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環境基準等の設定に関する資料集

環境基準等の設定に関する資料集

趣旨

このホームページは、環境汚染を防止するための施策の目標として設定されている環境基準やそれに準ずる指針値が、どのような根拠に基づいて決められたのかに関する資料を一元的に集めたものです。

環境基準は1967年(昭和42年)に制定された公害対策基本法第9条に、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」と規定され、環境基本法にも引き継がれてきた、環境政策の目標として重要な位置づけを持つものです。1969年(昭和44年)2月にいおう酸化物に係る環境基準が閣議決定により最初に定められて以降、多くの項目について環境基準の設定・改定が行われ、またこれに準ずる指針値についても定められてきていますが、その経緯や設定根拠については、資料として1つにまとめられていませんでした。

公害防止に関する施策を進める上での行政上の努力目標である環境基準等がどのような科学的根拠のもとでどのように決められたかを整理しておくことは、科学と政策決定との関係を考えていく上で重要な情報源となります。このため、今般、国立環境研究所において、環境省水・大気環境局のご協力を得つつ、関連する過去の審議会等の答申、報告、配付資料や、通知、解説等を収集し、それぞれの基準値・指針値の設定の経緯や根拠についてとりまとめ、資料集として公開することにしました。

お知らせ

  • 2023年11月11日に、本ウェブサイトの作成と公開に対して、一般社団法人日本リスク学会よりグッドプラクティス賞が授与されました。(受賞のお知らせ)

環境基準とは

環境基準の位置づけと性格

環境基準は1967年(昭和42年)に制定された公害対策基本法第9条に盛り込まれました。同条第1項で環境基準は「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」と規定され、同条第4項で「政府は、公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより、環境基準が確保されるよう努めなければならない」と規定されており、環境基準が公害の防止に関する施策を進める上での行政上の努力目標であることが明示されています。この規定は1993年(平成5年)に制定された環境基本法第16条に引き継がれています。

環境基準設定の対象は当初、大気の汚染、水質の汚濁及び騒音の3分野でしたが、1970年(昭和45年)の公害対策基本法の改正の際に公害の定義に土壌汚染が追加され、環境基準設定の対象にも「土壌の汚染」が加えられて、現在は4分野となっています。なお、環境基準のうちダイオキシン類については、環境基本法ではなく、ダイオキシン類対策特別措置法第7条の規定に基づいて、大気、水質(水底の底質を含む)、土壌といった環境媒体ごとに定められています。

環境基準は、人の健康を保護し生活環境を保全する見地から、発生源の集積による汚染を対象とする施策を打ち出すために有効と考えられ、公害対策基本法に規定されました。環境基準は行政上の目標であり、まだ汚染されていないか、あるいは汚染の程度の低い地域については、今後の汚染を防止するための対策の根拠となり、この基準を超えることのないよう対策を実施するための目標となります。他方、すでに汚染が進行している地域については、これ以上汚染を進行させないための行政上の措置を講じていく上での指標となるとともに、さらに環境基準の程度まで汚染を低減させるよう具体的な施策を実施するための目標としての役割を果たすものです。

環境基準は「維持されることが望ましい基準」であり、行政上の政策目標である点に特色があります。環境基準を最大許容限度や受忍限度とする考え方をとる場合は、人間の健康等の維持のため最低限度として、あるいはこの程度までの汚染は我慢しなくてならないという消極的なものになりますが、「望ましい基準」とすることで、より積極的な行政上の目標として組み立てられたものとなっています。

環境基準が定められると、その維持・達成のための施策が講じられ、例えば大気汚染や水質汚濁については、多くの場合、排出基準が設定されて工場・事業場に対してその遵守が求められます。排出基準については遵守違反に対して罰則が適用されますが、環境基準の場合は行政上の目標ですので、排ガスや排水の基準のように守られなくても罰則があるわけではありません。しかしながら、行政が達成率を評価し、必要があればその改善のためにさらなる対策が検討されることになります。

環境基準の目的

環境基準の目的は「人の健康の保護」と「生活環境の保全」であり、「生活環境」には「人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物およびその生育環境を含む。」と定義されています。「生活環境」自体の定義は公害対策基本法や環境基本法に規定されていませんが、公害対策基本法の逐条解説では、「「生活環境の保全」とは、通常大気や水の清浄さ静けさ、大地の安定が保たれることによる生活の快適さ、便宜さを維持することを指す。」としつつ、これらの意味の他に、さらに人の生活に密接な関係のある財産、人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含めた意味で「生活環境」という言葉が用いられています。当初、公害問題として注目された事件の中に、農作物や漁業の対象とされている魚介類などが被害を受けたものや家具や商品が腐食するなどの被害が生じたものが少なくなく、これらの被害の防止についても公害対策として期待されたのです。ただし、実際に設定された環境基準の性格は環境媒体や項目によって異なっています。大気の汚染に係る環境基準は、植物などへの影響について検討された項目もありますが、現時点では人の健康の保護の観点のみから設定されています。水質汚濁に係る環境基準については、人の健康の保護の観点と生活環境の保全の観点とで異なる項目について設定されており、土壌の汚染や騒音に係る環境基準は両方を視野に入れたものになっています。また、ダイオキシン類対策特別措置法に基づくダイオキシン類の環境基準については、すべての環境媒体について人の健康の保護の観点から定められています。

当初の公害対策基本法では、第9条第2項に「生活環境に係る基準を定めるにあたっては、経済の健全な発展との調和を図るように考慮するものとする」といういわゆる「経済調和条項」がありましたが、1970年(昭和45年)のいわゆる「公害国会」における改正で削除されています。

環境基準の決め方

環境基準については、環境庁が設置される以前から、厚生省において大気汚染及び騒音に関して、経済企画庁において水質汚濁に関して、それぞれ審議会等における検討が開始され、一部の項目について閣議決定等により設定がなされました。1971年(昭和46年)9月の環境庁設置後には環境庁及び中央公害対策審議会がそれらの業務を引き継ぎ、環境庁告示により設定されるようになりました。1970年代には大気の汚染、水質の汚濁及び騒音に係る環境基準がひととおり設定され、土壌の汚染に係る環境基準については、1991年(平成3年)より設定されています。この業務は環境省にそのまま引き継がれています。

環境基準については、環境基本法第16条第3項に「第1項の基準については、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない」と規定されており、基準項目の選定や基準値の設定に当たっては、まず環境省(以前は環境庁等)において科学的知見が収集・整理された後、学識経験者等で構成される中央環境審議会(以前は中央公害対策審議会等)において、これらの知見や関連情報をもとに専門委員会、小委員会、部会等において審議が行われ、審議会の答申を得て行われるのが一般的です。近年も、環境問題の変化や科学的知見の集積を踏まえ、新たな項目についての環境基準の設定や基準値の改定が行われています。

環境基準の設定に至らない場合

有害な物質について、すべて環境基準が設定されるわけではありません。科学的知見を収集してその有害性を評価し、健康や環境に悪影響を及ぼすことが懸念されるレベルで環境中に存在することが明らかになった場合など、何らかの対策が必要と考えられる場合には環境基準が設定され、それを維持・達成するための排出規制などの対策が行われることになりますが、有害なレベルを決めるための科学的知見が十分でない場合、環境中のレベルがまだそれほど高くない場合など、環境基準の設定に至らないこともあります。

この場合、何らかの理由で環境基準の設定には至らないものの、それに準ずる目標値が「指針値」として設定されている項目もあります。(環境基準と指針値とを総称して「環境目標値」と呼ぶこともありますが、この資料集では法定の環境基準を中心とする考えから、以下、環境基準と指針値との総称は「環境基準等」と呼ぶことにします。)

放射性物質については、福島第一原子力発電所の事故を受けた環境基本法の改正に伴い、その環境の汚染の防止のための措置について原子力基本法その他の関係法律に委ねた同法第13条の規定が削除されたことを踏まえ、環境基準の要否について検討されました。その結果、各種規制法により施設周辺の住民の中で最も高い線量を受けると想定される者であっても被ばく線量が線量限度を超えないことを確保するとするICRP(国際放射線防護委員会)の勧告の考え方に則った平常時の管理が行われていることから、通常の事業活動等に起因する環境汚染の防止の観点からは、一般環境の状態に関する基準(環境基準)を改めて設定する必要性はないものと考えられると整理されています。

参考資料

・岩田幸基編(1971)新訂・公害対策基本法の解説、新日本法規出版、pp.141-150 【NIES保管ファイル】

・岩田幸基編(1971)新訂・公害対策基本法の解説、新日本法規出版、pp.163-185 【NIES保管ファイル】

・平成27年2月13日・中央環境審議会総会(第22回)資料3-3「「環境基本法の改正を踏まえた放射性物質の適用除外規定に係る環境法令の整備について(意見具申)」を踏まえたその後の対応状況等について」 https://www.env.go.jp/council/01chuo/y010-22/mat03_3.pdf 【NIES保管ファイル】

資料集の内容に関する留意点

この資料集では、大気の汚染、水質汚濁(健康項目、生活環境項目(水生生物保全関係及びそれ以外)、地下水)、土壌の汚染並びに騒音に係る環境基準、さらにはこれに準ずる指針値について、それらの設定の経緯や分野ごとの一般的な設定の考え方を示した上で、項目ごとに基準値・指針値(以下、「基準値等」とします)の設定の根拠を示していますが、以下の点に留意してお読み下さい。

収集・整理の対象はなるべく一次資料としましたが、二次資料しか収集できていないものや二次資料で補足・補強したものもあります。

資料のとりまとめに当たっては、環境基準等の設定の経緯、設定方法及び基準値等の根拠を中心に整理し、関連事項として測定方法及び評価方法についても整理しましたが、水域・地域ごとの類型指定や達成のための方途(施策)については含めていません。また、対象物質等の排出側に適用される基準(排出基準、排水基準等)についても、環境基準等の適用範囲の設定に関連して言及する必要がある場合を除いて、本資料集では取り扱っていません。

全体及び分野ごとの総説部分は文献を参考にしつつ書き起こした記載となっていますが、分野ごとの設定の考え方及び各項目の基準値等の設定の根拠の概要については、原則として関連する答申、報告、資料等から抜粋・抽出しました。このため、引用部分の章立ての記号・番号などは統一されていません。また、基準値等の設定根拠に関係がないと判断した記載は省略しました。

資料の引用に当たっては、できる限り原文に忠実に引用しましたが、誤字訂正、補足説明など若干の加筆・修正を行ったところもあります。なお、年表記については、基本的に公文書で用いられている和暦を用いていますが、公文書以外の資料(雑誌、論文等)については西暦で記載し、総説部分では西暦と和暦とを並記しました。

各項目・物質の測定方法については、科学技術の進展及び日本産業規格等の変遷に伴って当初の設定から変更されている場合がありますが、基準値と密接に関連する場合を除き、基本的に最新(現行)の測定方法のみ記載しました。

各項目・物質の基礎情報(物理化学的性状、環境中での挙動、生産量、用途等)、毒性情報及び各種基準値等については、原則として最新(現行)の基準値等が設定された際に収集・検討された情報を記載しました。一部、異なる時期の資料の情報を記載したものもありますが、いずれにしてもこれらについての最新の情報を記載したものではありません。これらの最新情報を知りたい方は、例えば以下のようなデータベースをご覧下さい。

・ケミココ:http://www.chemicoco.env.go.jp/

・Webkis-Plus:https://www.nies.go.jp/kisplus/

環境への排出等の状況に関する情報については、PRTR(化学物質排出移動量届出制度)による環境への排出量等の情報が公表されるようになった2013年(平成15年)以降に検討された物質について、その際の公表資料に記載された範囲で掲載しています。最新のデータはPRTRのホームページ(https://www.env.go.jp/chemi/prtr/risk0.html など)からご覧下さい。また、環境への排出量等は、一定の限界の中で届出又は推計されたものであり、全ての排出量等を網羅したものではないことに留意して下さい。

基準値等について改定が行われた項目に関する環境中における検出状況及び基準値等の根拠の概要については、最新(現行)の基準値等が設定された際の情報を掲載するとともに、当初(改定前の値)の設定時の情報についても可能な限り掲載しました。

実際に基準値等の設定根拠等について引用した資料に加え、基準値等の設定根拠を知る上で参考になると思われる資料や解説についても可能な範囲で収集し、これらを広く「参考資料」や「解説文献」として書誌情報を記載しました。

環境省(旧・環境庁も含む)の資料に関しては、保存資料及びウェブにて公開されていたpdfファイルを(html形式のものはpdf形式に変換した上で)各担当課室の許可を得た上で収録し、再配布しています。環境省以外の資料に関しても、本ウェブサイト内での再配布の許可を取得できたものに限り、当該資料を収録して閲覧可能にしました。なお、本ウェブサイトにて収録している環境省の資料を含む全ての資料について、無断での複製、転載、再配布及び転送等の行為を禁止します。
 ・本ウェブサイト内での再配布の許可を所得した文献一覧
なお、著作権等の関係で収録できなかった資料や、J-STAGE(学術論文のデータベース)へのリンクにとどめたものもあります。

環境省の最近の資料など、ホームページで公開中の資料については、当該ページへのリンクもあわせて掲載しています。リンク切れなどの際は下記問い合わせ先にご連絡いただけますと幸いです。

各資料へのリンク

以下のリンクから資料のある各章に移動することができます。リンク先のページでは左側に目次があり、目次から章・節・項と、物質別情報がある場合は当該物質の説明へ移動することができます。

環境基準値へのリンク

以下のリンクから資料内の環境基準値掲載箇所に移動することができます。

担当者

国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康領域: 大野・鈴木

問い合わせ先

本資料集の作成に当たっては、幅広く資料を収集するとともに、資料の原文を引用する際には適切かつ正確に抜粋するよう努めましたが、誤記・記載漏れ等があった場合はご容赦ください。内容に関して疑問点などがありましたら、下記連絡先へメールにてお問い合わせ下さい。


国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康領域 環境基準設定資料集担当
問合せ先メールアドレス

免責事項

誤記等による場合も含め、本資料集の利用によって生じた不利益については国立研究開発法人国立環境研究所は何ら責任を負いません。

引用方法

原典に含まれる内容を引用する場合は原典の書誌情報を引用して下さい。本資料集全体や本資料集で執筆された原稿部分(総説部分等)を引用する際は、以下の内容を含めて引用書誌情報としてください。


早水輝好、井上知也、今泉圭隆、鈴木規之、大野浩一(2022)「環境基準等の設定に関する資料集」、https://www.nies.go.jp/eqsbasis/(20yy年mm月dd日 閲覧)(注:yy-mm-ddには閲覧した日を記入)

更新履歴

2024年10月17日
以下の点を修正しました。
・トップページ|環境基準とは▼環境基準の目的 の第2段落にある『といういわゆる「調和条項」』を『といういわゆる「経済調和条項」』に修正しました。
・第2章 水質(1)② 〇その後の設定・改定 iv)地下水 最終段落「ダイオキシン類【対策】特別措置法」において【対策】が抜けていたので追記しました。
・第2章 水質(5)③ 〇六価クロム 1.基準値において「0.02mg/L以下」となっていたのを「(当初)0.05mg/L以下、(現行)0.02mg/L以下」に修正しました。
・第3省 土壌(1)② の第2段落「1994年(平成6年)1月の中央公害対策審議会」を「1994年(平成6年)1月の中央環境審議会」に修正しました。
また、以下の5ヵ所については「中央公害審議会」との誤記がありましたので修正しました。正しくは「中央公害対策審議会」です。
・第1章大気(1)②設定の経緯○初期の設定 第2段落
・第2章水質(1)②設定の経緯○初期の設定 最終段落
・第2章水質(1)②設定の経緯○その後の設定・改定 i)健康項目 第1段落
・第4章騒音(1)②設定の経緯○初期の設定 第2段落(2ヶ所)
2024年6月11日
第2章 水質(3)③「○湖沼(天然湖沼及び貯水量が1,000【万】立方メートル以上」において【万】が抜けていたのを修正しました。
2024年4月19日
トップページに「お知らせ」の項目を追加するとともに、2023年11月11日の受賞のお知らせを追加しました。
2022年12月20日
第2章 水質(4)① の表の書式を修正しました。
第3章 土壌(2)②において(備考)8.に左括弧が抜けていたのを修正。また、(備考)の後に(注)を追加しました。
2022年9月5日
「2009年(平成11年)」という誤表記を「1999年(平成11年)」に修正しました(2ヵ所)。
2022年3月30日
本ホームページを公開しました。