けているの。
こういう商売なので、夜が遅いので、私は午前中寝ているし、とても面倒が見れないから・・」
「先生が学校に来るようにと言ってました」
「私、引っ越して来たばかりなので、町の様子が分からないのよ・・・」
「僕たち、集団登校してますので、毎朝、迎えに来ます。
母さんは寝ていても問題ありません。そういう家は他にもたくさんあります」
都市部では兄弟姉妹で食事を作り、しっかり片付けまで済ませてから登校という家はけっこうある。お父さんが夜勤で、お母さんが病弱の場合なら、長女や長男がお母さんの代わりに食事を作るのである。
「そうね、迎えに来てくれるなら安心ね。でも、前の町に居た時も、学校にはあまり行ってないのよ。行きたがらないしね。でも、貴方達の仲間に入れてもらえば行くかも知れない。聞いてみるわ」
それからオバハンは「来てくれてありがとね」を連発しながら子供達を追い出しに掛かるのであった。