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日本は、世界の7%を占める110の活火山がある火山大国。昨年も御嶽山噴火では大勢の登山者が犠牲になった。噴火の被害は、火山周辺ばかりではない。大規模な噴火では、広範囲で影響が長期間に及ぶ。
2014年9月の長野、岐阜県境の御嶽山噴火では、噴石が1時間ほど火口周辺に降り続けた。亡くなった57人のうち55人が岩石があたったことが原因だった。1990年からの長崎県、雲仙・普賢岳の噴火では火砕流が繰り返し発生。翌年6月には巻き込まれて43人が犠牲になった。
噴火の様相は多様。溶岩流や火山ガス、積雪期の噴火では雪が溶けて発生した泥流が高速で流れ下ることがある。
政策研究大学院大の池谷浩特任教授(砂防学)のまとめでは、83年の三宅島噴火では溶岩が、ゆっくり歩く程度の秒速0・3~0・4メートルで流れた。26年の十勝岳の噴火では火口付近に2メートルの積雪があり泥流が秒速40メートルで流れ、人々を襲った。普賢岳の火砕流は秒速35メートルといい、池谷さんは「100メートルの世界記録保持者さえ、火砕流や泥流から逃げ切れない。発生前の避難が重要だ」と話す。
噴火では噴煙が上がり、風に流され広範囲で火山灰が降る。1914年の桜島大正噴火では、西日本や1千キロ以上離れた関東や東北にも火山灰が及んだ。
火山は多様な景観を生み出し、観光地にもなっている。気象庁が常時監視する47火山のうち22火山が登山者に人気の日本百名山。車やロープウェーで火口近くまで行ける火山もある。
富士山も活火山のひとつ。1707年の宝永噴火クラスの噴火が起きれば、火砕流や冬ならば泥流が起き、火山灰は横浜で10センチ、東京も2センチ以上積もると想定されている。
さらに巨大な噴火が起きる可能性もある。
神戸大の巽(たつみ)好幸教授(マグマ学)らは過去12万年の噴火を分析し、巨大噴火が100年以内に1%の確率で起きると推計した。2万8千年前に鹿児島湾であったような噴火が九州で起きれば、火山灰は西日本に50センチ、関東で20センチ、東北や北海道でも数センチ積もり、日本は壊滅的な被害を受けるという。
噴火で広範囲に影響を及ぼす火山灰。気象庁によると、数センチ積もると車は動かせず、線路の切り替えができなくなる恐れがある。物流が止まりかねない。屋根に数十センチ積もると木造家屋が倒壊する危険が高まる。雨が降ればその分、灰は重くなり、雪と違って片付けないとなくならない。
頻繁に噴火している桜島では14年に330万トンほどの灰が降ったと推定されている。鹿児島市は道路は清掃車で除去、家庭には「克灰袋(こくはいぶくろ)」という1袋約20キロ入る厚手の袋を配り灰を回収している。14年は8千立方メートル余りを集めた。
火山灰は2ミリ以下で細かく、とがっている。健康影響について、国立保健医療科学院の石峯康浩・上席主任研究官は「いたずらに心配することはないが、極めて小さい灰を吸い込むと呼吸器疾患を悪化させる可能性がある」と指摘する。鼻水やせきが出たり、のどが痛くなったりするため、不要な外出を控えることや、マスクやハンカチで鼻や口を覆うことが対策になるという。目に入ったら、こすらずに水で流し、角膜を傷つけないよう注意が必要だ。
噴火は長期間続くことが多い。防災科学技術研究所は、防塵(ぼうじん)マスクやゴーグルのほか、最低3日分の食料や水の準備を勧めている。自宅に灰を入れないよう窓やドアを閉め、隙間風が入る場所にはテープを貼るか、湿らせたタオルで覆うことも有効という。
火山灰は、電線や電子機器にも被害を及ぼす。同研究所地震・火山防災研究ユニットの三輪学央(たかひろ)研究員は「日本は大都市に大量の火山灰が降った経験がない。想定しきれない被害が起きる恐れがある」と指摘する。
日本の火山の寿命は数十万から100万年だが、観測の歴史はわずか100年くらい。火山の長年にわたる活動の一瞬だけしか見ていない状況で、全容を理解するのは無理だ。いつどこでどんな噴火が起きるかを正確に予測することは、今の火山学では難しい。
ただ、火山は噴火していない期間の方が圧倒的に長い。噴火するかもしれないといって登山の楽しみを奪うわけにはいかない。山に登ることは火山を知ってもらうことにつながる。活動が高まっている時に登らないこと、噴火の際に隠れるところの準備が必要だ。
噴火が起きれば、まずは逃げること。まともに火砕流や噴石を受ければ命に関わるが、風上や火口から遠くに逃げることができれば避けられるかもしれない。
火山灰は広い範囲が影響を受ける。2週間で数センチ積もるのなら地震のように水や食料の備えが有効だが、それを超えると個人での対応は難しくなる。道路などは大雪の時のように除去が必要になるだろう。積もった火山灰に雨が降ると傾斜地では泥流が発生する。交通網が遮断され、物資の流通も止まる恐れがある。
だが、火山灰が広範囲に降ると自治体では対応しきれない。そうなれば広域避難など国の対応が必要になる。備えの検討を早く始めなければいけない。
気象庁は、30の活火山について、火山の状況や住民、登山者がとるべき防災行動を示す噴火警戒レベルを公表している。レベル1(平常)からレベル5(避難)までの5段階。活動状況や警戒事項は「火山の状況に関する解説情報」で知らせる。
被害が出そうな噴火が予想されると、「噴火警報」を出して、警戒が必要な範囲を示す。噴火後は、約5分で出す「火山観測報」で噴煙の流れる方向などを知らせる。降灰や火山ガスの予報もする。
しかし、噴火予知が必ずできるわけではない。
昨年の御嶽山噴火は、レベル1(平常)の状態で起きた。噴火前に活動の変化を解説する情報が3回発表されたが、「登山者に十分な注意喚起ができたとは言いがたい」(気象庁)状況だった。
そこで、気象庁はホームページのトップに火山の登山者向け情報への入り口を設けた。クリックすると、火山ごとの発表情報が入手できる。また、噴火の一報を早く登山者に知らせるため、今夏をめどに「噴火速報」という新情報を出すことを決めている。
情報を出しても、意味が伝わらなければ役立たない。警戒レベル1には「火山活動は静穏だが、火口内は危険」という意味もあるが、「登山者や一般の人には安全と誤解される」と指摘される。情報の伝え方の見直しも進めている。
(木村俊介、土居貴輝)
火山の異変を登山者らにどう早く伝えるか。昨年9月の御嶽山噴火を受け、各地の自治体が備えに力を入れている。広がるのは携帯メールでの速報発信だが、すべてのエリアで通信できるとは限らない。山小屋を通じての周知や、登山者に火山への意識を高めてもらう取り組みもみられる。
御嶽山の地元、岐阜県は1月、新たな火山防災対策を決めた。噴石や火砕流の到達範囲とともに、携帯電話がつながるエリアも盛り込んだ防災マップを作製する。
岐阜県には御嶽山のほか焼岳、白山、乗鞍岳、アカンダナ山の計五つの活火山がある。まず焼岳のマップを2015年度中に作り、登山口や山のふもとの旅館などで配る。旅行情報誌や旅行会社のパンフレットにも、焼岳などが活火山であると明記してもらうよう働きかける。県防災課は「活火山と理解してもらうことで、緊急時に危機感をもってもらえる」と期待する。
ただ、御嶽山の噴火は、気象庁が警戒レベルを最低の「レベル1」(平常)に設定している中で起きた。岐阜県は2月、気象庁に山小屋や地元自治体とのホットラインを構築するよう提言。山小屋の関係者らから異状を伝える情報を予測に生かすよう求めた。
気象庁が常時監視している47活火山の山頂63地点で大手3社の携帯電話が全てつながるのは4割あまりの28地点にとどまることが各社への取材でわかった。9地点では3社とも通じなかった。御嶽山噴火を受け、気象庁は携帯電話で登山者に噴火情報を提供する予定。専門家は「国や自治体、登山者は何通りもの伝達方法を用意すべきだ」と指摘する。
常時監視火山 | 山頂 | NTT ドコモ |
ソフト バンク |
KDDI (au) |
アトサヌプリ | アトサヌプリ | ○ | ○ | ○ |
マクワンチサップ | ○ | ○ | ○ | |
雌阿寒岳 | 雌阿寒岳 | ○ | ○ | ○ |
阿寒富士 | ○ | ○ | ||
大雪山 | 旭岳 | ○ | ○ | |
十勝岳 | 十勝岳 | ○ | ○ | ○ |
樽前山 | 樽前山 | ○ | ○ | ○ |
風不止 | ○ | ○ | ○ | |
倶多楽 | 日和山 | ○ | ○ | ○ |
四方嶺 | ○ | ○ | ○ | |
有珠山 | 大有珠 | ○ | ○ | ○ |
昭和新山 | ○ | ○ | ○ | |
有珠新山 | ○ | ○ | ○ | |
北海道駒ケ岳 | 剣ケ峯 | ○ | ○ | ○ |
恵山 | 恵山 | ○ | ○ | ○ |
岩木山 | 岩木山 | ○ | ○ | ○ |
秋田焼山 | 焼山 | |||
岩手山 | 岩手山 | ○ | ||
秋田駒ケ岳 | 女岳 | ○ | ○ | |
鳥海山 | 新山 | |||
栗駒山 | 栗駒山 | ○ | ○ | ○ |
蔵王山 | 熊野岳 | ○ | ○ | |
吾妻山 | 一切経山 | |||
安達太良山 | 鉄山 | ○ | ○ | |
箕輪山 | ○ | |||
磐梯山 | 磐梯山 | ○ | ○ | ○ |
那須岳 | 茶臼岳 | ○ | ○ | ○ |
日光白根山 | 白根山 | ○ | ○ | |
草津白根山 | 白根山(標高点) | ○ | ○ | |
白根山(三角点) | ○ | ○ | ||
浅間山 | 浅間山 | ○ | ○ | ○ |
新潟焼山 | 焼山 | |||
焼岳 | 焼岳 | ○ | ○ | |
乗鞍岳 | 剣ケ峰 | ○ | ||
御嶽山 | 剣ケ峰 | ○ | ||
白山 | 御前峰 | ○ | ||
富士山 | 剣ケ峯 | ○ | ○ | ○ |
箱根山 | 神山 | ○ | ○ | ○ |
伊豆東部火山群 | 大室山 | ○ | ○ | ○ |
伊豆大島 | 三原新山 | ○ | ○ | |
新島 | 宮塚山 | ○ | ○ | |
神津島 | 天上山 | |||
三宅島 | 雄山 | ○ | ||
八丈島 | 西山 | ○ | ○ | |
東山 | ○ | ○ | ○ | |
青ケ島 | 大凸部 | ○ | ○ | |
硫黄島 | 摺鉢山 | |||
鶴見岳・伽藍岳 | 鶴見岳 | ○ | ○ | ○ |
伽藍岳 | ○ | ○ | ○ | |
九重山 | 中岳 | ○ | ||
星生山 | ○ | ○ | ○ | |
阿蘇山 | 高岳 | ○ | ○ | |
中岳 | ○ | ○ | ○ | |
雲仙岳 | 平成新山 | ○ | ○ | |
普賢岳 | ○ | ○ | ○ | |
霧島山 | 韓国岳 | ○ | ||
新燃岳 | ||||
高千穂峰 | ○ | ○ | ||
桜島 | 御岳 | ○ | ○ | ○ |
南岳 | ○ | |||
薩摩硫黄島 | 硫黄岳 | |||
口永良部島 | 古岳 | ○ | ||
諏訪之瀬島 | 御岳 |
NTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの3社に、気象庁が示す活火山山頂の標高点や三角点などでの通信状況を尋ねた
山頂に近い場所に山小屋がある24火山の計25カ所の山小屋では、秋田焼山、鳥海山など9カ所で3社ともつながらない。白山や阿蘇山では1社、蔵王山や那須岳、焼岳では2社が通じる。3社とも通じたのは6カ所だった。
活火山 | 山小屋名 | NTT ドコモ |
ソフト バンク |
KDDI (au) |
大雪山 | 旭岳石室 | ○ | ○ | |
十勝岳 | 十勝岳避難小屋 | ○ | ○ | |
岩木山 | 鳳鳴ヒュッテ | ○ | ○ | ○ |
秋田焼山 | 焼山避難小屋 | |||
岩手山 | 不動平避難小屋 | |||
秋田駒ケ岳 | 阿弥陀池避難小屋 | |||
鳥海山 | 御室小屋 | |||
栗駒山 | いわかがみ平避難小屋 | ○ | ○ | ○ |
蔵王山 | 熊野岳避難小屋 | ○ | ○ | |
吾妻山 | 酸ケ平避難小屋 | |||
安達太良山 | 鉄山避難小屋 | |||
磐梯山 | 弘法清水小屋 | ○ | ○ | ○ |
那須岳 | 峰ノ茶屋跡避難小屋 | ○ | ○ | |
日光白根山 | 五色沼避難小屋 | |||
草津白根山 | 湯釜展望台 | ○ | ○ | |
浅間山 | 火山館 | ○ | ○ | |
焼岳 | 焼岳小屋 | ○ | ○ | |
乗鞍岳 | 頂上小屋 | ○ | ○ | ○ |
御嶽山 | 頂上山荘 | ○ | ○ | ○ |
白山 | 白山室堂 | ○ | ||
富士山 | 富士浅間大社奥宮 | ○ | ○ | ○ |
九重山 | 久住分かれ避難小屋 | |||
阿蘇山 | 月見小屋 | ○ | ||
霧島山 | 韓国岳避難小屋 | |||
山頂小屋 | ○ | ○ |
NTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの3社への取材による
■災害別特集ページまとめ
熊本地震、こう揺れた(2016/04)
3Dで見る阿蘇大橋周辺の被害地図(2016/04)
ふるさとの復興への思いを語る西田敏行さんインタビューや「データで見る被災地」「原発の現状」など特集紙面がご覧いただけます。
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1923年9月1日の関東大震災から1年たった24年(大正13年)9月15日、大阪朝日新聞は、付録として「関東震災全地域鳥瞰図絵」を発行した。絵図は吉田初三郎画伯が描いたもので、関東大震災の主要な被害のほか、当時の交通網や世情も反映され、裏面は「震災後の一年間」と題して、被害状況と復旧状況をまとめ、各地の写真を載せている…[続きを読む]
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著者:朝日新聞社 価格: ¥1,680
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