昔ながらの町並みに、ちょっと瀟洒な建物が紛れ込んでいる。それが朝倉彫塑館だ。彫刻家・朝倉文夫のアトリエ兼住居を改装したもので、「東洋のロダン」と称された彫刻家の作品が展示されている美術館だ。古い木造建築が立ち並ぶイメージのある谷中で、黒く塗られたコンクリートのファサードは異彩を放っている。
ただ外観だけでなく、館名に含まれる「彫塑」という言葉も少し特異な存在感を持っている。彫塑とは彫り刻む技法である「彫刻」と形づくる技法である「塑造」を統合した言葉で、現在の日本では一般的に「彫刻」と呼ばれているもの。もともとは形づくる技法を、減算して作る場合は彫刻、加算して作る場合は塑造と使い分けていたのに、どちらも彫刻という言葉に表されるようになってしまった。そのため、彫塑という言葉の居場所がなくなり、人びとからあまり注目されない言葉に落ちぶれてしまったのだ。
朝倉彫塑館の屋上に上がると、一体の人物像が屋根の端に置かれていた。青空の下で、背中を丸めながら周辺の町並みを見下ろしている像を眺めると、「彫塑」という言葉が耳慣れない理由がわかったような気がしてきた。人びとから注目されなくなったのは、「彫塑」という言葉が谷中の一角にある朝倉彫塑館の屋根の上でじっとしているからではないだろうか。この寂しげな像が、まさに「彫塑」という言葉そのものなのだ。
2023年7月 町角 東京 | |
バック・ショット 青空 雲 博物館・美術館 彫刻 谷中 |
No
12517
撮影年月
2023年4月
投稿日
2023年07月01日
更新日
2023年08月07日
撮影場所
谷中 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF