「今日は何が?」
「三浦の鯖が入ってます」
「根付きの鯖だね」
「そうです」
「今はその辺りに居ないはず」
「はあ、本隊はまだ北の方におりますね」
盂蘭盆が過ぎると、そろそろ秋の美味しいものが市場に出てくる。
昨日は日本橋の寿司屋で、三浦の根付きの鯖を食した。
鯖は回遊魚である。
伊豆半島の沖で春頃産卵した鯖は、黒潮に乗って北上する。
夏までは、プランクトンの豊富な北海道の沖にあたりで丸々と太るが、
秋になると、産卵のため徐々に南下する。
9月から10月頃に八戸から三陸沖で、脂の乗った美味しい秋鯖が水揚げされる。
ところが根性が無いのか、怠け者なのか、伊豆の沖から、三浦半島まで、ほんの僅かに北上しただけで回遊をやめてしまう鯖が、毎年、わずかながら存在する。これが根付きの鯖である。
この怠惰な鯖は、6月から初秋まで、三浦半島沖で一本釣りされる。
詳しくは以下のHPを参照。今が旬の食材である。
さて、この根付きの鯖を食べる時、私はいつも高校時代の校内マラソン大会を思い出す。
全校生徒が参加するマラソン大会で、距離はハーフマラソンのさらに半分の約10km。早い生徒は1時間以内、遅い生徒でも1時間30分。
しかし、校門を出て、しばらく走ったあたりで、そっと抜けて物陰に隠れ、本隊が長いハードな走行を終えて校門に戻ってくる頃、何食わぬ顔で合流する輩が、ほんの僅かながら存在した。そういう輩に限って、ゴールした後に「疲れた、疲れた」「足が痛い」と強くアピールするのである。
根付きの鯖は、幻の鯖と呼ばれる。
旨いことは旨いが、やはり怠けた味を感じてしまうのだ。