●ようやく読んだ。抜群におもしろい。ジャック・ヴァンスの「宇宙探偵マグナス・リドルフ」(国書刊行会)。トラブルシュータ―であるキレ者の主人公マグナス・リドルフが宇宙各所の惑星を訪れて、次々と問題を(ときにはムチャクチャな方法で)解決するという連作短篇集。ヴァンス得意の異世界探訪もので、それぞれの惑星には多彩にして異様な風土やら習俗やら生態系やらがあって、卓越した異世界描写にホラ話のエッセンスとミステリー仕立ての筋立てが加わる。なんとも楽しく、俗っぽく、そしてカッコいい。国書刊行会の立派な装幀で出てるけど、内容的にはペーパーバックが似合うようなテイストだと思う。
●で、ぜんぶの短篇が大傑作だとは言わない。最後の「数学を少々」とか、「暗黒神降臨」みたいに、なまじSF的な趣向を凝らそうとしたものほどしっくり来ない。一方、多少強引でもミステリー仕立ての話のほうがキレがある。特にいいなと思ったのは「ココドの戦士」「禁断のマッキンチ」「盗人の王」。話の大枠もおもしろくて、ディテールも痛快。そのあたりの凸凹も含めて、一冊丸ごと思いきり楽しめる。
●この本は国書刊行会の〈ジャック・ヴァンス・トレジャリー〉全3巻の第1巻。すでに第2巻「天界の眼――切れ者キューゲルの冒険」まで刊行されているのだが、第3巻は「スペース・オペラ」っていう題なんすよ。「惑星を渡り歩く歌劇団の珍道中を描く傑作長篇」というふれこみなんだけど、いったいどんな歌劇団なんだか。ワクワク。
January 17, 2017