研究概要
私たちは、過去の災害から得た経験知を踏まえ、被災地の環境回復や環境創造に貢献できるよう、災害と環境に関する研究を進めています。
福島地域協働研究拠点では、つくば本部や国内外の関係機関とも連携して災害環境研究に取り組んでいます。災害環境研究とは、福島第一原子力発電所事故を含む東日本大震災等の災害から得た経験知を踏まえた、被災地での中長期的な環境影響の実態把握・評価、地域との協働を交えた被災後の環境回復・環境創生のための実践的研究、将来の大規模災害に備えた強靭で持続可能な地域社会構築のための研究等、災害環境学の確立を目指した調査研究です。
第5期の中長期計画では、災害環境研究プログラムにおいてこれまでの取組による成果に基づき、地域ステークホルダーとの協働の下、福島県内における放射能汚染からの環境の修復、影響評価に基づく地域環境の再生・管理と、地域資源を活かした環境創生に資する地域協働型研究を推進していきます。また、過去の災害から得られた経験と知見の集積・活用・体系化により、国内における大規模災害時における廃棄物処理システムの強靭化と化学物質リスク管理に係る非常時対応システムの構築に取り組んでいます。これによって、福島県内の避難指示解除区域等における社会的ニーズに応じた持続可能な地域環境構築を支援するとともに、その成果も活用しつつ、国内の広域・巨大災害に備えた地域社会が有する災害環境レジリエンスの向上に貢献することを目指しています。
災害環境研究プログラム
国立環境研究所では、長年にわたり培ってきた環境研究の蓄積をもとに、2011年3月の東日本大震災の発生直後から国や地方自治体と連携・協働して、様々な被災地支援の災害環境研究を行ってきました。 第5期中長期計画では災害環境研究を一層進め、その研究成果を最大限活用して福島における環境復興へ着実に貢献するため、「地域協働」をキーワードとして、今後5年間で重点的に取り組む災害環境研究プログラムを実施します。具体的には、以下図のような取り組みです。
環境影響・修復研究、環境創生研究、災害環境管理研究 それぞれにおいて2つのプロジェクトを立てて、個別の課題に取り組むととともに、プロジェクト間の連携のみならず自治体・研究機関・民間機関などと連携・協力しながら、総合的な研究活動を推進しています。
福島県内の原子力災害被災地において、地域環境の再生・管理と地域資源を活かした環境創生に資する地域協働研究を進めています。さらに、福島拠点において地域協働を進める体制を整備し、環境復興と持続可能な地域づくりに貢献することを目指しています。また、廃棄物処理システムの強靭化と化学物質マネジメントの非常時対応システムの構築を進めることによって、今後想定される大地震や風水害、原子力災害等に対して強靭性かつ持続性を有する地域社会づくりに向けた自治体等の事前の計画づくりに貢献していきます。
私たちは、研究プログラムにおける取り組みや成果を地域の多様なステークホルダーの方達に向けて発信するだけでなく、彼らが集う対話の場を創り出し、そこから新たな協働研究を展開させていきます。その成果も活用しながら、様々な地域の環境問題の克服に向けたステークホルダー間の目標の共有化を図り、問題解決に向けた具体的な取り組みの実施に対する支援も行っていきます。
環境影響・修復研究
原子力災害からの環境回復に向けた取り組みとして、放射性物質に汚染された廃棄物の処理や、地域バイオマスの利用技術の開発研究(PJ1)と原子力災害地域の里地・里山や河川等を対象に、生態系への放射性セシウムの移行対策や生態系の管理に関する研究(PJ2)を行っています。
PJ1 住民帰還地域等の復興と環境回復に向けた技術システム研究
PJ1では、中間貯蔵施設に搬入された除去土壌等の減容化や再生利用ならびに県外最終処分に向けた技術開発や、豊富な地域資源であるものの放射能に汚染された状態にある木質バイオマスや資源作物等を原料として、エネルギーとして安全に利活用するための技術開発を進めています。
ST1 最終処分に向けた除去土壌等の減容化処分技術システムの開発
浜通り地区等の環境回復と環境共生を目指した技術開発
除去土壌や溶融スラグの有効活用
県外最終処分に向けた技術システム開発とシナリオ評価
安全評価を踏まえた最終処分の姿
ST2 対策地域内等におけるバイオマス利活用技術及びシステムの開発
被災地域の復興に向けた廃棄物処理とバイオマス利活用技術
PJ2 被災地域における環境影響評価及び管理研究
PJ2では、地域資源である山菜や野生キノコ、淡水魚といった自家採取自然食品に対する放射性セシウムによる汚染を低減させる手法の検討も含めた、採取や摂取に伴う被ばくリスクを軽減するための方策や、生息数の増加による獣害の影響が懸念されているイノシシ等野生生物の管理手法の構築にも取り組んでいます。
ST1 里地・里山における放射線被ばくリスクの低減に関する研究
ST2 淡水環境における魚類へのセシウム移行のメカニズム解釈と将来予測
ST3 生態系モニタリングに基づく被災地の里地・里山環境評価と管理手法の開発
環境創生研究
地域資源を活用した環境創生を支援する取り組みとして、地域再生と持続可能な復興まちづくりの評価・解析研究(PJ3)と避難指示解除区域における地域資源・システムの創生研究(PJ4)を行っています。
PJ3 地域再生と持続可能な復興まちづくりの評価・解析研究
PJ3では、地域が再生する過程を定量的に分析し、それに基づいた将来シナリオの構築手法、および復興が進む地域における環境に配慮したまちづくりの支援手法を開発し、実際に適用することを目指します。原子力災害の被災地の復興と持続可能な発展の支援を目標に研究を実施していきます。
PJ4 避難指示解除区域における地域資源・システムの創生
PJ4では、浜通り12市町村を主な対象地域として、脱炭素も考慮した新たな地域社会システムの創生に資する取組として、原子力災害の影響を受けたバイオマス等の地域資源や生態系サービスを安全に利活用する技術の導入を、地域の特性やニーズの分析結果に基づいた地域の関係者との対話と協働によって目指しています。
ST1 地域資源 持続的な地域資源の利活用
- 放射性物質Cs生物移行調査
- 生物多様性調査
- 地域資源利用調査
ST2 地域社会システム 地域再生のためのシステム創生
災害環境管理研究
将来の災害に備えた環境管理の取り組みとして、広域・巨大災害時に向けた地域の資源循環・廃棄物処理システム強靭化研究(PJ5)と緊急時に備えた化学物質のマネジメント戦略に関する研究(PJ6)を行っています。
PJ5 広域・巨大災害時に向けた地域の廃棄物処理システム強靭化研究
PJ5では、巨大災害時における災害廃棄物処理に係る平時とのシームレスなガバナンスシステムとその実装を支援するツールを構築します。それにより、事前復興計画の理念を踏まえた具体的な再生資源の利活用技術・社会システムの提示を目指しています。
PJ6 緊急時に備えた化学物質のマネジメント戦略
PJ6では、災害を含めた突発的事故に対処する情報基盤とリスク管理対応体制の構築に加えて、それら発災による化学物質の影響を迅速且つ的確に把握するための包括的調査手法を開発します。それにより、リスクに対処する科学的手法と将来的な化学物質の管理システムの方向性を環境施策に提示することを目指しています。