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東日本大震災で起きた火災の全容が日本火災学会の調査でわかってきた。19年前の阪神大震災では地震の揺れによる火災の被害が大きかったが、東日本では371件のうち4割を超える159件が津波火災だった。南海トラフ巨大地震でも深刻な被害をもたらす脅威にどう備えるか。学会の報告から考えてみる。
【災害専門記者・野呂雅之】津波が起きると、火災が発生することは知られていた。1933年の昭和三陸地震は岩手県釜石町(当時)で199戸が津波火災で焼け、93年7月の北海道南西沖地震では奥尻島で190棟が焼失した。古くは、1896年の「明治三陸大津波」で炎上する家屋の錦絵が残されている。
一方で、特異なケースとも考えられてきた。奥尻島の火災で調査の機運が高まったが、95年1月の阪神大震災の大火に調査・研究の主軸が移ってしまった。
被災地でがれき撤去が進むと火災の痕跡が失われるため、いち早く調査に乗り出す必要がある。阪神では住宅地図に手書きで延焼範囲を記し、写真やビデオで確認する手法がとられた。
だが、2011年3月の東日本大震災では津波で建物が流され、がれきや船、自動車などが市街地に散らばって街区や道路を正確につかむことが難しかった。
東日本の火災を調べた研究者らは津波被災エリアをくまなく回り、住民らから聞き取りもして発生地点を把握。全地球測位システム(GPS)の端末を持って延焼区域の外周を歩き、デジタル地球儀「グーグルアース」などを活用して、延焼範囲のGPS軌跡を地図データと重ね合わせて延焼面積を割り出した。
その結果、津波火災は青森県八戸市から千葉県旭市に至るまでの約610キロの範囲で159件起き、延焼面積は甲子園球場20個分にあたる計78・4ヘクタールに及ぶことが判明。件数の大半は出火点で、そこから延焼範囲が広がったところもある。
県別では、宮城99件(62%)、岩手29件(18%)、福島12件(8%)、茨城9件(6%)、青森5件(3%)、千葉5件(3%)。建物火災が4割、車両火災が2割を占めた。
分析した名古屋大の廣井悠・准教授(都市防災)によると、主な出火原因は①壊れた家屋②LPガスボンベ③自動車--が考えられる。これらが津波で山や高台のふもとに運ばれ、市街地火災に広がったケースが多かった。
一方、地震の揺れによる火災は212件。東日本大震災では大きな余震が長く広い範囲で続いたため、秋田や新潟、山梨、静岡などでも起きた。
南海トラフ巨大地震でも津波火災は避けられないとみられるが、被害を減らす手立てはある。「どこに避難場所や津波避難ビルを造ればいいのか。地域ごとに地形を考慮し、地元の人たちと話し合って決めることが重要だ。その際に今回の調査報告を生かしてほしい」と廣井准教授は話す。
東日本大震災が起きた11年3月11日、津波に襲われて孤立した軽費老人ホーム「ケアハウスみなみ」に火が迫ってきた。
宮城県気仙沼市の気仙沼湾の最奥部にある「鹿折地区」。施設長の後藤久美さん(55)は入居者や職員、近所の人ら約30人と最上階の3階に逃げた。浸水は2階の床上1.5メートル。訓練通り避難したが、夜になって北側から燃えたがれきが流れてきた。
翌12日には火が南側と東側のがれきに燃え移り、全員が3階北西の一室に身を寄せた。窓の外は炎で真っ赤になり、じりじりと熱も伝わってきた。
炎が迫る3階南端の廊下にラジオが置かれ、スイッチが入っていた。後藤さんは「音声が消えるのは、火の手が回ってきた時」と覚悟したと言う。
全員の救出は同日午後4時。耐火構造がしっかりしており、西側に火が回らなかったことで最悪の事態を回避できた。現地調査をした神戸大都市安全研究センターの北後明彦教授(防火・避難計画)は「周りが浸水し、いわば籠城(ろうじょう)を強いられる津波避難ビルの防火対策は新たな課題だ。火災を想定した避難誘導も考えなくてはいけない」と指摘する。
阪神大震災で大火に見舞われた神戸市長田区。南海トラフ巨大地震では、兵庫県は最大4メートルの津波が90分で襲来すると想定する。
JR新長田駅南側の真陽地区は震災で53人が犠牲になった。その後に「防災福祉コミュニティ」ができ、避難訓練を重ねてきた。商店街や木造住宅などが立ち並び、人口約6600人。高齢化率は30%を超える。
津波を想定した従来の訓練では、高齢者や体の不自由な人を15カ所の避難ビルに誘導する「垂直避難」に力を入れてきた。だが、避難先が津波火災に襲われる恐れがあると北後教授に指摘され、浸水想定区域外に逃げる「水平避難」の訓練に変えた。
昨年12月の訓練には地元の小学校や幼稚園の児童ら760人も参加。幼児を保育カートに乗せ、浸水区域との境の国道2号に着いたのは40分後。北に1.1キロ離れた広域避難場所に着いたのは56分後だった。
巨大地震では消防隊は60分で撤退する計画だ。防災福祉コミュニティ本部長の中谷紹公(つぐまさ)さん(66)は「避難にかかる時間を検証できた。援護が必要な人のいる路地から路地を細かいブロックに分け、誘導担当者を決めて1人でも多くを救えるようにしたい」と話す。
地震で火災が起きると、研究者が被災地に入り、被災情報を共有しながら調査を進めます。そして、日本火災学会が結果を集約します。阪神大震災では、そうして出来た報告書が各機関の火災データのもとになりました。東日本大震災についても、報告書を見れば火災による被害の全容がわかるようにしたい。
93年の奥尻島での津波火災は、火災学会として調査できませんでした。1年6カ月後に阪神大震災で地震の揺れによる大規模火災が起きたからで、津波火災の本格的な調査は今回の東日本大震災が初めてです。
残ったがれきの状況などから出火点を確かめ、どう燃え広がったのか証言を集めました。論文ではなく、生データで提供することに意味があり、それをもとに出火原因を解明して対策につなげなければいけない。
原因で目立ったのはLPガスボンベと自動車。津波で建物にぶつかって炎上した事例が多く、海水につかった車が燃え上がったケースもありました。メーカーの協力がないと原因の解明は進みません。南海トラフ巨大地震に備え、産業界との連携が重要になります。
■災害別特集ページまとめ
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