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災害が起きると、大勢のけが人の発生に加え、病院も被災して、平時のような治療が受けられなくなる。その状況で、ひとりでも多くの命を救うには、緊急時の医療チームの働きだけでなく、個人の備えも大切だ。
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阪神大震災(1995年)では、発生直後の医療活動が遅れ、通常の救急医療ができれば救えた「避けられた災害死」が500人いたといわれる。
その反省から、2005年に災害派遣医療チーム(DMAT)が発足した。発生後すぐに現地に駆けつけて活動できる機動性を持つ。厚生労働省によると東日本大震災では、発生から12日間で、岩手、宮城、福島、茨城の4県で約380チーム約1800人が活動した。
大勢のけが人が搬送される被災地では、治療の優先順位を判断する「トリアージ」が欠かせない。すり傷から、意識を失った重篤な被災者までいるが、全員を現場で丁寧に治療する時間も人手もない。トリアージは、早く手当てをすれば助かる被災者を優先して搬送し、治療するための方法だ。
被災現場では「トリアージ・タッグ」と呼ばれる紙の標識が使われる。被災者の名前や年齢、性別、住所などを書き込む欄に加え、黒、赤、黄、緑の4色に塗られた部分がある。トリアージの判断に合わせて、患者が色分けされる。
「赤」が緊急の治療が必要な被災者。腕や足の切断など、多量の出血があるような重篤な患者だ。ヘリコプターなどで、被災していない地域の病院に移る広域搬送もされる。次いで搬送するのは「黄」。治療を始めるまで2~3時間かかっても命に関わらないと判断された患者だ。
「緑」は、すり傷や大きなたんこぶ、腕の骨折などで歩ける状態の患者で、自力で治療を受けられる場所に移動してもらう。「黒」は、心肺停止など搬送しても救命できそうにない被災者。応急処置はされない。
石巻赤十字病院(宮城県石巻市)では、東日本大震災の発生から4月3日までの間に8672人がトリアージを受けた。赤が788人、黄が2634人、緑が5107人、黒が143人だった。
DMATによると、東日本大震災では広い範囲で甚大な被害が起きたため、どこにどれだけのチームを派遣すればいいのかという情報共有の面で反省があった。小井土雄一事務局長は「今後、一人ひとりの患者だけではなく、派遣先の病院全体や、地域全体を支援する役割も重要になる」と話す。
地震が起きると、どんなけがをする人が多いのか。阪神大震災の被災者約2万人から回答を得た神戸大のアンケートでは、けがをした1623人の原因は、家具の転倒が最も多かった。次いで、割れた食器で切り傷を負った人。全体の9割は打撲か切り傷だった。
調査した高田至郎名誉教授(地震防災)は「地震によるけがの主な原因は、季節や発生時刻で変わる」と指摘。暖房器具を使う厳冬期の夜に起きた釧路沖地震(93年1月)では、熱湯・ストーブによるけがが最も多かった。自宅外で活動している人が多い昼間の地震では転倒が増える。昼間に起きた日本海中部地震(83年5月)では、転倒や転落が最も多かった。
けがをしなくても、通院先が被災すると、患者は大きな影響を受ける。
日本透析医会によると、人工透析は週3回必要で、3~4日間しないと命に関わる。東日本大震災では、本来の施設で透析を受けられなかった患者が約1万人いたが、被災しなかった施設にたどり着けた患者は、そこで透析を受けられた。山川智之常務理事は「透析患者の半数以上が高齢者。災害時に、どう透析施設に来てもらうかが課題だ」と話す。
政府が想定する南海トラフ巨大地震のような大災害では、救助を待つ時間が長くなり、物資が行き渡るまでに時間がかかるため、少なくとも1週間分の生活の備えが必要とされる。
DMATの小井土さんは「東日本大震災では病院で薬が足りなくなる事態もあった。糖尿病患者が使うインスリンがすぐに手に入らないかもしれない。予備の薬を持つなど、まずは自らの備えをしてほしい」と話す。
災害の最初の一撃を免れても、必ず助かるわけではない。
阪神大震災でも東日本大震災でも、避難所で体調を崩す被災者が多かった。小井土さんは「被災の直後はストレスがかかる。トイレを気にして水分をとらなかったり、地面に寝てホコリを吸い込んだり、生活環境も悪い。心筋梗塞(こうそく)や脳卒中を起こす人も増える」と指摘する。被災者の心のケアも必要で、災害派遣精神医療チーム(DPAT)が災害直後から現地で活動する。
(木村俊介)
東日本大震災の発生当時、私が勤務していた石巻赤十字病院には、ひっきりなしに患者が運び込まれた。トリアージが続き、通常の外来を再開できたのは4月4日だった。その後も、避難所で体調を崩して再び来院する人もいた。
次の災害への住民の備えについて、講演などで「江戸時代に戻った状況を想定して下さい」と呼びかけている。電気がない、ガスがない、水道が出ない。まず1週間、自力でしのげるような準備をしてほしい。
薬を多めに持っておくことはもちろん、「お薬手帳」を持って避難するか、内容を携帯電話で撮っておいてほしい。服用している薬の種類や量が医師らにスムーズに伝わる。大震災では、被災者の薬の把握に苦労した。
人工透析や在宅で酸素吸入をしている人は、通院先が被災した場合のことを医師とあらかじめ相談してほしい。他の病院を紹介してもらったり、災害時に受診できるか問い合わせたりしておく。念を入れるなら、その病院で一度受診しておけば安心だ。
教訓は、情報を収集して判断する態勢、「本部機能」を早く立ち上げること。全体状況を把握できる本部機能があれば、被災地全体の健康管理がしやすくなり、二次的な被害を減らせるのではないか。
南海トラフ巨大地震で津波の被害が想定される地域で、災害拠点病院を移転する動きが相次いでいる。東日本大震災では沿岸にあった病院が被災し、犠牲者も出た。高台や、海から離れた場所に移り、災害時の地域医療を守ろうという取り組みだ。
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徳島県南部で太平洋に面した牟岐(むぎ)町。災害拠点病院の県立海部(かいふ)病院は牟岐川のすぐ横にある。県の被害想定では、津波が川をさかのぼり、病院の2階まで約6メートル浸水する。
坂東弘康院長(61)は、東日本大震災で4階まで津波に襲われ、約70人が犠牲になった宮城県南三陸町の公立志津川病院のことが頭から離れない。川に近く、海から数百メートルという立地条件が、そっくりだった。
院内の電気系統を防水し、屋上にフェンスを張って避難できるよう対策を取った。だが、「発電機など病院の重要な設備は1、2階に集中する。抜本対策にならず、病院が維持できなくなると思った」という。
県は、海部病院を500メートル離れた標高15・6メートルの高台に移す方針を2011年11月に表明。16年度中の完成を目指し、約9千平方メートルの造成工事が進んでいる。隣には町が避難広場を整備する。110床の新病院はヘリポートを二つ備える。浸水で孤立した住民の救助を考え、20人以上が乗れる海上保安庁のヘリも着陸できる。水や発電機の燃料は1週間分を貯蔵し、発電機は6階に置く。地域医療を担う若手医師を育てる研修施設もつくり、災害時は応援で来た医師らの宿泊場所に変わる。
坂東院長は「平時は地域医療を守る拠点として、災害時は住民が避難し、応援する医療関係者が活躍できる場所にしたい」と話す。
病院は、医師不足などで存続が危ぶまれた時期があった。病院を守る活動を続けてきた牟岐町の石本知恵子さん(64)は話す。「3・11は私たちに、できることはしなさい、と教えてくれた。新病院は、助かる命を助けてくれるはず」
(桑山敏成)
海と川に囲まれた人口約34万人の高知市。高知県によると、市中心部では南海トラフ巨大地震で弱い地盤が2メートル近く沈下し、1カ月以上にわたって浸水する可能性がある。長期浸水地域には約13万人が住んでいる。
JR高知駅近くの災害拠点病院・高知赤十字病院は、長期浸水地域にある。道路は浸水で寸断され、水の供給が止まる恐れがある。
「井戸水を使うにしても塩分が含まれ、病院には不向き。孤立化し、拠点病院としての役割が果たせなくなる」と、吉田真里事務部長は話す。結局、同院は13年、現在地から約1キロ北の長期浸水しない土地への移転を決めた。
一方、最大20メートル超の津波が押し寄せると想定される県東部の太平洋側。津波で道路は寸断され、集落が孤立し、室戸市や東洋町ではほとんどの医療機関が水につかる見通しだ。
県は高台にある公民館など公共施設に「医療救護所」を設け、震災前から医療器具などを整備し、地震発生後は地域の医師に活動してもらうことを検討している。
(桑山敏成)
和歌山県では災害拠点病院を支援する災害支援病院でも高台移転が進む。 県内で最も高い19メートルの津波が想定されるすさみ町。支援病院の国保すさみ病院では、町役場などと一緒に高台に移転する計画が進んでいる。
病院は周参見(すさみ)川近くにあり、県の想定によると2~3メートルの津波で3階建ての1階部分が浸水してしまう。移転先は、川の上流にある浸水区域外の土地。町は「防災センター(仮称)」も造る計画だ。用地は13年度から取得を始め、10年間で移転完了をめざす。
同じく支援病院に指定されている那智勝浦町の町立温泉病院。5~10メートルの津波が想定され、入院病棟の2階も浸水の恐れがある。
移転先は約1・5キロ離れた標高6~8メートルの高台だが、それでも敷地の一部分は津波の浸水区域に入る。町はさらに標高7・5~9メートルまで土地をかさ上げして対応する方針。発電施設を5階建て建物の屋上に置くほか、3日間分の水や非常食を備蓄する予定だ。
町立温泉病院の喜田直(すなお)事務長(56)は「機能を果たすには、物資や薬を運ぶヘリコプターなど空輸の手段も考えねばならず、課題は多い」と話す。
(加藤美帆)
最大16メートルの津波が最短約18分で到達、市の総面積の約6%が浸水すると想定されている宮崎市。海岸から約650メートルにある市郡医師会病院(同市新別府町)は、約8・6キロ離れた高台への移転計画が進む。
災害拠点病院に指定されているが標高3・5メートルにあるため本館、新館とも5~10メートルの津波に襲われ、1階部分が壊滅的な被害を受けると想定されている。「浸水すると分かっているなら早く移転するべきだ。災害拠点病院がしっかりしていれば、けがをしても安心して治療が受けられる」。同病院を受診に訪れた宮崎市の60代の男性は言った。
老朽化しており、東日本大震災後に建て替え論議が本格化。医師会の要請を受けた市は市内4カ所の防災支援拠点の候補地から、東九州道宮崎西インターチェンジの近くの民有地を移転先に選び、昨年9月に公表した。造成後の標高は約30メートル。2020年開院を目指す。同病院の出水隆幸管理部長は「病院周辺が浸水したら災害拠点病院として意味がない」と理由を語る。
ただ、県内の災害拠点病院のうち同病院を含む4カ所が浸水想定域にあるが、ほかは移転計画が進んでいない。県医療薬務課は「直近に新築移転したり一部が建て替え中だったりしてすぐの移転は難しい」。
(佐藤幸徳)
大分県も13の災害拠点病院のうち2施設が南海トラフ地震の浸水想定区域にある。うち県の想定で2~3メートルの津波により、本館1階が浸水すると想定される南海医療センター(佐伯市)は、現在地近くの土地を約1メートルかさ上げして新施設を建てる計画が進む。
耐震化のため現在地での建て替えを計画していたが、東日本大震災を機に市と相談しながら移転を検討した。しかし、リアス式海岸で平地が沿岸に集中するため条件を満たす土地が見つからず、結局かさ上げに。早ければ来春着工を目指す。
大分赤十字病院(大分市)は津波で1、2階の外来診療が機能しなくなる恐れがあるが、市中心部での用地確保が難しく、移転計画はない。担当者は「津波対応には苦慮している」と話す。
(河合達郎)
名古屋港から約3キロ北にある名古屋市中川区の名古屋掖済会病院。すぐ東には運河が流れる。市の想定をもとに、同病院は、南海トラフ地震による津波の浸水を最大2メートルと見込む。北川喜己(よしみ)副院長(56)は「浸水と同時に、液状化の可能性もあり、外部の救援は簡単には来ない」と危機感を抱く。
昨年、自家発電機2台を購入し、2階建ての屋上に置いた。災害時には配電盤を通さずに重症患者がいる集中治療室と救命病棟に電力を送り、人工呼吸器や輸液のポンプを動かす。1階の緩和ケア病棟に約20人いる入院患者らを少人数で上階に避難させるため、簡易のストレッチャーも7台用意した。
断水に備え敷地内の駐車場に井戸を掘った。地上から2メートルの高さに浄化装置も設置。地震発生後3日間は自力で対応できるよう、備蓄の食料と水は患者用に加えて職員用を買い足した。
ただ、1959年の伊勢湾台風では、院内に入った水がひくまでに2週間以上かかった。北川副院長は「一病院の対策には限界がある。近隣の病院や住民と連携した取り組みを考えたい」と話す。
(宋光祐)
三重県は2013年12月、災害拠点病院の被災や孤立に備えて県内の8病院を「災害医療支援病院」として独自に指定した。県内13の拠点病院のうち10カ所が津波による浸水が予測される沿岸部にある。地域医療推進課の担当者は「移転は時間や費用がかかり、簡単にはできない。複数の病院で連携しながら、被災者の治療や安全な場所へ搬送できる態勢を整えたい」と話す。
(宋光祐)
■災害別特集ページまとめ
熊本地震、こう揺れた(2016/04)
3Dで見る阿蘇大橋周辺の被害地図(2016/04)
ふるさとの復興への思いを語る西田敏行さんインタビューや「データで見る被災地」「原発の現状」など特集紙面がご覧いただけます。
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鹿児島県・口永良部島で29日、噴火があった。箱根山では火山性地震が増え、噴火警戒レベルが引き上げられた。昨年は御嶽山が噴火、桜島や西之島は活発に噴火を続け、蔵王山でも地震が増加、日本が火山列島だと痛感している。…[続きを読む]
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