2024年度、新しい取り組みがスタート
2024年4月、安積黎明高等学校と福島地域協働研究拠点(以下、福島拠点)の間で新しい取り組みがスタートしました。
今年度は、安積黎明高校の「総合的な探究の時間」の授業時間の中で、地球科学や環境のことなどに興味をもつ高校2年生の探究を福島拠点がサポートします。
総合的な探究の時間と環境カフェふくしま
「総合的な探究の時間」は、2022年度から高等学校で始まった新しい科目です。
探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することを目標としています[1]。
一方、福島拠点と安積黎明高校は、3年間にわたり化学部を中心としたメンバーとともに環境カフェふくしま(※)を開催してきました。
※「環境カフェふくしま」は、環境課題をテーマに対話を通じて、問いを立てる力、質問力、探求力、観察力、理解力などの科学技術リテラシーを身につけることを目的としたプログラムです。
過去の活動内容はこちら:
環境カフェふくしま 記事一覧
環境カフェふくしまが目指した「問いを立てる力、質問力、探求力、観察力、理解力などの科学技術リテラシーを身につける」ことを目的とした手法を取り入れることで、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することを目指す総合的な探究の時間を発展させられるのではないか?
先生方と相談を重ね、一緒にチャレンジしていくこととなりました。
総合的な探究の時間に環境カフェふくしまの手法を取り入れ、それぞれの生徒の「探究」を支援していく新しい協働の取り組みです。
総合的な探究の時間の進め方
プログラムは幅広い知識を身につけ自分の興味のありかを探す前半と、問題を掘り下げ考えを深める後半に分かれます。
プログラム前半は、講義:福島拠点の研究者による講義を聞く、調べ学習:講義に関連したテーマを設定し調べる、対話:調べた成果を共有する、という3回で1セットの授業を繰り返します。
この記事では、今年度前半、福島拠点の研究者が行った講義のうち初回と2回目を取り上げ、参加した生徒の学習の様子とともにご紹介します。
第1回 気候変動と脱炭素社会
2024年度のスタートは「気候変動と脱炭素社会」というタイトルのもと、地域環境創生研究室の五味馨室長が講義を行いました。
「講義」では、気候変動・脱炭素に関する最近の動きを解説しました。
気候変動で日本や世界に何が起こっているのか、脱炭素社会を目指すために私たちは何ができるのか、参加した高校生たちは気になったポイントや大切だと思ったことをメモしながら講義を聞きました。
COP26の成果文書「グラスゴー気候協定」では、「気温の上昇が2℃の場合に比べて1.5℃の場合の方がはるかに小さい。気温の上昇を1.5℃に抑えるための努力を追求する」とされ、世界の平均気温の上昇を1.5℃までに抑えることが世界共通の目標となりました。
なぜ、この0.5℃の差が重要なのか、気温上昇が1.5℃ ではなく2℃だった場合、洪水の影響を受ける人口が70%増え、また数億人の貧困が増えるという予測について五味室長が説明すると、あちこちでメモを取る音が聞こえました。
「調べ学習」の回は、講義を聞いて印象に残ったことや考えたことをグループに分かれて話し合いました。
その後、講義を聴いて興味をもったことの中からそれぞれテーマを設定し、深掘りして調べていきます。
「対話」の回は調べた成果を共有する回です。
講義を聴いて興味をもったトピックについて調べた成果を他の人に伝えることで、新しい知識を自分だけのものにせずグループ全員の新しい知識にします。
自分の成果を報告するだけでなく、聴くことも対話のために大切です。
他の人の報告を聴き、質問や感想を伝えあいます。その中で、新しい疑問が出てきたり、自分では思いつかなかった意見も出てきたようです。
ある生徒は、気候変動で、陸上の生き物だけでなく海の生き物にも影響が出ていると聞き、海の中の生物の暮らしはどう変化したのか、魚の行動の変化に興味をもって調べたところ、静岡ではアジが深海と呼ばれるような深さに移動していることがわかりました。
これを聴いた生徒からは
「サンマがあまりとれなくなっているという話も聞いたことがある。」
「北上する魚と深海に潜る魚は何がちがうんだろう?」
などの感想や質問がありました。
また別の生徒は、世界の平均気温の上昇により、雪が増える地域があることを調べました。
「暖かくなるのに雪が増えるの?」という質問に対し
もともとの気温がすごく低い地域は4~5℃上がったとしても気温が0℃を超えないから雪が増えることや、一気に雨が降って災害になるように、一度にたくさん雪が降って災害が起こるかもしれないといった調べ学習の成果を教えてくれました。
また、「福島は雪が増えるんだろうか?それとも減る?」といった自分たちの生活に繋がる質問も出ていました。
同じ講義を聴いても、興味をもつ部分は皆違いました。 新しい知識を自分だけのものにしてしまうのはもったいない。 グループでの対話が、それぞれの学びを深めてくれました。
第2回 気軽に「哲学」してみよう!
2回目の講義は「気軽に『哲学』してみよう!」というタイトルで地域環境創生研究室の大西悟主任研究員が担当しました。
「問い」を立てるコツを、大西主任研究員の研究テーマである「地域づくり」や「循環型社会」と絡めながら説明しました。
問いを立てるには、大きい課題をときほぐし自分で扱えるサイズの問いにすることが重要だと大西主任研究員は伝えました。
例えば「食べる」という行動に焦点を当てると、地元で生産されたものを地元で消費する「地産地消」、旬の食材を旬の時期に食べる「旬産旬消」、他にもブランド野菜やエシカル消費など、いくつもの切り口があります。
また、問いを立てるコツについて、大西主任研究員の専門である地域づくりの視点から、Googleの関連会社が中心的な役割を担ったカナダのトロントのスマートシティ構想を含む世界各地の特色のある環境都市やまちづくりをからめて紹介した場面では、前のめりにスクリーンに見入る高校生の姿が見られました。
大西主任研究員は最後に「哲学とは言葉にすること。たくさん対話をしてください。対話を通して言葉にする中で、自分なりの問いを見つけてください」とまとめました。
講義の後の「調べ学習」の回は講義を聞いて印象に残ったことや考えたことをグループに分かれて話し合うことから始まりました。
その後、講義を聴いて興味をもったことの中からそれぞれテーマを設定し、深掘りして調べていきます。
深掘りして調べるのも2回目となると、だんだん慣れてきたようです。
「対話」の回は調べた成果を共有する回です。
この日はこんな様子が見られました。
ある生徒は、実際にあるスマートシティ(AIやビッグデータを活用して、新たな価値をつくる町)の取り組みを調べたところ、キャッシュレスや無人コンビニ、自動運転、リモート教育などを導入している都市が多く、バルセロナもスマートシティのひとつであることがわかりました。
ただし、すべてのスマートシティがうまくいっているわけではなく、授業で紹介のあったスマートシティ構想のように、住民の反対などで最終的には中止となった町もあることを報告しました。
その結果「既存の町をスマートシティにするのではなく、新しく町を作って住民を募集したほうがうまくいくのではないか?」という新しい疑問が湧いてきたそうです。
また別の生徒は、ブランド野菜の生産によって地域活性化を目指す事例を調べました。
ブランド野菜の代表的なものには「京野菜」があり、競合商品との差別化によって知名度や競争力を獲得し、増収増益を目指せるそうです。
また、ひとつの農家だけではなく、地域としてアピールできるというメリットもあるそうです。
これを聴いた生徒からは
「ブランド野菜の知名度を上げるためには何ができる?」
「学校の給食に使うと、地元の人にも好きになってもらえると思う」
といったコメントがありました。
お互いに質問をしあうことで、質問をする人もされる人も、新しい知識を得ることができたり自分になかった視点に気づいたりするようです。
講義を聴き、対話の時間をもつことで、自分ひとりで考えていただけではたどり着かなかった知識や視点に気づき、よりいっそう講義の内容に興味をもってもらえたようです。
実は、調べ学習の成果を共有し対話の時間を設けた後、今の彼らにとって興味のあるテーマを書いてもらっていました。
新しい講義を聴くたびに、数人が講義内容に関連するテーマを現在の興味として挙げてくれていました。
福島拠点の研究者の講義が、生徒たちの関心に影響を与えていることがわかりました。
この後、さらに2回の講義を予定しています。
福島拠点にはさまざまな分野の研究者が集まっています。
これから高校生のみなさんにどんな講義をお届けできるのか、企画している私たちもとても楽しみです。