Interview : moë | PUBLIC IMAGE REPUBLIC
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Interview : moë

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2024年2月、YouTubeでたまたま目に留まったサムネが気になりMVを再生したことがきっかけで出会ったmoëの音楽。


一聴してすぐにその音色、歌声、そして映像が醸し出すノスタルジックなムードに引き込まれたが、何より驚かされたのは作詞作曲編曲、MVの監督・編集、そしてミックス・マスタリングまで本人がクレジットされているところだった。才能もセンスもずば抜けたこのアーティストは一体何者…!?


鮮やかなライトブルーの髪色が目を引くmoëは、東京を拠点に活動する若林萌のステージネーム。2024年4月にリリースされた1stフルアルバム『OCCULT』は、無垢だった幼少期に憧れたSF未来都市の原風景を思い浮かべてしまうようなノスタルジックな作品だ。この素晴らしいネオ・ベッドルーム・シティポップを作り上げたmoëというアーティストは一体どのような人物で、そして作品にどのような想いを込めたのだろう?──いろいろなことが気になり思い切ってインタビューをオファーしてみたところ、ありがたいことに快く受けてくださり実現した。

The English version is here





Chapter 1: About “OCCULT”

“このタイトルには、自分の作品が「毒にも薬にもなる」存在になってほしいという願いも込めています”


──インタビューを受けてくださりありがとうございます!まずは1stフルアルバム『OCCULT』についてお聞きします。いろんなスタイルの曲がありつつも、全編を通してレトロフューチャーな感覚があって、70年代や80年代のSF作品に触れているような気分にさせられるところがとても好きです。なのでこのアルバムのコンセプトや、インスパイア元になっている作品などがあれば教えていただけますか?


アルバム制作にあたって、影響を感じる作品はレイ・ブラッドベリ『火星年代記』、デヴィッド・ボウイ『Space Oddity』、山賀博之『王立宇宙軍 オネアミスの翼』、坂口安吾『堕落論』、北野武『ソナチネ』などなど…。70年代から00年代の作品が主ですが、SFだけではなくて、かなり幅広いところから影響を受けていると思います。


『OCCULT』のコンセプトですが、アルバムに収録されているすべての曲に別々のストーリーがあって、裏設定的に短編のSF小説のような筋書きを考えながら作っています。最新鋭のテクノロジーというより、どこか手作り感のある古いSFが発想も含めて好きなので、そのあたりは筋書きを考えるにあたって影響を受けていると思うし、それが伝わったのであれば嬉しいなと思います。


例えば「Error404: Ghost Of Venus」は、私の中では架空のコンピューターウィルスに関する物語なのですが…。物語の詳細は、聴いてくれる人の想像力を狭めてしまう気がするので、あまり詳しくは話したくないのですが。笑



──聴いた人それぞれの想像にお任せということですね。タイトルの『OCCULT』にはどのような意味合いが込められていますか。


曲が一通り完成しつつあった時に、ふさわしいタイトルは何かと考えて…。かつて日本でブームにもなった“OCCULT”という、ある意味過去の遺産的な響きもあるこの言葉が、レトロSFチックなストーリーを集めたこのアルバムにはぴったりのネーミングだと思いました。

▼『OCCULT』アートワーク
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また、『OCCULT』は私にとって1stフルアルバムなので、自分の名刺代わりになるような、自分が今後目指すものは何かということを考えながら作りました。その上でこのタイトルには、自分の作品が「毒にも薬にもなる」存在になってほしいという願いも込めています。


──「毒にも薬にもなる」存在というのは…?


日本でもオカルトブームってあったと思うんですが、オカルト的な存在を信じている人にとってそれは強烈な希望なんですけれど、そうじゃない人にとっては狂気にしか見えない。曲を作る上で、「流行の型に囚われているような曲は作りたくない」「今までにないような曲をつくりたい」という信念があるのですが、私の曲もオカルトと同じように、誰かにはすごく求められるけれども、別の誰かにはそれが理解不能であるようなものであることが、むしろ自分が実現したいものにおいては大事な気がしているんですよね。そうじゃないと面白くないというか。


現代は科学で色々なことが解明されたり、監視カメラやドライブレコーダーの普及だったり、素人でも超常現象の動画を簡単に作れるようになったりして、蓋を開けてみたら「そんなもんなのか」っていう落胆があるし…。解明されてしまったからこそ、昔ほどもう夢がないような、そんな雰囲気もある気がしているんですけど。当時ブームとなっていたオカルトには、かつてそれを夢見た誰かの希望と想像力が詰まっていて、そこに皮肉と美しさみたいなものを感じていてとても気に入っていますし、どこかその頃のワクワクを無邪気に思い出してほしいなっていう気持ちもあります。









Chapter 2: About Visual Art

“高いスタジオを借りてガチガチに準備して撮るよりも、街中でふとした瞬間に撮影した写真のほうが、いいものになったりすることもあると思うんですよね”


──moëさんは作詞・作曲・編曲、そしてミックス・マスタリングだけでなく、MVの監督と編集、ジャケットデザインまで自ら手掛けていますよね。先ほど挙げていただいたコンセプトを補完する意味でも、かなりビジュアル面を重視されているのではと思いますが、特に意識されていること、こだわっているスタイルなどはありますか?


色々あるのですけど…インディーズアーティストなので、当然使える資金は多くありません。でも、むしろそうだからこその面白さや、手作り感の良さなど、制限がある中での創意工夫は常に考えていますね。型にハマらないように、というのは曲制作と同様に意識しています。


自分は映像を生業にしているわけではないので、高いスタジオを借りてガチガチに準備して撮るよりも、街中でふとした瞬間に撮影した写真のほうが、いいものになったりすることもあると思うんですよね。こういったインディーズならではの資金や人的リソースの制限をむしろ魅力の一つにできるのではないか、ということは常に考えています。


あとは、ビジュアルや映像はあくまで付加価値だと思っているので、目的は曲を引き立てることである、というのはブレないようにしています。



──なるほど。例えば映像に関してだと「No Disk」のMVにはプリクラや携帯ゲーム機やスノードームが登場します。これらはもちろん現在でも見掛けますけど、「オカルトブーム」と同様に「かつて流行ったモノ」とも呼べると思います。そういったノスタルジー感を醸し出すアイテムに魅力を感じて、それらを取り入れているのでしょうか?


「No Disk」のテーマは、なんでもない日常の尊さと儚さみたいなところにあるので、映像でもそれを表現したいと思っていました。それで、失われていく日常に対する切なさを感じるアイテムを集めていったときに、必然的にレトロな雰囲気になったのかなーと思います。


──「No Disk」はアルバムのラストを飾る曲ですし、メロディラインから感じられる切なさや儚さが最も際立っている曲だと思います。そこにあの映像が加わることで相乗効果で魅力を引き立て合っている印象を受けますね。


YouTubeのコメント欄でも気付いてくれた人が何人かいたんですが、「No Disk」のMVのもう一つのテーマは「タイムマシン」なので、それにちなんだアイテムも登場していたりします。あとは単純に、アンティークなものは安価でユニークなアイテムが多いというのもあります。笑

moë - "No Disk"






Chapter 3: About moë

“今も曲作りは絵を描く感覚に似ていると思います。描きたい世界や見せたいイメージが先にあって、そこに合う音色を探して充てていくみたいな感じで”


──次は、moëさんご自身についてお伺いさせてください。音楽に興味を抱いたきっかけは何だったのでしょうか。


幼い頃は音楽よりも絵を描くことに夢中でした。昔からすごく想像好きというか、夢想家みたいなところがあって、絵も現実にあるものを写生するのではなく、自分の頭の中の世界を描くことがほとんどでした。音楽含めて創作活動の原点はそこにある気がしていて、今も曲作りは絵を描く感覚に似ていると思います。描きたい世界や見せたいイメージが先にあって、そこに合う音色を探して充てていくみたいな感じで。打ち込みで一つ一つ音色を選んでいく工程が、塗りたい色を選ぶような感覚に近いですね。ちなみに、1st EP『Toy Box』や「Paper Moon」のシングルジャケットは自分で描きました。笑

▼EP『Toy Box』アートワーク
moe_toy_box.jpg

▼デジタルシングル「Paper Moon」アートワーク
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──moëさんが描かれたということもですが、同じ人が描いたイラストとも思っていなかったのでとても驚きです!幻想的な『Toy Box』、ポップな『Paper Moon』と絵柄のテイストは異なりますが、どちらも色使いがとても綺麗で、構図にも個性が感じられて素晴らしいと思います。それで、絵を描くことからどのように楽曲制作を始めるに至ったのでしょうか。


絵を描くことから音楽にシフトしたのは、学生時代にL'Arc〜en〜Cielにハマったことがきっかけですね。YouTubeで見つけて…単純に曲が良かったのもあるんですけど、独自の世界観が確立していて、どこか浮世離れしている雰囲気に惹かれたのかなと思います。L'Arc〜en〜Cielに憧れてバンドを組んだり、曲作りもし始めました。初めはギターを弾きながら作ったりもしていたんですが、知り合いからDTMソフトを勧められて、そこからはずっと打ち込みで作曲しています。


──L'Arc〜en〜Cielの名が出てくるとはかなり意外でした。他にも影響を受けたアーティスト、好きなアーティストがいましたらぜひ伺ってみたいです。


いっぱいいるので難しいんですけど、邦楽だとJUDY AND MARYはメロディの作り方や歌詞の作り方で影響を受けていると思います。ジュディマリは一回聴いたら口ずさめるくらいメロディがキャッチーですよね。でも決して単純な訳ではなくて、リスナーの予想を上回るような展開が常にある。そして、これがまたとても重要な要素だと思うんですけど、曲の中に日本らしい情緒というか、強い切なさを感じますよね。それが全て同時に成り立っているというのが本当に天才だと思うんですよね。


──激しく同意です。


私も曲を作る上で、メロディがキャッチーであったり、情緒や切なさがある、というのはとても大事にしている観点です。それって、やっぱり聴く人をちゃんと意識しているからこそそうなる気がしてて。みんなの心に残り続ける曲とは何か?を探求する上で、とても影響を受けていると思います。


──両バンドとも意外ではありましたが、L'Arc〜en〜Cielは「確立された世界観」「浮世離れしている雰囲気」という部分、JUDY AND MARYは「キャッチーなメロディ」「日本らしい情緒、強い切なさ」といった説明を聞くと、確かにそれらはmoëさんの音楽の中でも特に強く感じる要素なので非常に合点がいきます。ところでJUDY AND MARYはリアルタイムではないと思いますが、どういう経緯で聴くようになったのでしょうか?


ちょっと厳密には記憶が曖昧ですが…。もともとボーカルのYUKIさんが好きで、ソロアルバムを聴き漁っていたのですが、そこから徐々にジュディマリも聞くようになったような感じですね!


──なるほど。洋楽でも影響を受けたアーティストがいたりしますか?


洋楽も好きなアーティストは多いのですが…。その中でもAURORAは大好きですね。1stアルバム(『All My Demons Greeting Me as a Friend』)だと「Murder Song (5, 4, 3, 2, 1)」だったり、結構ダークな曲も多いんですけど、暗い海の底を流れる水のような不思議なイノセンスを同時に強烈に感じて…それがとても心地よくて衝撃だったのですよね。暗いってこんなに心地いいんだ、みたいな。


──確かに2023年にリリースされたmoëさんの1st EP『Toy Box』収録の「Time Machine」なんかはAURORAに通じるダークさだったり、フォークとエレクトロのバランス感が伺えますね。


ただ透き通るようにピュアな歌声や世界観、だけではなく、人間の闇の部分も背中合わせに描き出されているというか。そしてそのダークさも、一つの芸術として昇華されているんですよね。そういう一枚岩ではない世界観や、美しい闇みたいなものにとても惹かれているので、曲作りにおいてはいつも心の片隅で意識している気がします。あとアレンジの面でも、フォークっぽい要素とエレクトロ要素の按配が理想的なことが多くて、参考にさせていただいています。


AURORA - "Murder Song (5, 4, 3, 2, 1)"






Chapter 4: Past and Future

“自分のルーツややりたいこと、表現したいことは何かをとても考えるようになった、というのは過去からの変化感としてはあると思いますね”


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──『Toy Box』の話が出たのでこちらについてもお伺いしたいです。『OCCULT』とはまた作風が異なる印象を受け、音楽性の幅広さにもとても魅力を感じました。『OCCULT』については先ほど「自分が今後目指すものは何かということを考えながら作りました」と仰っていましたが、『Toy Box』はどのような作品を目指されたのでしょうか。


『Toy Box』制作時は、正直右も左も分かっていなかったという表現が近いような気がしています。笑


『Toy Box』はSynとのコラボレーションで作ったEPで、もともと私が書き溜めていた曲をSynのプロジェクトメンバーと相談し、どの曲をリリースするか選んで一曲ずつリメイクしていきました。収録曲には一つずつ違った思い入れがあるのですが、『OCCULT』との違いがあるとすれば、より世界中のどんな人でも楽しむことができる音楽のあり方みたいなものを模索するようになった部分じゃないかなと思いますね。




『Toy Box』はほとんど歌詞が日本語で、タイトルも日本語。日本語話者じゃないと、なかなかとっつきにくい内容なんじゃないかと思います。直近は、やっぱりもっと世界の人に自分の曲を届けたいという気持ちが強いので、歌詞も英語のものが多いですし、タイトルも曲の内容を想像できるようなニュアンスになるようにこだわっています。



──「No Disk」MVのYouTubeコメント欄を見ても、英語以外にもたくさんの言語でコメントが付いていますね。


『Toy Box』の時は、どちらかというと私個人の内面の吐露や内省、それを直接的に表現することで何かを伝えたいというスタイルだったけれど、時を経てより聴き手の存在を意識するようになったというのが近いかもしれません。また、もともとラルクやジュディマリが好きだったのもあり、オケ作りがバンドを意識した曲が多かったのですが、全曲打ち込みで宅録というスタイルだからこその自由さみたいなものを直近はとても感じていて、それをむしろ強みにして楽しみながら作りたいという気持ちが以前よりも強まっているかなと思います。そういう点で、自分のルーツややりたいこと、表現したいことは何かをとても考えるようになった、というのは過去からの変化感としてはあると思いますね。


当時は本当に未熟で、自分のやりたいことを言語化するのも一苦労みたいな感じでしたが、それでも真摯に向き合ってくださったSynの方々には本当に感謝しています。生まれて初めてアーティストとして信頼してもらえたということが、もっと頑張ってやっていきたいという強い気持ちに繋がって、私の中ではとても大きな経験でした。『Toy Box』がなかったら絶対に『OCCULT』もできていなかったと思うし、今の自分は存在していなかったと思います。そういう意味で、アーティストとして本当に重要なターニングポイントを作っていただいたなと感じています。いつかまたコラボをしたいと思っています。



──『Toy Box』を制作したことでビジョンがより明確になり、今のmoëさんと『OCCULT』に繋がったんですね。再度のコラボも楽しみにしています。

今回は貴重なお話をたくさんお伺いできて良かったです。丁寧に、深いところまでお答えくださりありがとうございます!最後にですが、来年1月11日に開催される1stワンマンライブについてお伺いしたいです。初のワンマンライブということでどんな感じになるのか未知なので、意気込みだったり、ライブにおいて楽しみにしてほしいことなど言える範囲でお願いします。


人生初のワンマンライブということで、私自身本当にワクワクしています! 実は、moëとしてはつい最近まで全くライブをしたことがなくて、ワンマンが決まってからいくつかのイベントに出させていただいたりなど、毎日猛特訓しています。 今回は本当に素敵なバンドメンバーと一緒に演奏するので、120%最高のライブになると確信しています。 そして、私にとって大きな挑戦であるこの機会が、今後に向けてスタート地点になると思っているので、 ぜひその一歩目を目撃しにきていただきたいなと思います!■





▼Live Info.
moë 1st ワンマンライブ "OCCULT" @青山 月見ル君想フ
2025年1月11日(土)
Open 19:00
Start 19:30
チケットリンク:https://t.livepocket.jp/e/taibp

More Info.
moë公式X @moe_wakabayashi
『OCCULT』CDはこちらで購入可能 moë Official Online Store

こちらもどうぞ。
[過去記事]moëのアルバム『OCCULT』が好きすぎる


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