ボローニャに暮らす

素晴らしい。世の中には親切な人が居るものだ。ウィーンのニューイヤーコンサートを見逃してしまったが、誰かがYOUTUBEにして公開してくれた。2時間半にわたる長い動画。無念、とへこんでいた私を一気に幸運気分に上げてくれた。コンサートの最後はお決まりのラデツキー行進曲。此れを見届けたら気が晴れた。新年早々運がいい。捨てる神あり、拾う神あり。別に捨てられたとは思っていないけど、拾って貰ったのは確実。知らない誰かさん、心からありがとう。それにしても天気が悪い。昨晩霧が濃かったけれど、その名残なのか、朝から空がすっきりしない。私は週末にしては早めに起きて朝食を終えると身支度を始めた。あ、君、冬のサルディに行くんだね、と相棒に声かけられてにっこり笑う。いいや、この冬はサルディに参加する気はない。それよりももっと大切なこと、夏の帰省の為の航空券を手に入れるのだ。

昨晩遅く航空会社のサイトを片っ端から確認した。実を言えばもっと前から探していたが、なかなか納得のいくものが見つからなくて、もういいや、もう行かない、なんて投げやりな気分になっていたのだ。それが数日前家族と話をしたら、私の帰省を結構楽しみにしてくれていることが分かり、気を入れなおしてでのことである。私は航空券を探すのがあまり好きじゃない。探しているうちに訳が分からなくなってしまうからだ。そうしているうちに、へええ、なんて航空券をふたつ発見した。元々の希望とは異なるけれど、これは悪くないと思う日程と価格。飛び切り破格ではないが悪くない、全然悪くなかった。若い頃は無理な日程も何のそのだったから、とにかく安ければ何でもよかった。最近は違う。無理はしないほうが良く、ちょっとお金を出して安心な旅が出来ることを望んでいる。それで、購入しようと試みたがうまく行かない。いつもは此処で諦めるが、今回はそうじゃなかった。旅行会社に頼んでみよう、そう思いついて土曜日なのに早起きしてバスに乗って旧市街へ行った。
昨冬の終わりに日本へ行く航空券をお願いした旅行会社。あの時私の出発はストライキと重なり、旅行会社の人に助けて貰った経験があるのだ。あんなこと自分で上手くなんて出来なかったに違いないから、旅行会社で購入したのは正解だったと思っている。さて、ポルティコの下の小奇麗な旅行会社へ行ったところ、システム交換のために航空券を予約することは出来ないとのことだった。火曜日に来てくださいと言われたって、あんな良い条件のもの、すぐに売れてしまうから火曜日まで待つことなど出来ぬ。それで記憶にあるいくつかの旅行会社に行ってみたが、何処も休暇中だった。ああ、もう諦めようと思っていた時に思い出した、ずっと向こうにある旅行会社。開いているかどうかも分からないが、兎に角行ってみた。旅行会社は開いていた。中は雑然としていたが、仕事が沢山あることが分かる感じで嫌じゃなかった。それに迎えてくれた私より年上であろう女性が、大変感じが良くて。それで昨晩見つけた旅程で航空券を発行して貰いたいと泣きついてみた。静かな印象の女性。調べてくれたが、あなたの希望する旅程はあなたが見たよりもずっと高額だと言ったが、あ、ちょっと待って、と私が話そうとしたのを掌で止めて、何処かに電話を掛け始めた。何やら航空券を管理する別オフィスらしい。待つこと20分、いいセンまで行っているようだが、最後で躓いた。すると彼女は言うのだ。ねえ、それ何とかして貰えないかしら。何とかしてって、そんなこと出来るのかしらと思いながら聞き耳を立てていたところ、あら、驚いた、何とかなってしまったのである。私も彼女も手を叩いて喜び、代金を払って完了。諦めなくて本当によかった。それにしてもどうして今年はこんなに日本行きの航空券が高いのかと嘆く私に、彼女はいとも簡単に言った。私、その理由知っているわよ。
彼女の話によるとここ数年客のほとんどが日本行きのツアーを購入するのだそうだ。誰もかれも日本に行きたくてと彼女は言いながら、だけど今年は特別なのだと人差し指を立てた。4月から10末まで大阪で催されるEXPOだそうだ。そんなのがあるのかと感心していると、あなた日本人なのに何も知らないのねえ、と笑った。あはは、本当だ、と笑いながら、本当に何にも知らないことに内心驚いていた。兎に角そんなこんなで航空券の価格が吊り上がっているらしい。昔の料金の2倍だけれど私は嬉しい。帰省する航空券を手に入れたのだから。これが嬉しくなくて何と言おうか。

窓の外は冬。湿気に満ちた寒い冬。これから少し天気が崩れるのかもしれない。私の長い休暇中に得た連日の晴天は空からの贈り物だったのだと確信した。