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広い範囲で電車やバスが止まる大災害時、外出先にいたらどうすればいいのか。東日本大震災では首都圏や仙台駅周辺で、大勢が帰宅困難者となった。混乱を招かないようにむやみに移動を始めないことが基本。日頃から勤め先や通学先、買い物中、旅行先で、「今、災害が起きたら」と考えておけば、必要な備えが見えてくる。
首都直下地震が起きて、多くの人が都心から自宅を目指せばどうなるのか。
内閣府の依頼でシミュレーションした三菱総合研究所の堤一憲主席研究員は「一斉に帰宅を始めると人命に関わる」と指摘する。
地震発生から10分後には、人が折り重なって倒れる「群集なだれ」の危険がある場所が現れる。1時間に400メートル以下しか進めない。1平方メートルあたり4人未満の場所でも、1時間に2キロ程度しか進めない場所があり、しびれを切らせて車道を歩く人たちが出てきて渋滞に拍車がかかる。火災や落下物の影響で通行止めも起きて交通が混乱。重傷者があちこちにいても、救急車や消防車など緊急車両が現場にたどり着けずに立ち往生する。
むやみに帰宅すると、自分が危険にさらされるだけでなく、救急や消防の活動を妨げ、人命を奪う原因になる恐れがある。
東日本大震災時も混乱したが、堤さんの推定では歩道はおおむね1平方メートルあたり1・5人以下に収まり、前の人を追い越すことも可能な程度だった。首都直下地震では1平方メートルに6人を超える場所も想定される。堤さんは「東日本大震災の体験を過信するのは危険だ」と注意を呼びかける。
東北最大の都市の玄関口で、1日16万人以上の乗降客があるJR仙台駅。東日本大震災時、市職員は地震と津波の対応に追われ、商店や企業、町内会の人々が帰宅困難者を支援した。
「駅構内は看板などが落ちかかって危険なため外に避難してもらった」「駅前広場、高架歩道にも人があふれていた。発災1時間後から避難所に誘導を始めた」。震災直後の様子を調べた市の調査に駅職員らはこんな証言をしている。
雪で多くの人たちが寒さに震えていた。駅職員に率いられた帰宅困難者らは避難所へ移動。地元住民も最寄りの避難所に集まり始め、どこも収容人員を大幅に超え、混乱した。
「帰宅困難者対策など正直、考えたこともなかった。市職員は災害対応に追われ、駅周辺を支えたのは『共助』の力だった」。市減災推進課の吉川勝元課長は振り返る。
市は5月、教訓をもとに対応指針をまとめる。行政が十分に機能しない事態も想定し、地域住民が避難誘導、情報の収集や提供をすることを柱にしている。
旅行先で被災したら――。年間5千万人を超える観光客が訪れる京都市は、繁忙期は住民の4倍以上の観光客がいる地域もある。大半が帰宅困難者になり、宿泊施設は予約でいっぱいという状況が予想される。
市の調査では、清水寺や祇園の周辺には紅葉の時期に最大4万8千人の観光客が集まる。住民は約1万1千人、避難場所に観光客も殺到すると入りきれない。
寺社や自治会、市などが考えた対策はこうだ。
市内にいる人全員の携帯電話に「その場にとどまってください」とエリアメールなどを送る。3~6時間後までに、4万8千人の観光客を寺社などに設ける12カ所の「観光客緊急避難広場」へ誘導。自力で帰宅できない2万9千人は、12時間後までに宿泊施設へ、予約のない人は空き部屋や宴会場などに誘導する。市はそれらの施設に1日分の食料と毛布を備蓄、交通機関の再開に備える。
被災で職員が足りず、観光客の誘導が難しくなる恐れもあるが、市防災危機管理室は「観光客の帰宅困難を考えることは住民の災害対策の上でも重要だ。被災時の観光客の誘導役は何とか確保したい」としている。
(古城博隆、高橋淳、合田禄)
外出時に災害に遭ったら、状況が落ち着いてから帰宅が鉄則。被害の全体状況を把握してから帰宅を始めることが重要だ。
事前に家族で連絡手段や行動の仕方を打ち合わせしておくと安心できる。NTTの災害用伝言ダイヤルや、携帯電話各社が設ける災害用伝言板がある。
職場や通学先から自宅まで試しに歩き、休憩できそうな場所やトイレ、橋などの通行止めに備えた迂回(うかい)路を探しておけば災害時に役立つ。帰宅支援ステーションとなるコンビニやガソリンスタンドも確認したい。主要道路が安全かどうかを示した「震災時帰宅支援マップ」も参考になる。徒歩帰宅を道案内するスマートフォン用のアプリもある。
東日本大震災当日、首都圏の駅は帰宅困難者であふれた。ホテルやカラオケボックスはすぐに満員になり、コンビニには、飲食物やカイロ、携帯電話の充電器などを求める人たちが殺到。駅構内の通路や臨時の避難所で一夜を明かす人たち、スポーツ用品店に駆け込み靴や自転車を買って帰路についた人たちもいた。幼児連れの母親や高齢者らは避難所で不安な思いをした。地方都市の主要駅でもこうした問題が起きた。
ある災害の専門家は「パソコンや携帯電話、充電器などの仕事道具のほか、どこへいくときも小型ライトや方位磁石、携帯ラジオ、ペットボトルの飲み物を持ち歩いている」と話す。
長距離を歩く場合、地図やリュック、スニーカーがあるかないかで負担が大きく異なる。食料や水、夜ならライトも必要になる。いろんな場所で被災した場合をイメージして、常に持っているべきもの、会社や学校に置くもの、旅行や出張に持って行くもの、自分にとって何が必要か考え準備しておきたい。
旅行先で被災すると、避難場所や危険場所が分からない。避難場所に行っても観光客がいられる場所がない可能性が高く、水や食料、毛布なども数が足りない恐れがある。宿泊先を探そうとしても繁忙期はホテルや旅館が満室になっていることが多い。
(合田禄、高橋淳)
東日本大震災の時、多くの人たちが帰宅困難者となり、対策の重要性が浮かび上がった。震災2年後に定められた東京都の対策条例で都民に呼びかけられたのも、むやみに移動しないこと、家族との連絡手段を決めておくことだ。
市民防災研究所は、災害時の課題の調査や講演などで防災対策を支援している。あのとき、首都圏では停電も火災も建物の損壊も小規模で、街灯も信号機もついていた。小さな子どもや高齢者、ペットが気になり、帰宅を急いだ人も多かったが、首都直下地震では状況が違う。懐中電灯やヘルメットなしで自宅を目指すのはとても危険だ。
会社や学校にとどまるとしても、停電や断水で、暖房やテレビも使えない中で待機しなければならない。
例えば、冬の夕方、大地震が起きたら、どう家族と連絡を取り合うか。職場で数日過ごすには何を置いておくか。季節や時間、場所、災害の種類、いろいろなケースを想定して、具体的な備えについて自分で考えておく必要がある。高齢者や子どもがいる場合、面倒を見てくれる人に事前にお願いする必要がある。パンフレットや本だけに頼る人任せではいけない。
2、3日の旅行のとき、何を持って行くかも参考になる。雨が降ったら、のどが渇いたらと想像し、荷物が重くなりすぎないようにも気をつける。電気やガス、水道が使えないと、どんな状況になるのか、キャンプや山登りで体験しておくのも対策になる。
(聞き手・古城博隆)
■災害別特集ページまとめ
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3Dで見る阿蘇大橋周辺の被害地図(2016/04)
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