令和元年度 環境月間講演会 当日レポート | ねり☆エコ 練馬区地球温暖化対策地域協議会
区民・事業者・練馬区等がともに地球温暖化防止をめざす

令和元年度 環境月間講演会 当日レポート

自分でできるCO2の削減~私たちの生活と地球温暖化の関係~

日時:6月2日(日)10時~正午
会場:練馬区役所本庁舎アトリウム地下 多目的会議室
定員:100名(申込順)

概要


講演会全体の様子

ねりねこ☆彡・ねりこんvvも
来場者をエスコート

参加記念品

 令和元年6月の環境月間講演会「自分でできるCO2の削減〜私たちの生活と地球温暖化の関係」を開催しました。当日は、朝から蒸し暑い一日となりましたが、会場の入口では、マスコットキャラクターのねりねこ☆彡・ねりこんvvが元気に出迎え、80人の参加者が集まり盛況となりました。

 「自分でできるCO2の削減〜私たちの生活と地球温暖化の関係」をテーマに、国立環境研究所の金森有子さんから、地球温暖化対策の最新動向から、家庭でできる省エネの実践方法などを、具体的に解説していただきました。また、事前に寄せられた質問にも丁寧に回答され、なかでも地球温暖化について「言葉は皆知っています。自分の問題だと知ったら、慌てて行動するはずです」「人に流されるのではなく、自分の意見を持って意思表示して欲しい」というメッセージは、胸に熱く響いたのではないでしょうか。

 講演終了後には、参加者から「身近なことから即実行します!」という決意表明や、「電気の付けっ放しの子どもたちに対し、すぐに忘れてしまうからとあきらめるのではなく、なぜ必要なのかと常に問いかけ、大人が見本となるように私自身の意識づけもやっていきたい」などと、語ってくれました。

 会場の後方では、第8回こどもエコ・コンクールの最優秀作品が展示され、多くの来場者が熱心に眺めていました。また、アンケートに答えていただいた方全員に、「マイクロミストシャワー」をプレゼントし大変好評でした。

主催者あいさつ


横倉 尚 会長

ねり☆エコ 横倉 尚 会長

 毎年6月5日は世界環境デイで、6月は環境月間です。今日は国立環境研究所の金森有子先生に、我々の家庭でどんなことをすればCO2削減に寄与できるのかという話を中心に、世界全体の最新の地球温暖化の現状や取り組みの話も含めてお話ししていただきます。

 ご案内のように、練馬区内で排出されるCO2の排出の状況をみますと、一番の排出源は家庭部門で全体の約5割を占めています。日本全体でみますと家庭部門が2割程度ですから、工場が少なく住宅の多い練馬区では、家庭部門からの排出量が圧倒的に多いことがわかります。温室効果ガス削減の目標達成のためにも、我々が日常生活の中でCO2の排出量を減らすことが極めて重要であります。

 世界全体をみれば地球温暖化は、我々の予想以上の規模とテンポで進展しております。ぜひ今日の話を参考に、我々の身の回りでできるCO2削減の努力をこれまでに引き続いて継続していただきたいと願っています。

講演「自分でできるCO2の削減~私たちの生活と地球温暖化の関係」


金森 有子 氏

講師:国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員 金森 有子 氏

【プロフィール】国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員。東京工業大学特定准教授併任。家庭からの環境負荷発生量推計モデルに関する研究を行う。アジア太平洋統合評価モデルチームの一員。

 地球温暖化に関する研究はたくさんありますが、私は家庭がどれくらいのCO2を排出するのか推計するモデルを作っています。

 今日はタイトルに「私たちの生活と地球温暖化の関係」と書きましたけれども、そもそも地球温暖化問題とはどういう問題なのか、どんなことが起きているのか、ということも含めてご紹介したいと思います。

 前半は地球温暖化問題とはどういった問題なのかについて説明し、気候変動、地球温暖化を巡る国内外の状況などを紹介します。後半は、日本の家庭部門における温室効果ガス排出の動向と、本当に排出削減ができるのかということをお話しします。最後に、地球温暖化問題の緩和に向けて、私たちは何ができるのかということをお話ししたいと思います。

 地球温暖化問題について、気象庁のホームページに掲載されているものがよくまとめられているので、ご紹介します。
気象庁HP]※紹介されたリンク先のページが終了しました。[当日の資料はこちら(PDF)]の3ページをご参照ください。

 地球温暖化とは、地球規模で気温や海水温が上昇し氷河や氷床が縮小する現象です。平均的な気温が上昇し、異常な高温、大雨・干ばつの増加などの様々な気候の変化を伴っています。その影響は、桜の開花が早まるといったことでも感じますし、水資源や農作物への影響を介し、人間社会にもすでに影響が出始めています。

 残念なことに、将来、地球の気温は今よりもさらに上昇することが予想されています。そして、水、生態系、食料、沿岸域、健康などでより深刻な影響が生じると考えられています。これら地球温暖化に伴う気候の変化がもたらす様々な自然・社会・経済的影響に対して、世界各国との協力を構築し、解決策を見い出していかなければなりません。これら全てをひっくるめて地球温暖化問題と言われています。

 皆さんからいただいた質問の中に、「地球規模の気候変動、氷河期・温暖期との関係を教えてください」というものがありました。


資料1

 気候変動については、過去にも温かくなったり寒くなったりした時期があり、現在の気温上昇は人為的なことが理由ではないのではないかという意見があります。そこで、こちらのスライドを準備しました。(資料1)

 私ども国立環境研究所では、地球温暖化に関して素朴な質問をまとめた「ココが知りたい地球温暖化」というシリーズを発表しています。幅広い分野の質問と回答が公開されています。そのQ14に「寒冷期と温暖期は定期的に繰り返しており、最近の温暖化傾向も自然のサイクルとして見る方が科学的ではないのですか。また、もうすぐ次の寒冷期が来るのではありませんか」という質問があります。

 専門家からの回答は、「過去に氷期と間氷期がほぼ周期的に繰り返されてきました。この気候変動は、主として地球が受け取る太陽エネルギー量(日射量)の変動に起因すると考えられています。しかし、20世紀後半からの温暖化は、日射量変動のみでは説明できず、大気中の温室効果ガス濃度の人為的な増加が主因であることがわかっています。また、2万~10万年スケールの日射量変動は理論的に計算でき、日射量変動による将来の氷期が今後3万年以内に起こる確率は低いと予測されています。近い将来に寒冷期が始まるとは考えられていません」

 これは、回答の概要部分です。もっと詳しい回答を知りたい方は、ホームページを直接ご覧ください。
ココが知りたい地球温暖化 Q14


資料2

 地球温暖化問題は、様々な立場の人がいることを考える必要があります。(資料2)

 日本より貧しい状況にある国の人たちが、生活をもっと良くしたい、彼らが発展するためにエネルギーをもっと使いたいと考えることを否定することは、誰にもできないと思います。

 そもそも、エネルギーを利用することで人々の生活が豊かになることは明らかなので、そのことが絶対悪だと言い切れる人は非常に少ないと思います。ただ、残念なことに、特に化石燃料由来のエネルギーを利用すると、地球温暖化問題の主要因であるCO2を排出することになります。「地球温暖化問題で誰が影響を受けるのか」というと、地球上のほぼ全ての人が、CO2の排出者であると同時に、地球温暖化の影響を受ける被害者になりえます。


資料3

 ここで問題になるのが、CO2を多く排出する人・地域もあれば、少ない人・地域もあります。気候変動の影響を強く受ける人・地域もあれば、あまり強く受けない人・地域もあります。こうした問題に対し、あまり温室効果ガスを排出していない人・国は、過去に多くの温室効果ガスを排出してきた国の責任や、今後多く排出することが予想される国への対策を訴えます。先進国はこれまでの経済成長の過程で多く温室効果ガスを排出してきたので削減に同意する国がほとんどですが、今後多く排出することが予想される国が「どこまで排出していいのか」「過去の排出量が少ないから削減対策をしなくていいのか」という議論も起きます。(資料3)

 先進国と途上国、影響を受ける国とそうでない国、対策への資金を出せる国と受け取る国、様々な立場からそれぞれの主張をするので、地球温暖化問題は非常に複雑になっています。


資料4

 気候変動問題を巡る、ごく最近の国内外の状況をいくつか紹介したいと思います。(資料4)


資料5

 2015年12月にパリ協定が採択されました。ニュースでも大きく取り上げられたのでご存知かと思います。パリ協定が発効されたのは約11か月後の2016年11月でした。(資料5)

 日本も締約国の一つですから、2016年11月に締約国になったと思われるかもしれません。実は、日本はこのタイミングに間に合わず、約1か月遅れの12月から締約国になりました。日本は締約国になることを迷っていたわけではありません。ただ、ヨーロッパや途上国が非常に素早く国内手続きを進めたため、日本は間に合わなかったという事情があります。遅れたことがいけないわけではありませんが、環境に携わる人間としては「残念だな」と思ったことを覚えています。

 パリ協定ができ、地球温暖化問題が良い方向に進むのではと期待していたら、約半年後の2017年6月にアメリカのトランプ大統領がパリ協定から離脱するという発表をしました。これも非常に大きくニュースで扱われました。2018年10月にはIPCCが1.5℃特別報告書を発表しました。それまで気候変動に関する議論では「気温上昇を2℃に抑える」のが、あまり甚大な影響が出ず、目指すべき目標とされてきたのですが、「2℃上昇と1.5℃上昇の影響は異なるものも結構ある」という結果がIPCCの1.5℃特別報告書で示されました。

 2018年12月に開催されたCOP24ではパリ協定をどのように進めていくのか、つまり実施ルールが一部を除き採択されました。同じ2018年12月に国内においては気候変動適応法が施行されました。

 今まで気候変動問題は、温室効果ガスをどの程度まで減らせるのかについて高い関心が集まり、それに関する法律は既にありました。しかし、「気候変動問題に対してどのように適応するか」も非常に重要であることから、今回法律として施行されました。これは国内の非常に大きな動きのひとつです。そして、2019年4月にパリ協定に基づく成長戦略として、長期戦略策定に向けた懇談会の提言が発表されました。

 このうちのいくつかを細かく説明したいと思います。

 パリ協定は、歴史的な合意だとされています。まず、「産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満に抑える」という長期目標が定められました。さらに長期目標を達成するために温室効果ガスの排出量を、「できるだけ早くピークアウト」し、「今世紀後半に、人為起源の温室効果ガス排出を正味ゼロにする」と明確に書かれたことが、大きな意味を持ちます。これらの目標を達成するための世界全体の進捗状況の確認、資金、技術メカニズムの設置などが書かれています。

 特に「長期目標達成に関する世界全体の進捗状況の確認」については、各国が責任を負うことになっています。5年ごとに、国ごとに削減の目標を掲げ、常に見直し、前期に提出したものよりもさらに進んだ、すなわち、より厳しい排出削減目標を出し続けることが求められます。次の約束草案の提出時期は2020年です。


資料6

 約束草案は、NDC(Nationally Determined Contribution)と英語で書きます。これは自国が決定する温室効果ガス削減目標と、目標達成のための緩和努力のことです。これ以前には、各国が自主的に決定する約束草案であるINDCがありました。自主的とはいえ、190か国が作成しました。約束草案は、どの国がどういう目標を決めたのか、英文で全て見ることができるので、関心があればご覧になってください。(資料6)
各国のINDCの内容(英語サイト)

 日本が自主的に決定した約束草案の内容は、新聞などで大きく取り上げられました。ここでクイズを出します。

 日本の約束草案で示された温室効果ガスの削減目標はどれでしょうか?

「2030年のエネルギー起源CO2の排出量を、2013年度比で◯%削減する」

 ◯%の部分を、皆さんは覚えていらっしゃいますか。簡単にいうと2013年に比べて、2030年に日本はどれくらいCO2を減らしますか、ということです。

①15%
②20%
③25%
④30%

 手を挙げてください。①の15%は少ないですね。②③④はだいたい同じくらいでしょうか。


資料7

 答えは③の25%です。(資料7)

 この問題ではエネルギー起源CO2の削減目標を示しましたが、温室効果ガスの削減目標は26%になります。この削減目標を達成するために、様々な部門で2030年度の削減量の目安が発表されています。産業部門は6.5%の削減、運輸部門、エネルギー転換部門は28%の削減、業務部門や家庭部門は約40%の削減となっています。


資料8

 さて、世界中で出されている約束草案の削減目標値の合計値は、気候変動は危険水域に達することなく大きな影響は出ないレベルなのでしょうか。残念ながら、全然足りません。(資料8)


資料9

 「気温上昇を2℃あるいは1.5℃上昇に留めるという目標に対して必要とされる温室効果ガスの排出量」と、「全ての約束草案に示された努力目標の排出量合計値」の差を「排出ギャップ」と言います。毎年発表されている「Emissions Gap Report」には排出ギャップがどれくらいなのかが示されています。温度上昇を2℃に抑えたければ、13〜15Gt(ギガトン)CO2ギャップがあります。温度上昇を1.5℃あるいは2℃に抑える目標の達成には、まだ非常に大きなギャップがあることがわかります。(資料9)
Emissions Gap Report 2018


資料10

 パリ協定に関連して、「アメリカのパリ協定離脱の影響はどうなるでしょうか」という質問がありました。実際どの程度の影響がでるのかについては、定量的にはわかりません。(資料10)

 アメリカの協定からの離脱は発表してすぐにできるものではありません。離脱の手続きは協定発効時から3年後の2019年11月4日以降に脱退を通告でき、その1年後に離脱が完了するというルールが協定で決まっています。アメリカがこれに従うとすると、最速で2020年11月4日に離脱が完了する可能性はあります。一方、次のアメリカ大統領選はその一日前の11月3日です。トランプ大統領が宣言した通り離脱するのか、今のところ状況が読めません。この問題については、アメリカ国内からも離脱に反対する声が多く、個々の企業や自治体は独自の温室効果ガス削減目標を設定し公表しています。野心的な目標を設定したケースもあり、アメリカの協定離脱の実質的な影響はさほど大きくないのでは? という楽観的な見方もあります。アメリカが今後どう動くのか、この先も注視する必要があることに変わりはありません。

 次に、「IPCC1.5℃特別報告書」について説明します。


資料11

 これは、産業革命以前の世界の平均気温から1.5℃上昇した場合の影響と、そこに至る温室効果ガスの排出経路を把握し、評価した報告書となっています。(資料11)

 皆さん、地球温暖化がどれくらい進んでいるかご存知ですか?

 実は、2017年時点で産業革命以前の世界の平均気温から、すでに約1.0℃上昇しています。1.5℃上昇に抑えるためには、あと0.5℃の上昇しか認められません。現在の度合いで温暖化が進行すれば、早ければ2030年から、遅くとも2052年の間に「1.5℃上昇する可能性は高い」と、報告書で示されています。


資料12

 また、報告書では1.5℃上昇の場合と、2℃上昇の場合では、生態系や人間システムへのリスクがどの程度異なるかにも着目して予測しています。(資料12)


資料13

 他にも、

  • 産業革命以前からの気温上昇を1.5℃に抑えるための温室効果ガス排出削減経路について、経済成長や技術の進歩、生活様式などを幅広く想定して導出。
  • 1.5℃上昇に抑えるモデル排出経路によっては、CO2排出量を2030年までに2010年度比で約45%削減、2050年前後には正味ゼロに達する必要があると示唆。
  • 2℃上昇のケースでも、2030年までに約20%削減、2075年前後に正味ゼロにする必要があると予測。

とあります。(資料13)

 さらに、現状の温室効果ガスの削減に関する国別目標では、「たとえ2030年以降の排出削減の目標をさらに引き上げたとしても、1.5℃に抑えることはできないだろう」と報告書に書かれています。


資料14

 温暖化を1.5℃に抑えるためには、国や地方自治体、市民社会、民間部門、先住民族、地域コミュニティの気候行動の能力を強化することが重要だとも書かれています。国際協力も、非常に重要な成功要因であると強調されています。(資料14)


資料15

 次に、国内で2018年12月に施行した「気候変動適応法」について説明します。(資料15)

 この図は環境省のホームページで気候変動への適応を説明しているものです。
出典:環境省HP「気候変動への適応」


資料16

 いただいた質問に、「太平洋海洋諸島の21世紀末の存続はあり得るのか?」というものがありました。(資料16)

 気候変動による影響、適応、脆弱性等の最新の研究者の知見についてまとめたものが、「IPCC第5次評価報告書」です。英文で書かれていますが、わかりやすくまとめて日本語訳にしたものを環境省が出しています。詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
環境省HP


資料17

 ご質問の答えですが、「存続する可能性は残っています。ただ、様々なリスクに直面していて、高い確率で今よりも暮らしづらい状況になっているだろう」というのが回答になるかと思います。(資料17)


資料18

 日本では「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」が2019年4月2日に提言を発表しました。この中で、戦略的に盛り込むべき特に重要な要素として「野心的なビジョン」「イノベーションの実現」「世界の脱炭素化努力への貢献」などが示されています。また、2050年までに温室効果ガス80%削減という数値目標が示されています。イノベーションの実現については、水素、CCS・CCU、再生可能エネルギー、蓄電池といったキーワードが示されています。(資料18)


資料19

 「CCS、CCUの動向について教えてください」という質問もありました。二酸化炭素を回収して、どこかに貯めるというのがCCS:Carbon dioxide capture and storage 「二酸化炭素回収・貯留」技術です。CCUは、その回収した二酸化炭素を利用しようというもので、Carbon dioxide Capture, Utilizationの略です。(資料19)


資料20

 日本では、「2020年あたりCCS技術の実用化、商用化」という目標を過去の計画で定めています。また、2014年度から環境省と経産省により、貯留に適した場所を探す事業が始まっています。CCS、CCUというものは、技術があればすぐに始められるものではありません。CCSの課題は、コスト削減のための技術開発の継続的な実施をしなければなりません。現在はどこにどれくらい貯められるかという調査は進めていますが、なかなか適した場所が見つかっていません。CCSの現実的な実施には、「経済的かつ安全」が大きなポイントだと思います。CCS導入のための仕組みや法制度の整備について、皆さんの理解を深めなければなりません。(資料20)

 CCUについても、技術はいくつかあるようですが、経済的な合理性や温暖化対策として十分な量のCO2を利用できるのかといった課題、また、利用するのは良いが、その際にエネルギーを使うので、本当にCO2の削減になるのかという課題もあるようです。CCSは未来の期待できる技術として取り上げられますが、安全面の課題について、今後の動向を見守っていく必要があります。

 前半の最後に、世界で見られる動きの1つをご紹介します。


資料21

 温暖化問題に対して積極的に取り組んでいる国、都市については、カーボンニュートラル連合を作り、温室効果ガスの排出量を2050年までにゼロにするという宣言をしています。参加しているのは19か国、32の都市です。(資料21)
(コロンビア、コスタリカ、エチオピア、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、イギリス、カナダ、デンマーク、スペイン、マーシャル諸島、ニュージーランド)

 ここには日本が入っていませんが、日本も頑張って温室効果ガスの削減を進めていけたらと良いですね。

 気候変動問題を数字で見ていきたいと思います。


資料22

 世界の温室効果ガスの排出量は増加しています。(資料22)


資料23

 国別温室効果ガスの排出量の変化です。中国が最も排出量が多く、世界の4分の1以上です。次いでアメリカが15%、インドは経済成長が著しいですがまだ6.4%です。(資料23)


資料24

 質問に「発展途上国の経済成長により、今後の排出量はどのように変化するのか。それが地球温暖化に与える影響はどの程度のものか?」というものがありました。(資料24)

 将来のCO2排出量は「シナリオ」を作り、様々な仮定・前提を行い推計します。シナリオとは、将来の社会、経済、環境などの状況を表したものです。気候変動問題における有名なシナリオはIPCCによって発表されたSSPs(Shared Socio-economic Pathways)というものがあります。シナリオによって、人口、社会の状況、経済成長のスピード、技術の進展レベルなど全てが異なります。どのようなシナリオを設定するかにより、温室効果ガスの排出量の推計結果が異なります。質問への回答は無数にあるため、ズバリ回答するのは難しいです。


資料25

 研究成果の1つをお見せします。これは私たちの研究グループであるAIMのAIM/CGEという経済モデルを用いた分析で、約束草案の分析を行ったものです。温室効果ガスの排出量は何も対策をしなければ増加し続けます(青線)。気候を安定化するためには、オレンジで示したような排出量に収める必要があります。アジアの結果を見ると、2050年以降にアジアの人口が減少するため、アジアの排出量は何も対策をしなくても横ばいになり、世界に占める排出量のシェアは徐々に低下する傾向であることがわかります。(資料25)


資料26

 また、「世界各国で取り組まれている地球温暖化対策の中で、日本としてアピールできることは何か?」という質問がありました。(資料26)

 日本では古くからエネルギー効率の良い機器が作られ、普及してきました。その結果、日本のストックベースの機器のエネルギー効率は良いものとなっています。気候変動問題への対応の流れで、海外でも高効率の機器の製造・販売が進んでいるため、ストックベースでも世界が日本のレベルに追いつき始めていることが予想されます。

 ここでちょっとした質問をします。


資料27

 これは、家庭の電気使用量を表したグラフです。(資料27)

 このグラフを見て「皆さんのご家庭の電気使用量と比較できますか?」というのが質問です。

 「比較できる」方は、どれくらいいらっしゃいますか?

(会場から手が挙がる)

 素晴らしいですね。
 このグラフは使用量ですが、「電気代で示してくれれば、比較できるかも!」という方はいらっしゃいますか?

(手が挙がる)

 けっこう、いますね。
 「家での使用量なんて、皆目見当がつかない」という方もいるかもしれませんが、できれば使用量で比較できるようになっていただければと思います。電気代は価格の変動によって変わってしまうからです。使用量は正確に覚える必要はなく、毎月これくらいの数字だったな、ということを覚えていただけたらと思います。


資料28

【Think globally, Act locally】
 環境にたずさわる人でしたら、誰もが一度は耳にしたことのある言葉だと思います。考える時は、広い視野を持って考えましょう、でも、身近なことから行動しましょう、という大変有名な言葉です。(資料28)

 皆さんにとって身近なこととは、家庭のことや、自治体くらいまでではないかと思います。できれば自分の家での取り組みを行うには、まずは自宅のエネルギー消費量を把握して欲しいです。お帰りになったら、お手持ちの検針表の結果を確認してみてください。


資料29

 これは日本の温室効果ガス排出量の推移を示したものです。(資料29)

 産業部門の排出量は、減少傾向にあります。運輸部門の排出量もかつては増加していましたが、今は減少傾向です。家庭部門は、最近まで排出量が増加し続け、やっとこの数年微減していましたが、残念ながら最新の結果は前年と比較して微増となりました。


資料30

 家庭部門の排出量だけを取り出したのが、このグラフです。(資料30)

 エネルギー消費量は「明らかな減少傾向がみられる」状況には、なっていません。

 2011年以降CO2排出量が大きく伸びたのは、東日本大震災の影響です。震災後に原子力発電所を止めて、石炭火力発電やガス火力発電の割合が増えたことで、CO2排出量が増加してしまいました。最近は少し減少していますが、その傾向が止まりつつあるのは、非常に残念だと思います。CO2排出量の増減は、社会・経済の変化を受けることから、今後の傾向を注視したいです。


資料31

 家庭のエネルギー消費量とCO2排出量の変化要因を整理してみます。まずは「人口・世帯構造の変化」が与える影響を説明します。日本では人口は減少していますが、世帯数は増加しています。つまり、一世帯あたりの人数が減っていて、一人暮らしや二人暮らしが増えているということです。一つの家に大人数で住む場合でも、少ない人数で住む場合でも、冷蔵庫やテレビなど、主要な家電一式をそろえます。このため少ない人数で住む場合、大人数で住むよりも家庭内のエネルギーの効率は悪くなります。エネルギー消費量の増加要因としては、「機器の増加」があります。「そんなに増えたかしら?」と思うかもしれません。例えば、温水洗浄便座をお持ちの方も多いと思いますが、ここ10年、20年で急速に普及し、かつエネルギー消費量にそれなりに影響を与えている家電の1つです。また、例えば、テレビは「大型化」が進んだことを実感している方も多いと思います。この「機器の大型化」もエネルギー消費量の増加要因です。一方、減少要因としては、「機器の高効率化」が挙げられます。今までより少ないエネルギー消費で機器が稼働するということです。増加要因にも、減少要因にもなりうる要因として、「多様なライフスタイル」があります。環境に配慮した生活に切り替えた方がたくさんいます。一方で、それぞれの生き方を大切にしようという社会の流れから、家族の活動時間がバラバラになり、エネルギーを24時間使う家やエネルギー多消費型の趣味を持つ人もいます。多様なライフスタイルを認めることは必要ですが、エネルギーの面からみると、良いほうにも悪いほうにも影響しています。(資料31)


資料32

 電気のCO2排出係数の変化も、CO2排出量の増える、減るということに、大きくかかわります。CO2排出係数とは、1単位のエネルギーを使用する(燃焼する)際に発生するCO2の量を表します。「灯油やガスを1単位使ったらCO2はこれくらい出る」という関係を計算するために使うのが、CO2排出係数です。データは常に更新され、環境省から毎年発表されていますので、ご覧ください。(資料32)

 灯油やガスのCO2排出係数はほとんど変化しませんが、電気のCO2排出係数は年により変わります。電気は家庭で使う時にはCO2は発生しませんが、電気を作る時にCO2が発生します。CO2の排出量は、発電方法により違います。石炭で発電、石油で発電、ガスで発電の場合は、CO2が多く出ます。水力発電や太陽光発電の場合は、CO2は出ません。原子力発電でもCO2は出ません。これらの組み合わせによって、私たちの電気は作られています。

 以前は、原子力発電が多く使われていたので、近年の排出係数はもっと低い値でした。東日本大震災で原子力発電を止めたことにより、係数が大幅に増加してしまいました。容易に原子力発電の稼働を再開すべきと言える状況ではありませんが、CO2排出係数に大きく影響したことは事実です。


資料33

 家庭でのエネルギー消費の特徴を紹介します。まず、地域により家庭で使用するエネルギーの種類が異なります。(資料33)

 今日は練馬区での講演ですから、関東甲信地方のデータを示します。関東甲信地方では、家庭で消費するエネルギーの約半分が電気です。次に多く消費されるのが都市ガスで、灯油やLPガスの消費割合は小さいです。北海道や沖縄を、極端な例として挙げてみました。北海道はそもそも使っているエネルギー量が非常に多いです。最近、北海道がとても暑いことがニュースになりましたが、基本は寒く涼しい地域ですので、エアコンのない家も多いと聞きます。逆に冬は部屋を暖めるのに非常に多くの灯油を使います。関東とエネルギーの使い方がまったく異なることがわかります。

 逆に、沖縄は非常に暑いところですから、エアコンを使う期間が長いです。冬は、それほど寒くならないので、部屋を強く暖める必要がありません。そのため関東よりもガスや灯油の割合が少なくなります。全体としてエネルギー消費量も関東の3分の2くらいで済んでいます。

 エネルギー消費量のもう一つの特徴は、何のためにエネルギーを使うのか(用途)ということです。家庭のエネルギー消費の用途は大きく5種類、「暖房」「冷房」「給湯」「厨房」「その他動力」があります。厨房は、調理でガスコンロを使う時のエネルギー消費、その他動力は、テレビや冷蔵庫、照明などの主に電気機器を動かすために使われるエネルギー消費と理解してください。


資料34

 関東では、給湯で4割程度のエネルギーを使い、暖房が2割、調理をする時のガスコンロを使うのに6%、様々な家電を動かすのに3割、冷房は2%となっています。一方、北海道では、暖房が半分を占め、沖縄では暖房がほとんどなくなります。エネルギー消費量の特徴は、地域によって大きく異なることがわかります。(資料34)

 では、世帯によるエネルギー消費は皆同じなのでしょうか。関東に住んでいる人は、みんな同じ使い方をしているのでしょうか。


資料35

 もちろんそんなことはありません。現実の数値も見てみましょう。(資料35)

 この図は環境省の「家庭からの二酸化炭素排出量の推計に係る実態調査」より作成したものです。これは北海道の二人以上の世帯を対象にした2015年6月の電気消費量をグラフにしたものです。見てわかるように、同じ6月でも、消費量の小さい世帯から大きい世帯まであります。このうち3人世帯を調べてみると、最もエネルギー消費量が小さい家庭は1か月に70kWhしか使っていませんでした。一方、最もエネルギーを使う家庭は、1,192kWh使用しており、使用量に17倍も差があるということがわかりました。家の大きさや住まい方など条件によってもエネルギー消費量が異なるのは当然ですが、生活スタイルによって「エネルギーの使い方がだいぶ違う」ということが理解していただけたと思います。


資料36

 家庭部門におけるCO2の削減ですが、先ほど説明したように2013年度比で2030年に39%削減する目標となっており、2030年以降はもっと減らす必要があります。(資料36)


資料37

 家庭部門のCO2排出量の推移をみていると、そこから2030年までに39%減らすには大変なことがわかります。2030年まで残り11年ほどしかありません。私は研究者なので本当にこの目標が達成できるか計算してみました。(資料37)

 色々な仮定をしたので、絶対に目標が達成できるかどうかは言えませんが、一応、様々な努力により削減目標を達成できるという結果を出すことができました。

 まず、2030年に向けて人口や世帯が減少します。また、機器のストック効率が良くなり、機器のシェアも変化することも想定しています。

 ただ、この変化だけでは、CO2排出量は減少しますが、削減目標を達成することができません。(左から2番目の棒グラフ)

 さらに省エネ型のライフスタイルを取り入れることで、2030年に39%の削減目標が達成できるだろうと推計しました。ただし、一つ重要な仮定をしています。先ほどCO2の排出係数の説明の際に、原子力発電を止めたことにより、CO2排出係数が現在非常に高いものとなっていることを説明しました。電事連(電気事業連合会)では、2030年にCO2排出係数を0.37kg/kWhに下げるという目標を出しており、この目標を用いた計算結果です。

 この電事連の目標値が本当に達成できるかは、現時点ではわかりません。一つ言えることは、「排出係数が下がり、機器効率が確実に良くなり、さらに私たちが生活の仕方を見直さないと、この目標は到底達成できない」ということです。


資料38

 ちなみに2050年についても推計しました。国には温室効果ガスの80%削減という目標があるので、ここでは家庭についても80%削減を目標値として計算しました。(資料38)

 まず左の3本のグラフを見てください。

 電気の排出係数が、電事連の2030年の目標値のまま変わらなければ、2050年に60%削減くらいが可能であることがわかりました。もし、電気の排出係数について、何らかの新しい技術により大幅に下げることができれば、家庭部門でもCO2が大幅に削減できるかもしれないこともわかりました。


資料39

 さて、家庭でCO2排出削減目標を達成する際に幾つか懸念があります。その一つは、「高齢化社会の進展」です。高齢の方は若い方に比べ在宅時間が長く、家にいてテレビを長くご覧になる傾向が統計からも明らかになっています。(資料39)

 「在宅時間が長い」ということは、家庭の中においてはCO2排出量が多くなってしまうということです。加えて、高齢の方は機器の買い替え意欲が低いということが、実際の統計からも明らかになっています。

 図は、使用する家電機器が購入から何年経ったものか表したものです。

 テレビ、エアコン、冷蔵庫を挙げています。

 左の方ほど古いものを使っている、右が新しいものを使っていることを表しています。高齢の方ほど、古いものを多く使っているということがわかると思います。「古いものを長く使うことは悪いことですか?」という質問への回答は非常に難しいです。古いものを丁寧に長く使うことは廃棄物の発生抑制の観点からはとても良いことです。ただ地球温暖化の問題を考えれば適切に買い替えられることでエネルギー効率が改善します。廃棄物の研究者と話しましたら、目安として10年使ったら、エネルギー効率の良いものに「買い替えてもいいのではないか」といわれました。非常に古い家電をお使いであれば、買い替えを検討していただきたいです。


資料40

 次に経済格差が広がっていることが、温室効果ガスの排出削減目標の達成に悪影響を与えないか心配しています。低所得の世帯が増加して、高所得の世帯が減少しています。低所得世帯の人も色々機器は持っています。しかし低所得であるが故、買い替え意欲が下がり、高効率で高価な製品よりも、安くてエネルギー効率の低い製品を買ってしまう可能性が否定できません。一方で、低所得の場合、あまり多くの機器を購入できず、そもそもエネルギー消費量が少ない可能性もあります。経済格差が温室効果ガスに与える影響の度合いは正直よくわかりません。(資料40)

 次は、住宅の選択です。


資料41

 住宅は一度建てたら30~40年、あるいはそれ以上使う方もいらっしゃいます。住宅に付随する設備は、使用年数が長いことが多いです。現在建てられている住宅の一部は2050年に当然残っているでしょう。どのような住宅を建てたのか、どのような設備を選んだのかにより、今だけでなく何十年も先のエネルギー消費に影響を与える可能性があります。住宅や付随する設備のように長く使用するモノについては、長期的な影響も考えたうえで、製品の選択をしていただけるとよろしいかと思います。(資料41)

 結局、私たちにできることは何なのでしょうか?

 CO2削減について身近に出来ることを周知するために、スローガンができました。有名なものはご存知かと思います。「冷房は28℃に設定」とか「暖房は20℃に設定」とか聞いたことがあるのではないでしょうか。

 「つまり、我慢をして節約生活を送るしかないですよね?」と言われると、私も研究者である前に一人の人間ですから、それだけが唯一の答えだとは言いたくありません。特に、夏場の「冷房は28℃に設定」のスローガンは近年あまり使わないことも増えてきました。エアコンの設置状況によっては、28℃に設定しても、実際の部屋温度がそれ以上になる場合があります。それで熱中症になって倒れてしまったら本末転倒です。「28℃設定」に固執するのではなく、元気で暮らせる適切な温度に設定していただきたいと思います。


資料42

 強く言いたいのは、我慢し続けるだけの生活を「持続」させることは困難だということです。機器を多く利用した現在の快適な生活を否定することも、非現実的です。しかし、何かを変えることが必要です。皆さんに思い出して欲しいことがあります。(資料42)


資料43

 エネルギー消費量の削減はエネルギー代金の削減につながりますので、「お得」です。ういたお金を何に使うかによっては、余計な環境負荷が発生する可能性があるので、よく考えて使っていただきたいのです。無駄な出費を減らすためという動機でも構わないので、エネルギーでどれくらいお金を使っているのか、見直していただきたいです。(資料43)

 それから、電気の検針票には必ず「地球温暖化対策税」や「再生利用エネルギー発電促進賦課金」が書かれており、税金が徴収されていることがわかります。エネルギーを多く使う人ほど、税金の徴収が増えます。温室効果ガスの削減は、日本政府を挙げて進めていく方向です。削減がうまくいかなければ、関係する税金をあげてでも温室効果ガスを削減する方針に進まざるを得ません。このままでは私たちの温室効果ガス削減への出費が増えるばかり、ということを忘れないでください。


資料44

 生活の見直しは人に強要するものではないと思っています。それぞれの生活スタイルを各自で見直してください。細かい努力が得意な方がいらっしゃると思います。スライドで省エネのポイントを示しましたので、まだ出来る改善点を探してください。(資料44)

 毎日の見直しが面倒な方もいると思います。私も実は面倒くさがり屋です。そういう方は機器の買い替えで、一気にエネルギー消費量を下げる方法もあります。買い替える際はぜひエネルギー消費量を確認して、高効率の製品の購入も検討してみてください。

 「環境のためだったら何でもやります!」という気合いのある方は、ぜひ住宅内でエネルギーを管理してくれるHEMS(Home energy management system)の導入を、家を建てる際やリフォームする際に検討していただくとか、太陽光発電を取り付けるなど、対策をしていただきたいと思います。いずれも対策に高額の費用が必要になります。それぞれのできる範囲で考えて実行していただければと思います。

 最後に申し上げたいのは、私たち一人ひとりがやっている努力は、見えにくいものです。でも、そういう人たちが集まって「日本人」というひとつのかたまりになり、日本の排出量という数字に表れるのです。排出量が下がらなければ、努力した人たちがいても、結局、日本はやらなかったという結論になってしまいます。全員が少しずつでもそれぞれ出来ることをして、日本全体で減らしていけたら、「日本人はこの問題に真剣に取り組むようになってきた」「気候変動問題を危機的に捉え頑張っている」という日本人の判断を示すことができるのです。その示し方は、削減量という数字でしか示せないので、ぜひ皆さん頑張って欲しいと思います。電気やガスは選べる時代になり、商品を購入する際にも、生産時にこれだけエネルギーを使った、CO2の排出量がわかる商品も出てきています。皆さん、色々な形で努力をして欲しいと、強く思います。


資料45

 また、どういう家電を使う時に、電気を多く使うのかということも覚えておいてください。(資料45)

・電気機器の特性を知る
 当たり前ですが、使用時間は短い方が電気の消費は少ないです。電気で熱が発生する機器は、電気を非常に多く消費します。例えば、炊飯器、ホットプレート、お湯をわかすポット、乾燥機能付きの洗濯機、ドライヤー、温水洗浄便座などです。こういった機器は、特に使用する時間を短くする工夫をしていただきたいです。使わなくていい機器の電源プラグは抜いておきましょう。

・機器の稼働規模を適切に
 エアコンをつける時は窓を閉め、部屋のドア等も適切に閉め、部屋を暖める(冷やす)範囲を適切に限定してください。

・機器の稼働強度は適切に
 例えば、エアコンの温度設定は必要以上に強くしすぎないでください。家に帰ってから、冷房をつける時は、一度換気をして室内の熱い空気を逃してから冷房をするという、ちょっとした工夫でも効果があります。

 家庭でエネルギーを多く消費する代表的な機器は冷蔵庫、テレビ、照明、温水洗浄便座、エアコンです。ぜひこのような機器の使い方から見直していただきたいです。


資料46

 これまで、家庭の中のCO2排出量をみてきましたが、生活に伴い発生するCO2は、家庭部門だけではありません。お店でサービスを受けた時にエネルギーを消費するのは、業務部門のエネルギー消費量に分類されます。自家用車や公共交通の利用に伴うCO2排出量は、運輸部門に分類されています。自家用車の利用の仕方を見直すことは、運輸部門の削減に貢献できます。公共交通の利用、徒歩や自転車の利用を検討していただきたいです。(資料46)


資料47

 配送は便利でついつい使ってしまいますが、無駄な配送を減らす努力をしていただくことも運輸部門のエネルギー消費量削減に貢献できます。地域のものは地域で消費することを「地産地消」といいます。遠くから持ってくればその間の輸送エネルギーが多くかかるので、地産地消を意識していただくと、運輸部門の消費エネルギーを減らすことができます。また、「地産地消」に似ていますが、旬の時に旬のものを消費する「旬産旬消」を意識することも大切です。旬でない時に無理に旬に近い状況を作るということは、多くのエネルギーがかかります。もちろん、海外や遠方で作られている食材を食べてもいいのです。その時期ではない野菜などが、全部悪いと言っているのではありません。でも、できるだけ旬や地域のものを多く取り入れてもらえると運輸部門や農業部門のエネルギー消費量の削減につながります。(資料47)

 次に、もう一度「資料27」のグラフを示します。平成26年から27年にかけての全国平均の家庭の電気消費量の結果です。年間平均値は約360kWhで、6月(約260kWh)と10月(約290kWh)等、春と秋が低く、1月(約510kWh)と8月(390kWh)等、冬と夏が高いという季節変動がみられます。世帯人数は平均2.5人です。

 こういうものを説明しますと、「偉そうに話しているけれど、あなたは本当にやっているのですか?」と、疑問に思われるでしょう。試しに、同じ時期の我が家の電気消費量を比較してみました。年平均で約130kWhで、1年を通じて約120kWhから約150kWhの範囲内となっています。

 この当時は、二人暮らしだったので、全国平均よりも少なくなっているのは当然です。よく珍しいと言われるのは、季節変動がないということです。築25年のさほど広くないマンションに住んでいます。角部屋ではなく周りにも部屋がある状態です。戸建住宅や集合住宅の端の部屋と比較して、集合住宅の内側の住宅では部屋の気温の変動が小さくなります。私の家では冬にエアコンは一回も入れたことはなく、夏もエアコンを少し使う程度です。平日の日中は不在にしているので、一年中あまり変動がない結果となっているようです。

 私はこういう研究をしているため、エネルギーの無駄遣いはしないように心がけているつもりです。しかし、ものすごく我慢をしているわけでもありません。普通に生活に必要な機器は使っていても、これくらいのエネルギー消費量で暮らせる人もいるということを示すために私の家の状況をお話ししました。皆様の話のネタにしていただいて結構です。私の周りには、電気消費量がもっと少ない、仙人のような暮らしをしている方もいます。

 それでは残りの質問にお答えしたいと思います。


資料48

「気候変動の改善への画期的な方法や、周知の仕方はないですか?」というご質問です。(資料48)

 気候変動の改善への画期的な方法としては、政府がこの4月に出した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」の資料には、4つ示されています。「CCS」「水素社会」「再生可能エネルギー」「蓄電池」です。

 安全性、導入費用、維持費用、インフラの整備等の様々な問題があり、なかなか現実になりません。いずれも画期的な方法として期待はされています。しかし、問題も多くあります。

 よい周知の方法については、回答が難しいです。

 ただ「地球温暖化」という言葉はみんな知っています。研究所のイベントに来る小学生でも知っています。気候変動の問題がなかなか進展しないのは、皆が知らないことではなくて、自分の問題として捉えていないことです。自分の問題だと知ったら、慌てて行動するはずです。でも、「自分にはそんな影響はないよね」とか、「自分がそんなに実行しなくても大丈夫だよね」とか、「皆そんな風に考えているから、なかなか進まない」ということではないかと思います。


資料49

 また、似たような質問として、先生をしている方から「意識はすぐに冷めてしまう。意識を長続きさせるためには、どうしたら良いか」という意識についての質問がありました。(資料49)

 先生という立場を意識して回答を考えてみました。

 どうしても家庭内のエネルギー消費に関しては、決定権が大人にあることが多いです。そのため、子どもの意識が冷めてしまうのは、やむを得ないとは思います。しかし、問題があることを子どもは忘れていません。

 私たちは、今世紀後半には温室効果ガス排出量を実質ゼロにするため、今よりももっと、削減しないとならない状況になります。大幅に削減するために先ほど紹介した技術の導入を、真剣に検討しなければいけなくなるかもしれません。

 そのような状況になったら、皆さん、是非問題をそれぞれが考え「自分の意見」を持って意思表示をして欲しいと強く思います。「それぞれが後悔しないように考えて欲しい」ということをお伝えしたいです。

 例えば、原子力発電の問題は、少なくとも、震災が起きるまでは原発反対の議論が高まっていたという印象は私にはありません。安全なのだろう、CO2が発生しなくて良いではないかと導入を増やしていました。しかし、震災が起き、急に「あんなものは動かすな」と世論が大きく変わりました。原発があること、事故が起きたら危険なことは、震災の前から皆知っていたはずです。しかし自分事として捉えていなかったために、その導入に強い意見を持っていた人は少ないのではないでしょうか。温室効果ガスを大幅に削減するための方法の導入は、一個人で何かできることではありません。必ず「国でどういう決定をするか」という問いかけがなされると思います。

 温室効果ガスの削減は重要です。しかし、同時に安全性も重要ですし、経済的な影響も重要です。個々で何を重視するか価値観が違うのは当然です。人に流されるのではなく、皆さん自身が考えて、自分の意見を持っていただきたいと思います。その意見を出した結果として、CCSなどの革新的な技術の導入が進むか、進まないかが決まって欲しいと思います。

 繰り返しになりますが、「どの技術の導入が正しい」ということは言えません。しかし温室効果ガスやエネルギーの問題により、この先重大なことを決める時がくるのではないかと思います。それに直面する時、多くの知識と自分の意見を持てるようにすることが大切です。先生には、継続的に問題の周知を続け、考える機会を作ってもらい、伝えていただければ良いと思います。

 温暖化に関して、人々がどういう意識を持っているかという世論調査報告を私たちの研究所で行っています。関心のある方はぜひ報告書を見ていただければと思います。
国立環境研究所の調査結果「環境意識に関する世論調査報告書2016」

当日の資料はこちら(PDF)

 ご参加いただいた皆さま、金森講師、ご協力いただいた多くの関係各位に改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。

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