アメリカに現在約1,100あるショッピングモールのうち、20~25%が2022年までに閉鎖されるであろうという調査結果が、スイスに拠点を持つ世界有数の金融機関であるクレディ・スイス(Credit Suisse)社から発表されていますので、ご紹介します。
同社はショッピングモールの閉鎖の大きな要因を3つ、以下のようにまとめています。
① ここ数年急速に伸びているオンライン・ショッピングへのシフト
過去1年間にアメリカ人の約96%がオンラインでのショッピングをしたというデータがありますが、それでも2016年度の全米小売売上におけるオンラインによるショッピングの占める割合はわずか7.7%です。
今後もオンラインでのショッピングの割合が増えていくことが確実視されている中で、モールからの客離れが更に加速することが予想されます。
以下は国別に全小売売上におけるオンラインの割合をまとめたものです。
(2017年、2018年は予測数値)
※eMarketer社による数値
全米小売業協会(NRF)によると、2016年の11月と12月の2か月間のオンラインによる売り上げは、前年同月比で約13%の伸びを示したのに対し、デパート全体の売り上げは約7%落ちたということです。更に、例年年末商戦の幕開けとして一年で最も売り上が伸びるといわれるブラックフライデーにおいても、昨年は実店舗で買い物をした消費者が約9,900万人であったのに対して、オンラインで買い物をした人が約1億900万人であったということからも、ショッピングのオンライン化がわかります。
① オフプライス店舗の躍進によるモール離れ
4月のメールマガジン「実店舗の栄枯盛衰・・・北米小売企業の最新事情」で特集しましたが、実店舗でも、TJX、ROSS、バーリントン(Burlington)や、ファイブビロー(Five Below)といったオフプライス企業の業績は伸びています。
またオフプライスチェーンの店舗の多くがモール外に出店しており、消費者のモール離れにつながっていると考えられます。
② アンカーテナント(核テナント)の業績不振
今までモールの核テナントとして集客の中心となってきた、メイシーズ(Macy’s)、J.C.ペニーJ.C.PENNY)やシアーズ(SEARS)といったデパートやGMS企業も、上述のオンラインやオフプライス企業の躍進による影響により、かつての集客力を発揮できずに業績不振に陥り、多くの店舗を閉鎖することを余儀なくされています。
モールの複数フロアを占有する核テナント企業の業績は、モール事業の成否を決める最重要事項であり、核テナントの業績不振はモール自体の営業にダイレクトな影響を及ぼします。実際に核テナントの業績不振によるモールからの撤退により、閉鎖に追い込まれたり、ゴースト化しているモールもみられます。
以下のグラフはREIS(商業用不動産情報サービス企業)の統計ですが、2017年の第一四半期のリージョナルモールの空室率は7.9%で、ストリップモール(建物外からのみ各店舗に入店できる形態のモール)は9.9%ということで、高い空室率となっています。
※グラフはREIS (アメリカの商業用不動産情報企業)による
また、核テナント以外でも、かつてモールにおいて集客に大きく貢献していた一般のテナント企業の倒産や店舗縮小も、モール不振の大きな要因となっています。(以下代表例)
*ベベ(Bebe) 女性向けアパレルチェーン、全店(約180店舗)閉鎖
*アバクロンビー・フィッチ(Abercrombie & Fitch) アパレルチェーン、60店舗閉鎖
*ゲス(Guess) アパレルチェーン、60店舗閉鎖
*リミテッド(The Limited) アパレルチェーン、全店(約250店舗)閉鎖
クレディ・スイス社によると、2017年度の全米における店舗閉鎖は、2008年のリーマンショック時の6,163店舗をはるかに上回る、8,640店舗になるであろうとのことです。
※クレディ・スイス社データによる
このように厳しい環境変化の中で、今後もモール生き残っていくための条件として、以下の3点が挙げられています。
①富裕層の住む都心部に位置していること
②ニーマン・マーカス(Nieman Marcus)やサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)といった高級デパートを核テナントとし、主要テナントにも高級小売企業を揃えるAグレードのハイエンドモールであること
③ツーリストに人気のエリアであること
上記の条件をみたした以下の3つのモールが代表的な成功事例として考えられます。
①オキュラス・ウェストフィールド・ワールドトレードセンター (Oculus – Westfield World Trade Center) ニューヨーク
②ラスベガス・ダウンタウン・コンテナパーク(Las Vegas Downtown Container Park)
③マイアミ・ブリッケル・シティセンター(Miami’s Brickell City Center)
いずれのモールも条件を満たしているだけではなく、「都市の中に新たな都市を創造する」というコンセプトで、多くの集客につなげています。
ただ、アメリカのモールの過半数は上記の条件に当てはまらないため、核テナントを従来のデパートやGMSから他の業態(レストラン、スーパーマーケットチェーンやエンターテイメント)に切り替えることで再活性化に取り組んでいます。。総合不動産サービス大手のJLLが発表している事例を一部ご紹介します。
他にも空室となっているモールスペースとパーキングスペースを、オンライン小売りの最終配送(ラスト・マイル)のためのハブ拠点とする動きもあります。
モールにとって厳しい時代ですが、モールの再活性化のための様々な新しい取り組みに、今後も注目をしていきたいと思います。