遠藤吉紀のシリコンバレーでものづくりを考える

現実化してくる生成AIの脅威 

 3月に開催されたNVIDIAのCEOジェンスンファンの基調講演を観て、かれらの新しいGPU「GB200」の凄まじい性能に、かなりショックを受けたというか、これはもう本当に産業をがらりと変えてしまうなと実感。というわけでちょうど1年前に、このBLOGでAIがもたらすインパクトについて書いたけど(AIは「ものづくり」をどう変えるのか?)、それに本当に加速度がついて、もう大変革は「待ったなし!」というところまで来てるというのが自分の見解。なんせ2023年の段階で、このような生成AIの開発に取り組んでいるスタートアップを含めた企業が既に世界中に数千社あり、この数もどんどん増加中!
 というわけで先ずは自分の業界で、内容はだいぶ前回と重複するが、そこに記載したAI利用のこれからの「ものづくり」を更に現状の状況を加味してざっくりと考えてみると、今時点でAIができてしまう事は:
*新製品の開発の段階でのマーケティングリサーチ
*データから得た概要から機能(電気設計)を含めた製品(電気回路も)の設計
*試作3Dプリンター用のプログラムを作成しモックアップ製作
*製造機器(ロボット)、PCB実装機等のシステムプログラム生成。
*製造工程における品質管理や不良予測データによるプロセスの高速化
*製品の最終確認
*完成製品のトレーサビリティや販売後のサービス体制の構築

 本当におおまかだけど、かなりの工程はAIで賄えるではないか!!

 これは、製造業に限ったことではなく、あらゆる業種、業界に普及するのは間違いない。当然、これに伴ってコストの軽減は期待できるが並行して人材も大幅に不要になるのは必至で、このあたりは要注視。また、これも前回も書いたが、このようなラインへのAI導入を積極的に進めている中国をはじめとしたアジア諸国の猛攻に関心を持つことが更に必要だと思われる。いづれにしても皆が思っている以上にAIの浸透は加速度を増していて「知ったもの勝ち」「導入したもの勝ち」といった状況も出てくることは間違いない。少なくとも自身の生業に関しては意識をもって生成AIの動向に注目すべきだと思う。

中小町工場の営業センスって?

 1月末から2月頭の日本出張では、今年後半から始まる予定の大きなプロジェクト準備を兼ねた新規VENDER確保のために、主に日本のものづくり関連の展示会を視察。小回りが利きそうで、こちらの需要に合いそうな会社を約10社ほどピックアップして図面のサンプルなども持参し、今後の計画の概要を説明の上、各社の現在の状況などの確認も兼ねてヒアリングを実施してきた。話の中で中心だったのは、やはり半導体設備関連を除く製造業(特に自動車関連)の景気の先行き不安と今後の展開をどう考えるかという事で、小規模工場などの出展会社では代表と直接話ができ、割と本音が聞けて海外市場に向けて経験を増やすためにも「チャンスがあれば是非やらせてほしい」という内容が中心だった。
 さて、アメリカに戻って、自分的には将来的に付き合っていく企業には、それなりに積極的な姿勢は不可欠という基準があるので、こちらからアクションを起こすのではなく彼らのアプローチ(連絡)を待ってみたのだが何と1か月以上経った現在、

  10社中、連絡が来たのは僅か2社^^;;;

いやいや、少なくとも自分が日本やこちらの展示会に出展したら当然、営業としては展示会のほとぼりが冷めないうちにリードを纏めて片っ端から電話(昭和の話^^;;)、最近であればもっと手軽にEメイルで御礼を兼ねて、営業訪問のアポを入れたりさらに詳しい話を聞きたい旨のCOLD CALLをするのが当たり前だと思っていたんだけど、こんなにも消極的なのか?というかヤル気あるの?何のために金かけて展示会に出展しているの??とガッカリしたというのが正直な感想。まあウチからの引き合いよりもっと大きな話があったとか、実は十分仕事は潤っている、もしくは自分の話がよくわからなかった(外観も怪しかった?)、という事であれば仕方ないかもしれないが、話を聞いてきた限りでは、どこも景気不安を感じているのに、相変わらず昔から全然変わってないんだな、というのが今回よく理解できた。

 実は以前にも同じような事を書いてるが、10年ぐらい前に日本の中小町工場の海外第2創業をミッションに色々な日本の町工場のオーナーと海外進出のためのプロジェクトをサポートしたり講演活動を頻繁にしていた時期があったけど、結局、その時も多分300社以上の企業の代表に話をして、本当に進出もしくは海外に拠点を持ったところは10社に満たなかった。それほどまでに海外市場が魅力的でなかったといえばそれまでだけど、何か閉塞感というか未だに海外に出るのが億劫だし、極端なことを言えば伝統的な”下請け”体質が身についていて、「仕事は親元から口を開けて待っていれば降りてくるものだ」的待ち受けスタイルがそのまま踏襲されてるのか?というイメージが強かった。そして今回、未だに、この状況が払拭できていないのが何とも悲しい。まあ以前から、この手の中小製造業には営業という部署は無いんだな~と思ったことも多々あって、確かにそういう部署もなければ、お礼のメイルも何も来なくても不思議はないというのが本当かもしれない…。勿論、既に付き合いのある会社や知り合いの町工場の中には、精力的で海外進出にも積極的、従業員は50人未満のところが中心だけどそれなりに気概のある会社があるのは、気持ち的には、せめてもの救いだけど…。

 話は変わるが今、会社のメイルアカウントには、弊社のWEBサイトを見たという中国をメインに最近では韓国やベトナムの同様商品を扱うメーカーや加工業者から「是非製品を扱ってほしい」とか「部材の加工をやらせてほしい」という売り込みメールが頻繁に入ってくる。このような積極的な姿勢を見ていると、短絡的かもしれないが今回の経験も加味して、如何に日本の町工場の多くが相変わらず井の中の蛙状態で、加えて補助金の誤用で延命できてしまうという状況が見えてしまったようで、はっきり言って残念でならない…。

新しい自動車産業の行方はいかに?

 1月後半から日本へ出張し、自分の生業のメインである電子基板実装業界とオートモーティブ関連の展示会を視察。もう10年以上前からこのBLOGや講演会などで自分の経験談として繰り返し伝えていることだが、展示会で感じた事と経験談のおさらいを兼ねて思ったことをまとめてみた。
 1980年代、コンピューターが一般に普及し始めた時代に一番需要のあったメモリーの生産に特化した日本勢は日立やNEC,富士通など他国の追従を許さず世界でトップシェアを維持。当時の半導体生産ではベストテンに7社(だったと思う)が入る勢いだったが、90年代に入り、PCの根幹であるCPUをインテル、OSをマイクロソフトに奪われ、量産で価格が低下したメモリーはSAMSUNGを中心とした韓国勢の猛攻に根こそぎ市場を奪われ敗退。
*自分の元いた会社は、その影響で1986年は確かボーナス無しT_T

 1990年代、日本が開発した移動体通信方式のMOVAを世界標準にしようと目論むNTTと、そのデバイスを生産する日本の大手家電メーカーは、アメリカに大工場を作り量産体制を整えたが、アメリカはクォルコムのCDMAを標準規格としたため日本勢は撤退。ただ新しいI-MODEの普及で日本メーカーは作れば作るだけ需要のあったガラケーの量産に特化しているうちに、OSをiOSとアンドロイドに駆逐され、加えて新たなサブスクモデルの課金体制で端末は誰が作ったものでも利用可能になってハードを低価格で供給可能になった中国勢、韓国勢にボロボロにされて端末分野も敗退。
 *駐在員時代、これら日系メーカーの工場進出を手伝っていた影響でアメリカ現法は大打撃T_T

 2000年代、それまでアメリカでのシェア40%をはじめ、世界のTV市場で追従を許さなかった日本のTVメーカーはデジタル技術の普及によってアナログのブラウン管TVからデジタルの液晶TVへの大変革が起こり、液晶パネルの値段がTV価格の80%となった事で、日本の技術をパクったSAMSUNGや台湾のチーメイ(現FOXCONN)の低価格競争に追従できずパネルを生産していたPANASONICやSHARPは、あっけなく敗退。その状況から2010年代前半には殆どのTVメーカーが消滅してしまった。
 *当時これら日系TVメーカーの売り上げが60%。おまけにリーマンショックでボコボコにされ弊社は倒産寸前まで追い込まれるT_T   


 そして2010年代の後半から胎動の如く加速してきたEV革命。その中で果たして日本の最後の牙城である自動車産業は生き残れるのだろうか??自動車も化石燃料主体がゆえにその複雑なエンジン構造の製造技術から、低燃費、そして安全性の確保で世界を席巻してきた日本の自動車産業だが、エンジンやミッション、車軸も不要のEVにおいては唯一イニシアディブを取れるモーター(これは基本的にEVメーカー各社が独自開発)と、現時点ではEV本体の価格の70%を占める搭載電池の確保(高性能の電池を生産できるメーカーからの購入が基本となると思う)が中心となる中で、今まで上記のメモリー、携帯、TVと同じくハードウェアの生産で隆盛してきた日本の家電メーカーと、どう考えても同じ状況の中、日本の自動車メーカーが、どれだけ市場を維持できるのか? 
 幸いなことに自動車メーカーではないが、車載電池では未だ君臨しているPANASONICは唯一の希望の星。同社が昨年、車載電装品部門を売却したことも、この先、車載電装品に関してはセンサーやスイッチなど特化した技術も不要で誰でも作れる時代の動きに対応し(自分的に上記のような教訓から学んだと良い方向に解釈している)主力である電池にフォーカスする方向性を定めた事は素晴らしい英断だと思うが、果してTOYOTA、日産、ホンダやスズキをはじめ、各自動車メーカーはどうやって今までの生産規模を維持していくのだろう?既に電池とモーターだけでなく、車載OSもiOSとアンドロイドが基準になっていく中、新たにイニシアティブをとれる部分があるのか??
今回の展示会では、これらの解を少しでも見つけられればと思ったのだが、自分の目線では残念ながら日本勢がこの先のEV分野でイニシアティブを取り市場を確保できる製品や技術を見つけることができなかったのが何とも寂しい思いだった。勿論、まだまだEVに欠かせない日本独自の技術や部材等たくさんあると思うので、この分野で何か凄いものがあれば是非、情報いただければと思うし、それらを有する企業には既存のエンドユーザーに限らず、その技術や部材を武器に世界のEVメーカーに是非攻勢をかけてほしいと思う。

スピードを意識しているか?

謹賀新年!

 以前より、こちらのハードウェアスタートアップと付き合う機会も多く、彼らのものづくりサポートの為の部材供給などを行っているのだが、感じることは、いかに「スビード」が大事かという事だ。ハードウェアスタートアップの場合、先ず製品の構想やアイデアで初期段階としてエンジェルやシリーズA主体のVCから調達した資金で 試作レベルの製品を完成させ、それを元にシリーズBの資金調達後、試作量産を確立、製品をブラッシュアップさせながら完成度を高め、量産による製品価格の計画を立てて最後の資金調達を経て自社での製造プロセスで稼働し運営、もしくは同業大手への売却でEXIT、というパターンが主流。当然ながら、それぞれ次のステップに行くためには、まず調達した資金が枯渇する前に製品を仕上げることが必要最低条件になる。その為には圧倒的にスピードが必要なのだ。価格よりも短納期に意味がある。加えて現在のハードウェア市場をみても、如何に「新製品を最初に市場に投入するか」がその先の市場確保に貢献するかも明白。アマゾンが世界で最初に発売したAI機能ALEXAを搭載したSMART SPEAKER「AMAZON ECHO」のシェアは発売後10年近く経っても未だに30%近くでトップ。テスラのEVやAPPLEのI-PHONEのをみても状況は同じだ。その為、これらの企業でも実際に付き合ってみると試作部材に関しては先ずは価格より納期の優先度が高い。実際テスラでは加工部品の納期は1週間が当たり前。先ずそれを聞かれて難しい答えれば土俵に乗る事も出来ない。このような背景から、試作部材製造は、数量によっては3Dプリンターで仕上げたり、FICTIVEのような瞬時に見積もりを提示して受注後数日で納品というサービスがこちらでは主流になりつつある。
 翻って、いま日本で付き合っている部材加工メーカーの状況はどうかといえば、残念ながら未だに見積提示までは2~3日が標準で製品加工も2~3週間が当たり前の状態(勿論十分忙しく対応しきれない、という状況もあるだろうが…)。これで通用する日本の市場であれば、もちろん何の問題はないのだろう。ただ、この状況は世界的には完全に市場の動きや需要に合致していない。
 そんな感じなので、日本でもFICTIVのコピー版会社CADDYやMISUMIが始めたMEVIYなどの同様サービスがあるが、余計なお世話だが果たしてちゃんと業績を上げているかどうか…。
正直、付き合いのあるべトムのベンダーでも、時差の関係もあるが夕方までに見積もり依頼をすれば翌朝には届き、発注後はアメリカまでの輸送を含めても10日で部材が到着する。そして価格的にもメリットがあるので、スタートアップをはじめ、こちらのメーカーの要求には十分対応してる感じだ。
 2024年に入り、今後は益々グローバルな形でのEMS等、ファブレスの製造プロセスが主流になり今まで以上に国際的な動きに合致することが求められる中、このような「スピード」を意識することが更に重要なポイントとなる事を、特に日本の中小製造業のオーナーたちは、今から肝に銘じる必要があると強く感じている。

AIは「ものづくり」をどう変えるのか?

忙しさにかまけて、だいぶサボってしまっているブログを久しぶりに書いてみました^^;;。

手塚治虫先生の超大作「火の鳥」の第2巻、”未来編”は西暦3404年の物語。その時すでに地球は環境の激変により地表に住むことができなくなり、人類は地下に5つの都市(国)を作って生活している。そして、それぞれの国の元首として君臨しているのは電子頭脳(今でいう大型コンピューター)である。その電子頭脳が国の運営を全てつかさどっており人類が政治的な決断をすることはできない。
ある時、一つの国から逃れた亡命者(主人公)が現れ、他国に亡命を試みたその人物の引き渡しを巡り、それぞれの国の電子頭脳同氏が直接交渉を開始。だんだんと交渉がエスカレートし、誤動作を起こし始め最終的にはそれぞれが核戦争を宣言し、他の都市も巻き込んで、すべての人類が滅亡するというところから壮大な物語が始まる。手塚先生がこの物語の執筆を開始したのは何と1967年!今から50年以上前に、地球の行く先を予言しているこの作品は一読の価値ありだ。
 
 さて、前置きが長くなったがAIである。昨年11月に発表され、瞬く間に世界を席巻し、あらゆる分野で物議を醸しだしているChat-GPTの出現により、上記の物語の内容がより現実味を帯びてきた事に、自分自身は非常に複雑な気持ちだ。
 この先、さらに膨大なビックデータを保有するGOOGLEの”BARD”やMETAの”CIECERO”といったAIシステムが本格的に世の中で一般的になれば、この「火の鳥」の内容が更に現実味を帯びてきているところに正直、動揺が隠せない。少なくともこの先4,5年で仕事の在り方は想像以上に激変するだろうし、行政や産業自身の根幹も大きく変わっていくであろう。既に日本では国会答弁の資料や質問作成にAIを使用しているという話もチラホラ。そうなってくると、本当に近い将来、AIが国を支配することも視野に入ってしまいそうだ。

まあこのような、大きな変革のところは有識者に任せる(もちろん他人事ではないけど…)として、自分は生業でもある製造業の「ものづくり」に、AIが与えるインパクトについて少し考えてみた。というより先ずは早速CHAT-GPTに聞いてみた。そうしたらこんな答えが(以下引用):
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AIの導入により、日本のものづくりは以下のように変化する可能性があります。

  1. プロセスの自動化と効率化: AI技術を活用することで、生産ラインや製造プロセスの自動化と効率化が進みます。例えば、ロボットや自律型システムを使用して、繰り返し作業や危険な作業を行うことができます。これにより、生産性の向上や人的ミスの軽減が期待されます。
  2. 品質管理の向上: AIは画像認識やセンサーデータの分析などで使用されることがあります。製品の品質検査や不良品の検出において、AIを活用することで高い精度と効率性を実現できます。これにより、製品品質の向上や不良品の削減が期待されます。
  3. 製品設計の最適化: AIは機械学習や最適化アルゴリズムを活用して、製品設計の最適化を支援することができます。大量のデータやシミュレーション結果から、より効率的で信頼性の高い製品設計を行うことができます。これにより、製品の性能向上や開発期間の短縮が期待されます。
  4. 予測保全とメンテナンス: AIはセンサーデータや異常データを分析し、機器の故障やメンテナンスが必要な箇所を予測することができます。予測保全により、機器の故障や停止時間を最小限に抑え、生産の安定性と効率性を向上させることができます。
  5. 自律型システムと協働: AI技術を活用した自律型システムや協働ロボットが導入されることで、人と機械の協力関係が変化します。人間の得意な判断や創造性を活かしながら、AIとの連携によって生産プロセスが効率化され、柔軟な生産体制が構築されるでしょう。

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いやいや凄すぎ!こんな回答がものの10秒でかえってくる@@!
ただ、当然この内容は概要的なものであって、すぐに日本の中小町工場の製造分野では応用性は低いかもしれないけど、少なくとも、この内容から考えられる変革の可能性はこんな感じなのかな?と考えてみた。

1.プロセスの効率化は、切削機や板金のシステムのプログラミングを過去のデーターに基づいて、
 より最適、かつ短時間で生成することで実現できるだろう。これにより工数の軽減から製品コストを
 下げることが可能になるのではないか。
2.過去の不良実績やよく起こりそうな問題をAIに分析させれば品質管理技術を向上させること
 が可能になる。これも品質を向上させながら歩留まりを上げることに繋がり、製品コストの軽減につ
 ながるだろう。
3.製品設計の効率化については、図面に基づいて製作をすることが中心の中小町工場にとっては
 直接関係は無いかもしれないが、設計された図面のデータを解析することにより、依頼され
 た見積もりをより正確に瞬時に提出できる可能性は十分にある。
4.基本的に多くの工作機械を保有する町工場にとって製品の保全やメンテナンスは重要で、修正保全
 費用も当然、製品に反映されるので、これをAIで解析し事前に使用年数や起こりうる問題を事前に
 修繕する等の対応でき、これもコスト軽減に寄与する可能性あり。
5.製造プロセスにおける自動化やロボットの導入にはまだ時間がかかると思うが、今まで人間の
 手作業や経験に基づく最終仕上げなどのプロセスは、その内容毎の詳細をAIで数値化もしくは
 データベース化することにより工程を簡素化する可能性はありそうだ。これも製品コスト軽減につ
 ながるだろう。
6.上記をまとめれば、単純に小人化に繋がるので人件費の大幅な削減も可能性が出てくる。

と考えてみると、基本的にAIの活用による「ものづくり」の変革は、もちろん材料費などの原料コストは別だがメインで製品コストの軽減に大きく寄与するのではないか?と考えられる。
 つまり、AIを導入するか否かによって企業としての価格競争力に大きく差が出てくることが予想されるのだ。もちろん品質重視!をうたっている企業も特に日本の場合は多いわけだが、少なくとも昨今のOKUMAやDMG MORI、AMADAなどの工作機械をみれば、もうハード的な性能はどこも極限まで高度になっていて、現状はいかに精度の優れたプログラム(CADデータ)を製作できるかにかかっている感がある。この部分も上記3.のようにAIによって単純化できれば品質に差がなくなる可能性は十分だ。
 また仕事を依頼する側も当然、世界中のサプライチェーンからAIによって最適な価格と品質を保証できる企業を探し出すこともできるわけで、そうなると昔からの馴染みだとか、近所にあって利便性が高いという理由での商流にも影響が出そうだ。

さてさて、これはあくまで自分の主観でまとめたものなので、きっと多くの反論や意見もあると思うけど、要はこのようなAIの知識や技術的なインパクトの大きさを会社として、しっかり理解しているか否かで、この先、企業間には大きな格差が生まれてくるだろうし、当然日本の市場にも中国やアジアを中心とした「ものづくり企業」が続々と参入してくる可能性も有るわけだ。
 とにかく、対岸の火事的な感覚ではなく、隣の家が燃えているぐらいのつもりで、社内でAIに関して
今なら月々きっと日本でも3000円弱で、ある程度自由に使えるChat-GPTで何ができるか?といった勉強会などを実施してみるべきだと強く思う今日この頃である。

円安を最高の武器にすべきだ!

 スミマセン!いつも言い訳からスタートするのがこのブログの常になってしまったけど、今回も何と前回の8月以降の投稿…。今年も夏以降、新規プロジェクトの立ち上げ準備などで超多忙の日々を送り、気が付いたら年の瀬の年末休暇に突入していたという次第でした…。

 さて、今年に入ってからはロシアのウクライナ侵攻をはじめ、終わりの見えないコロナの状況など、とにかく混迷な世の中が年末まで継続し、残念ながら、その出口は来年に入っても見えてきそうにない。今まで厳格だった各国のコロナ規制も以前に比べれば大分緩和され、国際間の物流や人々の動きは活発になってきてはいるが、現状の世界の状況を反映して為替相場は急激な円安となり、原材料の輸入大国である日本は、その影響で、あらゆるものが値上がりしている(日本に限ったことではないが…)。
 勿論、輸出比率の高い大企業にとっては、原材料の輸入コストが増大しても為替差益が還元されるので、コスト増のカバーも出来て、ある意味 ”都合の良い” 状況であることは事実。しかしながら国内需要に特化する製造業にとっては、燃料費や部材のコスト高が利益を圧迫するために経営状態は間違いなく苦しさを増しており、状況的に国の方針である所得倍増を実現することは厳しそうだ。特に下請け的傾向が強い中小町工場において、その悪影響は顕著であろう。

 残念ながら最近のニュースを見ていると、これらの影響も相まって現在の日本はGDPばかりか、平均賃金まで台湾や韓国に肉薄されている状況。経済大国、電子立国として名を馳せていたかつての栄華は本当に兵どもの夢の跡になりつつある感が否めなくなってしまった。コロナの規制緩和で、また昔のようにインバウンドの観光客の増大も景気回復には一役買いそうだが、かつて日本人が高所得と円高を背景にアジアをはじめとした低所得国でブランド品を買い漁ってきたのと同じ状況が今の日本の現状(つまり低所得国の位置づけになっている)だと、一橋大学の野口悠紀雄名誉教授は指摘している。

 さて、こちらアメリカの状況はと言えば、今年の最初には数々のコロナ規制を撤廃し経済の回復に大きく舵は切ったものの、ウクライナへの支援戦費の増大や、原油価格の高騰、また中国との関係悪化の背景に起因し、残念ながら株価の低迷や、META, TWITTERといった大手IT企業の大幅なレイオフなど状況の改善は見込まれていない。最近ではそれに呼応するかのように多くの企業でレイオフが日常化し、品不足が深刻な半導体業界でも、来年度のリセッションを懸念して人員削減に踏み切るところも出てきているようだ。その反面、コロナの状況以降、製造拠点を国内や近隣諸国に戻す動きが顕著になり、国内の製造業関連は部材の調達不安はあるものの何とか堅調、そして自分が携わるEV関連や、電池産業などは将来的な需要予測から相変わらずの活況を呈している。特に電池や、次世代モビリティの分野は開発競争がし烈を極め、その試作開発や将来的な生産プロセス用のライン構築に必要な部材の需要はかなり力強い。

 同分野に携わる自分の経験から、この状況は円安による価格メリットで正に日本の中小町工場にとっては、アメリカに市場を広げる絶好の機会だ。実際に今、弊社では日本の加工メーカー数社から部材を供給してもらっているが、日本からの送料を加えても材質やデザインによってはアメリカより日本で製作したほうが安価なものが大分増えてきている。そればかりか連携しているベトナムの加工工場よりも価格メリットがあるものも頻繁に出てきた。僭越な言い方かもしれないが、少なくともMADE IN JAPANは圧倒的に品質上での安心感がある。それが長く続いていた1ドル110円台の頃から比べれば20%安く手に入るのだ。これは間違いなくチャンス。円高進行のきっかけとなったプラザ合意(1985年)以前の日本は、工業製品のみならず日用品から玩具迄アメリカに輸出して莫大な外貨を獲得し自国の高度成長を推進してきた。この時の状況とまではいかないが、日本の国内のみの需要対応では材料費の高騰などのマイナス要因だけが目立つ円安を逆にうまく利用して、ある意味他のアジア勢も凌駕し一気にグローバル展開を図る非常に良い機会ではないかとPOSITIVEに考えたい。

 そしてこれは単に少量多品種の試作部材だけでではなく、量産受注の可能性も十分にありだ。
アップルI-WATCHのリストバンドに採用されれているアルパインループとトレイルループは、日本の福井県にある井上リボン工業が全数製造している。勿論そのデザイン性や品質がアップルの希望に叶うレベルであることは間違いないのだが、当然この円安で、この高品質の部材が更に安価に入手できるようになった事も、以前より取引企業との協業をモットーにしていながら、価格に関しては圧倒的な数量を武器に過酷な交渉をする同社にとって、大きな魅力である事は間違いない筈だ。

 さて今年もあと数日で終わり新しい年が幕を開けようとしている。残念ながら大方の景気予想は、春までの早い段階で半導体も含めた分野において、大きなリセッションが起こる可能性を示唆している。ただ状況を見ながら、日本だけにとどまらず海外市場に対するマーケティングができれば、現状では製造業にとってマイナスのイメージでしかない円安を間違いなく武器にできる事も是非2023年は熟考してほしい。

 という訳で、今年は何と僅か4回の投稿になってしまいましたが、来年は出来るだけ、もっと頑張ります(って既に信憑性無いけど^^;;)! 皆さん、素晴らしい新年をお迎えください。

ゾンビ企業をどうするか?

 今月の頭に帝国データバンクから現状の日本の中小を中心としたゾンビ企業の総数16.5万社というデータが発表された。ゾンビ企業、既に皆さん周知かと思うし、このBLOGでも10年近く前から折に触れて書いているが、端的に言えば、実際には経営破綻しているにもかかわらず、金融機関や政府機関の支援によって存続している企業・会社のことである。勿論、全ての業種の総数だが、この中で製造業の割合は20%と全体の5分の1で、その比率はかなり高い。データによればゾンビ企業が最も多かったのは2010年のリーマンショック後の2011年で約27万社。その当時に比べれば10万社の減だが2018年以降は増加を続け、2020年にいきなり前年比10%増加した。この先も増加は続くとレポートは見ている。
 
 このゾンビ企業増加のタイミングが政府の行う金融補助政策の開始後に起こるというところが正直何とも悩ましいところだ。2010年以降ののリーマンショック救済の為の補助金の増額、また今回のコロナ対策給付金が、これら企業の増大を助長している。自分は製造業の分野で今まで多くの中小町工場のオーナー達や、それをサポートする行政の方々と会ってきた。そんな中、このような政府による金融政策を利用して、その有効活用により会社の復興を遂げたり業績を残してきた企業も多く見てきた。新人や若手従業員のモチベーション向上のための研修や新規社内プロジェクトに投資する、新規事業部の立ち上げと新たな事業参入に向けてのR&Dへの活用、そして自社製品の品質と性能向上のための新規設備投資等、このように用途が革新的イノベーションに流れる企業にとっては、この日本の救済制度は本当に素晴らしいものになっているだろう。
 その反面、この補助金というシャブにどっぷりと浸かってしまい、金融サポートが無ければ生存できない会社の増加により、その有効性が単純に延命にのみ利用されているところも多くみてきた。特に問題なのは、この補助金従業員の給与補填に利用しているケースだ。当然、従業員に補填すると、その削減や解雇はしにくくなる。そのために受注を確保し続ける必要があるのだが、利益を度外視しても(従業員への給与に補填されているので)、受注を獲得してしまうケースが増えている。そうなると補助金に頼らず自立、もしくは健全な返済を実行している企業にとっては大きな迷惑だ。ゾンビ企業によって適正価格水準が崩壊し、本来できるはずの利益確保が難しくなってしまうからだ。この状況は本当に根が深い。正直このような状況の中で、国が提言している所得倍増など、とても考えられないのが現状ではないかと推察する。実際このような負の状況が、今回の16.5万社のうちの20%の製造業にも顕著にみられるようだ。

 因みに、このゾンビ企業の内訳をみると従業員20人以下が全体の60%を占めるという。大分昔の話になるが町工場が集約する東京大田区より地場のものづくりに関するアドバイザーの依頼があった。その際、驚いたのは地場にある5,000社(当時)のうち4,000社は従業員が確か5名以下の零細企業だったという事だ。勿論、それなりの需要が確保できているから、この規模の会社が継続して生業を維持できているとは思ったのだが、間違いなくそれだけではない状況があった。このような環境の中からは、残念ながら革新的な転換や新規事業は生まれてこないのではないか?そう思って依頼をお断りした経緯がある。

 ここシリコンバレーには、未だに1000社以上の切削、板金、成形加工など、ものづくり系町工場がひしめき合っている。 彼らのものづくりが、シリコンバレーから生まれる最先端のIT産業を下支えしている。以前から言っているがシリコンバレーは世界最大の一大製造拠点だ。これらの企業、リーマンショック前は裕に2000社以上あった。そこからの変遷の中で数は半数ぐらいになってしまったが、残った企業達は本当にハングリーで実力もあり、常に時代の先端に呼応した「ものづくり」を生業にしている。こちらには自分の知る限り彼らを救済する補助金等、明確なものは殆ど存在しない。時代の流れついて行けず、景気の状況によって力尽きたところは必然的に倒産だ。その倒産した企業の人材やアセットを、生き残った力のある町工場がハゲタカのように貪って、設備も二束三文で手に入れて、更にパワーアップし業績を伸ばして力をつけていく。そして、そこからまた実力のあるリーダーがスピンアウトして独立していくというエコシステムが成り立っている。この状況があるので、この地の製造業は常に新陳代謝をしながら時代を乗り切っているのだ。
 日本でも同じような状況を見たことがある。自分の実家は神奈川県の座間市。かつて日産の巨大な工場があったところだ。カルロスゴーンが社長に就任し、採算の悪い工場が淘汰されることになり、座間工場もその対象になって閉鎖が決定。当時の新聞やメディアは「血も涙もない冷酷な外資社長の蛮行」とか従業員や協力工場の生活をどうするのだ!!と言った批判の声が相次いだが閉鎖は確定。実際に当時数百社あった協力工場も多くが淘汰された事も事実だ。ただ残った企業は自分たちの技術を武器に新たな市場開拓や、日産に特化(系列の不文律…)していた製品を他メーカーへ売り込んだりして、更にスケールアップしたところが沢山あった。勿論、関係性がある確証はないが、世界で初めてカーナビのバードビューを開発したザナヴィ インフォマティクス(確かクラリオンに合併吸収)は座間に拠点があったし、中国資本になってしまったが車載電池のオートモーティブエナジーサプライ(現エンビジョンAESC)は現在も同地で操業中だ。

 要は、このようなゾンビ企業をこれ以上増やさない、また彼らが淘汰されていく事を金銭のバラマキ以外にどう食い止めるか?真剣に考えるべきタイミングが来ていると強く感じる。
 更に拍車をかけるように、この先、間違いなく自動車産業の大淘汰時代がくる。そんな状況が現実化したら、また国や行政は国民の税金を使って新たな金融政策や給付金、補助金を始めるのか??? これでは何一つ過去のデータに学んでいない。もう少し他の対応も考えるべきだろう。例えば行政が中心になって地場の企業データベースを体系化し、現状、景気が絶好調な半導体設備、関連分野への製造品目転換の推進や業務の斡旋。大田区のように無数の小規模工場があるのであれば、業界の状況、特にかつては日本が世界を席巻していた電池産業、この先の宇宙産業や次世代モビリティ等に精通した目利きによるリサーチや今の若い感性のジェネレーション世代(高校生や大学生のZ世代が良い)の力を借りて、将来のハードウェア必要になりそうなシーズを持っている会社の掘り起こしを、まず国などが主導して提唱していく(各県にある高校や大学と連携などしてみるのも面白いと思う)等々、現状の製造品目から見た「ものづくり」企業の実態と実力の把握ができていれば、出来ることは山のようにあると感じる。まあ正直このような話は以前からこのBLOGでは再三訴えてきている事だが…。
 
 先ほどから触れているが、今一番憂慮される将来の自動車産業、現状TOYOTAだけで中小町工場を中心に約6万社の協力工場がある。彼らをこの先、バラマキによる延命措置のみで新たなゾンビ企業にしないために、国や行政は金銭ではないソリューションの立案と実現に向けて今から動き出すべきではないかと強く思う。


責任が取れる正しいトップダウンが肝要だ!

 またまた最近、サボり気味のブログ(申し訳ありません…)。今年に入ってまだ1回しか投稿していない。と思って何と気が付いたらもう6月…。今年ももう半分が終わろうとしている。加えて最近、歳のせい(?)もあり、その速さに加速がついている感がある…T_T 。自分の思いの記録を残す意味でも、これからはもう少しマメにアップするよう努力します^^。
 さて、早くも1か月以上前になったが、4月に名古屋と大阪で、オンラインでの講演会をする機会を得た。名古屋の方は自動車関連企業がメインで運営するインキュベーション施設の管理団体での講演で、TOYOTAを始め大手Tier1からの参加者も多く150人以上が集まり、なかなかの盛会。大阪は中小機構からの依頼で、こちらは中小町工場からの参加者が中心で人数的には50人程度だったがラウンドテーブル的な雰囲気もあって、趣きが異なってそれなりに自分も楽しむ事ができ、それぞれオンラインながらも「日本の状況を何とかしていかないと!」という自分の主張は伝わったと思っている。
 そんな講演会のあとで、皆さんから感想を聞く機会や、また個人的に連絡を頂くこともあるのだが、その中で参加された会社のトップや上層部の方から聞いて多いな~と感じるのは「遠藤さんのお話は凄く良かった。自分たちも真剣に将来を考えていかなければいけないと思いました。で、取りあえず何をすればよいのでしょうか?」という類のものだ…。

 いやいや、そこを考えなければいけないのは皆さんですよ!

 自分の話は提言であって、そこから先は自分たちの会社や組織において、海外の状況や市場の動きを注視しながら、今の自分たちの技術や製品、そして組織としての活動など、これらをどうマーケットインしていくかを、第3者ではなく自らが考えていかなければ、何の意味もないばかりか成功もないと思う。特に中小町工場の場合、勿論、全てとは言わないが、残念ながら今まで”下請け”という黙っていても仕事が下りてくる環境が長かったせいか、特にマーケットインに関しては「自分たちで考える」という部分が去勢されているかもしれない…。彼らの場合には組織自身が小さいこともあり、言い方を変えれば、会社の長がこのような危機感をもち、そこに対して自分たちがどの様に動けるのか?会社の強みは何処か?製作しているものは世界に通用する可能性があるか?そして、そこをリサーチしていく志があれば、大企業と異なり組織が小さい分、直ぐに行動に移せるのではないか?といつも考える。要はそのようなトップの意思決定をスピード感をもって実行できるのだ。ここは是非、最初に意識してもらいたい。

 ただ加えて言えば、そのトップの判断が間違いなく正しい方向、将来性のある方向へつながるものでなければならない。前回のブログ「新たなイノベーションへ舵をきれるか?」の中でも触れたが、特に中小製造業の場合、現状の業績を100%維持することが至上であり、将来的なマーケティングやR&Dに予算や時間を費やすことを良しとしないところにトップがフォーカスしてしまったら、残念ながら結局のところ何のイノベーションも起こらない…。前回は山形県の町工場の話を例に挙げたが、今回も同じような話を聞いた。埼玉県にある、PCB(回路基板)の製造メーカー。同社は以前よりシリコンバレーに拠点をもち、その多層板の製造技術を活かして、容量の増大が顕著な通信機器メーカー向けに製品を供給し拡大してきた。ただこの業界も中国を中心としたアジア勢の追い上げ厳しくビジネスも減退になりつつある中、起死回生をかけてアメリカでは新たに盛りあがっているスペース産業に着目。通信業界での実績もあるので引き合いもあり、その部分で本腰を入れていこうと意気込んでいたのだが、折しも日本の本社は昨今の半導体不足による半導体製造装置の需要急拡大で、其の特需で全く余裕のない状態。半導体設備という少量多品種で利益率も高い製品製造に100%フォーカスしていて、こちらの拠点からの新規案件には見向きもしてくれないそうだ…。確かに半導体製造設備の需要は、この先も間違いなくあるだろう。しかしながら、国を挙げて潤沢な予算で挑んでくる中国勢をはじめとした列強の存在が大きくなることは目に見えている(2022年度の中国の半導体設備投資は10兆円、日本はたったの6000億円T_T )。スペース産業界であれば未だ未知の分野でもあり、うまくスペックインできればオンリーワンになる可能性の方が遙かに高く、将来もあると思うのだが、トップの判断が現状の顧客対応にフォーカスしろという事になってしまえばそれまでだ。本当にもったいない話だと思う。

 加えて思うことは、そのトップの判断の重要性もさることながら、そのトップがしっかり責任を取るという事も重要であるという事。トップの判断は往々にして独断とみなされることもあり、会社の存続や従業員の生業確保を憂慮しての責任回避から、トップダウンという大号令にトップ自らが躊躇してしまう例もあるような気がする…。日本は鎌倉時代に生まれた合議制のDNAが未だに組織運営に刷り込まれている感があり、吐出したアクションには蓋をされてしまう傾向に加え、非効率的な年功序列が未だに中心となった状況なので、社内の改善も含め大号令をかけにくい状況があるように思える。

 しかし、それと異なるのがこちらの企業運営だ。APPLE, TESLAをはじめ、躍進している企業は全てトップの大号令で組織が大きく動く。ちょうど今週(6月3日現在)TESLAのイーロンマスクが、全従業員に関し「これからはリモートではなく週40時間を出社して働け!出社しない従業員は解雇だ!」とツィートしたことがニュースになっていた。勿論コロナ禍でリモートワークが中心になった従業員も急に環境を変えることができるかわからないが、ここで、多くの退職者が出たとしてもきっとイーロンはその責任も全て自分で取るつもりなのだろう。こういう、TOPの姿勢が逆にカリスマ性をもって従業員の共感を得る場合もあり、その姿勢が新たなアクションに迅速に向かう組織を構築しているのだと思う。

 そんなイーロンのトップダウンアクションの例として聞いた別のエピソードを紹介しよう。
 北米でEV用電池を生産するGIGAファクトリー。日本のP社との共同操業でTESLA向けの電池を生産している。この工場で、なかなかTESLAからの要求目標を達成できないP社の製造プロセスについて、イーロンが自らP社との直接ミーティングを企画、その席上で現場の製造責任者たちを前に「これから、皆さんが不可能だとしている現場の稼働率を、要求目標である10%上げて動かしてもらいたい。それが皆さんの生産指標を越える超過稼動であれば、どこかに必ず問題が発生するはずだ。そこがネックになっているので、その部分を徹底的に改善すれば目標達成は可能だろう。そこで、その問題が発生した箇所、もしくは設備の動画を撮ってレポートしてほしい。その部分の修繕や改善、費用負担も含め、全て自分が責任を持つ!」と確言。この指示により実際に稼働率を10%上げたところ、何と目標はクリア。しかもどの設備にも故障やシステムのオーバーフローも発生しなかったそうだ。
 日系製造業の場合、その多くが稼働率や可(べき)動率という生産指標によって、生産の効率化を管理しているが、そのコンセプトが時に、その向上に水を差している事を、彼は責任を取るという事を前提としたトップダウンの指示で明確化できたわけだ。

 トップダウンのメリットは圧倒的なスピードだ。トップの号令で全員がその動きに同調する。ただ上記のようにその判断が見識に優れておらず誤っていれば失敗する。言い換えればもろ刃の剣かも知れない。しかしながら圧倒的に昨今の世の中の流れ、マーケットの動きの中で重要なのはスピードだ。このスピード感を意識し、更に間違わない見識を身に着けることがトップに求められる必要条件になるだろう。そして失敗に関しては責任を取る器量の深さで臨めば、社内の改革だけでなく新たな市場に向けての営業展開等々、この先に向けてできることは十分にあるはずだ。今回も相変わらず内容にまとまりが乏しいが(^^;;)、是非トップの皆さんには熟考していただきたい。


 
 

新たなイノベーションへ舵を切れるか?

大変遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。
気が付いたら何と既に2月^^;;。やはり世の中の流れが早いと本当に時間が経つのも矢の如しの感じがする今日この頃、まあ多分に年齢も関係していると思いますが^^;;。

 さて、日本を除くアメリカ、ヨーロッパを中心とした国々では、コロナ規制の大幅な解除を行い、大きくこれからの経済復興へ始動し始めた。残念ながら日本は、まだまだ鎖国状態が強要され意味のない税金の浪費に繋がる水際対策に終始している。その間、列強はコロナ禍中で学んだ多くの教訓や経験から新たな経済や産業に一足先にスタートしているような状況だ。このような背景により過去2年のコロナ禍に於いて世の中の産業、特にモノづくりの世界は大きな転換期を迎えている。

 非接触が当たり前になる中、ロボットや自動運転を備えたスマートモビリティなど新しい分野の製品が続々と開発され、リモートワークが主流になる事で、通信ネットワークの拡充やそれに伴う端末やインフラ整備に必要なハードウェアの需要増大、そしてこれらの根幹になる電池や、半導体、軽量化や強度強化に必要な新たな素材開発など、言い方を変えれば新しい分野、製品、などの開発が目白押しの状態だ。 最近では、AAMGT(アマゾン、アップル、メタ、グーグル、テスラ)などの巨大企業もIT分野で確保した市場を盤石なものにするためにハードウェア開発に積極的に取り組み始めている。
 また半導体の供給不足に伴う急激な需要拡大で、老舗のインテルを始め、半導体製造設備のアプライドマテリアルなどの巨大企業も超が付く忙しさのようだ。
 以前から何度も紹介してるが、ここシリコンバレーは未だに数千社の中小の製造工場という其の莫大な需要をつかさどるインフラがある。彼らはそれなりに市場の需要に立脚しながら新陳代謝を繰り返して、この怒涛のような時代の流れに上手く乗っているが、昨今、更にその動きに対応し、特に試作市場の需要急拡大で、どこも大忙しの状況だ。
 これらの需要を見ていると、やはり将来的には、新しい製品や部品、素材といった分野で益々ものづくり市場は広がってくるし、彼ら巨大企業や新興のスタートアップ企業が持つ潤沢な資金によって、更に新たな新規産業への舵切りが大きく行われていると強く感じる。
つまり、新規産業、製品などの製造に携わる事によって、市場の流れをつかみ、また時代のトレンドに合致したモノづくりで、将来に向けての方向性や需要に対する柔軟性を見出すことが必要不可欠になると思うのだ。

 翻って今の日本はどうだろうか? 2年間にわたる鎖国状態によって、益々孤立化を余儀なくされている中、付き合いのある中小町工場の状況を見ると、このような今の先端を行く製造業の実情が全く伝わっているとは思えず、ただ単に黙々と現状の売り上げ確保と維持に精を出しているような感じがする。
 実際に付き合いのあった山形県の町工場、それなりに実力もあって定期的に仕事もお願いしていたのだが、以前から付き合いのある馴染みの大手メーカーかの仕事が活況で、そこを優先させるという理由から、こちらからの仕事の依頼をやんわりと断られてしまった。少なくともウチから出している仕事は、最先端を行くEVメーカーからの注文だが、そういった新たな需要への感心より、やはり安定した収入を確保できる生業を維持する事が第一優先なのだろう。勿論、同社に限らず、日本も現状の半導体不足による製造設備の需要拡大などで、町工場の中には、かなり繁盛しているところが多いと聞いてはいるが、それがいつまで続くかについては、前述した環境の激変の中では何の保証もない。 
 特に、この先の化石燃料自動車の減産がもたらすインパクトは計り知れないものがある。絶妙のタイミングで、今年に入って経営不振による会社更生ADRを申請した自動車業界の超大手企業マレリの状況が、この先の行く末に対する警鐘だと考える。
  
 かつて自分は実体験として、日本の携帯端末事業やTV産業の崩壊を目の当たりにしてきた事から、間違いなく自動車産業も、この先の10年で大きな衰退を余儀なくされると数年前から訴えてきた。にもかかわらず、「電気自動車(EV)の位置づけがスマートフォンと同じ端末の一つになる」という状況をしっかり理解している企業は殆どないのが現状のようだ。そうなると、今はまだ需要のあるエンジン部品を製造している中小町工場は、この先どうなってしまうのだろうか? 
 
 何度も言うが、今こそ、この将来の状況を踏まえた上で既存のビジネスを制限してでも新たなイノベーションに向けて方向性を変えていく必要があると強く感じる。
 
 自分の大先輩で、アマゾンJAPANの事業本部長として同社の日本展開を主導してきた谷さんは、著書「アマゾンメカニズム」の中で、「日本企業には”リスク回避を選択する本能”が植え付けられている」と指摘していた。本書の記述にあるとおり確かに今までは、いい大学を出て立派な企業に就職し終身雇用と年功序列が保証される環境にいれば、敢えてリスクを取る必要はなかったのだ。またそのような企業の協力工場として付き合っていれば、努力せずとも経営を維持できる潤沢な仕事が確保できたのだろう。
 この環境状況から自分的に考えると、現状の100%の安定した売り上げを5年後に130%にするため、現在の売り上げを80%にしてイノベーションに力を入れるという発想になる事は殆どないかもしれない。
 ただ世の中の激変は、もうそれを許さない。特に更なる改革に加速がつきそうな2022年は、
  
   新たなイノベーションに向けてリスクを取って舵が切れるか?

が非常に重要になるであろう。毎回、同じ締めくくりで恐縮だが、是非一考いただきたいと願う。

中国を侮るな!

今年もあっという間に12月になってしまった。まだまだコロナ禍の中で、各国の工業生産や物流における影響はかなり深刻。おまけに、この状況に起因した過度の需要増大による半導体不足、加えて原油高の影響で、プラスチックの主原料であるナフサの高騰にともなう部材の供給不足等、ものづくりに関していえば全体として憂慮すべき状況と言わざるを得ない。
 自分も車載電装品や電池の製造など、どっぷりとその影響を受ける市場に携わっているので、
 
  部品/材料不足=モノのが作れない=納期が延びる=売りが立たず回収までに時間がかかる

 という流れは、特に資金力に経営のウェイトが大きい中小町工場にとって、まだ日本国内は半導体製造設備等の特需で潤っている感があるが、この先の見通しとして残念ながら快方に向かうか疑問だ。

 そんな中でも、注目を集めている脱炭素化に向けての自動車産業のEVへのシフトは確実に動きつつある。大御所のTOYOTAも2030年迄のEV生産目標を発表するなど、日本の自動車メーカーも重い腰を上げて相次いでEV化計画を打ち出し、加えて中国を中心とした新興の自動車メーカーも今までの既存インフラのない身軽な状況により、SPACでの上場等で資金の確保ができれば、更なる加速力で市場参入してくるだろう。勿論、上記の半導体や部品の不足により、生産、販売計画は大きく遅延している状況は否めないが、人が乗る自動車という分野以外のMOBILITY全般においても指数関数的にその規模が拡大していく事は間違いない。

 以前から、このBLOGで何度も触れているのだが、自分の顧客であるTESLAを訪問すると、受付で面会を待っているのは、ほどんどが中国系、韓国系企業の担当者だ(日本勢はどうしてしまったんだろう…)。そんな中でも特に中国のベンダーの動きが今迄にも増して活発化しているように感じる。勿論アメリカは中国に対しての制裁措置や輸入制限等、その活動は規制されているにもかかわらず、既にパーツ領域やインフラの部分に浸透し、コスト面でのアドバンテージのみならず、彼らの製品品質も十分に客先の需要に合致する水準に昇華していて、そう簡単に使う側も脱中国製品(部品)には動けないようだ。加えて最近では、納期でも間違いなくアドバンテージを確保している。中国からの輸送期間を考えても、景気が良すぎる状況で納期の短縮に対応できないアメリカ国内のローカルのベンターを退け、特にシリコンバレーで一般的な短納期重視の試作開発スタイルにも十分に対応しているようだ。

 実際、アメリカの新興EVメーカーであるLUCIDの調達に携わる知り合いは、最近の中国ベンダーの対応と納期に対する意識は完全に日本の系列構造に浸かりきった商習慣意識が抜けない日本のベンダーの市場を凌駕しつつあると語り、今まで長い付き合いのメキシコにあるEMSメーカーの友人も、最近取引を始めた中国大手の民生機器製造メーカーHI-SENSEとの商売は、仕事の進め方や、品質納期管理など、全てにおいて圧倒的に無駄がなく、未だに既得権と「俺は客だ」的意識で外注とのビジネスを進めようとしている日系企業とは雲泥の差だと話していた。そして、日本の大手デジタルMAP会社社長の友人も、通信ネットワークだけでなく、EV産業におけるイニシアティブを狙うHUAWEIのビジネス改革の速さに驚愕していた。
 自分の経験でも、細かいことだが中国のベンダーに加工品の見積もりをすると、確実に半日以内に見積もりが到着する。日本のベンダーだと未だに見積もりが出てくるまで2,3日かかるのは当たり前( 過去のデータの解析と統合ができていないので都度計算が必要、また工程によって外注への確認が必要などの理由で…)。既に話題になって久しいAIを利用した試作生産プラットフォームのFICTIVEやPROTO LAB、日本で言えば後発のCADDIが事業としているシステムインフラが既に当然のように普及している(もしくは自前開発している)と思われる。そして発注しても納期はしっかり遵守、決済に関してもWISEやPAYPALなど手数料もかからず簡単なシステムでの取引が一般的になっていて、未だに銀行送金による決済に固執している日本の中小町工場とは大違いだ。
 
 製造業に関しては、未だに中国をアジアの一国という認識で上から見る傾向にある日本の旧態依然の体質も、今の同国の実態の正確な把握を妨げている感が残念ながら強い。しかしながら、とにかく今までの製品に対する「安かろう悪かろう」的イメージ、そしてモラルの無かった商習慣も大きく様変わりしている事は間違いない。

  たまたまタイミングよく放映されていたNHKの「中国新世紀」に出てきた深圳のものづくり系スタートアップ達。彼らのスタイルやオペレーションは、もう今までの中国企業のイメージではない。
 彼らは今、IT産業だけでなくハードウェアの世界でいえば、ロボットやドローン、IT系ガジェットなどの完成された製品のみならず、 間違いなく今まで日本がハードウェアでイニシアティブをとっていた各種アクチュエーター、高性能モーター、リニアスケール、シリンダー類に至るまで、あらゆるものを国産に切り替えるべくAIを駆使したリバースエンジニアリングを進めている。更に中国政府もアメリカからの制裁の間に、国内の生産力を向上させるべく、14億総中流政策を掲げるものの、未だに大半を占める国営企業の旧態依然の人海戦術的生産スタイルを、これからのAI技術の向上と部材やロボットの開発によって大きく変貌させるために国が主幹となって彼らへ入札の機会を与えたり積極的な資金投入も行っている。まさに内需インフラの増強と安定化をいう基盤を確立し、さらに世界を獲りに行こうという新たな、官民一体のイメージが思った以上に浸透しているように思えた。

 特に、これから世界の製造マーケットの主流となるEV産業に関しては、十分な国内需要だけでなく、世界のメーカーにも部材を供給するための価格、品質、納期重視の生産と輸出を、先ずイメージ向上のため「品質の悪いものは出さない!」という統制を徹底するという
  
  EV産業における世界制覇の為の生産インフラの構築を国策として進めている。

 という状況が強く感じられる。 これを裏付けるかのように将来的に急激に需要が高まる車載用を中心とした恒久的な半導体不足への対応として同産業に対する日本の投資計画規模6000億円に対し、中国は何と10兆円を拠出するという。国を挙げてのビジネスに対する考え方と気合の入り方が全然違うのだ。

 さて、 こちらにいると、このような状況を身近に体感できるため、本当に一刻の猶予もないという気持ちが日々募るばかりなのだが(毎回書いている気がする…^^;;)、 その動きが更に加速し、中国の製造業が世界の産業を凌駕するようになったとき、日本(の製造業)はどう戦えばよいのだろうか? 今までの牙城にしがみつき最終的には鎖国をも辞さず!という動きをとるのか?それとも真っ向勝負で玉砕するか、もしくは共存できる方策を探し出すか? 勿論それぞれ賛否両論はあるかと思うし、加えて今の企業のマネジメント世代は、EV主流の世の中が始まるのは2030年で「まだまだ自分たちの目の黒いうちは大丈夫」という考えもあるかも知れないが、
 彼らはひたひたと忍び寄ってくるのではなく、怒涛のように押し寄せてくるのだという事を、来年に向けて今年のうちにしっかりと肝に銘じておいてもらいたいと思うのだ。