#27.
私が事故のことで唯一知っている情報と言えば、
海の事故で亡くなったと言う情報だけだった。
どう言う経緯で海に行くことになって、
どう言う経緯で両親が亡くなり、
自分も事故に遭ったのか、
その全ての記憶がない。
・
おばさん夫婦を除いて、
祖父母や剛くんや剛くんのご家族、お姉ちゃんまでもが私を誰1人として責めることはしなかった。
ただ口を揃えていたのは不慮の事故ーーー。
確かに6歳だった私はそう甘えさせられていたのかもしれない、
無理に思い出さなくて良い、とずっと言われ続けてきた。
でももう17歳、
もうすぐ成人だというのにこのまま思い出さないのは違う気がする。
ーーーううん、逆に思い出さなきゃいけない。
そんな気がするの。
じゃないと私自身もおばさんも前に進めない気がする。
おばさんの言うように私が事故を招いたとしても、
きちんと思い出さなければ償うにも償えないーーー。
・
私はーーー・・・
海で事故を起こしたのだから海に行けば何かのきっかけを掴めるのではないかと思って日曜を迎えてすぐに海に行こうと思いついた。
だけど・・・その前に先輩にどうしても会いたくてダメだと分かってるのにまた先輩の大学まで押しかけてしまった。
「またあなた!?なんなの、あなた!」
正門を潜ったところでマネージャーさんと目が合い、
大きなため息をつかれた。
「すいません・・・どうしても先輩と話がしたくて・・・」
「何度言えば伝わるの?!樹と付き合ってるんでしょ?!この前も言ったけど恋愛で彼の可能性を潰して欲しくないの!私たちは彼の才能を信じてるのよ・・・」
彼女は何度伝えれば理解するのか、と呆れた様子だった。
「最後にしますから!そしたらもうここにも来ません、だから一度だけ話をさせてください。お願いします!」
私はマネージャーさんに頭を下げたーーー・・・。
先輩の印象も悪くならないよう、
もう大学に来るのはやめよう、そう思った。
「ーーー15分だけよ。今呼んでくるから、体育館の外で待ってなさい。」
「ありがとうございます!」
マネージャーさんの言う通り私は正門を抜け、
体育館の外のベンチで待たせてもらうことにした。
もう直ぐ梅雨明けだから座ってるだけでジメッとしていてすごく暑い。
「ーーー柊、どうかしたか?」
マネージャーに呼ばれて来たら私がいたと少し驚く先輩。
「昨日は電話に出れなくてすいませんでした。」
「・・・いや、気にするな。」
不思議そうな顔をして答える先輩。
私はそんな先輩に抱きついたーーー・・・。
「えっ、柊?ちょっと離れて・・・一応練習中だからさ・・・」
気まずそうに中を確認しながら私から視線を外す先輩。
中から「イチャつくなよ!」と言う声に気まずそうな顔をしてる先輩がいる。
またやっちゃった・・・、そう思った。
「ーーー先輩が同じ学年だったら良かったのに。」
「えっ?」
「そしたらこうして会いに来て不安になることも、離れて辛いと感じることもなかったのに(笑)」
「・・・それは俺にはどうしようも出来ない。」
別に何かをして欲しいから言ってるわけじゃない。
ただそんな想いなんだよ、と言うのを知って欲しいから伝えた。
「分かってますよ(笑)先輩。」
「なんだ?」
「ーーーキスしても良いですか?」
結構勇気ある一言だったんだけどな・・・。
一瞬で怪訝な顔にさせちゃった・・・。
これまた大失敗したなって思った。
「ーーー悪いけど今練習中なんだ。マネージャーの考慮で抜けさせてもらってる中、そんなくだらないことで会いに来たのだったらまた別の時にきちんと話し合おう。柊が寂しくて不安なのも理解してるから、ちゃんと時間取るからその時に話そう・・・」
「私って時間取らないと会えない関係なんですかね?」
先輩は私の言葉に驚きを隠せない様子で、
私を見た。
「・・・昨日からなんか変だぞ。何かあったのか?」
「何もなかったら会いに来ちゃだめなんですか?」
「そう言うことじゃない・・・。柊はこの前、俺にもう会わないと言ったよな?俺はもう一度きちんと考えて欲しいと伝えたはずだ。ちゃんと考えたのか?それとも今の感情だけで昨日も今日も会いに来てるのか?柊の覚悟ってそんな軽いもんなのか?俺は俺なりに真剣にバスケにも柊にも向き合ってるつもりだ、振り回されるのは迷惑なんだ。」
今度は私が先輩の言葉にハッとして見上げた。
ーーーそうだよね、先輩は遊んでるわけじゃない。
分かってるけど・・・
先輩に私を求めて欲しかった、ただ自分の欲望に勝てなかった。
そしてまだ私にはそれだけの魅力がないことも痛感した。
私は自分のお腹の前で両手で拳を掴み、
これ以上先輩に迷惑かけるのは良くないと色んな気持ちを封印した。
「・・・そうですよね、ごめんなさい。」
「悪い、言いすぎた・・・」
「いえ、先輩の言う通りだと思います。振り回す形をとってすいませんでした。」
「ーーー次の試合が終わるまで待って欲しい。その後にきちんと話そう。柊の今の気持ちも全部聞くから。納得いくまで話し合おう。」
先輩の優しさと寄り添う気持ちだった。
でももう迷惑かけられない、強くならなきゃと思った。
「いえ、大丈夫です。わたし・・・きちんと考えますね、これからのこと、先輩のこと。きちんと答えを出しますから・・・その時にご連絡します。」
何度言われても私は曲げない、そう決めた。
「混乱させるかもしれないから俺からは連絡しない。だけど柊の答えが出たら必ず連絡欲しい、待ってるから。俺もそれまで練習に試合に頑張る。」
私は答える代わりに深々と頭を下げた。
涙を必死に堪え、深々と謝罪とお礼の意を込めて頭を下げた。
先輩の学校を出て私は苦笑いをこぼした。
強くなるって何?
何、先輩のこときちんと考えるって。
わたし・・・そんな余力残ってないよって涙さえも出ずに苦笑いがこぼれた。
そして空を見上げた・・・ーーー。
天に手を差し伸べて、久しぶりに見える眩しい太陽が怒ってるようにも見えた。
まるで空にいる人たちが私を責めているように・・・。
「きゃー!危ないー!」
その空を追いかけるように私はゆっくりと前に進み、
横断歩道が赤だと言うことにも気が付かなかった。
ーーーそして見事に軽トラと衝突事故を起こしてしまった。
結構吹き飛んだ・・・。
それでも意識はあって・・・
「大丈夫!?救急車!」
そんな声が響き渡る中、
このまま私を空に連れて行って欲しいと願いながら意識が少しずつ遠のいていき、
そのまま意識を失った。
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