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大震災でおおぜいの人が家を失うと、住む地域を離れざるを得ない状況になる。東日本大震災の避難者はピークで40万人を超え、関東大震災では約100万人が各地に避難した。見知らぬ土地での生活は苦労も多い。疎開とも呼ばれる広域避難の対策はどうなっているのか。どんな備えや心構えが必要なのか。
【編集委員・黒沢大陸】関東大震災から2カ月半、当時の内務省社会局が震災罹災者(りさいしゃ)調査を実施した。1923年11月15日の時点で東京府と神奈川県以外にいる被災者は78万人。東京府の150万人、神奈川県の102万人のなかにも住んでいた場所から府内や県内の別のところに移って避難生活を送る人が少なくなかった。
被災者の動向を調べている北原糸子・国立歴史民俗博物館客員教授は「流動が激しく状況をつかむのが難しい。多くが出身地や親戚、知人などを頼ったと思われる。東京は水も食料も足りず、内務省から地方に受け入れの指示も出ている」と話す。
現在は社会状況が異なる。関西学院大災害復興制度研究所の山中茂樹教授は「集団就職した世代は、故郷から離れて年月がたち地元との関わりが薄れている」と話す。鳥取県智頭(ちづ)町が設けた被災時に宿泊場所や食事を提供する「疎開保険」も限られた制度。自治体間の協定などで「災害時に頼れる『田舎』を作る制度が必要だ」と指摘する。
阪神大震災の県外避難者の実態ははっきりしていない。田並尚恵・川崎医療福祉大准教授(社会学)は「例年の転出数との比較から5万4700人とされるが、住民票を移していない人もおり、12万人という推計もある」と話す。
田並さんは、大学院在学中に阪神大震災に遭い、おばの家に身を寄せた。「親戚や知人、セカンドハウスなど自分の持つ社会資源を考えて、避難できるところを考えておくべきだ」と助言する。「当時は企業が被災した社員に社宅を用意する例も多かったが、非正規雇用が増え、次の震災は問題が拡大するだろう」と話す。
東日本大震災の避難者は、復興庁の集計で10月現在、28万2111人。政府が想定する南海トラフ巨大地震や首都直下地震では、これまでの大震災を超える避難者が予想される。
中央防災会議の08年の想定では、首都直下地震の最悪ケースで、避難者は発生から1日後に避難所が460万人、疎開(広域避難)が240万人。162万戸の住宅が必要とされるが、6カ月後で応急仮設住宅の提供は12万戸、修理による自宅への復帰が31万戸、公営住宅が2千戸と推定。近県も含め、被災を免れた民間賃貸住宅の空き家の活用が対策のポイントとなる。
住宅・土地統計によると、全国の賃貸用住宅の空き家は08年で412万戸、大都市圏では関東に118万戸、近畿は71万戸、中京は25万戸。被災地の住宅は壊れる恐れがあり、地方では想定被害に比べて少なく、周辺地域との連携が重要になる。
住む家が提供されても地域とのつながりや就業で問題があるかも知れない。地縁や仕事、学校などの事情を踏まえた被災者の「住みたい場所」と住宅の供給を円滑に調整できる制度が必要だ。
過去に日本を襲った大災害に比べ、国が想定する南海トラフ巨大地震や首都直下地震では避難者数が圧倒的に多くなる。
関東大震災では東京府と神奈川県以外にいる避難者が発生2カ月半後に78万人、東日本大震災では発生3日後の避難所生活者が47万人、阪神大震災では発生6日後の避難所生活者が32万人だった。
中央防災会議の想定では、南海トラフ巨大地震の最悪のケースで1週間後に500万人が避難所で生活し、450万人は親戚宅に疎開するなどする。首都直下地震でも1日後に最大計700万人の避難者が出ると推計されている。
復興庁がまとめた東日本大震災の避難場所ごとの避難者数をみると、当初は学校や公民館などの避難所が中心だったが、仮設住宅や民間の借り上げ住宅へ移っていったことがうかがえる。
復興庁によると、東日本大震災の避難所生活者数は発生3日後にピークの約47万人に達した。大半は岩手、宮城、福島の3県の避難者だった。
一方、阪神大震災の避難所生活者数は発生6日後の32万人が最大。新潟県中越地震では発生3日後の10万人がピークだった。
災害時に住む場所のために、別荘のような避難場所の購入や多額の資金を蓄えるような平時の備えは難しい。自宅を離れて長期に避難生活を送る場合、どんな問題に直面するのか。東日本大震災の被災者が住む自治体のアンケートや大学の調査から、被災生活に備える心構えを探った。
アンケートでは、避難先の選び方は、親類や知人、地縁が目立ち、避難元との行き来の便や受け入れ支援、災害の恐れが少ないなどが理由となっていた。
頼れる避難先があるのか。関西学院大災害復興制度研究所が東京都墨田区で行った調査では、年に1回程度行き来する田舎が「ある」と答えた人は半数、「ない」が4割、「あるが、行き来しない」が1割だった。「頼れる避難先がある」「可能性がある」は合わせて53%。20歳代や30歳代では7割を超えたが、最も低い50歳代は43%、70歳代以上は47%だった。
避難先での心配事は、生活資金や就業という経済問題が目立った。地方は都市より仕事が少なく、経験がない人が就農するのも簡単ではない。高年齢層ほど問題は深刻だ。
関学大の調査では、被災者となった時に現在の職業が「継続できると思う」としたのは24%にとどまり、「できないと思う」が40%だった。「できない」は自営業が78%、技能・労務職が62%と悲観的で、「できる」が過半数を占めたのは、警察官や自衛官、文筆家やデザイナー、医師や弁護士、教員などだった。
避難先での必要な支援は、避難元との行き来の交通費補助や職業訓練のような就労支援といった経済的なことがらのほか、住み替えを認めてほしい、広報紙の郵送など避難元の情報が知りたい、が目立った。
こうした実態を踏まえると、実家や親戚、出身地を頼れるか、災害時の収入はどうか、遠隔地での教育や通院は可能か、などを考えたり調べたりすれば、いざという時の備えにつながりそうだ。
南海トラフ巨大地震や首都直下地震が起きると、避難者は数百万人規模に上る。避難所から仮設住宅に移り、その間に自力復興するか、できない人は復興住宅に入居するのが従来の政策だが、健康問題も考えると避難所生活は短い方がいい。
家を失う人が多いと、仮設住宅の用地が不足する。強制的に借り上げることもできず、都市部は空き地も少ない。その上、仮設住宅は住みにくく、建設に時間と多額の費用がかかる。
空いた民間住宅を借り上げて仮設住宅にする「みなし仮設」を最大限に活用すれば、早く生活を再建できる。現在は災害時に使える物件を統一的に登録するなどの支援制度がないが、日本には多くの空き住宅があり、全国的に取り組めば大災害にも対応できる。
みなし仮設を被災自治体が仲介して家賃を補償するやり方は、手間がかかり、猫の手も借りたいほど忙しい被災自治体に多大な負担がかかるだけでなく、被災者の住居を選ぶ微妙な条件と一致しないことが多い。家賃補助などの上限を決めたうえで、被災者が自分で住みたい物件を探す形が望ましい。被災者が入居可能な住宅を探しやすくするための全国的な空き住宅情報提供システムも必要だ。
一方で、地域社会のつながりが強い地域では、地域ごと移れる従来の仮設住宅が望ましい。また、仕事の関係で被災地に単身で残る人など事情は様々なので、いろいろな選択肢を作って周知しておくことが大切だ。
実家や親戚を頼る人が多いが、気遣いで長くは住めない。知人に相談もできる近くの借家がいい。たまに地縁のある場所に行き、近所を歩いたり、不動産屋をのぞいて知り合いになったりすれば、いざという時に役立つだろう。
避難生活は、元の場所に戻るためのリハビリだ。それを助ける被災者のことを考えた住まいを提供する仕組みを整える必要がある。
■災害別特集ページまとめ
熊本地震、こう揺れた(2016/04)
3Dで見る阿蘇大橋周辺の被害地図(2016/04)
ふるさとの復興への思いを語る西田敏行さんインタビューや「データで見る被災地」「原発の現状」など特集紙面がご覧いただけます。
発生から2年までの復旧・復興への歩み、原発事故のその後を、この特集でさぐる。多くの困難なのか、それでも前を向く人々。「忘れない」という誓いを胸に、これからも支えたい。
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