圧倒的な歌唱力とステージでの支配力。常に100%出し切る熱いパフォーマンスが絶賛されるヴォーカリストの終わりなきエネルギー
SPECIAL
#15 | May 22, 2019

圧倒的な歌唱力とステージでの支配力。常に100%出し切る熱いパフォーマンスが絶賛されるヴォーカリストの終わりなきエネルギー

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

各々のフィールドで専門性を極め、グローバルな視点と感性を持って、さらなる高みを目指す海外のアーティストやビジネスパーソンなどをインタビューするコーナー「INLYTE(インライト)」。第15回目はアメリカの人気R & B /ロックンロールバンド「Vintage Trouble(ヴィンテージ・トラブル)」のヴォーカル、Ty Taylor(タイ・テイラー)が登場。地面を揺るがすほど迫力のあるヴォイスと、アグレッシブに縦横無尽に走り回るダイナミックなステージで観客を魅了する、彼のエネルギーは一体どこから来るのか。
PROFILE

ミュージシャンタイ・テイラー / Ty Taylor

アメリカ・ニュージャージー州出身。幼少期の頃から、モデルや声優、役者などと、様々な分野において才能を発揮していた。2008年にGhost Handsというグループでヴォーカリストとして活躍。その2年後にナル・コルト(g)、リチャーと・ダニエルソン(ds)、リック・バリオ・ディル(b)とロックバンド、ヴィンテージ・トラブルを結成し、2012年に全米デビューを飾った。現在も勢い止まることなく、活動を続けている。

アフリカ系初の「パンパース」ベビーモデルから、子役として芸能生活をスタート。もっと演技が上手くなりたくて、名門大学で演劇を専攻

ニュージャージー州モンクレアで生まれ育ったタイ・テイラーは、生後18ヶ月の時にベビーモデルとしてオムツメーカー「パンパース」のコマーシャルに登場し、その後は子役としてブロードウェイの舞台を始め数々のミュージカルやテレビに出演する。5歳からは教会でゴスペル音楽にも触れ歌い始め、ゴスペルからも音楽的影響を受けるようになった。高校卒業後は、ピッツバーグにあるカーネギーメロン大学で演劇を専攻し、シェイクスピアなどの古典から現代劇に至るまで、戯曲を通して演技を深く学んだ。タイが過去に出演したブロードウェイ作品には、「Joseph and the Amazing Technicolor Dreamcoat(ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・テクニカラー・ドリームコート)」、「Pippin(ピピン)」、「Grease(グリース)」「We will rock you(ウィー・ウィル・ロック・ユー)」などがある。

そして、ミュージカルの舞台に出演しながら、再び作曲するようになると、もっと自分の言葉で伝えたいと思うようになり、音楽の道へ進むことを決意。ロックバンド「Dakota Moon(ダコタムーン)」のメンバーとして活動することを決め、ニューヨークからバンドの活動拠点であるカリフォルニアへ移住する。その後は、ロックスターのリアリティショー「Rockstar:INXS」に出演するなどして、積極的に音楽活動を行なった。

そしていよいよ2010年に、Nalle Colt(ナル・コルト、guitar)、Rick Barrio Dill(リック・バリオ・ディル、bass)、Richard Danielson (リチャード・ダニエルソン、drums)の4人が集まり、ロサンゼルスでR & B /ロックンロールバンド「Vintage Trouble(ヴィンテージ・トラブル)」を結成。彼らのライブがロサンゼルスのアンダーグラウンド・シーンで話題となると、ボン・ジョヴィやKISSをヒットさせた有名マネージャー、Doc McGhee(ドック・マギー)の目に留まり、彼の提案でイギリスに拠点を移すことになる。

 

Photo by Kevin Bull

イギリスに移ると、音楽専門誌主催のアワードで新人賞を取るなど瞬く間に人気に火が付き、 デビュー・アルバム「BOMB SHELTER SESSIONS(ボム・シェルター・セッションズ)」が予約だけでUK AmazonのR&Bチャート1位、同ロック・チャートで2位となった。その後も、クイーンのギタリストのブライアン・メイ、ボン・ジョヴィ、レニー・クラヴィッツのツアーに帯同し、フレディ・マーキュリー生誕65周年イベントではフロントマンとしてイベントに招待され、ローリング・ストーンズのロンドン公演やAC/DCのヨーロッパツアーのオープンニングアクトを務めるなど、凄まじい躍進を遂げた。そして、ブルーノートの社長ドン・ウォズが一目惚れし、2014年に正式に契約したことで、Vintage Troubleがブルーノート史上初のロック・バンドになったことは記憶に新しい。

 

現在は再びロサンゼルスを拠点に4人で活動を続けている。ボナルー、SXSW、ロック・イン・リオなど世界中のフェスにも出演し、ライブは18か国で600公演、200万人を動員するほどの人気だ。昨年は「 Chapter II – EP I」を、今年は「Chapter II – EP 2」の最新EP2枚を発表し、常に音楽シーンで脚光を浴び続けるタイ・テイラーに、今まで辿ったキャリアについてや、音楽を始めたきっかけ、成功についてや、これから叶えたいことなどを伺った。

若きミュージシャンには、いろんなジャンルの音楽を聴いてほしい。成功したかったら、惜しみなく全てを出し尽くすことが大事

―タイさんはニュージャージーで生まれ育ったんですよね。どんな子供時代を過ごしましたか?

実は僕、生後18ヶ月の時に、初の黒人モデルとしてパンパースのコマーシャルに出てるんだ。だから、子役よりずっと前から芸能人としてのキャリアをスタートしてる。5歳の頃から教会で歌い始めて、8歳で初めてブロードウェイミュージカル「Raisin(レイズン)」に出たんだ。その後、「Runaways(ランナウェイズ)」にも出演したし、パフォーミングアートの学校にも行って、6年生の時には初めて自分で作曲もしたよ。それからは、僕の母親が運転した車に乗って、地元の中学生達と一緒にいろんな学校を回って僕の作った曲でパフォーマンスしたんだ。

 

―赤ちゃんの頃からすでに芸歴があったんですね!

僕が育ったモンクレアという街は、芸術文化に造詣が深く、美術館があったし、ニューヨークで働いている親を持つ生徒が多かったから、いろんな文化的背景を持った友達が周りにいて、とても素晴らしい環境だったよ。学校では、アートや電子工学の授業もあって、「夢を持ちなさい。必ず叶うから」と教えてくれたんだ。

 

―大学は、名門カーネギーメロン大学に進んだんですね。専攻は音楽ではないのですか?

演劇を専攻した。テレビコマーシャルやミュージカルでは歌だけじゃなくて演じないといけないから、大学ではもっと本格的に演技を勉強した方が良いと思ったんだ。

 

―好きな劇作家や作品、俳優などはいますか?

作家ならジェイムズ・ボールドウィン。それから僕の大好きな戯曲「Life Is a Dream(人生は夢)」を書いたスペインの劇作家のペドロ・カルデロンや、ミュージカル「Raisin(レイズン)」の元になった戯曲「A Raisin in the Sun(ア・レーズン・イン・ザ・サン)」を書いた劇作家のロレイン・ハンスベリー。テネシー・ウィリアムズも好きだね。「The Night of the Iguana(イグアナの夜)」や「Cat on a Hot Tin Roof(熱いトタン屋根の猫)」とか、彼の作品はアメリカ南部出身の僕の両親を思い出すんだ。あとは、シェイクスピアを好きな人はたくさんいるけど、僕はシェイクスピアならコメディよりロマンス派だね。ラブストーリーが好き。

 

―演劇で日本に来たこともあります?

大学4年生の時に、アンドリュー・ロイド・ウェバーが世界中でコンサートをやることになって、そのワールドツアーに参加することが決まったんだ。だから僕は、1991年に 新宿文化センターの舞台に、マイケル・クロフォードとサラ・ブライトマンと一緒に立ってるんだよ。そこで初めて、 「さくらさくら」を覚えて歌ったんだ。それが最初の来日。

 

―そんな若い時にミュージカル俳優として来日していたんですね!そこまでミュージカルで活躍しながら、音楽の世界に進んだのはなぜですか?

大学時代、ミュージカルに出演しながら、友達にアコースティックギターを教えてもらって、子供の時以来久しぶりに曲を作るようになった。自分の歌を作り出したら、一番やりたいことは歌で、自分の言葉でストーリーを伝えることだと気付いたんだ。

 

—それがわかってから、何かアクションは起こしたんですか?

アンドリューのツアーから戻った後、ブロードウェイの舞台「Grease(グリース)」に出演中、デモテープを送ったらすぐに契約が決まったんだ。それで、カリフォルニアを拠点に活動しているバンド「Dakota Moon(ダコタ・ムーン)」からオファーを受けたので、僕も引っ越した。そこから僕のLA生活が始まって、今22年目だよ。

 

―俳優活動は今でもやっているんですか?

時々ね。もっとやりたいし、今色々オファーが来ているから、これからもっと俳優の仕事もできると期待してる。

 

―才能が色々ありますよね。話を聞いていて、ステージ上でのアクロバティックでダイナミックな動きにも納得します。

なぜ僕がアクロバティックかって言うと、オリンピックの体操選手になりたかったからなんだ。子供の頃から始めて、高校時代は体操チームのリーダーも務めていた。だから棒につかまって逆立ちするようなことは、僕にとって簡単なことなんだ。みんな「どうやったらあんなことできるの?」って言うけど、何てことないよ。

―そうなんですね! でも色々やって、結局一番好きなものは音楽だったのですね?

そう、、いや違う。人生で一番好きなのは生きることだよ(笑)。僕の一番の強みは人とすぐに仲良くなれる社交的なところだと思ってる。だから、僕たちの音楽を通して人と人がしっかり繋がることが出来るんだ。

 

―昨年から今年にかけてChapterシリーズのEPを発売しましたが、手応えはいかがですか?

いい感じだよ。世界中のいろんなところでライブをしていると、「Blues Hand Me Down」が聴きたいという声もたくさんあるけど、新曲が聴きたいという声もあるから作ったんだ。Chapter Ⅱはダンスしたくなるような、ソウルフルでグルーヴィーな曲が多い。僕が子供の頃から聴いて踊っていたようなソウルやダンスミュージックだけど、いろんなジャンルの音楽が混ざり合ってるし、Vintage Troubleが歌うから他のバンドとは違った風に楽しめると思う。

 

―若い人でタイさんのようなミュージシャンになりたいという人がいたら何とアドバイスを送りますか?

好きなものだけ聴くのではなく、できるだけいろんなジャンルの音楽をたくさん聴いて欲しい。いつも似たような音楽ばかり聴いていると、新しいタイプのものを受け入れにくくなってしまうから。もし僕がヘヴィメタルが大好きだったとしても、日本の伝統的な音楽や、モーツァルトのようなクラシックとか、チークダンスでかかるようなムード音楽とかも聴くようにすれば、ヘヴィメタルも今までと違う風に聴こえてくると思うんだ。あとは、音楽を聴いて記憶することも大切だね。何度も聴いていれば身体が覚えるから。

 

―興味深いです。

例えばマイケル・ジャクソン、デヴィッド・ボウイ、フレディ・マーキュリーは、いろんなスタイルの音楽から影響を受けていることがわかるよね。だからみんなバラエティに富んだサウンドやスタイルを持っている。彼らはインスピレーションに欠けることがなかったし、枠から飛び出すことを恐れずに表現し続けてきたからね。

 

―日本のアーティストを聴くことはありますか?

今は聴かないけど、最初に日本に来た時は、バブルガム・ブラザーズが流行ってて気に入ってよく聴いてたよ。「Oly Oly Oly OH! Yely Yely Yely YEAH!」ってね(笑)。

 

(笑)。では、一年前にも聞きましたけど、今のタイさんにとって成功とは何ですか?

前に聞かれた時は幸せとか平和って言ったのかな。今は、人生で出会ういろんな人たちに称賛してもらうこと。それは、今やっていることが世界にどのように受け入れられているかってことだし、もし称賛に値する人なら、自分が持って生まれた才能でお金を稼ぐことができる。その成功のためには、自分を惜しみなく出し尽くすことが大切だと思う。

 

―まだ叶ってない夢はありますか?

たくさんあるよ。明らかに一番大きな夢は、世界的なヒット曲を作ること。あとは、ギリシャに行くこと。この前誕生日のお祝いに家族とエジプト旅行をして、寺やスフィンクスやアートを観て、美味しいものを食べて、ナイル川横断5日間のクルーズにも乗った。エジプト遺跡や象形文字についても学んだよ。

 

―音楽以外に何か興味を持っていることはありますか?

絵を描くことが好き。あと、料理も大好きだから、本格的なレッスンを受けてシェフもやってみたい。旅行も好きだし、書くことも好きだから、いつか自伝も書いてみたいと思ってる。あとは美術館に行くのも乗馬も好きだね。それから、もっと仲間の人生について知る時間があったらいいなと思う。彼らの家族や子供ともっと一緒の時間を過ごせるといいね。

 

―毎日心がけていることや習慣はありますか?

最近はヨガや瞑想をしてるし、発声練習、背筋と腹筋は毎日してるよ。それから、感謝の気持ちを忘れないように心がけているね。

 

ヨガはシンガーとしても大事なのですか?

シンガーとしてもそうだけど、僕はいろんな激しい動きをするし、歳を重ねているから常に健康でいるためにも必要だね。この前とうとう50歳になったんだよ。

 

え!全く見えないです!

エジプトには50歳になった記念のお祝いで行ったんだよ。本当だよ!だからヨガが必要なんだ。

 

以下はライブレポート。

可憐なジャズを奏でたTRI4THのオープニングアクトのあと、しばらくしてタイ・テイラーを筆頭にメンバー全員が登場。「Nobody Told Me」から始まり、次の「Knock Me Out 」からテンションは急上昇。会場を大いに盛り上げ、観客は手拍子で応える。「調子はどう?今俺たちは渋谷のクラブにいるけど、今からアメリカ南部に僕を連れてってよ」と言うと、「Still and Always Will」を披露し、会場はさらに一体感を増す。その次はしっとりとバラード「My Whole World Stopped」を熱く歌い上げた。

 

左上から時計回りに:タイ・テイラー (Vocal)、リチャード・ダニエルソン(drums)、リック・バリオ・ディル(bass)、ナル・コルト(guitar)

「今日はとても大切なことを言いたいんだ。 肌、宗教、性別とか人種よりも先に、みんな同じ人間だってことを最近忘れちゃっているんじゃないかと思って。お願いがあるんだけど、振り返って、初めて会う人にHi Five(ハイタッチ)して自己紹介して仲良くなろう!」と提案すると、観客は笑顔で見知らぬ人と挨拶を始め、その後、今月リリースしたEP「Chapter II – EP 2」から「Everyone is Everyone」を歌った。続いて「Do Me Right」、コール&レスポンスからギターの前奏が続き「Run Like The River」が始まると観客と大合唱し、盛り上がりが最高潮に。会場を縦横無尽に走り回り、タイはついに2階席へ駆け込み、アリーナを見下ろしながら熱唱。

 

ステージに戻ったあとは、バラード 「Another Man’s Words」でしっとりたっぷりと聴かせ観客のハートをしっかり掴み、少しアップテンポで「Doin’ What You Were Doing」を歌い、コール&レスポンスしながら踊って盛り上がった。最後は、「Can’t Stop Rollin’」、「Crystal Clarity」、「Run Outta You」、「Strike Your Light」と立て続けに名曲が続き、アンコールは、「Blues Hand Me Down」で再び会場の熱気は最高潮に達して東京公演の幕を閉じた。

 

まるでダンスホールに来たかのような雰囲気で会場を一体にしたかと思えば、バラードでしっとり歌い上げる。かと思えば、観客エリアに飛び出して、会場中を縦横無尽に泳ぎ回る。常に全力なのに、決して歌で息が上がらないのは、長年プロとして磨いてきたスキルと、日頃のヨガやワークアウトで鍛えられた強靭な身体の賜物だろう。スターとは思えないほどのフレンドリーさで観客を包み込むオーラを感じるのもタイ・テイラーの人間的魅力。そして本当に歌が上手い。あの表現力豊かなバラードを聴けば、シェイクスピアはコメディよりもロマンスが好きだと言うタイの言葉も納得する。世界的ヒット曲をひっさげ、次回来日する日を首を長くして待ちたいと思う。