社会全体でどのようにカーボンニュートラルに取り組む?[福島県立ふたば未来学園高校 読書会レポート] | FRECC+(フレックプラス) 福島から地域と環境の未来を考えるWEBマガジン
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社会全体でどのようにカーボンニュートラルに取り組む?[福島県立ふたば未来学園高校 読書会レポート]

ふたば未来学園高等学校での読書会で講義を行いました

2024年5月14日、福島県立ふたば未来学園高等学校で開催された読書会に、地域環境創生研究室の辻岳史主任研究員が参加し「気候変動と脱炭素社会~どのように社会全体でカーボンニュートラルに取り組むか?~」というタイトルで講義を行いました。

辻主任研究員の専門は社会学で、原発事故被災地域のコミュニティに関する研究、自治体の気候変動対策の研究に取り組んでいます。

この日は、課題図書の内容をもとに対話をする読書会を行いました。この読書会は、文献から情報を読み取り理解し、その情報をもとに対話を行うことで新たな視点や理解を得ることを目的としたものです。
課題図書には「未来へ繋ぐ災害対策──科学と政治と社会の協働のために」(松岡俊二ほか著、2022年、有斐閣)のうち、気候変動問題に関する第4章「気候変動災害──災害リスクの認識はなぜ難しいのか(松岡俊二著)」が取り上げられました。読書会に参加する生徒たちは、事前に課題図書を読み込み、自分なりに要約し、考えたことをメモして読書会に臨みました。
読書会には、ふたば未来学園高等学校自然科学ゼミからの参加に加え、私たち福島拠点のメンバーや、課題図書の編集者である出版社(有斐閣)の方も参加しました。

読書会の前半では課題図書の内容と辻主任研究員の研究テーマと関連させながら講義を行い、後半では講義と課題図書から学んだことや考えたことをもとに対話を行いました。

講義では、辻主任研究員が、最新の動向を交えながら、気候変動問題のわかりにくさと難しさ、カーボンニュートラルの推進と地域づくりなどについて説明しました。
辻主任研究員は、気候変動問題は「やっかいな問題」であると指摘しました。「やっかいな問題」とは、何が問題かがはっきりと定義されておらず、解決方法についても合意がされていない問題をさします。また、辻主任研究員は、気候変動問題に取り組むには、さまざまな立場・考え・価値観をもつ人々が集まり「対話の場」=「学びの場」をつくる必要があると強調しました。「対話の場」=「学びの場」で様々な人々が意見を交えることによって、気候変動問題に対して何をすべきか、何を優先すべきかを判断したうえで、それぞれが「納得」する必要があるからです。

課題図書で「さまざまな立場・考え・価値観をもつ人々が集まる『対話の場』」の例として取り上げられていた「気候市民会議」は、日本国内でも開催されているそうです。
講義では、2023年につくば市で開催された「気候市民会議つくば」が取り上げられ、その取組について説明がなされました。

参加者からは、課題図書で出てきた「カーボンニュートラル」などの言葉と、日本国内の具体的な事例である「気候市民会議」とが結びついたことで、気候変動問題が身近なものとして感じられるようになった、との感想をいただきました。
気候変動への認識が国によっても異なることや、気候変動への認識を世界と比較した場合の日本の特徴について、自分自身の考えや周囲の人のことを思い出し、実感をもって納得した様子がみられました。 高校生にとっては少し難しい課題図書でしたが、講義を聞いたことで理解が深まったようです。

課題図書の写真
今回の課題図書「未来へ繋ぐ災害対策—科学と政治と社会の協働のために」(松岡 俊二, 阪本 真由美, 寿楽 浩太, 寺本 剛, 秋光 信佳. 有斐閣. 2022年)

講義のあとは、読書会です。
課題図書に書いてあったことや、読んで考えたこと、辻主任研究員の講義を受けて感じたことについて、少人数のグループで参加者それぞれが自由に発言します。

対話の参加者からはこんな意見が出ていました 。

「日本人の気候変動に対する意識の話が出てきた。学校の研修でドイツに行った時、『なぜ日本人は気候変動問題に興味がないの?』と聞かれたことを思い出した」
「確かに、身近なところで気候変動の話題が出てきたりしない気がする。」
「周りの人も気候変動の話をしていないし、なんとなく同調意識があるかも。周りの人が何か実際の行動をしていれば、自分も考えないといけない、と思うのかもしれない。」
「一人で何かしても効果がないと思ってしまう。やっぱり同調意識があって、周りもしてないみたいだからいいや、と思っているところがあると思う。」
「気候変動はすごく大きな問題だから、自分が一人頑張ってもあまり影響がない気がする。どうすれば自分のこととして考えられるだろう?」

「同調意識」をキーワードに、自分自身の経験や周囲の人たちのことを思い出しながら対話がすすみます。

「課題図書の中に、気候市民会議のメンバーに選ばれて喜んでいる人のコメントがあった。自分だったらあまり喜ばないと思うから驚いた」
「自分だったら面倒だからやりたくないと思う」
「こんな風に喜べるのはなんでだろう?」

新しく知った「気候市民会議」の取り組みや、気候市民会議に参加している人の発言を知り、驚きの表情を見せる人もいました。

高校生の皆さんは、今回の読書会を通して幅広い考えに触れ新たな視点や理解を得たことで、辻主任研究員が強調した「対話の場」=「学びの場」をつくる意義を実感されたのではないかと思います。

読書会での対話を振り返って

この読書会には、ふたば未来学園高等学校からの参加だけでなく、私たち福島拠点のメンバーや、課題図書の編集者である出版社(有斐閣)の方など、幅広い顔ぶれが一同に集まっていました。
初対面の参加者も多い中、参加した生徒さんたちはとても自然体で力まず向かい合っていた姿から、地域や社会と向き合うふたば未来学園の教育活動を感じられ、とても印象的でした。

研究の仕事に興味があるという生徒さんの発言もあり、環境研究を多くの方に知ってもらえるよう、これからも地域とのかかわりを深めていきたいと思います。

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概要

タイトル
ふたば未来学園高等学 自然科学探求ゼミ読書会
気候変動と脱炭素社会~どのように社会全体でカーボンニュートラルに取り組むか?~
開催日
2024年5月14日(火)
対象
福島県立ふたば未来学園高等学校 2学年
参加者
約10人

講師

辻 岳史

福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室 主任研究員

名古屋大学大学院環境学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て、国立環境研究所福島支部(現:福島地域協働研究拠点)に着任。専門は社会学。津波や原発事故の被災地域でフィールドワークを行い、地域で活動するさまざまな集団や組織がどのように関わりながら災害復興を進めるのかを記録・分析している。