この中で深田さんは、日本政府が台湾の半導体メーカーTSMCの工場誘致に900億余の資金を供与することに強く反対していました。
日本政府がTSMC誘致に動き出したのは、日本の安全保障上、国内での半導体生産を増やすべき言う判断からです。
これに対して深田さんは、主に以下の理由で反対しています。
① TSMCは台湾企業ではあるが、非常に中国共産党政権にも近く、安全保障上非常に危険。
② 安全保障を問題にするなら日本の半導体メーカーを支援するべき。
動画では深田さんは半導体設計会社を経営していた時に、様々な嫌がらせを受けた話もされていて、実はこれが深田さんのTSMCだけでなく他の台湾の半導体メーカーへの不信の始まりだった事がわかります。
しかしこの嫌がらせの件は、深田さんや深田さんの会社の関係者のプライバシーにかかわる話なので、直接深田さんを知らない人間には真偽の判定は不可能です。
だからこの話は完全に無視して、上記の①と②について考えるしかないのですが、ワタシは①も②も正しいと思います。
まず①についての深田さんの話は、客観的に検証可能であり、事実、もしくは十分事実と推定できる話なのです。
そもそもTSMCの創業者モリス・チャンは浙江省に生まれた中国人で、後にアメリカに留学してアメリカ国籍を取ったのですが、台湾に来たのは1987年、台湾政府が半導体産業を国家事業として育てる為に招聘されてからです。
その為TSMCは台湾政府の全面的な支援を受けて育ったのです。
しかし彼は中国共産党政権との関係も非常に近く、エイペックでも習近平と親しさを誇示したりしています。
深田さんによると台湾の半導体関連会社には、彼のように浙江省出身の人間が多いそうです。
そしてTSMCが提供した半導体チップが、中国人民解放軍の兵器に使わている例が幾つか見つかっています。
最近では中国の超音速ミサイルの弾道制御に使われているスーパーコンピューターのチップがTSMC製であることがわかりました。
それでTSMCはこれについてはスパコン用チップの中国輸出をやめると言っていますが、この手の話が色々出ているのです。
また人民解放軍が必要な半導体を、台湾の企業を通して買っているという話が、台湾でもニュースになっています。
このような仲介をしている台湾企業もモリス・チャン同様の中国出身者の企業なのです。
そして深田さんによるとこのような台湾の半導体関連企業が、最近次々と日本の半導体メーカーを買収しているのです。
その中には自衛隊のレーダー用の半導体を製造していたメーカーなど、本来絶対に外国に売ってはイケナイようなメーカーも含まれていました。
台湾政府は現在対中防衛に必死です。
だから日本とも米国とも極めて親密な関係にあり、今回の日米首脳会談にも深い謝意を示しました。
しかし台湾には今も強い親中勢力がある事も事実です。
そして過去の台湾総督選挙でも、親中派と台湾独立派が争ってきた歴史があります。
このような台湾の状況を考えると、台湾企業だから親日、親米、反中などと考えるのはあまりにノー天気なのです。
次に②についてですが、深田さんの動画を見るまでもなく、日本は元来強大な半導体王国でした。
1980年代まで日本の半導体メーカーが世界シェアの過半を占めていたのです。
その強さに危機感を持ったアメリカが、日本の半導体産業を弱体化させるために始めたのが日米半導体交渉です。
そしてこの結果、日本の半導体メーカーは200%の関税とか、日本での海外半導体のシェアを数値目標を定めて増やすとか、途方もないハンディを負わされました。
台湾や韓国はこの時期を見澄まして、自国の半導体産業育成に全力を挙げ始めたのです。
一方、日本の半導体メーカーは政府から見捨てられたままでした。
ところで半導体というのは、需給関係で価格が猛烈に変動します。 そこで半導体メーカーが利益を上げるには、需要を予測して需要が増える時期を狙って増産体制を確保しなければなりません。
しかしそれには千億単位の設備投資が必要です。
当たれば莫大な利益が出ますが、外れた莫大な負債を抱え込みます。
そのような投資をするかどうか?
半導体メーカーは常にこの判断を迫られるのです。
政府の全面的なバックアップを受けた台湾や韓国のメーカーは、果敢にこうした投資を行う事ができました。
しかしアメリカから枷をかけられ、日本政府にも見捨てられた日本のメーカーは、こうした投資を躊躇するしかありません。
こうして日本の半導体は没落していきました。
そうなると貧すれば鈍するで、東芝がフラッシュメモリーのような有望技術をサムスンに売るなどと言う事態も起きました。
勿論、日本の半導体メーカーの経営陣にも問題は多かったでしょう。
しかし「産業のコメ」と言われる重要産業を一から作り上げ、それを担い続けたのに、日本政府の仕打ちはあまりに冷酷でした。
彼等の士気が落ちるのも当然でしょう。
それでもなお、日本はまだ半導体製造装置や半導体材料では、世界の先頭集団を走っています。
また没落したとはいえ半導体メーカーも、まだ頑張っているのです。
だったら安全保障上、半導体の国内生産が必要というなら、日本政府はTSMCではなく、日本のメーカーを支援するべきというのが深田さんの意見ですが、ワタシもそれは全くその通りと思います。
勿論これには異論もあります。
中国の台湾武力侵攻は非常に近いと考えると、早く半導体工場を日本に作っておかなければなりません。
政府が日本のメーカーを支援しても、現在大分遅れてしまった日本のメーカーがTSMCに追いつくまでには相応の時間がかかります。
だからもしそれまでに台湾のTSMC工場にミサイルが落ちたら、半導体を必要とする日本の産業全体が大打撃を受けます。
だから日本政府だけでなくアメリカ政府も、TSMCの怪しさは承知で自国内に工場を作らせようと急いでいるのかもしれません。
そもそも台湾一国に半導体を大きく依存することは、それだけでも非常危険とも言われます。
台湾はかつての日本並みに世界の半導体の半分のシェアを持っているのです。
ところがその台湾は現在深刻な旱魃で、農業用水も足りなくなっています。
一方半導体製造というのは大量の水を必要とします。 それでTSMC一社が台湾の水の20%ぐらいも使っているというのです。
実はこれまでも台湾政府は、農業を犠牲にしてTSMCに優先的に水を回してきたのです。
しかしこのまま旱魃が続けば水不足から半導体製造も止まります。
旱魃で半導体製造に支障が出るのですから、一国依存というのはホントに危ういのです。
そして半導体に関して非常に気になっているのが、このところ続く半導体工場の火災です。
日本でもルネサスや旭化成の工場が火災で大打撃を受けています。
そして日本の自動車メーカー用の車載半導体の供給がさらに逼迫しました。
そこで日本側はこの製造をTSMCに依頼したのですが、しかし数日前TSMCの工場で不可解な停電が起きて、この製造ラインが崩壊しました。
これでまた日本の自動車メーカー用の半導体不足はさらに深刻化します。
やはり日本は極めて深刻な状況にいるのではないかと思います。
軍事の安全保障も重要ですが、産業経済の安全保障ももっと深刻に考えないと大変な事になるのではないかと思います。
因みに現在TSMCの日本誘致の中心は自民党の佐藤正久議員だそうです。
佐藤議員はTSMCに騙されているのでしょうか?
因みに佐藤議員は先日「おはよう寺ちゃん」に出演して「TSMCは中国には工場を持っていないので安心」と言ったそうです。
しかし深田さんによるとTSMCは、南京に巨大工場を持っています。
そして「TSMC 南京工場」で検索すると、2020年末にこれを拡大し、更に新規の製造工場を建設するという記事がヒットしました。
またこれに関連してTSMCの日本進出の意図を懸念する人は深田さんだけではないようです。
佐藤議員大丈夫?
それとも佐藤議員は、深田さんが言った話については、十分承知の上で、何か他の情報からTSMCの誘致に動いているのでしょうか?
ワタシも実は半導体産業にはそれほど詳しいわけではないし、また兵器製造にも詳しくはありません。
だからとりあえず深田さんの話を、自分自身のアタマを整理する為に取りまとめてみました。
もし色々と情報を御存知の方がいらしたら、どうかコメントください。