| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-055 (Poster presentation)
無居住化は、里山的環境を好む生物を消失・減少させる原因になると懸念されている。一方、無居住化した地域を自然の遷移にゆだねて自然植生へ移行させることができれば、人間の開発圧によって劣化した奥山的環境を好む種を回復させる契機となるかもしれない。しかし、筆者らのこれまでの研究では、無居住化後も里山的環境を好む種が維持される集落がある一方で、奥山的環境を好む種が回復しない集落もあることが明らかになった。本研究では、全国各地の無居住化集落とその近隣の人が暮らす集落の種組成を比較して得た種の消長パターンを、無居住化集落の土地利用に着目して整理することで、種の消長の引き金となる要因、緩和させる要因の特定を試みる。
無居住化集落とその近隣の居住集落を71セット選定して調査地とした。各調査地には、調査地の里山景観の代表的な要素(二次林、刈取り草地、水田、宅地)を通過する1km × 100mのベルトトランセクトを設置し、歩行可能な道を踏査して指標種の在不在を記録した。指標種には、各要素の植物群落に特徴的に出現し、植物社会学的群落分類の際に標徴種として用いられる多年生草本と灌木のうち、広い分布域を持つ種を用いた。各調査地の土地利用は、集落が利用されていた年と最近年の空中写真と地形図の判読によって確認し、居住地、農地、荒地、人工林、天然林、他の別を記録した。
近隣の居住集落と比べて草原性種の出現種数が少ない無居住化集落は、無居住化後に人工林の面積が拡大する傾向にあった。一方、無居住化集落であっても近隣の居住集落と同程度以上の草原性種の出現種数を持つ集落は、荒地が一定程度の面積で存在していた。森林性種でも、近隣の居住集落と比べて出現種数が少ない無居住化集落は、無居住化後に人工林化する傾向にあった。無居住化後においても、植物種の消長パターンには、集落跡で行われる粗放的な植生管理の影響があらわれているようだ。