【監修】
関口麻衣子先生(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
【記事協賛】
バイエル薬品株式会社(http://www.bayer-pet.jp/pet/)
【犬と猫の皮膚の構造】
犬猫の皮膚は赤ちゃんの肌より薄く、デリケート!
全身の体表を覆っている皮膚には、さまざまな刺激(日光、暑さ寒さ、ほこりや細菌など)から体を守ったり、体温を調節したり、寒冷や痛みなどを感じる感覚器となったりと、いくつもの大切な役割があります。皮膚の基本的な構造は人も犬猫も似ていますが、大きなちがいが3つあります。
1.犬猫の表皮はとても薄い!
犬や猫も人も、皮膚は「表皮」「真皮」「皮下組織」の3つの層で構成されています。体のいちばん表面にある表皮が、外の刺激から体を守るバリアになりますが、実は犬や猫の表皮は人に比べるととても薄いのです。人では赤ちゃんの表皮は成人の半分くらいの厚さですが、犬猫ではさらにそれよりも薄く、0.1ミリ以下。表皮が薄いということは、それだけ刺激に弱く、デリケートだということなのです。
2.体表に毛がたくさん生えている
言うまでもなく、人と違って犬や猫の体は全身が毛で覆われています。1つの毛穴から生えている毛の数は、人では1〜数本ですが、犬猫の場合はたくさん生えていて、比較的長い主毛(トップコート)と短くて細い副毛(下毛/アンダーコート)の2種類の毛があることも特徴的です。表皮が薄い分、密集した被毛が皮膚を保護し、刺激から守っています。また、気温や日照時間の変化によって、主に春と秋に下毛が生え替わることで温度調節を行い、体を環境に対応させています。
3.べったりした汗をじわじわかく
犬猫が「人のように体に汗をかかない」と言われるのは、皮下組織にある汗腺のタイプが異なるためです。人ではエクリン汗腺が全身に分布していて、そこで分泌された水分量の多いさらさらの汗が汗孔というあなから出てきますが、犬や猫ではこのエクリン汗腺は足の肉球にしかないため、人と同じような汗をかくのは肉球だけなのです。けれども、犬や猫の全身には、人ではわきの下、外耳道、乳輪など、特定の部分だけにあるアポクリン汗腺が分布していて、汗孔ではなく毛包につながっています。人が普通にかく汗とはタイプが異なるけれど、犬や猫もアポクリン汗腺から分泌される、べたべたした汗をじわじわと体にかいているのです。
【犬猫の皮膚病(スキントラブル)が増えている理由は?】
気密性の高い室内飼育が一因!?
発症しやすい犬種・猫種も 近年、皮膚病(スキントラブル)で動物病院に来院する犬が増加傾向にあると言われています。犬はもともと皮膚のpH(ペーハー)が6.2〜7.8と高めで(猫は6.4程度、人は約4.8で弱酸性)、細菌が増殖しやすいことが知られています。さらに気密性の高く空気の流れの少ない室内で暮らすようになったことで、被毛の通気性も悪くなり、皮膚が蒸れやすくなったことで、細菌感染が増えているのではないかとも考えられています。
スキントラブルが起こりやすい犬のタイプ
犬のアトピー性皮膚炎が増えていますが、アトピーは遺伝的な体質が関係して言われています。日本では柴犬、ウェスト・ハイランド・ホワイトテリア、シー・ズー、フレンチ・ブルドッグ、ラブやゴールデンなどのレトリーバー種などで多く見られます。アトピー体質の犬は皮膚が生まれ変わるターンオーバーのサイクルが短く、皮膚のバリア機能や保湿力が低下しているため、皮膚トラブルが起こりやすくなります。 コッカー・スパニエル、シー・ズー、ビーグル、ラブラドール・レトリーバーなどは、皮脂の分泌が多く、体がべたつきがちのため、カビの仲間であるマラセチア菌などの菌が感染しやすく、脂漏性皮膚炎(マラセチア皮膚炎)などを起こしやすいことが知られています。 また、キャバリア、パグ、シー・ズー、チン、ブルドッグ系など顔のしわの深い犬種は、しわの中の皮膚が蒸れたり皮膚がこすれたりして炎症が起こりがち。さらに太っている犬は、たるんで段々になった背中の皮膚が擦れたり、足の肉球のすき間がなくなって股ズレならぬ肉球ズレなどの皮膚炎を起こしたりします。
スキントラブルが起こりやすい猫のタイプ
猫は、自分で体を舐めて毛づくろい(セルフグルーミング)を頻繁に行うため、皮膚は比較的いつも清潔。なので、スキントラブルは犬ほど多くはありませんが、短毛種よりも長毛種のほうが起こりがちです。猫はあごの下と尾の付け根の背面に皮脂腺が多く、ここから分泌される過剰な脂分の影響で、あごの下に黒いゴマのような猫ニキビ(猫痤瘡)ができたり、スタッド・テイルと呼ばれる尾の付け根の炎症が起ったりすることがあります。
【健康で丈夫な皮膚を保つために】
自宅で行うホームスキンケアに大注目!
犬や猫は表皮が薄くて皮膚そのものはとてもデリケートですが、たくさんの毛で保護されているため、ある程度の健康は保たれています。けれども、何もケアをせずにほったらかしにしていたら、いつトラブルが起こってもおかしくありません。すでに皮膚のトラブルがある犬猫では、病院で治療としての薬浴などのケアが行われてきましたが、今、注目されているのは自宅で行うホームスキンケアです。
日々のブラッシングと定期的なシャンプーが基本
「スキンケア」といっても、犬や猫では人のように直接肌にローションを塗るわけにいかないため何をしたらよいのか、イメージしにくいかもしれません。けれども、特別大変なことではなく、犬猫のスキンケアは、まず目で見て手で触れて皮膚の状態を確かめることから始まります。健康な皮膚は白っぽいピンク色で、表面もなめらか。この健康な状態を保つために重要となるのが、日々のブラッシングと、定期的なシャンプーなのです。ブラッシングは、むだ毛を取りのぞき、もつれた毛をほどくことによって体表の通気性がよくなり、皮膚が蒸れるのを抑えます。被毛についた汚れもある程度落ちるので、シャンプーの回数を減らすこともできます。 また、これまでシャンプーは、飼い主さんが気になる汚れやニオイを取り除いたり、見た目をきれいにしたりという、ヘアケア(被毛の美容)に主眼が置かれてきました。けれども、スキンケアを意識したシャンプーを行うことで、被毛と皮膚を丈夫で健康に保ち、トラブルを抱えた皮膚も徐々に状態を改善していくことができます。
ヘアケア用ではなくスキンケア用のシャンプー剤を選ぼう
スキンケアで特に重要なのはシャンプー剤選びです。通常のペット用のシャンプー剤は被毛の汚れを落として保護するヘアケアの成分が中心です。一方、スキンケアの目的は、被毛と皮膚の両方の状態を整えること。被毛の汚れはもちろん、皮膚表面の古い角質や余分な皮脂なども洗い流して皮膚を清潔にするだけでなく、角質成分や保湿に必要な成分を補給して、ローションのように皮膚に浸透させるのがスキンケア用シャンプーの特徴です。シャンプーの成分をしっかり確認し、皮膚の角質成分であるセラミドや尿素、アミノ酸、保湿効果に優れたグリセリンやリピジュアなどの成分が配合された、低刺激性のスキンケア用シャンプーを選択するとよいでしょう。
【スキンケアシャンプーで実践!皮膚にやさしいシャンプー法】
30℃程度のお湯でマッサージするようにゆっくり皮膚に浸透させる
効果がさらにアップする、スキンケアシャンプーを利用する際のポイントは次の通りです。
- 地肌をじっくりぬらす
シャンプー前にブラッシングをしてもつれ毛がほぐれたら、ぬるめの温水で、できれば5分間かけてゆっくりと地肌までしっかり塗らします。ゆっくりと肌を塗らすことで角質がやわらかくなり、シャンプー剤のスキンケア成分が浸透しやすくなります。お湯の温度は30℃くらいが適温。これは温水プールくらいの温度で少し冷たく感じるかもしれませんが、水温が高すぎると皮膚表面の水分が蒸発して肌が乾燥しやすくなりますし、低すぎても余分な皮脂が十分に落ちません。 - シャンプー剤は泡立ててから
手である程度泡立ててからシャンプー剤を体につけて全身になじませます。シャンプー剤は泡立ててから体につけたほうが泡のクッション性で肌を傷つけずにすみますし、同じ濃度で体に行き渡らせることができます。指の腹で地肌をマッサージするように5〜10分くらいかけてやさしく洗いながら浸透させます。トラブルなど気になる部分がある場合は、その部分からシャンプーをつけ始めます。そうすることで、スキンケア成分を長く浸透させることができるからです。 - 十分にすすぐ
シャンプー剤のスキンケア成分を十分に浸透させた後は、しっかりすすいで余分な成分を洗い流します。 - ドライヤーで乾かす
被毛の水分を手で絞ってからタオルで十分に拭き取り、ドライヤーで乾かします。温風でやけどをさせないように、冷風も適宜取り入れます。ドライヤーを嫌がる場合は、しっかりとタオルドライした後に自然乾燥させ、乾いたらブラッシングで整えます。
※シャンプーの頻度やシャンプー剤の種類は、皮膚の状態やペットの年齢などによって異なりますので、動物病院などに相談してください。
【Doctors Message】
ホームスキンケアで健康な皮膚をつくり、スキントラブルを予防しましょう
「これまで『シャンプー』というとどうしても人間の頭髪を洗うというイメージがあり、犬や猫もヘアケアばかりにスポットが当たっていました。でも、犬や猫では毛に覆われているのは頭だけでなく全身です。女性の飼い主さんなら皆さん、ご自分のお顔やボディのスキンケアには気を遣っていらっしゃると思います。汗腺や皮膚のメカニズムに若干の違いはありますが、基本的な構造は人も犬猫も同じです。そう考えると、犬や猫のスキンケアの必要性も理解しやすいのではないでしょうか。
動物は毛で覆われていて人のように直接肌にローションを塗ることはできないので、スキンケアシャンプーを上手に利用します。スキンケアのシャンプーは汚れを洗い流すだけでなく、肌に浸透させるというローションや化粧水のような使い方もあるため、従来のシャンプーの概念とは少し異なっています。ペット、特に犬のスキントラブルが増加傾向にある今、ペットのスキンケアで角質の状態を調え、健康で丈夫な皮膚をつくることがトラブルの予防につながります。そういう観点からホームスキンケアをおすすめします」(関口麻衣子先生)