●大阪府が昨日、ライブハウスやカラオケ、スポーツクラブなどの休業要請を解除。これで全業種が解除されたことになる。近畿地方全体でも6月1日から全業種に対する休業要請が解除される。いちばん解除が遠いと思われていたライブハウスとスポーツクラブがついに。ただし、ライブハウスには「原則着席する。着席が困難な場合は客同士の距離を確保(できるだけ2メートルを目安)」「ステージと客席を2メートル以上離す」などの制限が課せられる。お店の側からは「完全に従うのは不可能」という声も挙がっているというが、意外と緩い条件じゃないかと感じるのは、自分がクラシックのコンサートになじみすぎているからなのか。着席してる人しかいないし。
●東京都には東京都のロードマップがあって、現在はステップ1として博物館、美術館、図書館、体育館等の休業要請が解除されたところ。学校もおおむね6月から再開。報道によれば、今日の会議で当初の予定を早めてステップ2への移行が決定されるという。
2020年5月アーカイブ
大阪はライブハウスの休業要請を解除
「音楽が本になるとき 聴くこと・読むこと・語らうこと」(木村元著/木立の文庫)
●木村元著「音楽が本になるとき 聴くこと・読むこと・語らうこと」(木立の文庫)を読む。著者の木村元さんは音楽書の出版社アルテスパブリッシングの創業者のひとり。アルテスパブリッシングを立ち上げる前は音楽之友社で書籍編集を担当しており、長年にわたって良質な音楽書を世に出してきた。つまり、編集者が自ら書いた本がこちら。音楽と本のことについて語るならこの著者をおいてほかにいない。もとになっているのはアルテスパブリッシングのメールマガジンで連載されたエッセイ。大上段に構えたところはなく、すいすいと読めるのだが、根幹となっているテーマは音楽のあり方そのものについてであって、深いところに切り込んでくる。友人に宛てた私信のような、率直でゆるやかな音楽論。
●特に後半がおもしろい。「音楽との『出会い』はどこからやってくるのか」の章では、今やYouTubeが音楽を聴くためのツールになっており、CDを聴く人でさえSNS上でシェアするのはYouTubeのリンクだと指摘する。「SNSのタイムラインにおいては、音楽は画像として登場する」という一文に目からウロコ。
オンラインミーティングで自分の顔が暗すぎる問題
●ZoomやSkypeなどでオンラインミーティングを始めた頃、やたらと自分の顔が暗く映ってしまうのに困った。部屋が十分に明るいはずなのに、他人と比べて自分の顔が暗い。なぜなんだろう。ノートPCに付属しているカメラを使っていたので、カメラの設定を変更すればいいのかと思ったが、そんな設定項目が見当たらない。うーん、どうすればいいのか。
●で、少し調べてみたら答えが分かった。真っ白の壁を背景にしていたのがよくなかったんである。壁が明るいので、カメラはそれに合わせて露出を補正してしまうから、顔が暗くなる。では、壁を暗くしようと思い、真っ黒の大判の紙を壁に貼ってみると、これが効果てきめん。一気に顔が明るくなった。が、これはこれで難があって、壁が黒いと自分の髪の黒さと境目があいまいになってしまい、Zoomなどのバーチャル背景がイマイチきれいに決まらない。もっと人間の輪郭がはっきりと認識してもらえる色がいい。それに壁を真っ黒にしてしまうと今度は顔が明るすぎて不自然な気もする。というわけで、壁の一部に濃い目の色のタペストリーのようなものを飾っておくことにした。これで顔の明るさは自然な感じに落ち着いた。
●もっともこれはモバイル用ノートPCの付属カメラを使っているからで、デスクトップPCにきちんとしたWebカメラを取り付ければ、そんな小細工の必要はないかもしれない。緊急事態宣言中はWebカメラが品薄でまともな価格では手に入らなかったのでしょうがない。これに関しては別の方法もあって、不要になったスマホをPCに接続してWebカメラとして代用するという手がある。こちらは試していないのだが、ふつうのWebカメラよりもずっと高画質を期待できるんじゃないだろうか……そんな必要性があるとすればだが。
モナコの市街地サーキットでバーチャルGP
●ドイツのブンデスリーガは再開されたが、今シーズン、DAZNはブンデスリーガの放映権を持っていない。なので、相変わらずDAZNで見られるものといったら過去の名勝負とスポーツ・アニメとeスポーツくらいしかない。いったいなんのために契約しているんだか、ブツブツ……とぼやきつつも、モータースポーツの項目から「F1 Esports バーチャルGP モナコ」を選んで、観戦する。舞台はモナコ。本物のレーサーたちがバーチャルで顔をそろえているが、一部は他競技からの選手もいて、サッカー界からはクルトワとオーバメヤンが参戦していた。
●で、このバーチャルGP、前回もスゴいと思ったが、今回のモナコはますますスゴい。理由のひとつは、そこがモナコだからというロマン。あのモンテカルロ市街地サーキットはみんなよく知っていると思う。ワタシも90年代には何度も走ったことがあるので、ドライバー視点から見る風景が懐かしい(もちろんゲーセンで走っていたわけだが)。やっぱりトンネルとその先のシケインは印象的だ。もうひとつの理由はレースが熱いから。このバーチャルGP、マシンの性能差なしという設定なので、拮抗した争いになりやすい。さらにマシンダメージもオフの設定だそうで、リアルだったら大惨事になるような接触も許されるため、サイドバイサイドのバトルが頻出する。リアルのモナコだと抜きどころが少なく、ほとんどスタートとタイヤ交換の戦略で順位が決まるように感じていたが、このバーチャルGPではリアルでは無理だろうという場所でも抜ける。周回数が半分なのもeスポーツとしては吉。
●本物のモータースポーツ・ファンにとってはつまらないのかもしれないが、これはこれで競技として成立するのはよくわかる。eスポーツのサッカーや格闘技だって、リアルとは別のファンを獲得しているのだろう。もし来年も東京オリンピックが開催できないようなら、eスポーツの競技だけで開催するのはどうか。東京eオリンピック2021。史上もっとも先進的な大会の予感。
東京でも緊急事態宣言の解除へ
●報道によれば今夜、東京でも緊急事態宣言が解除されるのだとか。解除された後、なにがいつできるのか(特に音楽界は)もうひとつイメージできていないのであるが、ひとまず現時点で新型コロナウィルスが各国でどれだけの猛威を振るったか、後日のためにメモしておこう。感染者数だと検査体制の違いなどが出るかもしれないから、同一人口あたりの死者数を記しておく。データおよびグラフの出典はourworldindata.org。画像だと細部がつぶれるのでリンク先参照推奨。
●100万人あたりの死者数は、5月23日時点で、イタリア539名、イギリス536名、フランス433名、スウェーデン389名、アメリカ290名、カナダ166名、ドイツ98名、日本6.5名、韓国5.2名、ニュージーランド4.4名、オーストラリア4.0名、台湾0.3名。欧米とアジア・オセアニアでは、起きている事態がまったく異なる。地域間で極端に数字が違うので当欄ではよく対数グラフで比較していたが、上記グラフのようにリニアにプロットすると、アジア・オセアニアはほとんどゼロ近辺で固まってしまう。なぜ欧米とアジア・オセアニアでこんなにも状況が違うのかは脇に置いて(単なる憶測以上のものを知らない)、出口戦略は地域によってずいぶん異なってくるにちがいない。なお、スウェーデンは厳格なロックダウンをせずに集団免疫獲得を目指す異例の政策をとっている国なので挙げている。一見、高齢者と病人を見捨てるような乱暴な戦略に見えるが、実は英仏伊より死者数が少ない。というか、結果的にスウェーデンと欧州の他国は似たような道を進んでいるのかもしれない。
●で、現時点でどうなっているのか。多くの国で感染拡大はひとまず収まり、ロックダウンの解除に向けて一歩を踏み出している印象があるが、同じデータを用いて、直近の一日の死者数を一週間の移動平均で比べてみる(日々のばらつきを平滑化するために移動平均を見る)。上のグラフを見ると、どの国もピーク時よりもずっと収まっているのだが、現状の数字はやはりかなり幅がある。5月23日時点で、100万人あたりイギリスが5.0名、スウェーデンが4.0名、アメリカが3.8名。ドイツは0.6名で欧米のなかで見ると低い。一方、日本は0.09名、オーストラリアは0.02名、韓国は0.01名。つまり現時点であっても、欧米では日韓豪のピーク時よりもずっと多くの犠牲者が出ている。たとえドイツであってもそう。それでも彼らはロックダウンを緩和すると決め、ベルリン・フィルの演奏会やブンデスリーガの試合を無観客でものすごく対人距離を意識して開いたわけだ。だからアジア・オセアニアが、今からベルリン・フィルやブンデスリーガと同じことをする必要があるのかというと、それは少し違うんじゃないかという気はする。
●第1波はこうなったが、今後、第2波、第3波……と来たときにどうなるのかはわからない。たとえば、欧米では免疫を獲得する人が増えて感染が広がらず、逆にアジア・オセアニアでは感染爆発が起きる可能性だってあるかもしれない。現状では不明なことが多すぎて、楽観する気にも悲観する気にもなれない。
JTA機内誌 Coralway 若夏号に琉球交響楽団取材記事
●いま飛行機に乗る人は少ないだろうが、日本トランスオーシャン航空の機内誌 Coralway 若夏号に琉球交響楽団の取材記事を書いた。全5ページの特集記事。琉球交響楽団は沖縄唯一のプロ・オーケストラで、今年創立20周年を迎える。本来であれば節目の年を記念して6月にサントリーホールで初めての東京公演を開催する予定だったが、ウィルス禍のため来年6月に公演が延期されてしまった。創立者は沖縄出身で元N響首席トランペット奏者の故・祖堅方正さん。自治体や大企業が母体になっているわけではなく、自主運営の楽団だ。容易に予想が付くと思うが台所事情は楽ではない。楽員は34名、定期公演は年2回。楽員自ら営業から広報までぜんぶ担う。それでもプロフェッショナルとして20年にわたり活動を継続している。
●出不精なうえにインタビューをあまりしない自分にとって、これは異例の取材記事だった。まず昨年12月初旬に東京で同楽団音楽監督の大友直人さんにインタビューを行ない、さらに2月末に沖縄に一泊二日で出かけて、リハーサル見学と楽団員の方々への取材を重ねた。朝5時起きで羽田空港に出かけて、その足で当日に取材をして、翌日の朝に帰京するという、今の自粛生活からは信じられない大移動の強行軍。沖縄という土地への憧憬と(過去にも訪れている)、関係者の熱意が伝わってきたからこそできた仕事で、そうでなかったら受けなかったと思う。
●で、取材した方々がみなさんとても興味深い話をしてくださって、いい記事になったんじゃないかな……と思っていたところで、この長引くウィルス禍。悔しいところだが、昨今の情勢ではお蔵入りせずに形になっただけでも幸いというべきか。
特別定額給付金とマイナンバーカード
●特別定額給付金のオンライン申請で、マイナンバーカードのパスワードがわからないと役所の窓口に人が殺到しているというニュースがあった。ほとんどの人はマイナンバーカードなんて作っていないから(普及率は15%)、オンライン申請などはせずに郵送で申し込むだろうし、あのニュースを聞いて「パスワードを忘れるなんて、うっかり者がたくさんいるものだなあ」と思ったかもしれない。しかし、ご存じだろうか、マイナンバーカードには4種類のパスワードがあるのだ! 「マイナンバーカード署名用パスワード」「利用者証明用パスワード」「券面事項入力補助用パスワード」「個人番号カード用(住民基本台帳用)パスワード」の4種類だ。この内、マイナンバーカード署名用パスワードはアルファベットと数字の組合せで、残りの3つは4桁の数字なんである。パスワードを忘れた場合は、役所の窓口に出向いて再設定しなければならない。
●いったいそれぞれのパスワードがなんの目的で利用されるもので、なぜすべて異なるパスワードが必要なのか。その理由を理解したいという気持ちがわいてこない。そもそも一枚のカードのために4種類ものパスワードを管理できるはずがない。
●ついでに言うと、今年、確定申告をe-Taxで行なって気づいたが、マイナンバーカードの有効期限にも2種類あって、個人番号カードとしての有効期限よりも先に、電子証明書としての有効期限が切れるようだ。えっ、なにを言ってるのかわからない? うん、自分もよくわからない。この仕組みを考えた人は別の惑星の住人なのでは。
ピーター・ドイグ展の3DVRが公開
●2月末から休館が続く各国立美術館だが、6月中に再開する方向で調整が進んでいるそう。自分の印象では美術館はどこもおおむね早期に休館を決めてしまって、人気の企画展はともかく、普段から空いているところまで止めてしまうのかと驚いた記憶あり。
●そんななかで東京国立近代美術館のピーター・ドイグ展が3DVRで無料公開中。VRゴーグルを持っていないのが惜しいが、PCの全画面表示でもけっこう楽しめる。本当に美術館のなかを歩いているかのよう……と思って、ウロウロしてたらあっという間に酔った。この程度で3D酔いしてしまうとは。しかし無人の美術館を歩いていると、ダンジョンを探検しているみたいな気分になれる。敵の出てこない絵画ダンジョン。出口を出た後、どこまで行けるのかなと試してみたが、さすがにコインロッカーとか美術館の外までは行けなかった。リアル展示の会期は6月14日までになっているが、それまでに再開されるのだろうか。
Zoom、Skype、Teams、オンライン・ミーティング
●今回のウィルス禍によって爆発的に普及したのがオンライン・ミーティング・アプリ。代表格はZoomだろうが、ほかにも有力ツールがいくつもあって、ワタシがこの一か月ほどで実際に仕事で使用したのはZoom、Skype、Teamsの3種類。決して目新しいツールではないが、みんなが必要に迫られて使ってみたら思いのほか簡単で便利だったという感じだろうか。緊急事態宣言解除後の「新しい生活様式」においてもこれらのツールは使い続けられるはず。会議、打合せ、写真撮影を伴わないインタビュー取材はオンラインでもできることがわかった。記者会見もこちらのほうが出席率が高まるのでは。広い首都圏では移動に伴う時間と疲労は無視できない。もっとも、オンラインの限界もあることはたしかで、どの程度の割合がオンラインに移行するのかは未知。「かつてはあんなに電車に乗ってばかりいたのか!」と後から振り返ることになるのかどうか。
●Teamsはビデオ会議システムというよりは、ビジネスユーザー向けグループウェアか。Zoomは「Zoom飲み」などという言葉ができたように、ゲスト参加の多い一回性のミーティングでは現状これ一択といった様相。なんといってもゲストはアカウントが不要なので、ハードルが低い。
●最近、印象的だったニュースは「交渉は全てZoomで、インテル960億円買収の舞台裏 ムービットを傘下に」。企業買収すらビデオ会議で完結するとは!
BRUTUS 2020年6/1号 No.916 「クラシック音楽をはじめよう」
●BRUTUS(ブルータス)最新号の特集記事は「クラシック音楽をはじめよう」。同誌創刊以来初めてのクラシック音楽入門特集なんだとか。ワタシも協力させていただいたのだが、ウィルス禍であらゆる公演が中止になっているこんなタイミングに重なってしまうとは。もっとも、録音ならいつだって楽しむことができる。表紙がレコーディング専門アーティストだったグレン・グールド(と愛犬のニッキー)なのは、今の災禍に応じた人選なのか。それにしてもこの写真を見ると、グールドとニッキーの顔つきが似ていて、まるで兄弟みたいだなと思ってしまう。犬は飼い主に似る(?)。
●ワタシが携わったのは、まず挟間美帆さんへのインタビューで、クラシックとジャズの違いについて。原摩利彦さんへのインタビューでグレン・グールドについて。それとBook in Book「みんなのMYクラシックピースガイド」に寄稿。時節柄、インタビューはいずれもオンラインで(挟間さんはニューヨークなのでどちらにせよオンラインになるけど)。記事の書き手がだれであれ、雑誌のトーンを作るのは編集者。音楽誌とは発想の異なるBRUTUSならではのクラシック音楽特集になっていて、学びと発見が多い。
「7日間ブックカバーチャレンジ」まとめ
●出かけられないならお家で読書をしよう!ということなのか、SNS上で「7日間ブックカバーチャレンジ」が流行している。毎日一冊ずつ、お気に入りの本をコメントなしで表紙だけ載せて、7日間経ったらだれかにバトンを渡す、というのが基本ルール。といっても大半の人はなんらかのコメントを添えている。せっかくなので、自分が挙げた7冊をここにも置いておく。パッと本棚を眺めて目に入った、「これ最高におもしろかったなー」という7冊。あえて音楽書は選ばず。
●Day1 まずはイアン・マキューアンから1冊選ぶとすると「ソーラー」。最高にイジワルなんだけれど、実は愛のある名作。最後のページで震えた。
●Day2 傑作ぞろいのカズオ・イシグロのなかにあって、たぶん、あまり人気がないのがこの「充たされざる者」。でも最強の野心作。音楽家小説でもあり夢小説でもあり。
●Day3 予言的な終末小説を山ほど書いたJ.G.バラード。なかでも忘れがたいのが「楽園への疾走」。歪んだ環境保護運動からここまでの狂気を描き出すとは。閉ざされた社会であらわになる人間の本性を描くのがバラード。それが高層マンションなら「ハイ・ライズ」、高級リゾート地なら「コカイン・ナイト」、南国の孤島なら「楽園への疾走」。少年と成熟した女性の物語でもある。
●Day4 スポーツ・ノンフィクションの名著「マネー・ボール」。表側から見れば野球に統計学を持ち込んで割安な選手で勝利するというスポーツビジネスの成功譚なのだが、裏側から見ればスポーツ観戦オタクにとってのロマンそのもの。痛快。
●Day5 サイモン・シンほどわかりやすくておもしろい科学ノンフィクションの書き手を知らない。「代替医療のトリック」「宇宙創成」「フェルマーの最終定理」、どれもエキサイティングだったが、楽しさで一冊選ぶなら「暗号解読」。ナチス・ドイツの暗号機エニグマから古代文字「線文字B」の解読、さらには今日の量子暗号まで。量子暗号ってそういう原理か!と納得して、読んだ後すぐに忘れる……。
●Day6 ド定番、ガルシア=マルケスの「百年の孤独」。ワタシが読んだのは「新潮・現代世界の文学」の一冊で、本当は昔の装幀が懐かしいんだけど、今は新訳が出ている。学生時代に読んで頭が真っ白になった。途中から止まらなくなり猛スピードで読んでしまったので、いずれ落ち着いて再読を……と思いつついまだ果たせず。というか、今こそ読むべきなのかも。ちなみにこの名作の火星バージョンとも呼ぶべきイアン・マクドナルドの「火星夜想曲」も好き。
●Day7 ホラーの大巨匠キングに敬意を払って、ラストは「ニードフル・シングス」。一頃キングにハマって初期~中期の代表作は一通り読んだが、どれも本当におもしろい。読後感のよさで一作選ぶとこれ。「シャイニング」「呪われた町」「ミザリー」「IT」、みんなことごとくエンタテインメントに徹しているのが吉。ただ悲惨な話など読みたくないわけで、キングの「口当たりのよい怖さ」は一種の発明だと思う。
Google Play Musicが今年後半に終了、YouTube Musicへ移行
●Google Play Musicが2020年後半で終了し、YouTube Musicへ移行すると発表。価格も同じで、プレイリストなど各種設定も引き継がれるそうなので大きな混乱はなさそうだが、名前が変わることでずいぶんイメージが変わるというか、サービスの性格や対象者がはっきりするというか。
●一時期、Google Play MusicをApple Musicと併用していたものの、音楽ファンというよりはライトユーザー向けの作りだと感じて、解約してしまった。今ではApple Musicすら、限られた場面でしか使わず、ほとんどSpotify(もちろん有料のほう)とNaxosばかりを使っている。SpotifyはPC版アプリの使い心地が快適。日本では後発だったため、最初は「今さらSpotifyが来ても……」という感じだったが、今や第一選択肢になった。どちらかといえば、鑑賞のために使うのがSpotify、資料として使うのがNaxos。
●最近、Amazon Music Unlimitedも試しに使ってみたのだが、Spotifyとは別に契約し続ける必要性を感じなかったので、こちらも解約することに。だんだん使うサービスが絞られてきた。
映画「アナと雪の女王 2」
●映画館では見逃してしまったので、配信でようやく見た、「アナと雪の女王 2」(クリス・バック、ジェニファー・リー監督)。前作では名曲「Let It Go ありのままで」が生まれたが、今作でも「イントゥ・ジ・アンノウン」という新たな名曲が誕生。音楽がストーリーやテーマと密接に結びついていて、エルサがこの曲の一節を耳にして、不思議な歌声に導かれるところから物語が始まる。音楽は今回もロバート・ロペス&クリステン・アンダーソン=ロペス夫妻で、ふたりで歌詞と曲を共同して作っているそう。音楽も映像も見事。
●で、公開済み作品でもあるので、ネタバレ含みで物語に触れる。前作では船が嵐に巻き込まれてエルサとアナの両親が亡くなったことが、あっけなく示されていたけど、続編ではその両親の運命、さらに祖父の代にあった王国の負の歴史までが明らかにされる。エルサは一作目に続いて、自分の居場所を探し続ける。自分らしく生きることが世間との軋轢を生んだ前作から、今作では自分はどこから来たのか、何者なのかについて向き合うことになる。テーマはもりだくさん。前作にあったシンプルな力強さが後退して、いくぶん焦点が分散した印象は否めないかな。気になったのは自然との共生というテーマの扱い方。ひとつは「水は記憶を持っている」というフレーズになんとも落ち着かない危険な香りが漂っているのと、もうひとつはダムの描き方。ダム=反自然=悪と描きつつも、あれでは結局エルサがもうひとつのダムを作っただけなのでは。むしろダム=治水/利水こそ自然との共生のひとつのあり方という視点も欲しくなる。あとクリストフのプロポーズがあまりにも古典的な描かれ方で、近年のディズニーとしては意外。定番のギャグとしては、たしかにおもしろいんだけど。
新国立劇場「巣ごもりシアター」とDAZNのバーチャルGP
●新国立劇場の「巣ごもりシアター」、現在はバレエ「ドン・キホーテ」が配信されているが(15日14時まで)、続いてドニゼッティのオペラ「ドン・パスクワーレ」(5月15日15時~5月22日14時)、西村朗のオペラ「紫苑物語」(5月22日15時~5月29日14時)が配信される。「ドン・パスワーレ」はよくできた楽しいラブコメ、「紫苑物語」は石川淳原作の現代日本のオペラで、どちらも強い印象を残した舞台。特に「紫苑物語」のような新作は、たとえ舞台で一度観ていても、また配信で観れば違った感触があると思う。というか、この配信サービス、劇場再開後もなんらかの形で続いてくれないものだろうか。世間にもう少し劇場の活動ぶりを知ってもらうためにも。
●全スポーツがなくなってeスポーツやアニメを配信し始めたDAZN。昨日、「モータースポーツ」の項目を見たら F1 Esports バーチャルGPオランダが配信されていたんすよ。これが見てびっくり。えっ、これ本物じゃないの? ゲームなの? マジで。っていうくらいのクォリティ。ちゃんと日本語実況中継も付いていて、だれそれ選手はソフトタイヤを選んで云々みたいな解説が入る(上記ハイライト映像は英語中継)。カメラワークも実際の中継と同じスタイル。すごくスリリングで、もしかしたら本物よりもエキサイティングなんじゃないのか、と思ってしまった。オーバーテイクが多いし。しかもこれ、本物のF1ドライバーが多数参戦していて(たぶん自宅から)、1位のアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)と2位のジョージ・ラッセル(ウィリアムズ)が最後まで激しいデッドヒートをくりひろげた。
●eスポーツに熱狂する人の気持ちがほんの少しわかったかも。そもそもモータースポーツでは、本物であれeSportsであれ、人間が機械を操作しているという点は変わらない。
髪が伸びてきた
●暦の上ではゴールデンウィーク明けの月曜日。緊急事態宣言は続いているのだが、新規感染者の数が減ってきたこともあってか、だいぶ人出が増えている気がする。週末、駅前スーパーに買い物に行くと、あちこちのお店がそこそこ賑わっている。扉をあけ放った飲み屋さんで昼から飲んでいる人の姿もちらほら。ポストアポカリプス的商店街を空想する。
●報道によれば、34県では先行して緊急事態宣言を解除できるかどうかを判断するそう。今回の「緊急事態宣言」、出るときも事前の地ならしが十分にあって、体感的には宣言が出る前から東京ではかなり自粛が進んでいて「まだ出ないの?」という雰囲気だったが、解除の場面でも似たような経緯をたどるのかも。
●髪が伸びてきた。髪を切るのは不要不急だとは思うのだが、宣言が解除されると一気に美容院が混むのは目に見えている。お店は開いている。どうするのが正解なのか。高枝切りばさみでソーシャルディスタンシング・カット……なわけないか。
●ONTOMOの連載「耳たぶで冷やせ」第20回は「マノン・レスコー」原作について。前回、アンリ・ミュルジェールの「ラ・ボエーム」原作をとりあげたので、その流れで。
「鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい世間を楽に生きる処方箋」(朝日新聞出版)
●人生相談って、どんな人なら書けるのかな……と思うと、数々の修羅場をくぐり抜けてきた人で、聡明で、他者への共感能力がある人ってことになるだろうか。自分が通ってきた道について有益なことを語るのは容易でも、まったく自分の人生で視野に入っていない悩みにきちんと答えることは難しい。「鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい世間を楽に生きる処方箋」(鴻上尚史著/朝日新聞出版)みたいな本は貴重で、それぞれの回答に切れ味がある。
●「自分が他人に不寛容すぎてどうにしかしたい」といった悩みに対する回答が印象に残っている。ネット時代になって、みんな「自分がどう見られているか」「どれくらい評価されているか」を気にせざるを得ないようになった、でも世の中にはすごい人たちがいっぱいいる。自分が得意なことでも、もっと得意な人が簡単に見つかる。それが耐えがたいから「私は本当はこんなレベルじゃない」って思うようになる、って言うんすよ。以下引用。
映画を得意気に評論しても、音楽を通ぶって語っても、文学にウンチクを傾けても、上には上がいて、潰されます。
でも、唯一、潰されない言葉があります。
それは「正義の言葉」です。
正義を語っている限り、突っ込まれる可能性はないのです。否定されるかもしれないと 怯える必要はないのす。
「ツイッターで未成年の飲酒を見つけた」「道路いっぱいに広がっている自転車がじゃま」「信号無視してる奴がいる」(中略)
だから、「自分はこんなもんじゃない」と思い、けれど、何かを言って否定されたくない人は、「正義の言葉」を意識的にも無意識的にも語るのです。
●ニュースを眺めていたら「自粛警察」っていう破壊力のある言葉を見つけて、この本を思い出した。
ドイツのブンデスリーガが再開へ
●猛威を振るうウィルス禍だが、次第に各国の出口戦略が見えてきた。ドイツ政府の承認を得て、中断中のブンデスリーガが5月15日または22日から無観客で再開されるという。欧州主要リーグでは最初の再開になる。おびただしい数の犠牲者を出したドイツだが、グラフを見ると現在では新規感染者はほぼ収まっている模様。たとえ無観客でも試合を行なえば映像で観戦できる。ずっと過去の名勝負やスポーツアニメを配信していたDAZNにも、ついにリアルタイムの試合が配信されることになりそうだ。次の難題はスタジアムにどうやって客を入れるか。はたして対人距離を十分にとって発声しない観戦スタイルが可能なものだろうか。
●こんな状況の中で、サッカー・ファンの間でひそかに注目されているのがベラルーシ・リーグ。なんと、普通に試合が開催されている。ヨーロッパで唯一リーグ戦が行われているということで、11か国のテレビ局と契約を結んだという盛況ぶり。以下は5月4日に公開された最新節のハイライト映像。まるでウィルス禍など存在しないかのようにごく当たり前にサッカーの試合が行われている。もちろん、選手たちはみな抱き合ったり肩を組んだりして接触しまくっている。これが最終的にどういう事態に行きつくのか、自分にはよくわからない。
静かな大型連休
●長い連休の途中だが、今年は連休といってもふだんとあまり変わらないので、中間報告的に。ラ・フォル・ジュルネのないゴールデンウイーク。もちろんあらゆるイベントがやっていないし、緊急事態の真っ最中で、どこにも出かけられない。街は静かだ。といっても駅の近くに行くと、それなりに人通りも多い。先日、久しぶりに大きなスーパーに買い物に行ったら(普段はなるべく小さなお店で買い物をしている)、人の多さにドギマギしてしまった。密……これは密では……? いやいや、普段に比べれば半分以下じゃないか。レジの行列もまあまあ間隔をとっている。でも屋内に大勢の人がいる状況が久しぶりだったので。
●で、先日のベルリン・フィルのDCH生中継を見たのだが、弦楽器中心の室内楽編成で、舞台上は疎。全員2メートル以上の間隔を開けて並ぶ。譜面台はもちろんひとりひとつ。プレーヤーはマスクなし。マーラーの室内楽版では管楽器も入った(フルート、オーボエ、クラリネット各1、だったかな?)。無観客とはいえ公演再開に向けての第一歩を踏み出せたのは大きなこと。そして、こういったところに現在のベルリン・フィルのベルリン・フィルたるゆえんがあるというか、リーダーとしてのふるまいという点で敬意を抱かずにはいられない。ちなみにサッカー界では、ブンデスリーガが5月半ばから無観客での試合再開を目指しているそう。
●さて、日本では緊急事態宣言の延長がなされた。だれもが予想していただろうし、今回も事前に観測記事が出た。数字上、緊急事態宣言の効果はかなり効いているとは思うが、まだこれでも十分とはいえないようだ。新規感染者数の移動平均を見ると(左上)、4月中旬がピークで、現在はちょうど一か月前と同程度の水準。ここで気になるのはグラフと現実とのタイムラグ。潜伏期間と検査を合わせて約2週間のタイムラグがあるということなので、感染拡大の局面では「現実はグラフの2週間先を先を行っているから、実際にはもっと怖いことになっているはず」と悲観的に考えていた。しかし収束局面では逆に「実際はもっと収まっているはず」というふうについつい楽観的に考えてしまう。しかしみんなが過度に楽観すればまた感染が広がることは明らかなわけで、なんとも気持ちの持ちようが難しい。
●例の国別対数グラフを見ると、日本は欧米に比べれば人口当たりの死者数は格段に少ないものの、オーストラリアやニュージーランドとは同程度なので、人種や生活習慣の違いが強く影響しているとは思えないんだけど、どうなんでしょ。
Franck By Franck
●一瞬、アルバム・タイトルを見て「?」となってしまったのだが、なるほど、これは Franck By Franck だ。ミッコ・フランク指揮フランス放送フィルによるセザール・フランクの交響曲二短調と交響詩「人、山上で聞きしこと」。ミッコ・フランクの綴りって、Franck だったんだ。どうして今まで気づかなかったのか。ミッコ・フランクとフランス放送フィル、本来なら6月に来日予定があったのだが、アジア・ツアーに向けてのリハーサルを行える見通しが立たないとして来日中止が発表されている。もっとも来日公演でもフランクの曲はプログラムに入っておらず、「フランクのフランク」は聴けなかったのだが。フランクの交響曲、かつてと比べると人気がなくなっている気がする。録音を聴いて、鬱々として粘着質なロマンティシズムを堪能する。この「話の長いオッサン感」がたまらない。
●ミッコ・フランクだから Franck By Franck が成立したわけだが、ほかにだれかいないだろうか、Beethoven by Beethoven や Mozart by Mozart のアルバムを出せる人は。IOC会長のトーマス・バッハだったら Bach by Bach が可能だが、そもそも音楽家ではなく、元フェンシング選手だった。