[ルクール]
19世紀後半、
ヨーロッパの地中海に面した国キルイス。
海にせり出した半島を持ち、
国を囲うように森や湖など
豊かな自然が四季折々の美しさを
見せることから“地中海のオパール”と呼ばれ、
観光に訪れる人々が後を絶たない小国。
かつてフランスの統治下に置かれた
影響が住民の生活や文化、
政治経済のあらゆるところで垣間見られ、
その日向の部分を集めたような
“様式美”は多くの者を魅了していた。
しかしそれはほんの表向きの一面。
訪問客には見えないように
高い壁で囲われた居住区では、
虐げられ、抑圧され、
光を閉ざされた者たちの声なき声が、
豊かな土壌に黒く沁み込んでいた。
この物語の主人公である六人の青年が、
互いに背負った十字架に
共鳴するように出会うのは、
少し先のことだ。