日本の脱炭素化を考えるための世界の科学者からの、気候変動10の最新メッセージ
最終更新日:2021年8月18日
国際協働研究プラットフォームであるフューチャー・アースは、2017年から毎年、アース・リーグとともに、気候変動に関する最新知見をまとめた報告書「10 New Insights in Climate Science」を発表してきました。2020年版にはWorld Climate Research Programme(世界気候研究計画)が加わり、21か国から57名の専門家が参画しています。
今回、2020年版の日本語翻訳版「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ」のリリースを記念して、フューチャー・アースのプロジェクトの一つであるグローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)、翻訳監修に関わった公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)、国立研究開発法人国立環境研究所との共催で、気候変動の”今”と”これから”、そして、日本の脱炭素化について考えるイベントを開催しました。
本イベントでは、「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ」や、GCPによる最新の温室効果ガス収支推定の紹介を含む、専門家による講演とパネルディスカッションを行いました。参加者の皆様からも沢山のご質問・ご意見を頂きました。
- 日時:2021年6月9日(水)15:00~17:00(日本時間)
- 開催形態:Zoomによるオンライン開催
- 言語:日本語
- 参加費:無料
- 主催:国立研究開発法人国立環境研究所 (NIES)、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)、グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)、フューチャー・アース日本ハブ
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「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ」
『世界のCO2収支2020年版』
イベントフライヤー
プログラム
【司会進行】
- 江守正多(国立環境研究所地球システム副領域長/連携推進部社会対話・協働推進室長)
- 1997年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次および第6次評価報告書主執筆者。
- 三枝信子(国立環境研究所地球システム領域長)
- 専門分野:気象学(大気境界層)、陸域炭素循環モニタリング、陸域-大気相互作用
フューチャー・アースの活動と「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ2020」の紹介
持続可能な地球環境と社会を目指す国際協働研究プラットフォームであるフューチャー・アースには、グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)をはじめとする約30の研究ネットワークと各国、各地域の組織が参加し、ステークホルダーと連携しながら研究を推進しています。フューチャー・アースは毎年、世界の研究機関と科学者からなるEarthLeagueと共に、気候変動に関連する様々な科学的知見を統合して、10NewInsightsinClimateScienceを発表してきました。昨年は世界気候研究計画(WCRP)が加わり、さらに強力な内容となりました。この度、全文を翻訳し、「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ」として公開しました。本日の講演者の皆様には、ご自身の仕事や研究をご紹介いただく中で、関連するメッセージの内容にも触れていただく予定です。
- 春日文子(国立環境研究所特任フェロー/フューチャー・アース国際事務局日本ハブ事務局長)
- 持続可能な地球社会のための様々な研究の調整、連携、成果の統合、社会への受け渡しを国際事務局として支援。
グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)の活動と2020年に発表した温室効果ガス収支報告の紹介
グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)は、グローバルな炭素循環を自然現象と人間活動による影響を合わせて総合的に研究し、持続可能な地球環境のための政策立案と意思決定を支援する国際共同研究プロジェクトとして2001年に設立されました。GCPの最も主要な成果は、GHG(温室効果ガス)の全球収支見積もりであり、世界第一線の研究者が協力して、気候変動に直接影響する科学的データを提供しています。
- 白井知子(国立環境研究所地球システム領域地球環境データ統合解析推進室長/GCP国際オフィス代表)
- 東京大学理学系大学院博士課程修了後、宇宙航空研究開発機構、米カリフォルニア大学アーバイン校を経て、現職。大気化学研究のほか、地球環境データベースを運用、オープンサイエンスを推進している。
「2050年カーボンニュートラルに向けた日本の気候変動対策」
2020年10月26日、第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉内閣総理大臣は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。その際、「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。」と、演説の中で触れています。また、2019年6月に策定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」で、日本として脱炭素社会を目指すとしてから、各自治体のゼロカーボンシティ宣言や、企業のカーボンニュートラル宣言など、日本国内で脱炭素に向けた動きがより加速しております。そうした状況や動向を踏まえながら、日本政府としても気候変動対策に関して、国としての方向性や、具体的な取組に関して議論を鋭意進めております。本日はその全体概要をごく簡単に紹介いたします。
- 和田憲拓(環境省脱炭素社会移行推進室室長補佐)
- 2019年7月より現職。地球温暖化対策計画、長期戦略等の策定・フォローアップを担当。
「2050年に日本で脱炭素社会を実現するために」
日本において2050年に脱炭素社会を実現するために必要となる取り組みについて、これまでの研究成果を踏まえて報告します。国立環境研究所が中心となって開発しているAIM(アジア太平洋統合評価モデル)を用いて、2050年に脱炭素社会(温室効果ガス排出量が実質ゼロ)を実現する日本の姿を定量的に示しました。徹底した省エネの導入や電化の実現とともに、再生可能エネルギーをはじめとした脱炭素電源で電力を供給することが必要となります。イノベーションの導入や普及は、「ゼロ」の実現に向けて必要ですが、それだけでは不十分で、我々の行動や社会の構造を脱炭素社会に向けて変えていくことが重要となります。ICT(情報通信技術)を使った脱物質化、省資源化や移動量の削減、食品ロスの削減など、同じ満足度をより少ないサービスで得るためにはどうすればいいかを、長期的な視点で考えることが大切です。
- 増井利彦(国立環境研究所社会システム領域脱炭素対策評価研究室長)
- 大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了。1998年に国立環境研究所研究員に採用。2006年から同室長、現在に至る。AIM(アジア太平洋統合評価モデル)の開発や気候変動緩和策等の政策シミュレーションを行う。東京工業大学連携教授や環境省中央環境審議会臨時委員も務める。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書第3作業部会執筆者(第4章)。
「観測とモデルで診る温室効果ガスの収支」
日本、世界の研究機関が取り組んでいる温室効果ガスの収支に関する研究についてご紹介します。ここでの「収支」とは大気や海、陸域生態系などの間で、どのように、どれくらいの量の温室効果ガスが行き来しているか、または溜まっているかを表すものです。2020年、新型コロナ感染症の世界的な大流行に伴う経済・人間活動の低下により、二酸化炭素の放出は減少したとの報告がされています。しかしながら、大気中の二酸化炭素濃度は2020年においても増加を続け、観測史上最高を更新しています。パリ協定の1.5℃/2.5℃目標を達成して温暖化を防ぎ持続可能な社会を実現していくために、温室効果ガスの収支を継続的にモニタリングし、温暖化緩和策に資する科学的知見を提供することが、今後ますます重要となっています。
- 丹羽洋介(国立環境研究所地球システム領域物質循環モデリング・解析研究室主任研究員)
- 国立環境研究所地球システム領域主任研究員。大気輸送モデルや逆解析システムの開発、および温室効果気体の動態、収支に関する研究を行っている。民間航空機を用いた大気観測プロジェクトCONTRAILにも従事。
「気候危機は他の多くの危機とつながっている」
気候という1つのサブシステムの危機は、他の多くのシステムにインパクトを及ぼす。2020年版の10insightsでは水とメンタル・ヘルスが取り上げられたが、気候危機の影響の特徴について、これらの対象に限定されない重要な指摘がある。平均よりも分布の端が重要であること、地域・社会階層によるインパクトの違いは、グローバルな危機がローカルには様々な姿をした危機の形で現れることを改めて認識させてくれる。洪水や渇水など水システムの危機によって起こる移住・移民を適応戦略と考えてはどうかという示唆は、社会システムの危機を社会の変遷の原動力としようという発想の転換とも言える。ただし、自分の意思に基づかない居住地の放棄という現象をどう理解するのか、転換することで何が得られるのか十分注視する必要がある。Planetaryboundariesの議論は地球システムの機能を第一に考えているので、(生物としての)人間システムが十分に考慮されているわけではない。メンタル・ヘルスへのインパクトは、このような背景を再認識させるとともに、気候システム→生物圏→人間という3つのシステムの相互作用を理解した上での対策立案が必要であることを示す良い例である。
- 渡辺知保(長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科(TMGH)教授・学長特別補佐
- 東北大学医学部・環境保健学講座助手、東京大学・医学系・人類生態学分野助教授、同教授、国立環境研究所・理事長を経て、2021年4月から現職と兼ねて学長特別補佐としてプラネタリー・ヘルスを担当。毒性学、環境保健学、持続可能性と健康と、いずれも人間と環境との関係にかかわる事象を研究してきた。最近は(同義反復だが)システムとしての人間―環境系の変遷に関心を持っている。
「コロナ禍・気候変動と新しい社会契約」
コロナ禍は、グローバルな現代社会で、即座の対応が必要な問題です。私たちは、いかに現代社会がこのような危機に脆弱であり、その解決策を見出すことがいかに困難か、身をもって体験してきました。気候変動の影響は今や自明であり、それへの対応はコロナ禍と同様に喫緊のものです。私たちは、まさに気候危機に直面しています。
コロナ禍と気候危機への対応には共通点があります。コロナ禍への対応は、地方、国、国際レベルで必要であり、それぞれが相互に調整され、また、今までにない革新的な対応が必要です。台湾やニュージーランドでは、ITの活用も含め、地方や国のレベルで新しい試みを行ってきました。国際レベルでも、ワクチンの途上国への導入に向け新しい努力がなされています。
気候危機についても新しい取り組みが展開してきました。ユースによるキャンペーンは地球規模なものとなり、フランスのくじ引きによる市民会議も一定の成果を生み出しました。また、コロナ禍を機に欧州や米国が始めたグリーンディールが注目を浴びました。さらに、地球規模のすべての主体による、ネットゼロに向けた誓約なども重要です。
- 森秀行(公益財団法人地球環境戦略研究機関特別政策アドバイザー)
- 京都大学大学院工学部工業化学科修士課程修了。1977年環境庁(現環境省)入庁。アジア開発銀行環境専門官、国連高等難民弁務官、環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課研究調査室長、国連環境計画GEF担当ポートフォリオマネージャーなどを経て、2003年にIGES長期展望・政策統合プロジェクトリーダーに就任。慶応大学大学院政策・メディア研究科特別研究教授(2008年~2010年)。2010年4月から2020年10月までIGES所長を務め、2020年11月より現職。
講演資料のライセンスについて
本講演資料はクリエイティブコモンズ表示4.0国際(CC BY 4.0ライセンス)を付与して公開しています。
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講演者名(2021)、講演タイトル、講演資料のURL.
改変された場合、
講演者名(2021)、講演タイトル、講演資料のURL (を元に改変).
Organizing Committee: Seita EMORI, Peraphan JITTRAPIROM, Fumiko KASUGA, Noriko KAWATA, Yukako OJIMA, Tomoko SHIRAI and Giles B. SIOEN (Alphabetical order)
問合せ先
国立研究開発法人国立環境研究所
地球システム領域 地球環境研究センター
GCPつくば国際オフィス
Email: gcp{at}nies.go.jp