私は料理が趣味のため、食品にはこだわる。
牛乳についても、味覚の好い低温殺菌牛乳をかなり早くから飲んでいる。
ゴールデン・ウィークに以前、スーパーマーケットに勤務していた妹が遊びに来たので、牛乳談義から不二家の問題まで、話が盛り上がった。
海外では超高温殺菌のロングライフミルクが市場の中心である。
○UHT滅菌法 135~150℃で1~3秒
これは、超高温で加熱処理された牛乳を無菌状態の容器に充てんすることで、
未開封の状態では常温でも1ヶ月以上の保存が可能。栄養価についも通常の牛乳と変わらない。
ところが、日本人は「牛乳を常温で1ヶ月保存できる」と言っても信じない。
「そのためロングライフミルクは日本のスーパーでは売れない」とのこと。
妹によると「米国で牛乳と言えば、このロングライフミルクのこと」らしい。欧州でも半分以上がロングライフミルクである。
「料理やお菓子に使う牛乳ならロングライフで充分。1ケ月持つので日本でロングライフを安く売れば、便利だと思う」と妹。
それでは、日本ではどうなっているのか?
牛乳の中にいる菌は
①「非耐熱性の菌」と
②「耐熱性の菌」がある。
耐熱性の菌でも120度以上で殺菌すれば死滅する。
ただし、100度以上にぐらぐら煮るわけなので、味覚は落ちる。
栄養素に変化は無い。
料理に使う牛乳は、超高温殺菌で何の問題も無いが、加熱しないで飲むことを考えると、風味が重要なので殺菌のレベルを落とすことになる。
○超高温瞬間殺菌(UHT法)
120~130℃で1~3秒
これはロングライフミルクと比較して、
殺菌温度を低くして(ロングライフは135~150℃)、
さらに殺菌時間を短くしている。
日本のスーパー等で売っている牛乳の殆どがこれ。
密閉容器の納まっていれば長期の保存できるので、消費期限は無い。
ただし、味は落ちるので目安として賞味期限がある。
○高温短時間殺菌(HTST法) 72℃で15秒
殺菌温度を72度まで下げ、時間を15分に延長。
ただし、耐熱性の菌は死滅しない。
殺菌効率は低温保持殺菌と同等である。
そこで消費期限が設定されている。
○低温殺菌(LTLT法) 62~65℃で30分
殺菌温度を65度まで下げ、時間を30分に延長。
病原菌などの非耐熱性の菌は死滅。
耐熱性の菌は残存する。
消費期限がある。
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低温殺菌牛乳は一部の味にこだわる消費者向けであり、価格も高い。
保存期間も短いので、スーパーでも、消費期限が近づく前に40%引きとか半額にして売り切ってしまう。
低温殺菌で残存する菌は、有害な菌ではない。
だから心配する必要はない。
しかし、これでヨーグルトを作ろうとすると、乳酸菌が牛乳の中に住む菌に負けてしまう。
妹によると、低温殺菌牛乳でヨーグルトを作ろうとした主婦が、
「この牛乳はおかしい」とクレームが付く例があるという。その場合は困るらしい。
「菌が多いんです」とは説明しにくい。
「乳酸菌が効かないのは、雑菌が多いからです。でも、それは無害なんです」という説明になる。
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それで不二家の問題である。
菓子に使う牛乳に、このように扱いがややこしい低温殺菌牛乳を使うはずがない。
常温での牛乳の味だけを求める必要はない。
さらに値段も高いし、消費期限が短いのだから使いにくい。
超高温殺菌牛乳を使うのが普通である。
ところが「消費期限切れの牛乳を使用」と大々的に報道された。
「何故だろう」と私も思った。
食品関連会社の殆どの従業員もそう思っただろう。
この謎が、不二家の「信頼回復会議」の最終報告書で明らかになった。
不二家埼玉工場で使用していた牛乳は、
UHT殺菌(超高温)であり、消費期限の表示対象ではない。
賞味期限表示の対象である。
そのままの状態で保存されていれば、
賞味期限内には風味が低下する事はなく、
賞味期限が過ぎても食中毒などの危険が生じる事はない。
この牛乳がワンウエイのポリ容器により搬送されていれば、製造日+7日の賞味期限であったが、(消費期限ではない)
ワンウェイ容器は使用したら廃却となる。
ゴミが多量に発生することになる。
そこで、使ったら、戻して再使用するリターナブル容器を使うことにした。
すると、容器を洗浄する過程で雑菌が入る可能性があることから、原料メーカーが製造部+4日の消費期限としたのである。
超高温殺菌なのに消費期限が設定れた理由は、容器の問題であった。
消費期限は4日であるが、運ばれてきた牛乳を直ぐに使うので、問題が起きなかった。
ところが昨年の10月に、シュークリーム以外の洋菓子を作るラインが頻繁にトラブルを起こし、
余った牛乳がシュークリーム工程に送られ、
これにより一時的なだぶつきが生じたのである。
この時に、牛乳に対する知識が不足している外部コンサルタント会社が
「消費期限切れの牛乳の使用が頻発している」とレポートを書き、これがマスコミにリークされたので大問題となった。
「雪印の二の舞になる」との記述も、外部コンサルタント会社の作文である。
なお、この消費期限切れの牛乳の使用は、客観的な証拠により明らかにされたわけではないという。
・消費期限の日の製造終了時に消費されていない牛乳が在庫として帳簿に残っていた。
・それを廃棄したという記録が残っていない。
・そのため期限切れで使用したと外部コンサルタントが推定した。
というのが実態である。
こうして謎であった「超高温殺菌牛乳なのに、何故、消費期限が存在したか」という謎が解けた。
製造日+4日は、リターナブル容器(通い箱)使用という特殊なケースに対応するため
便宜的に設定したリードタイムに過ぎない。
コンサルタント会社が指摘すべきは、
・牛乳のだぶつきを起こさないジャスト・イン・タイムの製造と原材料搬入の仕組みづくり
・材料メーカ-に製造日+4日の科学的根拠を求める
・ネックとなっている容器洗浄工程の除菌法の研究
等などである。
あまりに「度を越した素人コンサルタント」は、犯罪的というのが教訓である。