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更新日令和5(2023)年8月1日
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民法の相隣関係の規定
- 所有権者は、その所有している物をどのように利用しても自由というのが原則です。しかし、隣接する土地や建物の所有者がお互いに自分だけの完全な利用を主張したのでは、衝突が避けられず、かえってそれぞれの所有権の円満有効な利用が妨げられ、社会の共同生活が不可能になってしまいます。
- そこで、民法では、最小限度で所有権相互の利用を調整することを目的として、土地や建物の所有権の内容を一定範囲で拡張したり、制限したりしています。これを「相隣関係」といいます。この相隣関係についての規定が、民法第209条以下に置かれています。
- 参考として裁判例を紹介していますが、実際に紛争になった場合は、その事案の個別具体的な事情によって裁判の結果は変わってくることがありますので、弁護士の法律相談窓口等を利用することを検討してください。
建物の隣地境界線からの距離
問1 建物を建築しようと考えていますが、建物は隣地との境界線からどれだけ離さなければなりませんか。
答1
民法には、建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないと規定されています(民法第234条第1項)。ただし、次の3つの場合は、境界線から50センチメートル以上離す必要はありません。
- 1つ目は、相隣者の間で、境界線から50センチメートル以上離さないで建築することに合意している場合です。相隣者の間で、境界線に接して建築してもよいと合意していれば、境界線に接して建築することができます。
- 2つ目は、その地域に民法第234条第1項と異なる慣習(地域の住民が自主的に守っている決まり)がある場合です。例えば、その地域には、境界線に接して建物を建築してもよいという慣習があると認められる場合は、この慣習が民法第234条に優先して適用されます(民法第236条)。
- 3つ目は、防火地域又は準防火地域内にあって、かつ、外壁が耐火構造の建物の場合です。このような建物は、隣地境界線に接して建築することができます(建築基準法第63条)。これに該当する場合、建築基準法第63条は民法第234条の特則と考えられているので、隣地境界線に接して建築することを認めた建築基準法第63条の規定が優先して適用され、民法第234条第1項の規定の適用が排除されると解されています(最高裁平成元年9月19日判決)。
問2 境界線から建物までの距離(50センチメートル)は、どのようにして測りますか。
答2
建物の側壁又はこれと同視すべき出窓その他の建物の張出し部分と境界線との最短距離を測るものと解されています(東京地裁平成4年1月28日判決)。建物の屋根又はひさしの各先端から鉛直に下ろした線が地表と交わる点と境界線との最短距離を測るのではないと解されています(東京高裁昭和58年2月7日判決)。
問3 隣で境界線に接近して建築がされています。隣の建築主に境界線から離すようお願いしたのですが応じてもらえません。どうしたらよいでしょうか。
答3
民法では、境界線から50センチメートル以上離さないで建物が建築されてしまった場合、隣地の所有者は、その建物を建築した者に対し、建築の中止又は変更を求めることができると規定されています(民法第234条第2項本文)。ただし、「建築に着手した時から1年を経過した場合」又は「建物が完成した後」は、建築の中止又は変更を求めることはできないと規定されています。この場合、隣地の所有者は、損害賠償の請求のみすることができると規定されています(民法第234条第2項ただし書)。
まずは相隣者間でよく話し合い、お互いに譲合いの気持ちをもって解決を目指すことが大切です。話合いによって解決ができなかった場合に、法的な対応を考えるときは、弁護士などの法専門家に相談することをお勧めします。
目隠しの設置
問4 隣にマンションが新築されましたが、その窓やベランダからこちらの家が丸見えになります。マンションの窓やベランダに目隠しを設置してもらうことはできませんか。
答4
民法には、境界線から1メートル未満に他人の宅地を見通すことのできる窓や縁側やベランダを設ける者は、目隠しを付けなければならないと規定されています(民法第235条第1項)。ただし、次の場合は、目隠しを設置する必要はありません。
- 相隣者の間で、目隠しを設置しなくてもよいという合意がある場合
- その建物のある地域に、民法第235条と異なる慣習、例えば、境界線からの距離が1メートル未満であっても目隠しを設置しないでもよいという慣習がある場合は、その慣習が優先します(民法第236条)。
問5 境界線から1メートルの距離は、どのようにして測りますか。
答5
民法には、境界線から1メートルの距離は、窓や縁側やベランダの最も隣地に近い地点から、垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出すると規定されています(民法第235条第2項)。つまり、窓等の境界線に最も近い点から測ります。出窓があればその一番突き出した点から測ります。
問6 隣に建築されている共同住宅の共用部分である通路から、私の家が見えてしまいます。共用部分の通路に目隠しを設置してもらうことはできませんか。
答6
共同住宅の共用部分である通路や、建物の出入口(玄関)に続く通路に過ぎないとみられる構造の階段や踊り場については、居住空間の延長とみることはできないとして、民法第235条第1項にいう「縁側」や「ベランダ」とはいえず、それに準じるものとして扱うこともできないとして、目隠し設置の請求を認めなかった裁判例があります(大阪地裁昭和55年11月17日判決、東京地裁昭和56年12月25日判決)。
参考として上記の裁判例を紹介しましたが、実際に紛争になった場合は、その事案の個別具体的な事情によって裁判の結果は変わってくることがあります。まずは相隣者間でよく話し合い、話合いによって解決ができない場合に法的な対応を考えるときは、弁護士などの法専門家に相談することをお勧めします。
問7 境界線から1メートル未満のところにある窓やベランダであれば、どのようなものであっても、目隠しを設置しなければなりませんか。
答7
- 目隠しを設置しなければならないのは、境界線から1メートル未満にある全ての窓やベランダではなく、そのうち、民法第235条第1項でいう「他人の宅地を見通すことのできる」に該当するものだけです。
- 民法第235条第1項でいう「他人の宅地を見通すことのできる」窓等とは、およそ他人の宅地を観望し得る窓等の全てを指すものではなく、窓等の大部分が遮へいされる等により、特に意識して見ようとすれば見えるが、そうでない限り他人の宅地を観望できないようなものは含まれないとした裁判例があります(東京地裁昭和61年5月27日判決)。
- 「他人の宅地を見通すことのできる」に該当するとはいえないとして、目隠し設置の請求が認められなかった窓やベランダには、次のようなものがあります。
曇りガラスがはめ込まれ、窓の内側からガラス越しに隣接する宅地及び隣接地上の建物の内部を見ることは無理がある窓であって、開閉が不可能な構造の窓や、開閉自体は可能であっても、浴室の換気のため設けられたもので浴室の床面から高さ約2メートル程の位置にあるような窓(東京地裁昭和56年12月25日判決)
窓の下部のみが押し出され全開することはできない構造の滑り出し窓であり、換気の目的のために窓を開けることは考えられるものの、その構造からすると、窓を開けたとしても意識的に窓からのぞきこむ等の行為をしない限り、通常の状態では隣接する宅地を観望することができない台所用窓(さいたま地裁平成20年1月30日判決)
縦約50センチメートル、横約40センチメートルの押開き式の小窓であって、各室の便所に設置された換気用窓で便器越しに身を乗り出すような姿勢でわざわざのぞき込まない限り隣接する宅地内を見ることができないものや、各室の浴室に設置された換気用の窓で浴槽内からわざわざのぞき込まない限り隣接する宅地内を見ることができない窓(東京地裁平成5年3月5日判決)
3階のベランダであって、隣地建物の屋根が一部見えるのみで、ベランダの隣地建物側まで行ってのぞいた場合に隣地建物の裏庭の一部をみることができるに過ぎないもの(東京地裁平成5年3月5日判決) - 参考として上記の裁判例を紹介しましたが、実際に紛争になった場合は、その事案の個別具体的な事情によって裁判の結果は変わってくることがあります。まずは相隣者間でよく話し合い、話合いによって解決ができない場合に法的な対応を考えるときは、弁護士などの法専門家に相談することをお勧めします。
問8 目隠しとしてはどのようなものを設置すればよいですか。
答8
- アルミ形材又はこれに類する材質の板や、アルミ又はステンレス製の格子状フレーム付きの不透明のアクリル樹脂製波板又はこれに類するものの目隠し塀による目隠しの設置を命じた裁判例があります(東京地裁平成19年6月18日判決、東京地裁平成5年3月5日判決)。
- 窓にブラインドを設置しても、ブラインドはいつでも容易に開閉することが可能であるから、ブラインドは目隠し設備と認めることはできないとした裁判例があります(東京地裁昭和61年5月27日判決)。
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