音楽プロデューサー・亀田誠治さんと語り合う「生成AIとの付き合い方」と「音楽体験の未来」
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2024年6月8日(土)・9日(日)に東京・日比谷公園で開催された日比谷音楽祭。DNPは「音楽の新しい循環をみんなでつくる、フリーでボーダーレスな音楽祭」という趣旨に賛同し、2019年の第1回から協賛しています。6年目となる今年は、生成AIを活用して音楽の新しい楽しみ方を提案するストーリー生成音楽ゲームの体験ブースを出展。日比谷音楽祭の実行委員長を務める音楽プロデューサーの亀田誠治氏とDNPの開発チームのメンバーが、音楽と生成AIの化学反応でどんな未来が生まれるのかについて語り合いました。
目次
- 新しい音楽体験を提供し、「音楽の関係人口」を増やしたい
- まずは楽しい体験を。音楽との接点を広げるストーリー生成音楽ゲーム
- 生成AIと人間は並走できる。大事なのは「どう使うか」
- 新しいことにチャレンジした先にポジティブな未来がある
プロフィール
亀田誠治氏(写真左から2人目)
音楽プロデューサー・ベーシスト。椎名林檎、平井堅、スピッツなど数多くのアーティストのプロデュースやアレンジを手がける。第49回・第57回の日本レコード大賞では編曲賞を受賞。さまざまなイベントやメディアを通じて次世代へ音楽の魅力を伝える活動に注力し、2019年からは日比谷音楽祭の実行委員長として企画・運営に携わる。
日比谷音楽祭Webサイト : https://hibiyamusicfes.jp/
情報イノベーション事業部ICTセンターICTDX本部 生成AIラボ
佐藤陽平(写真左から1人目): ストーリー生成音楽ゲームの開発担当
手嶋玄太郎(写真右から2人目): 同ゲームのUIデザイン担当
大野史暁(写真右から1人目): 同ゲームの開発担当
新しい音楽体験を提供し、「音楽の関係人口」を増やしたい
——2024年の日比谷音楽祭も大盛況でした。どのような手応えを感じましたか?
亀田氏
世代に関係なく誰もが無料で、トップアーティストから次世代アーティストまで幅広いジャンルの音楽を楽しめるボーダーレスな音楽祭をつくりたいとの考えで始めた日比谷音楽祭。今年は約17万5,000人のお客さんが来場され、配信でも約25万5,000人の方々が観てくれました。多くの人に日比谷音楽祭の存在価値が認められ、ようやく実ってきたという実感があります。
今年は日比谷公園の一部で改修工事が行われていたため会場レイアウトを工夫しましたが、それによって協賛企業ブースやキッズエリア、フードエリアなどがうまく融合し、人の流れが変わりました。結果、各所で新たな“ユナイト”が生まれ、公園全体がボーダーレスな場となる良い循環が生まれたことは大きな収穫でした。
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——今回、DNPはストーリー生成音楽ゲームを体験できるブースを出展しました。リアルな体験を提供する音楽フェスに、生成AIをテーマとした展示があることをどのように感じましたか?
亀田氏
最初にDNPから日比谷音楽祭で生成AIの展示をすると聞いたとき、「これは面白そうだ」と感じました。
ストーリー生成音楽ゲームは、参加者自身が選んだ音楽や演奏に応じて生成AIが称号やストーリーを作成して、小さなお子さんでも楽しめる。すごく素敵ですよね。今までにない音楽体験、新しい音楽とのタッチポイントをつくることができると思いました。これこそが僕らがめざすボーダーレスです。
ストーリー生成音楽ゲームの仕組み
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新しいものが生まれたとき、多くの人は警戒します。しかし、リスクばかりを考え、ネガティブに捉えてしまうのは良くないと僕は思っています。
1980年代にコンピューターを使った自動演奏が登場したとき、「音楽家の表現の場がなくなるのでは」といった意見が多くありました。しかし、その後、音楽の表現の仕方や楽しみ方が広がったことは皆さんもご存じの通り。
大事なのは、新しいものが生まれたときにそれをどう使っていくか、です。
実は、僕も最近VTuber※1の方と一緒に音楽をつくり始めたんです。「亀田さん、そっち行っちゃうんですか?」と言われたのですが、僕にとっては同じ音楽であり、制作のプロセスが異なるだけ。新しいチャレンジをすることでアドバンテージを得られますし、その先に“ポジティブな未来”を生み出せると思っています。
生成AIの登場により、音楽の知識がない人でも音楽をつくる体験ができるようになりました。それによって、「音楽の関係人口」も増えていくと思います。音楽に触れる最初のきっかけが生成AIだったとしても、音楽に興味を持つ人が増えて新しい循環が広がっていけば、世の中全体にダイナミックな変化が生まれるはずです。
そうしてこれからの若い世代が何を生み出していくのかを考えると、すごくワクワクします。
- ※1 VTuber(ブイチューバー):「Virtual YouTuber」の略で、2D(2次元)や3D(3次元)のCGキャラクター(アバター)を活用した動画配信者のこと。オリジナルの楽曲発表を行うアーティストも多く、コロナ禍以降、VTuberによるメガヒット曲も数多く生まれている。
まずは楽しい体験を。音楽との接点を広げるストーリー生成音楽ゲーム
——DNPは今回、どのような狙いで出展することになったのですか?
佐藤
我々は、生成AIはあくまでも「人に寄り添うパートナー」だと考えているので、亀田さんの今の言葉はとても心強いです。
日比谷音楽祭への出展にあたっては、ただ生成AIをアピールするのではなく、まずは来場者に楽しい音楽体験をいかに提供するかを考えました。この音楽祭は「誰もが楽しめる」がコンセプト。そこで、楽器の演奏が苦手な人や小さなお子さんでも楽しめるように、自由に叩くだけで音楽をつくれるインターフェースをつくりました。
実際、ブースに来てくれた皆さんは楽しそうにストーリー生成音楽ゲームを体験してくれました。この体験がひとつのきっかけとなって、亀田さんのおっしゃる「音楽の関係人口」を増やすことに寄与できていたら、我々としてはうれしい限りです。
また、生成AIと聞くと、難しいイメージがあって身構えてしまう人も多いのですが、音楽体験を通すことで生成AIにも親しみを持ってもらえたらいいと思っています。
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大野
ブースに来てくれた方と話すと、「生成AIに抵抗がない」という声が多かったですね。生活者の視点でどのように生成AIを提案していくかという点は我々にとっても未知数だったので、実際にゲームを体験した方々の反応から今後の開発に活かせるヒントを多くいただきました。
手嶋
このゲームのコンセプトは、「あなたが主役!」です。体験やビジュアルのデザインにおいては、音楽に触れて楽しんでもらう機会を増やすにはどうしたらいいかという視点を大切にしました。あくまでも、“楽しい音楽体験が先”でなければなりません。
当日のお子さんたちの楽しそうな反応を見ていると、我々の想いはうまく届いたのかなと感じています。
——亀田さんの考える「音楽の新しい循環」に対して、ストーリー生成音楽ゲームはどのような価値を提供できたでしょうか?
亀田氏
やっぱり子どもの頃の感動体験って、大人になってもずっと記憶に残るんですよね。だから、このゲームのような親子で音楽に触れられる体験はすごく良い。
日比谷音楽祭の「誰もが楽しめる」というコンセプトを実現するためには、日常生活のなかに感動のきっかけをたくさんつくり、入口を広くすることが大切だと思います。まずは体験してもらったうえで、そこに生成AIが活用されているんだと知ってもらうことで、多くの人にポジティブな印象を持ってもらえるのではないでしょうか。
テクノロジーの進化によってイノベーションが起こるのは、人類の繰り返される歴史です。生成AIも今後はスマホのように身近な存在になっていくはず。ならば、どうやって新しいものを受け入れ、ポジティブでハッピーな体験を生み出していくかを考えることが大事だと思います。
生成AIと人間は並走できる。大事なのは「どう使うか」
——生成AIの進化によって音楽やクリエイティブのあり方に何か変化があると思いますか?
亀田氏
よく、「生成AIによって音楽家が今後脅かされるのでは?」という議論がされます。僕の答えは明快で、「NO」です。
なぜなら、僕は曲をつくったり、自分で演奏したりする時間が楽しくてしかたがないから、そのコアは変わりません。生成AIの進化によって将来的に作業負担は減るかもしれませんが、それはあくまでツールの問題。昔は鉛筆やペンで楽譜を書いていたのが、今はコンピューターのソフトで打ち出すようなものです。権利関係のルールづくりは必要ですが、それ自体はリスクだと思っていません。
佐藤
亀田さんがおっしゃるように、生成AIはあくまでも表現の幅を広げるツールのひとつです。いかに生成AIが進化したとしても、結局は人間がそれをどう使うかが重要。人間の創造性が生成AIに奪われるということはまだ当分起こらないですし、「好き」「楽しい」という人の感情に勝る動機はないと思います。
我々も企業のなかで仕事として関わってはいますが、大前提として「開発が好きだから」プログラミングをしています。お話をうかがって、自分の好きなことで社会に貢献できて対価をいただくことの価値をあらためて感じます。
手嶋
私も、「自分が好きだから」デザインやビジュアライズを手掛けている部分が大きいです。その目線で話すなら、「生成AIは便利で楽しそう!」という印象です。生成AIは偶発的に新しいものを生み出すことが人間より得意なので、音楽体験の拡張に役立つのではないでしょうか。
たとえば、日常生活のなかで無意識に触れている音はたくさんあると思いますが、私たちは音楽体験として認識していません。それらの音を生成AIが発掘して形にすることができれば、私たちの音楽体験の幅が広がるはず。それをきっかけに音楽に興味を持つ人が増えれば、さらなる良い循環を生み出せるはずです。
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大野
私は実際にプログラムを書くときに生成AIを活用していますが、あくまでも補助にすぎません。自分がつくりたいもののイメージは明確にあるので、そのプロセスを効率化してくれるイメージです。これは、プロである私たちのようではない人たちにとって、より大きな恩恵があるでしょう。今まではプログラム言語を理解している人しかできなかったことが、生成AIによって、日常会話のような指示でイメージに近いプログラムをつくれるようになりますから。
作曲も同様かもしれませんね。「こういうイメージの音楽をつくりたいけど、方法がわからない」という人が、生成AIを活用することで簡単に作曲体験ができる。これが「入り口を広げる」ことにつながっていくと思います。
亀田氏
皆さんの話を聞くと、生成AIは未知の分野への第一歩を踏み出すための味方だなと感じます。知らない世界を教えてくれたり、苦手なことをフォローしてくれたり。「知のバリアフリー」の実現につながっていくかもしれないですね。
生成AIが生活のなかに浸透していくことで、新しいジャンルの音楽や背景にある文化に接する機会も増えていくでしょう。また、生成AIで効率化されることによって生まれた余白の時間に、人の心を潤すような音楽体験が一層求められるかもしれない。そういう良い循環が生まれるといいなと思います。
佐藤
同感です。生成AIは飛び抜けたプロフェッショナルの領域までは辿り着けないのですが、平均レベルまでなら圧倒的なスピードで到達できることが強みです。誰も取り残さずに心豊かな暮らしをつくっていくという点でも、可能性を感じます。
新しいことにチャレンジした先にポジティブな未来がある
——日比谷音楽祭の今後の展望をお聞かせください。
亀田氏
すでに来年の開催に向けて動き出しています。音楽は人が受け取るものであり、社会の状況が密接に関わってきます。そういうなかで、誰もが無料で参加できるボーダーレスでフリーな音楽祭として、日比谷音楽祭をより社会に浸透させ、定着させていきたいと考えています。
僕自身、日比谷音楽祭に関わることで多くの協賛企業の方と接し、学ぶことがたくさんあります。よく周りの人に言っているのですが、僕にとっては「日比谷大学」、つまり学びの場なんです。今回の生成AIの話も、きっと次の日比谷音楽祭に生かせると思います。
——DNPとしては、今後どんなことに挑戦したいですか?
佐藤
技術者としては、テクノロジーを使って人の心を豊かにする方法をこれからも模索し続けたいと考えています。今回の出展を通して、その意義をあらためて確認することができました。
手嶋
生成AIを使って、ただ情報を提供するのではなく、クリエイティブな体験を提供するために何ができるのか、今後も考え続けたいと思います。デザインやインターフェースを含めて、豊かな音楽との出会いや心豊かな暮らしの実現に役立つプロダクトを開発していきたいです。
大野
生成AIに限らず、技術が進歩することで表現の幅は広がります。生活者にどんな体験を提供するのか、どんな社会課題を解決するのか模索しながら、そうした“感動ののびしろ”を拡大していきたいと考えています。
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——最後に、亀田さんが今後DNPに期待することをお聞かせください。
亀田氏
DNPに対しては、初回からずっとお付き合いいただいているなかで、「こんなに社会の至るところでDNPの技術や知見が使われているのか」と驚きの連続でした。長い歴史のなかで常に新しいことにチャレンジしてアップデートしてきたからこそ、現在の技術・人財・ネットワークを築くことができたのだと思います。
今回の生成AIから生まれた新たな音楽体験も、「フリーでボーダーレスな音楽祭」をめざす日比谷音楽祭に新たな魅力をもたらしてくれました。DNPはともにチャレンジするパートナーだと思っていますので、これからもぜひご協力ください。
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亀田誠治さんに「DNP生成AIラボ・東京」を見学していただきました!
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2023年12月、東京・市谷に開設した「DNP生成AIラボ・東京」。多様なテーマで社外のパートナーと協働(コラボレーション)することで生成AIのユースケース(使用事例・用途例)を増やし、その可能性を広めることを目的とするこの施設を、今回亀田さんが見学いたしました。
デモ体験ゾーンで、ラボスタッフの佐藤・大野・手嶋の3名から生成AIの最前線についての話を聞いた亀田さん(左写真)。「日頃付き合いのない人から、新しい知識や刺激を受けることってよくあります。その意味では、ここでDNPの皆さんが社外の人とコラボレーションするのは、良い循環につながりますね。“リアルオープンソース”みたいだ」などの感想をいただきました。
落とし物の写真から生成AIによりキャラクター画像を生成する「社内落とし物取得促進アプリ」や、生成AIによりおみくじを作成し紙で出力するツール、リアルタイムで会話を可視化してイメージ画像を生成するツールなど、生成AIを活用した事例を紹介(中央写真)。日比谷音楽祭に出展したストーリー生成音楽ゲームを実際にプレイして(右写真)、「カラオケの採点と違って、どんな音を鳴らしてもポジティブに評価してもらえるのが楽しい」と笑顔で語る亀田さん。さまざまなユースケースを体験することで、生成AIの未来についてさまざまなご意見やアドバイスをいただくことができました。ありがとうございました!
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