高校生の探究をサポート
令和6年度の福島地域協働研究拠点(以下、福島拠点)は、地球科学や環境のことなどに興味をもつ福島県立安積黎明高等学校2年生のみなさんの探究をサポートしています。
この記事では、今年度前半、福島拠点の研究者が行った講義のうち3回目と4回目を取り上げ、参加した生徒の学習の様子とともにご紹介します。
過去の活動報告はこちら:
高校生の探究をサポート。講義と対話で環境を考える[安積黎明高等学校「総合的な探究の時間」活動報告①]
第3回 生物多様性と私たちの持続可能な社会
3回目の講義は「生物多様性と私たちの持続可能な社会」というタイトルで環境影響評価研究室の境優主任研究員が担当しました。
「生物多様性」とそれによって支えられている私たちの暮らしについて説明し、なぜ生物多様性が大切なのかを考える講義を行いました。
生物多様性とは、生きものたちの個性やそれらが織りなす生態系も含んだ概念で、動植物の種類が多いことだけを意味しているのではないそうです。
森林の階層構造が発達した自然林は、背の高い木や低い木、草やコケなど複数の層からできています。
これらの多様な植物があることが、餌や住み場所の多様性に繋がり、植物を餌とする消費者や落ち葉や枯れ枝を分解する微生物などの分解者の多様性にもつながります。それだけでなく、降った雨や土自体の急な流出を防ぐ機能もあるそうです。
「多様な種が繋がりあって存在することが、生態系の機能や安定性を高める」と境主任研究員は説明しました。
講義の後、一人の生徒から境主任研究員への質問がありました。
「絶滅危惧種が生息する場所の近くにも再生可能エネルギーの発電施設が建てられているというニュースを観ました。
境さんはこのニュースにどんな考えをもっていますか。」
難しい質問です。
境主任研究員は言葉を選びながら、こんなメッセージを伝えました。
「生物の保全と再生可能エネルギーの発電が軋轢を生まないように、適材適所でそれぞれが成り立つ場所を確保することが大事ですね。
生物多様性を守ることも再生可能エネルギーの活用も、どちらも大切でどちらか一方だけを選ぶものではありません。自然とともに人間社会が成立するよう社会を変えていくことが大切です。
社会課題はいろいろな問題が複雑に絡み合って動くため、あちらを立てればこちらが立たずということがたくさんあります。ひとつの側面から見るのではなく、俯瞰(ふかん)的に捉えて課題解決を目指しましょう。」
講義の後の「調べ学習」の回は講義を聞いて印象に残ったことや考えたことをグループに分かれて話し合いました。
この回では「バイオミミクリー」についての発言が多く見られました。
「バイオミミクリー」とは自然の中にあるメカニズムや、生きものが持つ性質を建築や製品に活かすことだそうです。
一例として、ジンバブエではアリ塚の構造をまねた建築デザインで空気の流れをコントロールすることにより、エネルギー使用量は小さく日差しの強い日中は涼しい建物が作られたそうです。
講義を聴いて興味をもったことについて話し合った後は、それぞれテーマを設定し、深掘りしていきます。深掘りの結果は「対話」の回で共有します。
ある生徒は、地震が起こる前にまるでそれを予測していたかのような行動をとる動物がいることや、初めての場所に放たれても飼い主の元へ無事帰ってきた犬の話から、身近な動物も人間にはない能力や性質をもつことを知りました。
そこで「身近な動物を観察することで環境問題の解決につながる技術のインスピレーションが得られるのではないか」と考えたそうです。
一方、別の生徒は、同じバイオミミクリーの話題から「ドラえもんに出てくるひみつ道具を再現できるかもしれない」と考えたそうです。
新しい考え方に触れ、自分ならどんな活用をしたいか考えてくれたようです。
同じテーマを扱っても、それぞれの生徒の視点はさまざまでした。
対話することで他の人のアイディアを聴き、同時に自分らしい視点にも気づいてくれたのではないかと思います。
第4回 環境と廃棄物—資源循環の繋がり~持続可能な社会を目指して~
4回目の講義は「環境と廃棄物—資源循環の繋がり~持続可能な社会を目指して~」というタイトルで廃棄物・資源循環研究室の田中悠平特別研究員が担当しました。
循環型社会と廃棄物について、郡山市のデータや最新の事例を用いて説明しました。
「循環型社会」とは、「天然資源の消費が抑制され、環境への負荷ができる限り低減された社会」を指すそうです(1)。
「3R」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。もともとは、Reduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)の3つを表す廃棄物・リサイクル対策に関する言葉でしたが、近年では、Repair(修繕)やRefuse(拒否)なども加わり、循環型社会に向けて私たちができることをわかりやすく示しています。
これらは最近できた考え方ではなく、江戸時代の日本にはすでに「古着屋」や「研ぎ屋(とぎや)」など、様々なリサイクル業があり、「原始循環型社会」を形成していたそうです。
現在は廃棄物等のうち有用なものを循環資源と位置づけ、利用を促進することとしています。一方、これ以上再生利用できないものは、ごみの体積や重さを減らす「減容化・減量化」や環境に悪影響を与えないよう処理する「無害化」などを行い、最終処分として埋め立て処理を行います。
このままのペースで最終処分が続くと、2040年頃には最終処分場の容量がなくなるとされています(2)。
環境省の発表によると、郡山市の一人一日当たりのごみ排出量(2022年度)は、3年連続で中核市62市中ワースト1位でした(3)。
これは郡山市だけの特徴ではなく、福島県全体でごみ排出量が多い傾向にあるそうです。
田中特別研究員は「リサイクル率を向上させること、最終処分量を削減することの両方が重要」と強調しました。
この日が夏休み前最後の総合的な探究の時間だったため、循環と廃棄物に関連した夏休みの宿題が出ました。
夏休み明け最初の授業は宿題のひとつである「ごみの組成調査をして、どんな「R」ができるか考えよう!やってみよう!」の結果発表から始まりました。
宿題ではまず、自分の家で1日に出るごみに何がどれくらい(重さ)含まれているか調べてもらいました。
具体的に何がごみとして捨てられているか調べた後は、いろいろな「R」を考え、どのような効果があるか実際に試してもらいます。
ある生徒は「生ごみは水切りをしただけでも80グラム軽くなったこと、マイバッグを持参したことで使わずに済んだレジ袋1枚分が6.8グラムのプラスチックであったこと」や「可燃ごみとして捨てていた靴下も、掃除に使えば捨てる前にも役に立つ」というアイディアを報告してくれました。
夏休みの宿題を通して「ごみの捨て方は生活習慣であり、習慣を変えるには時間がかかる。子どものころからごみを減らす習慣をつけることが重要」と考えたそうです。
これに対して、田中特別研究員は
「使えなくなった靴下を工夫して掃除に使うことはリサイクルの大切な考え方。もしそこで、捨てるはずの靴下を使って靴下よりもっと魅力的なものを作れたら、付加価値が付くかもしれない。ごみになるものを使って、欲しくなるものを作るアイディアも考えてみてほしい。」
と、靴下の端切れを使ったリサイクル品を例として紹介しながらコメントしました。
高校生のみなさんの生活にも深く関わる身近な内容の講義でした。
授業に参加していた高校の先生も郡山市のごみが多い理由について興味津々で、授業後にも質問が続きました。
福島拠点の研究者による講義は全4回開催されました。
この後は、これまでに学んだことをもとに、生徒の皆さんがそれぞれの探究を進めていきます。
あわせて読みたい
参考文献
- 環境省(2001) 循環型社会形成推進基本法.https://www.env.go.jp/recycle/circul/kihonho/law.html(2024年10月23日閲覧)
- 環境省(2021) 令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書.https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/html/hj21020301.html#n2_3_1_4(2024年10月23日閲覧)
- 郡山市のごみ量について(郡山市)https://www.city.koriyama.lg.jp/soshiki/55/40215.html(2024年10月23日閲覧)